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リエルネールの二人旅  作者: せきち
第4章 魔族の思惑編
54/63

50、アリラ籠城-邂逅-

リレーシャにある街の一つ。

アリラに小さな悲鳴が響いた。


「何あれ…魔族じゃない?」

「え本当だ!ちょっと逃げないと私たち」


たまたま、城門の近くにいた主婦たちがそう叫びながらそれぞれ散っていく。


その様子を、土の魔族ディレンは見ていた。

水剣の魔族キラクトもそれを見て苦笑する。


「嫌われてるね、私たち」

「まぁ、仕方ないだろう。俺たちの力はあまりにも人間とかけ離れている」


いつの間にか、ディレンの一人称も俺になっている。

ネルフェスに負けてから色々吹っ切れたのだろう。

まぁ、キラクトはそんな事知ったこっちゃない。


そんな時、大通りの端による人集りの中に、人の魔力を感じた。

詠唱が小さく聞こえる。


火の矢(ル・セーラ)


杖の先から火の軌道が駆ける。

その先には、ディレンの姿があった。


「キラクト」

「ん」


ディレンは、火の矢を見ずにキラクトに言った。

キラクトは右手の人差し指をクイと曲げる。


そして次の瞬間、火の矢は無音で消えた。

まるで、最初からなかったように。


「はぁ、はぁ?」


火の矢を放ったと見られる魔術師が理解が追いつかずに、悲鳴を上げる。

いくら魔族といえど、魔術を消滅させることはできまい。

あ、いや、見えない魔術ならできる。


一体、どういう仕組みなのだろうか。


その魔術師を無視して、衛兵と魔族たちが道を進む。


「流石だな、不可視の水の塊(ス・リラト)か?」

「だろ」


キラクトが調子に乗って上擦った声を出す。


なんとも単純な話だった。

不可視の、透明な水の塊を空中に展開して、火の矢を消火しただけだった。


ディレンとキラクトを恐れさせるために、わざと急に消えたように見せかけたのだろう。


二人の魔族の後ろには、槍を構える四人の衛兵がつく。

二人の前には一人の衛兵が先導していた。


行き先は、領主の館だ。


先導をしていた衛兵は扉をノックする。


「…失礼します、領主様。ご来客の方が参られました」

「入れ」


扉が開く。


そこには、3年前にリーラ話し合っていた男がいた。


その領主の名は、ユーイといった。

ユーイはディレンとキラクトを見つめるとら目を見開いた。


「…魔族か」

「えぇ、土の魔族ディレンと、水剣の魔族キラクトです」


数秒の間。

ユーイが口を開く。


「…座れ」

「失礼します」


ディレンは衛兵を差し置いて来客用のソファに座る。

キラクトは腹に突き刺さる黒の剣がソファを貫通しないようにソファの近くに立っている。


ディレンと領主と目が合う。

そのまま、口を開けるユーイ。


「…して、魔族がどうしてここに?」


カルネルの方が、材質がいいなと思いながらディレンはユーイに話を持ちかける。


「魔王ネルフェスがカルネルを占領しているのは、知っていますか?」 

「あぁ」


キラクトは二人の会話を面白そうに眺めている。

こいつも作戦の内容を知らされていないので、何が起きるのかがわからないのだ。


「私は、ついこの前カルネルをとある魔人と共に襲撃しましてね」

「…襲撃?魔族同士で?」

「えぇ」


ディレンは少し顔を下げる。

その顔には少しの笑顔が見えた。


「魔族も、みんな仲がいいというわけじゃないんです。特に、魔王ネルフェスは周りから嫌われていた。彼はマイペースですから」

「…では、何故ここにきた?」


ユーイは身体を前に傾かせ、ディレンに返答を委ねる。

その顔には、数滴の冷や汗が浮かんでいた。


ディレンが言葉を続ける。


「私たちは、魔王一人に敗北しました。共に戦った魔人も魔王に捕まり生死不明です」

「…そうか」

「えぇ、なので我々は魔族と人間によって組まれた、魔王の対抗組織を作ろうと考えました」

「対抗?組織?」


矢継ぎ早に質問を重ねるユーイは一度大きなため息をついて、続ける。


「魔王と同じ状況を作れば、暇な魔族はこちらに来るでしょう」

「こちらとは、アリラのことか?」

