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リエルネールの二人旅  作者: せきち
第三章 魔族と魔人編
45/63

42、「どうせ、これから長いんだから」

一月の、冷たい風が吹く。

城門を通り抜ける2人がいた。


「着いた」

「だな」


リエルネールの2人は、レンテに戻ってきていた。

道中、12月が誕生月のリーラは16歳になったのだがそれは置いておいて、


「私はそこら辺にいるから、実家に行ってきていいよ」

「わかった、ありがとう」


ベルがその言葉と共に振り返り、オール家の屋敷に向けて走り出した。


白い息が、ベルの軌跡を残していく。


それを見届けたリーラは、宿に向かい歩き出した。


「大変だな、みんな」


誰にも聞こえない独り言を呟き、ため息をついていた。


ーー


「レネル兄貴?大丈夫か!?」


ベルが屋敷と扉を開けるのと同時に叫ぶ。


2階までが吹き抜けの屋敷にそれが反響する。


多分、当主の父と、跡継ぎの長男が死んだのだから現当主は次男のレネルのはずだ。


少しして、一階の一つの部屋の扉が開いた。

中から声がする。


「誰?もしかして、ベル?」


ベルたちの母、レーネルだ。

ひとまず家族の顔が見れて安心したベル。


ほっとため息をつくのと同時に、自分の母に向かって歩き出した。


「母さん!無事だった?」

「まぁ、私は無事だったけど、アラエルと、アネルが…」

「それは、記事で見たよ。レネルの、兄貴はどこ?」

「あぁ、それなら」


と言ってレーネルが指を刺した先には2階の、かつて父が使っていた書斎があった。



コンコン、と言う扉の叩く音。


「兄貴?失礼します」

「ん、ベルか?待ってくれ、すぐ行く」


その扉を開けた先には、ベルらの父、アラエルが愛用していた縁メガネをかけた、次男レネルの姿があった。


「おぉ、よかった。無事だったのか、ベル」

「うん、兄貴は大丈夫?」

「そりゃ、俺は遠征行ってないからな」

「…だね」


ひと通り、家族全員と使用人の安全を確認したうえでベルはレネルに尋ねる。


「俺、何かすることある?」

「…うーん、そうだな。今んとこないな。デスクワーク、得意になったんだ」

「そう」


レネルは、その性格とは裏腹に多才だ。

大体なんでもこなせる。


それを知っていたベルは疑わずに頷いた。


「じゃあ、1か月ぐらいはここにいるから」

「ダメだダメ。お前らは魔族を殺したパーティなんだ。少しでも多くの人を救え」

「…わかった」


レネルは、正義感を持っている男だ。

なんか当主になってからすこしまともになってそうだ。


「でも、金は調達しないといけないから、しばらくはここにいるよ」

「おう、夕飯はうちで用意するから、パーティのメンバーと一緒に来ていいぞ」

「わかった、伝えとく」


そう言うと、ベルは振り向き扉を開けて去っていった。


「………」


扉が閉まるところまで見届け、レネルはつぶやいた。


「成長したなぁ、あいつも」

「だね」


母、レーネルも頷き、それぞれの仕事へ向かった。


ーー


「こんにちは、ディレンさん?」

「今度は誰だ、煩わしい」


再び、場面はヒーメル山脈の麓の森林。

ディレンの住処に2人目の魔族、女の魔族が現れた。


いや、魔人だ。


土の魔族、ディレンの前にいるのは、光の魔人、フラルだった。


フラルが軽く首を傾げる。


「今度?」

「いや、なんでもない」


丈の低い草むらに寝転がっていたところを上半身だけ起こし、フラルと目を合わせる。


「魔人か、久々に見たな」

「恐縮です」

「で、要件はなんだ」


ディレンほどの魔族になると、見ただけで魔人を判別できるのだ。


軽く目を見開き、微笑みかけるフラル。


「一緒に、カルネルを襲撃しませんか?」


ディレンはかぶりを振り、ため息をつく、


「あそこもう、ネルフェスに占拠されている。そんくらいの情報は耳に入れとけ」

「いやいや、それは知っています」


