43、お返し的な
英雄歴717年。
ベルは19歳。リーラは18歳になっていた。
この世界だとお酒が飲めるのは18歳以上なので、2人ともお酒が飲める年齢である。
身長が以前より7センチ高くなったベルはリーラの部屋の扉を叩く。
「いくぞ、リーラ」
「はーい」
中から、こもった声がする。
音からして、着替えているのだろうか。
2分待つと、リーラが出てきた。
「おまた」
「んじゃ、ギルドに行こ」
リーラは以前まで、肩にギリギリ届かない長さの黒い髪だったがさらに伸びて肩あたりに届く長さになった。
リーラは女子からオトナの女に進化したのだ。
ちなみに、色気は皆無である。
黒のローブに隠れた胸もほとんどない。
宿の扉を開き、ギルドに向かう大通りを進む。
道の途中で、1人の男に話しかけられた。
「お、2人ともおはようさん」
「おはよーざいまーす」
「まーす」
2人は軽く手を振り、頭を下げる。
この三年間でリエルネールはAランクパーティになった。
それのおかげか、ある程度レンテで名の知れたパーティとなった。
三年間、この2人は大陸中の各地を周り、様々な依頼をこなしてきた。
最近は、雑用の依頼がほとんどなくなり高ランク魔獣の討伐依頼が増えた。
魔族も新たに2体討伐して、今絶好調のパーティである。
ギルドに着き、クエストをひと通り確認する。
最近は、BランクやAランクの魔獣の討伐依頼を受けることが多くなった。
これも、成長である。
結局、受けた依頼はこれだ。
「Aランク魔獣、黒鱗竜の討伐ですねー。頑張ってくださーい」
「がんばりまーす」
名前の通り、全身が黒い鱗に覆われた竜である。こいつはかなりデカくて、3回立ての建物サイズの背の高さ。
さらに、使う魔術は土。
なんとも、めんどくさい魔獣である。
2人は2年前にこの黒鱗竜とリーラの故郷、リレーシャで偶然出会い、あまりの強さに敗走した。
個体は違うが、まさに因縁の相手である。
その場所はかなり遠く、フォルア寄りのとこにある、丘の上だ。
最短でも、片道2週間かかる。
特にこれと言った説明もないので、その片道の期間を飛ばし、場面は竜の住処の丘の上。
丈の高い草むらに顔を潜り込ませ、その竜の姿を見つめるベルとリーラ。
「デカくね?」
「ちょっとまずいか?」
始まる前から弱気である。
ちなみに2人は、無理だったら全然逃げる予定らしい。
2人は各自の得物を構えて言った。
「んじゃ、いつもの作戦で行きますか」
「ん、死ぬなよベル」
「当たり前」
その一言でベルが飛び出した。
黒鱗竜はベルの姿を認知し、その短い右の前足を地面に叩きつける。
次の瞬間、
「お゛わっ!」
悲鳴と共に、ベルの身体が宙に浮かぶ。
その足元には、土の塊でできた四角柱があった。
魔獣の魔力は限りはあるものの、その上限もなく生きてる年月に比例する。
人間とは違う。
180度回転したベルの視線の片隅に、足先が天井に向いたリーラが見えた。
何か、叫んでいる。
「大丈夫か、ベル!」
「もちろん!」
ベルは空中で体勢を整えて、腰の横にある剣の掬に手を置く。
その目線の先には7メートル先の黒鱗竜がいる。
壁となった土壁を蹴り上げるのと同時に剣を抜く。
「お返し的な」
一閃。
竜の右前足を切り飛ばし、ベルの緑のローブが翻る。
赤色の血が剣先を追う。
「リーラ!」
「光線」
ベルが叫ぶのと同時に、リーラの杖から光線が放たれた。
3年前よりも、光線がかなり太い。
3年前は半径2センチぐらいだったけど、今は半径5センチ。
これも、リーラの魔力操作が洗練された所以だ。
そして、速い。
ほぼ即着である。
その光線は竜の唯一鱗に覆われてなくクリーム色の腹辺りを貫く。
光線は、ベルの頭上を掠める。
内心、ハラハラしているベル。
剣を構え、首元めがけ振り下ろす。
が、それを阻止したのは竜の左前足。
モロにベルに衝突。
「ゔあっ!」
緑のローブに5本の爪痕を残しベルは後方へ吹っ飛んだ。
その転がった先にはリーラがいた。
顔を合わせ、お互いに軽口を挟む。
「やぁ、久しぶり」
「こちらこそ」
緑のローブごと、深く突き刺さった爪痕から、血が滲む。
それを見たリーラは無詠唱の治癒をかけて、ベルの傷が治る。
「ほら、早く行きなさい。また魔術くるよ」
「んー、わかった」
勢いよく立ち上がるベル。
再び放たれたリーラの光線と同時に再び黒鱗竜に向かう。
光線は、竜の右の翼の付け根を撃ち抜いた。
これであいつは飛べなくなった。
「ゴァグラァァォッ!!」
うなりをあげて、左前足を地面に向ける竜。
その魔力を感じたリーラがベルに叫ぶ。
「ベル、ジャンプ!」
「了解!」
その直後、再び足元から土の魔術が出てきた。
今度は土の棘だった。
ギリギリで避けたベルは息を吐く暇もなく、綺麗に着地し走る。
少し息切れをしているような黒鱗竜は再び魔術を放とうとするが、それより前にベルの一閃が飛びかかった。
「ゴァグッ」
鈍い音と、声と共にベルの剣は首を切り離し、Aランク魔獣、黒鱗竜が死んだ。
竜の首の隣に、その場に倒れ込むベル。
リーラが近寄り、ベルの顔を見下す。
その顔は初夏の太陽の逆光でよく見えなかった。
影と化したリーラがベルに言う。
「お疲れさん」
「…そちらこそ」
英雄伝の第4章が今、幕を開いた。
〈裏話〉
・黒鱗竜
こいつのカタカナの名前がめんどかったからあまり書かなかった。
・詠唱
詠唱のカタカナが、面倒くさいから、だいたい無詠唱にした。
・ベルの強化
ここ最近の強い魔族や魔人、魔獣との戦いはリーラが活躍していたのでベルもこの三年間で強くした。
バランスボールに空気入れようとしたらより萎んだ。意味わかんない
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