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リエルネールの二人旅  作者: せきち
第4章 魔族の思惑編
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47、再会と大剣

場面は変わり、レンテの宿。

カルネル襲撃の翌日であった。


「そろそろさ、里帰りしてこようかなって」

「はぁ」


テーブルを挟んで、頬杖をつくリーラがベルに話す。


念の為言うが、リーラの故郷というのはリレーシャのことである。


「最近物騒だし、前回の里帰りから2年経つし、ね」

「わかった。今日は実家に挨拶したいから、明日いこ」

「ん、ありがと」

「どういたしまして」


そう言いながら、テーブルから立ち上がるベル。

リーラは自分の後ろに回るベルを目で追う。


その先には扉があった。


「もういくの?」

「うん。夕方には戻ってくるよ」

「いってら」


扉が閉まり、宿にはカウンターにいる受付のおばちゃんとリーラの2人だけになった。


目線を向けると、おばちゃんがカウンターから身を乗り出し、リーラに話しかける。


「リーラちゃん、ちょっといい?」

「はい?」


リーラは立ち上がり、カウンターの正面側に近寄る。


「ちょっと買い物行きたいから、少し受付立っててくれる?」

「えー?私、Aランク冒険者ですよぉ?わりかし、偉いんですよぉ?」


カウンターの奥にのめり込み、おばちゃんと顔を合わせる。


数秒の間ののち、


「…わかったわかった。今日の分の宿代タダにしてやるよ」

「やった!」


両腕をあげ、歓喜の声を上げながら、小走りでカウンターの裏手へ回る。


「通りまぁす」

「こちらこそ」


買い物籠を持ったおばちゃんとギリギリすれ違い、カウンターにどっしりと構える。


それを拍手をしながらおばちゃんが囃し立てる。


「あら、板についてるじゃない!可愛いよ、リーラちゃん」

「そんなこと言っても、投げキッスしか出ませんよ?」

「やだぁ〜」


仲がいい。

2人はお互いに投げキッスをして、扉に顔を向けるおばちゃん。


「じゃあ、二時間後には戻ってくるから」

「はーい、いってらっしゃーい」


再び、扉が閉まる。

今度こそリーラは1人になった。


10分も経つと、鼻歌を歌いながら自分の毛先をいじいじしていた。


暇である。


魔術制御の練習をしようと、左腕で頬杖をつきながら右の手のひらで小さな竜巻を展開する。


リーラはこの三年間で魔術の精度をさらに上げ、昔は無理だった魔術を最小限の威力にする事を成功させていた。


そしてボソッと詠唱する。


「土の(シ・ラトム)


手のひらサイズの竜巻の真ん中にちっさな石を展開する。


その石粒はくるくる回っている。

それを目の乾燥に耐えながらひたすらに眺める。


これは、魔術の制御を維持する特訓をしているのだ。

いつでも、どこでもできるいい特訓だ。


そんなこんなで二時間が経過する。


「暇ぁー…」


リーラがすっかりくたびれていたその時、扉が開く音がした。


リーラは思わず椅子から立ち上がり、その音の方向を見ながらいった。


「おばちゃん、遅いじゃーん!」


あれ、扉が開いているのに誰もいない。

本来、おばちゃんの頭がある位置を見ていた。


リーラはふと、少し下を見た。


そこには、1人の少年がいた。


黒のローブに、黒い癖毛。

三年たっても背が低いままのその男は、リーラも見覚えがある人物だった。


リーラは、その場で固まる。


「あ」

「あ」


レノフだった。

現在、16歳。


ーー


再び場面はカルネル城。


「よかったなこの城に待合室が二つあって」

「…なんのつもり、ですか?」


ネルフェスは、目の前のソファに座っている

光の魔人、フラルに話しかける。


ここは、ディレンが破壊したのと同じ部屋だ。


フラルは、地下の牢獄に入れられるつもりでいた。

なのに、なぜこんなにも高待遇なのか。


ネルフェスがいつもの無表情でふっと笑う。


「いやなに、事情を聞くだけだ。その後、釈放する」

「事情?」


いや、なんの事象かは知っている。

今回の襲撃のことに決まっている。


なんで、自分を殺しに来た相手を監禁せずに、殺さずに、釈放するんだ?