顔を背けかけていた、ディレンの顔が再びフラルに向く。


その顔は満面の笑みが浮かんでいた。


「一緒に、魔王ネルフェスを殺しましょう!」

「……馬鹿なのか、お前は」



一方、カルネル城。


ネルフェスの帰りを待っている炎の魔族、ヴィアルムは目の前にいる魔族と会話をしていた。

こちらも、女の魔族だ。


「んで、どうしたんだこんなとこまで来て、フェリオン」

「いや、暇だから」


風の魔族、フェリオンだった。

お土産の酒を机の上において、2人は向き合いながら会話をしていた。


「ここにいても、すぐ暇になる。すぐにどっかいったほうがいいぞ」

「魔族はね、暇つぶしが苦手な生物なんだよ。人間とは違うから」


青いワンピースを靡かせ、両手で頬杖をつくフェリオン。

セミロングの白い髪がサラサラと首下に流れる。

その顔をじっと見ながら、ヴィアルムは言った。


「どうした?魔人にでもなるのか?」

「冗談、そんな変なこと考えないよ。わたしは」

「そうかい」


酒をコップに注ぎ、ヴィアルムが喉奥に流し込む。

あー、と感嘆の声をあげてコップを勢いよく机に置く。


「んじゃ、何をしたいのか?」

「それを、ここで考えるんだよ」

「はぁ?」


さっきまで座っていたソファに、フェリオンが身体を丸め、横になる。

ポス、と言う気の抜けた音がする。


「ここは寝る場所に困らないからね」

「そうかよ」


ーー


ここは、レンテ。

すっかり、あたりは夜になる。


夕食をいただき、腹も膨れたリエルネールの2人。

リーラが、腹をさすりながらベルに話しかける。


「家族、元気そうでよかったね」

「…だな」


ベルが曖昧な返事をする。


ベルは、騎士とは他人の生死で一喜一憂しないものだと幼い頃から教わっている。


本当は、すごく苦しいがそれを心の奥に隠していた。


「早く、宿に帰って眠ろ」

「だな」


今日一で濃く白い色の息を、ベルは漏らした。


場面は、いつものレンテの宿。


2人はそれぞれの部屋で眠る。


ベルは白い毛布の中で、父と、長男との思い出を思い出していた。


「他人、かぁ…」


ベルは暗闇の中で1人、つぶやいた。


少なくとも、ベルにとって家族は他人ではなかった。


寒さを感じないように、もう少しだけ身体を丸めるベル。

布団に皺が寄る。


なんだか、あまり悲しくはなかった。


実感が湧かないだけなのかもしれないが、頭の片隅が機能していないみたいな、そんな感覚だ。


たくさん魔獣や魔族と相手しているからだろうか。

死と言うことに対して、必要以上に怯えることがなくなってしまった。


それは、良いことなのだろうか。


「まぁ、いいや」


顔を天井に向け、目を閉じたまま、つぶやいた。


死のことなんて死んだ時に考えたらいい。

だって人生だ。


「どうせ、これから長いんだから」


ちょっとだけ、口を微笑ませながら、ベルは眠りについた。




そして朝、ベルはいつものベットから目覚めた。


寝起きの掠れ声で、ベルはつぶやいた。


「なんか、懐かしいな…」


夢を見ていたみたいだ。

なんだか、懐かしい。

そんな夢だ。


なんだか異様に、暖かい。


「…よっ、と」


ベットから跳ね起き、辺りを見渡す。


ベル愛用の、ローブが目に入った。


この前の夜と比べて随分ボロボロになった緑のローブの肩の部分を、両手で持ち上げる。


「…そろそろ、買い替えないとな」


今は、英雄歴717年の春。


714年の一月から、3年ちょっとの年月が経っていた。


英雄伝の第4章が今、始まろうとしていた。


〈裏話〉

・なぜ飛ばした

なんで、3年も飛ばしたのかと言うと、その間の物語を書くのがめんどかったから。


・この大陸の距離

1日歩くのは40キロだとして、1か月1200キロ進む計算で行くと、6か月あれば大陸の端から端まで行けるので、7200キロがこの大陸の縦幅。


・第4章

第4章の名前は「魔族の思惑」

馬肉が苦手。

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