表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リエルネールの二人旅  作者: せきち
第三章 魔族と魔人編
46/63

間話③-そうかよ

これは、英雄歴714年の出来事である。


レノフは、リーセの故郷、ライレに訪れた。


「…懐かしいな」


ポツリと呟いた。


もし、リーセが生きてたら、一緒にこの街に帰って楽しく暮らしてたのだろうか。


いや、そんな事考えてもしょうがない。


かぶりを振ったレノフ。

再び歩き出す。


「…ここか」


レノフが立ち止まったのは、治安警備隊のライレ本部の屋敷。


屋敷といっても、レンガなどで作られた、小さめの大聖堂みたいなところだ。


リーセからの最後のお願い。

それはここの警備員の1人、神官ファルムに自分の想いを伝えてほしいとのことだ。


リーセはファルムのことが好きだったのだ。


全ての神官や聖女が入っている宗教は、エラネス教と言うもので、その教えの一つに婚約をしてはいけないと言うものがある。


しかし、最近の教えだと恋愛自体がNGになっている。


なぜ、その想いをレノフに伝えたのか。


宗教的に自分の想いを伝えられないリーセも、自分の死期を悟り、死ぬ前くらい伝えていいよねと言う想いがそこにはあった。


ちなみに、レノフに光魔術を教えたのもリーセの好きピである。


正面玄関を抜け、扉を開ける。


「ファルムと言う、神官はいないか?」


玄関近くにいた女の警備員が振り向く。

レノフの姿を認識し、言った。


「どうしたの?どう言う要件?」


どうやら、レノフのことを大した用事のない子供だと思っているらしい。

しゃがんで、レノフに目線を合わせてその女は話しかけている。


レノフの魔力を見ればわかるだろうに。


ため息をついたレノフ。


「ファルムは、どこにいる?」

「え?神官の?」

「あぁ」


そう言うと、すぐさま待合室に案内されソファで待っているよう言われた。


ようやく、レノフを用事のある人だと認識したようだった。


2分ほど待つと扉が開き、そこから金髪の神官、ファルムが出てきた。

反対のソファに座り、レノフと目線を合わせる。


「おぉ、レノフか!大きくなったなぁ!」

「ファルム、ちょっと話がある」

「あぁ、そう言えば、リーセはどこにいる?ひさびさに話したかったのだが」


少し、ためらう。


「…リーセは、死んだ」


一瞬、空気が凍った。

そして5秒ほど、間が開く。


ファルムの手が震えている。


「死んだ?何を言っている?」

「死んだ、殺されたんだ、人間に」


レノフは奥歯にある何かを噛み締め、途切れ途切れでいった。

その殺した人間の中に、自分自身も入っているからだ。


「…何があったんだ?」


詳しい経緯を、ファルムに伝えるレノフ。


賢者の試験に行った話。

リーセが死にかけていた話。

そして、自分自身でとどめを刺した話。


全てを話し終えると、ファルムはこう言った。


「そうか…、そうか」


天を仰いで、片手を目元において、口を開けっぱなしにした。


それを無言で見つめるレノフ。


「リーセは死んだのか…」

「あぁ」


ファルムが姿勢を正し、レノフの方向を向く。

その顔は仕事疲れでか、やつれていた。


「ありがとう、それを伝えるためにここまで来てくれたんだな」

「あぁ、じゃあ、帰らせてもらう」


ソファから立ち上がり、レノフは出口の扉へ歩いていく。


「あ、そうだ」

「ん?」


思い出した。

リーセとの約束を忘れるところだった。

ちゃんと、伝えないと。

振り返り様に、言い放った。


「リーセが、お前のこと好きだったって」


ファルムは無言でその一言を受け取った。


それを見届けたレノフは扉を閉めて、この屋敷を去った。


誰もいない待合室。


ファルムが1人用のソファに再び倒れ込み、小さくつぶやいた。


「…そうかよ」


その日、レノフは再びレンテに向かうため、この街の城門を抜けた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