39、天国山脈
「ご報告に参りました!シラエル様!」
「どうした」
ここは、レンテ。
甲冑を身につけた兵士の前にいるのは、レンテが領主、シラエルだった。
ソファに深く座っているその男は兵士の報告を待った。
「カルネルへ送った一万の軍勢と先代勇者パーティは、一部を除いて全滅しました!」
「全滅?」
思わず、ソファから立ち上がるシラエル。
ありえない。
たった魔族十何人に精鋭たちが倒されるわけが無い。
「どういうことだ?」
「1人だけ生きて帰った兵士によると、魔王を名乗った男の魔族だけに潜滅されたそうです。」
「たった1人だけにか?」
再びシラエルは素っ頓狂な声を上げる。
「魔王の名は、ネルフェスと」
「ネルフェス、か…」
「では、失礼します」
兵士が扉を閉めるのと同時にため息をつくシラエル。
頬杖をつき、口元を歪ませる。
「はぁ…、隠居してぇなぁ」
その声は、誰にも聞こえなかった。
ーー
リエルネールの2人は、エナフを出てアレアの隣の国、フォルアに向かった。
アレアのちょうど真東に位置する国である。
2人は話していた。
「フォルアって、エラネス教の教えが強いとこでしょ?」
「だねぇ、リーラってエラネス教?」
「違うねぇ」
「俺も」
念の為、エラネス教の詳細を話す。
この宗教の神は、慈愛と豊潤の女神、エラネス。
禁止されていることは、魚を食うこと。
昔からある神話で女神エラネスは魚を悪魔と位置付けたからだそう。
意味がわからない。
そして理念は、魔族をぶっ殺そう!というものだった。
素晴らしい。
この国で宗教はこれ一つだけなので、執拗な宗教勧誘はない。
大体、こんな感じである。
太陽は2人をジリジリ照らして、いじめる。
今はちょうど小学生の夏休みが終わった頃だ。
この時期が1番暑い。
「フォルアには湖があるんだって」
「水浴びする?」
「いいねぇ」
フォルアには、リレアと呼ばれる大都市がある。王都には匹敵しないが、レンテと同じぐらいには栄えている。
その、リレアに中に湖があるのだ。
フォルアは海洋国、海に面している国なので湖と海を繋ぐ大きい川もある。
だけど、魚が食べられないのである。
意味がわからない。
たくさん魔獣を倒しながら、3日が経つ。
途中、雨に打たれながらも2人は東へ進んで行った。
2人は、とある村に訪れた。
宿に行った時に、受付のおばさんがこういった。
「あんたたち、フォルアに行くのかい?大変だよ?」
「え、はい。なんでですか?」
「フォルアの国境を少し越えたところには、でっかい山岳地帯があるんだよ。高いよ?」
そう、フォルアの国境付近にある山脈は、ヒーメルと呼ばれる標高2000キロはある大きな山だった。
とんでもない崖もあって容易くは越えられない。
馬鹿正直に登ったら、半年はかかるだろう。
回り道していくしかあるまい。
「んー、ありがとうございます。回り道で行くことにします」
「そうだね、ヒーメル山脈では魔族だって目撃されているからねぇ。最近はどうも物騒だねぇ」
「はい、本当に」
王都カルネルをネルフェスが占拠してから、目に見えて魔族の目撃や魔族による人間の殺傷事件が増えた。
不穏になるばかりである。
2人は、依頼を受けるために、道を歩きながらぼやいた。
「時間がかかるなぁ」
「だねぇ」
そして1週間後、村を旅立った。
ヒーメル山脈を回り道していくのは、とてつもなく時間がかかる。
それこそ2、3か月ぐらいはかかる。
「長いなぁ」
「長いねぇ」
2人はため息をつき、歩き出した。
ではその間に、ネルフェスの様子を観察してみよう。
ネルフェスは城の内部にいた。
ネルフェス含む魔族集団がカルネルを占領して、はや2か月ちょい前ぐらい。
その情報は世界各地の魔族の耳に入り、カルネルへ足を運ぶ魔族も増え、現在は30名ほどの魔族がいる街へと変わり果ててしまった。
食料を食べなくても生きていける魔族たちなので、本当に何もしないでダラダラと生活していた。
現在、ネルフェスはヴィアルムとボードゲームをしていた。
チェスのような遊びであった。
ネルフェスが頬杖をつき、駒の一つを動かす。
ため息を一つ。
「うーん、結構暇じゃないか?」
「それ、あんま対戦相手に言わないほうがいいぞ」
ヴィアルムがそういうが、その声は無気力だった。
本当に、する事がない。
他の魔族と話してたっていつかは飽きる。
二ヶ月もあればなおさらだ。
ヴィアルムは、立場上はネルフェスの配下みたいなものだが、友達みたいな関係性である。
ボードゲームを机の端へと払いのけ、ヴィアルムはネルフェスに指を刺す。
「んじゃ、どうする?他の国に侵略でもするか?」
「いや、それは今じゃないな。もっと強いやつが現れるまでは待たないと」
ネルフェスが途方に暮れ、だらーんと首を後ろにもたげ、ぼーっとしていた。
なんか、強いやつはいないかなぁ。
でも、戦いたいのは軍勢ではないんだよなぁ。
たくさんの敵と同時に戦うのは意外と楽しくないと、ネルフェスはレンテに遠征に来た連中を全滅させた時に理解した。
なにか、強い人間はいないものか。
「あ」
思い出した。
ちょうど、この城を占拠した日にディレンと会話をしたことを思い出した。
「…そういえば、私と同じ魔術を使っている人間がいたな」
「は?お前の、そのなんかよくわからない魔術をか?」
「もう少し、言い方があるだろうよ」
その人間はレノフだ。
レノフとネルフェスが使っていた、見えない魔術は、300年は生きているヴィアルムでも知らないものだった。
勢いよく、ネルフェスは席から立ち上がった。
「ちょっと、ディレンに聞きに行ってみるよ」
「はぁ?」
そういって、ネルフェスは窓の縁に足をかけた。
ヴィアルムが驚きで丸い目をしている。
「私がいない間、この城を任せた!」
そういうと、魔王の身体は窓から飛び上がり、飛行をしながら遠くへと消えてしまった。
情報が追いつかず、少しフリーズするヴィアルム。
「馬鹿じゃねぇのか、あの人」
窓の外を眺めながら、ヴィアルムはぼやいた。
〈裏話〉
・魔人、魔族の強さランキング
ネルフェスは除外するとして、
暫定一位は、土の魔族ディレン
二位は、光の魔人フラル
三位は、水の魔族ヴァーテ、火の魔族ヴィアルム
四位は、風の魔族フェリオン、
そして最下位は火の魔族アライム
・ヒーメル
天国って検索したら出てきた。
三連休使ってシュークリーム作ったら見事に失敗して、座布団みたいになった。
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