33、炎と風
エナフは海からは遠いものの、たくさんの国境に面しているので、王都カルネルに次ぐ第二位の貿易国の中心となっている。
もちろん、裕福な街なので栄えていて、レンテにはない魔道具の街灯がある。
もっとも、今は昼なので機能はわからないが。
レンテと同じぐらいの人混みのなか、ベルとリーラは少しずつ前進していった。
2人は、悲鳴をあげていた。
「ちょっと!人多くない、ベル!?」
「俺に言うな!」
正直、舐めていた。
いくら第二の貿易国とはいえどもレンテよりも王都から遠いので、栄えているかはさておき、もうちょっと人口密度が少ないと思っていた。
これではかつての、王都カルネルと同じ進み具合だ。
30分の格闘の末、ようやく宿に辿り着いた2人。
ベルがカウンターに手を置き、受付嬢に途切れ途切れの言葉を言った。
「や、宿、二部屋お願いします、はぁ」
「あー、わかりました。二部屋で、600ヘルトです」
わぁお。
なんなら、宿代さえもレンテよりも安い。
まぁ、あそこの物価は元々が高かったから、しょうがない。
受付嬢が2人に話しかける。
「お客さん大変だったでしょ。今カルネル難民の出入りが激しいからね」
「あぁ、そう言うことですか!」
確かに、エナフを含むアレアは、他の国に比べ、難民を積極的に受け入れているところだった。
普段はこんなに多くないのか。よかった。
ジャラと銀貨を6枚出して、受付嬢が頷く。
「はい、ちょうど。1番手前以外なら、どこでもいいですよー」
「ありがざいまーす」
聞き取れなくもない感謝の言葉を述べ、2人ほ別々の部屋へと入る。
「ふぅ…」
リーラは、静かにベッドにダイブした。
これも、習慣となりつつあるリエルネールの恒例である。
男部屋でも、ベルは同じことをしている。
宿への迷惑とか、知ったこっちゃない。
大体、5分ほどゴロゴロしたのち、
黒く、ベッドに擦れてところどころ跳ねている髪の毛を直し、銀貨の入った麻袋を手に、リーラは部屋を出た。
ベルもちょうど同じタイミングで出てきたようだ。
さあ、冒険者ギルドへ行く時間だ。
「うし!いくか」
「ん、わかった」
宿から徒歩3分のところに、ギルドはある。
扉を開くと、レンテよりも多い冒険者が蠢いていた。
掲示板に近寄り、クエストの紙を見つめる。
「うーん…」
ベルが苦言を呈す。
大体の高ランクの依頼はもうクリアされている。
Eランクやら、Dランクのものしかない。
どれを受けようか、リーラに聞こうとして振り向く。
リーラは、もう一つの掲示板の内容に必死になっていた。
「…リーラ?」
「ベル、ちょっとこれ」
リーラの声は震えていた。
慌ててベルは視線をずらす。
その掲示板には最近の記事が貼ってあった。
そこには、こう書かれていた。
「…レンテにて、魔術組合壊滅。痕跡から犯人は風の魔族か、…なーるほど?」
「しかも、私たちがレンテを出た日だ」
ベルはもう一度、記事を見直す。
本当だ。
てことはつまり、
「…カルネルから、つけられてた?」
「可能性はある」
どうやら、カルネルの外でも魔族は蔓延っているようだ。
うーん、と2人が悩んでいると、とあるクエストが目に入った。
依頼 火の魔族討伐。
条件 複数パーティ可。魔族討伐経験のある は高ランクパーティのみ。こちらで用意した回復役が先導。
報酬 50000ヘルトをパーティ数で山分け。
「これだ」
「うん」
2人はカウンターに向けて歩き出した。
ーー
「んー、長いなぁ」
一方、風の魔族、フェリオンはレンテを出て、カルネルに戻っていった。
レンテで色々騒ぎになるのも飽きたし、もう一回、ネルフェスに会いに行くことにした。
おみやげの酒の瓶を縄で括り片腕に巻きつけ、ぶらぶら歩いていた。
カルネルまでの道のりは、あと1ヶ月半ぐらいかかる。
それから1時間ぐらい歩き、森に入る。
「ちょっと、嬢ちゃん」
「ん?」
森の中腹あたりで、山賊らしき三人組が話しかけてきた。
その低い声に、フェリオンが振り向く。
山賊の手には木こり用の斧があった。
これは、身ぐるみを剥がしにきてるタイプの山賊だ。
山賊たちの目線は、フェリオンの酒に向いている。
「その酒、いいなぁ。くれよ」
「やだよー、これはお土産だもん」
「悪いがね、そういうわけにゃいかんのよ」
山賊の合図に、傍にいる1人の山賊が斧でフェリオンに襲いかかる。
あー、どうしよ。
ここで魔術使うと魔力見られて不味いんだよな。
まぁ、背に腹は変えられないか。
「竜巻」
「おぁっ!?」
足元からの攻撃に、山賊の体は宙に浮かぶ。
10メートルぐらい浮かんだ。
フェリオンの白い前髪が揺れる。
その奥の目は、黒く染まっていた。
数秒後、宙に浮かぶ山賊が落下し、呻き声とともに絶命する。
山賊が動揺を表に出す。
「ま、ぁ、お前ら魔族か?」
「そうだよー、逃げるなら、逃げてもらって」
風の魔族は、その手を2人の山賊へ向ける。
先頭にいる山賊が一歩引き下がる。
「…逃げるぞ」
「へい」
その山賊が見えなくなった頃、フェリオンは再び歩き始めた。
魔族を魔族と判断するには、目の色しか違いがないのでそこで決める。
つまり、目を隠せばいいんだ。
「天才だ、私」
ボソリと呟いたフェリオンの顔は残酷な笑みを浮かべていた。
〈裏話〉
・エラネス教の教え
大体の内容は、無駄な争いはするなよみたいなことと、魔族ぶっ殺せということ。矛盾
・山賊と海賊
この世界にも、山賊と海賊が存在する。
ひとつなぎの財宝はない。
肉まんよりもあんまん派
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