「意味がわからない…」

「ん?とりあえず、事情聴取をするぞ」


ネルフェスは足を組むのをやめ、身体をテーブルの向こうのフラルに傾ける。


フラルはその分後ろに下がり、背もたれに倒れる。


「なぜ、こんな裏切りをした?」

「…私はですね、人間と仲良くなりたいんです」


ネルフェスの後ろにいるヴィアルムが目を少し見開く。

全く想像していなかった発言だ。


「…どういうことだ?」

「でも、魔人の私は人間と違う。生き物は自分とはちがう個体を差別するものです」


もっとも、フラルは心臓が動いているだけでもう生きていないが。


「生き物同士が仲良くなるには、絶対的な安全性と信頼が求められる。今、人々の憎しみの標的は魔王です」

「なるほど?」


だから、カルネルを襲撃し魔王を殺して王都を解放しようと言うことか。


ネルフェスが再び、足を組み顎に手を置く。


その顔は、最初よりも冷め切っていた。


「それは、理由にならないな。他にも理由があるだろ」

「魔族と、魔人の思考回路なんて、こんなもんですよ」


フラルは一息をつき、背もたれから離れる。

そして、口を開く。


「…あと、あなたは私の友達に一生残る傷をつけたので、それもありますね」

「友達?」


ネルフェスはようやく口を割ったと言わんばかりに背もたれにもたれかかり、肺が圧迫され少し苦しげな声色で尋ねる。


その目は、フラルを真っ直ぐに見つめる。


「えぇ、キラクトっていう名前覚えてますか?水の魔族の」

「あぁ、確かリレーシャであったな。100年ぐらい前か?」

「えぇ、あの()は少なくとも私より強かった。おそらく、年齢不詳の魔族、ヴァーテよりは強いです」


水剣の魔族キラクトは、水属性なのに剣を扱い、魔術の操作だけでも魔族間で上位存在なのにその剣技は火剣の魔族アライムをも凌ぐ、とんでもない魔族だった。


強さ的には、ディレンといい勝負というところだろう。


その魔族が、ネルフェスのだった一撃で死にかけたのだ。


ネルフェスは思い当たる節があるようで、大きく頷いた。


剣を操る魔術(シャ・レトル)か」

「はい、それですね」


剣を操る魔術。

これも古代の魔術の一つで、一つだけ黒の大剣を作り出し相手に突き刺すと言った技だ。


追尾する魔術とは違い、見えない魔術の効果が付与されてないため死ぬまで一生抜けない剣となる。


魔族は致命傷でもない傷ではなんともないので、その生命を食い尽くす黒い剣は生きている限り一生刺さり続けることになる。


水剣の魔族キラクトは前から後ろに大きく突き抜けた形で腹のど真ん中に黒の剣が刺さっている。


現在は、その格好はとても目立つのでリレーシャの何処かの森の中で暮らしているのだそう。


「まぁ、あれはキラクトが勝手にあなたを襲っただけなので、あなた1人のせいじゃないですが」

「そうだな」


キラクトは魔族らしからぬ、子供っぽい性格とヤンチャさを持っているので、先に襲ったキラクトが悪いのであってネルフェスは正当防衛である。


まぁ、そんなこと言っててもしょうがない。   


「じゃあ、質問は終わりだ。何処か遠くに行ってもらって構わないぞ」

「はい、長話をすみません」


フラルは立ち上がり、外へ続く窓を開ける。


そこから地上まで、50メートルはある高さだ。

フラルはそれを見て、詠唱する。


防護(ラ・クト)


防護が次々と展開され、地面へ続く階段になる。

窓の中からそこへ飛び乗ってネルフェスに顔を合わせて少し、頭を下げた。


「では、失礼します」

「あぁ」


コツコツ、と防護を踏み締める無機質な音がネルフェスには聞こえた。


ーー


1週間ほどが経つ。


場面は変わり、リレーシャの国境近く。

リレーシャ側の領地である。


土の魔族ディレンは、行くあてもなく歩いていた。

自分の弱さを今一度理解し、以前よりも活発に人間と戦うと決めた。


そのためには、人が多い町や村を探していた。


飛行が移動手段なので1週間があれば、カルネルから大都市レンテが中にある国、リロフを横断できる。


「どこへ行こうか…」


途中、魔族の魔力を感じる。

森の中からだ。


ちらり、とその魔力の方向を向いて道を尋ねようと向かっていった。


その魔力に近づいてきた時、少し高い声が聞こえた。


「誰?」


その先には、1人の女の魔族がいた。

割と幼なげな、13歳ぐらいの見た目だ。


黒い目を見開きながら、ぼーっとしているようだった。


「すまない、少し道を尋ねてもいいか?」

「ん、魔族だ。50年ぶりにあった」

「あぁ、聞きたいことがあるのだが」


その魔族はこくりと頷く。


ディレンは近くにある木に、身を任せながら尋ねる。


「ここら辺で、1番大きな都市はどこにある?」

「…そうだね、リレーシャの首都、アラルに歩いて1週間かな」


その魔族は再びぼーっとしながら、空を眺めていた。


「では、そこに行くとしよう。感謝する」

「あ、ちょっと待って」


その魔族は立ち上がる。


白の、やけに丈の長い、膝下まである一枚のワイシャツを見に纏っただけの服装のその少女の魔族は言った。


「私も連れてってくれない?暇だったんだ」

「勘弁してくれ」


チラリと、その少女の全貌を見渡すディレン。


その魔族の腹には、黒の大剣が白のワイシャツごと貫通していて、そのワイシャツには、血が滲んでいた。


〈裏話〉

・レノフ

三年経っても身長はあまり変わらずに、現在161センチ。リーラのより、4センチ低い。


・魔族の男女比

登場している魔族は9人で、男女比は4:5

ドライフラワーは枯れないらしいよ。枯れてるよ。

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