「えぇ、詰まるところ、私たちが提案する事は」


ディレンの身体から、魔族特有の魔力が溢れる。

それはまるで、魔王のような風格であった。

ユーイの目の前にいる土の魔族はふっと笑う。


「新たにこの街、アリラを占領したいのです」


キラクトは全てを理解し、ニヤリと笑った。


ーー


一方、リエルネール。

旅を始めてから、三週間が経過していた。


詰まるところ、ディレンたちがアリラに入ってから、二週間が経った。


「君たち、どこに行くつもり?」


関所の衛兵の一人がベルに話しかける。


「アリラですね」

「あー…、あそこかー」


なんだか不味そうな顔をする衛兵にリーラが尋ねる。


「何があるんですか?」

「いや、最近なんでかわかんないけどアリラの情報も、人も全く流出しないんだよ。いきなり、ぱたっとね。不気味だろ?」

「ふーん、えぇ」


リーラは頷き、その衛兵の隣にいる衛兵に冒険者カードを返してもらう。


「はーい、オッケーです」

「ありがとーざいまーす」


ベルが軽く頭を下げる。


リレーシャの国境沿いに三人はいた。

関所を乗り越えて、リレーシャに足を踏み入れる。


「なんか、想像よりも早くついたな」

「だね」


ベルの問いかけにリーラが快く反応する。


三人(当時は二人)は体力がついたのか、3年前よりも明らかに早い速度でリレーシャについた。


正直、あと一週間はかかると思っていた。

道の途中でレノフがリーラに尋ねる。


「師匠の故郷って、どこの街だ?」

「ん、話してなかったっけ。国境から1番近いアリラって場所だよ。いいとこだよ」

「そうか」


急にそっぽをむき、話を打ち切るレノフ。

まぁ、いつもの事だ。


ここからアリラまで、大体2日がかかる。


まぁ、その二日間も特に面白みがなかったので飛ばす。


そして、5月21日。

三人はリレーシャ付近についた。


しかし、異様だ。

アリラに近づくたびに人気(ひとけ)がなくなっていくようだ。


レノフは辺りを見渡し、リーラに尋ねる。


「リレーシャって、こんなに人気ないのか?」

「んー、いやそんな事はないはずだけど…」


リーラもわからずに、わりと舗装された道を歩きながら俯く。


衛兵が言っていた事が、不意に頭に引っかかる。

やっぱり、何かがあったのだろうか。


不意に、前を向いていたベルがアリラの城門に指を刺す。


「おい、あれ」

「ん?」


リーラがレノフとの会話を切り上げ、ベルに振り向く。

ベルの顔は困惑している。


「城門、閉まってないか?」

「んー、確かに、そうだ」


リーラの声色が徐々に下がっていく。

どういう事だあれ。

何が起きてるんだ。


「…私たちが嫌われすぎてるって事はないよね」

「ないな」


ベルが会話をばっさり斬る。


では、他に考えられることは、


「もしかして…」


あそこで、アリラで何かが起こったのかもしれない。


何が起きた?

もし、何かがあったとして、何が起きた?

城門を封鎖するような事だ。

魔獣とかだろうか。


だとしたら、結構不味いぞ?


リーラは不意に走り出し、ベルとレノフに振り向く。


「ちょっと、不味いかも!」

「…おっけ」


ベルがレノフを担ぎ、リーラを追いかけ走る。



そして、数分走りアリラの石レンガでできた城壁に着く。


そのレンガに手を当てるリーラ。

息切れをしている。


その後ろで全く息切れしていないベルが尋ねる。


「これからどうする?リーラ」


リーラはぜーぜー言いながらベルと、全く走っていないレノフに振り向く。


「そりゃもちろん」


その顔は何故か笑っていたそう。


「潜入だよ」


〈裏話〉

・黒の剣

キラクトについている、剣を操る魔術によって現れた黒の大剣は、全長1メートル。

横幅は30センチである。


それに刺された人は黒の剣に生命力を刈り取られ、衰弱死する。

まぁ、衰弱しない魔族には関係ない。


バカみたいに不便。


・人気って書いて、「ひとけ」と読む。

人気がないは、ひとけがないって意味です。

タルトストーンって、タルトを焼くためだけに存在するの?

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