32、アレア道中
リエルネールが、レンテからアレアへ旅立って3日がたった。
アレアはリロフの隣国なので、カルネルやリレーシャよりも早く着くだろう。
大体、アレアまでは2週間。
草木が満遍なく広がっている草むらを歩く2人。
空の太陽は2人をジリジリ熱してゆく。
リーラはうめく。
「少し、暑いなぁ…」
「ちょっと一瞬、これ持って!」
ベルがリーラに愛用の緑のローブを預ける。
そして、その内側に来ているシャツを腕まくりして胸元をパタパタする。
その後、リーラから再びローブを受け取る。
「ありがと」
「んじゃ、次私」
そう言って黒いローブをベルに押し付けるリーラ。
基本的にベルと同じ行動をするのだが、少し過激なので文章は控える。
ベルは何故か目を逸らしていた。
「ほい」
「ん、サンキュ」
ベルのより通気性がないリーラのローブを左腕にかけ、夏バージョンのリエルネールは歩いていく。
ーー
「光線」
「おー、ありがとうねぇ」
一方レノフは、ライレを目指して歩いていた。
今は道中の村で草刈りの依頼を受けていた。
低い姿勢から繰り出される光線は雑草を根本から焼き切り、依頼主のおじちゃんは満足げだ。
「はい、これ報酬の1000ヘルト」
「おう、ありがとう」
ジャラという音と共に、銀貨が10枚入った麻袋を渡されるレノフ。
地味な依頼だ。
だけど、リーセと、ベルとリーラに掬い取ってもらったこの命は大事にしないといけない。
「師匠…」
不意にリーラとベルを思い出した。
あの2人は、今の俺に会ったら喜ぶだろうか。
喜ばないわけないか。
あの2人のことだ。
空を仰いでいた顔を下げて、ベルは歩き出した。その顔には、笑みがあった。
レノフの近況報告、終了。
ーー
一方、ベルとリーラは戦闘していた。
相手はハーディス5体。
熱も、光線にも強いこの爬虫類の背中の鱗は、太陽に反射してギラギラ光っていた。
だけどリーラはこの魔獣の対処方法を知っている。
ハーディスの腹の下に風の渦を作ることだ。
そうすれば、ハーディスはひっくり返り、ジタバタしながらも何もできなくなる。
「風の渦」
リーラの繰り出した魔術は見事命中し、ハーディスをひっくり返した。
それをベルの剣が突き刺し、殺す。
その繰り返しである。
結果的に、10分もかからずに戦闘は終わった。
「ういー、ナイスー」
「ベルもナイス」
2人は草むらに寝転び、右手で顔目掛け、パタパタして風を送る。
リーラの風の渦は微風を出すことができないのでこうするしかないのである。
道を進むたびに暑くなる。難儀だ。
レンテを旅立ってから、2週間が経った。
道中の村で、2人はしばらく休息を取ることにした。
ベンチに座り込み、溶けたようにぐだぁーとする。
8月に入り、暑さがさらに増してきた。
リーラがビブラート気味の掠れ声で呟く。
「もう、全裸になりてぇ…」
「捕まるよ。主に俺が」
ベルもボソリと呟く。
宿を予約して、依頼を受けるために2人はある家に着いた。
椅子に座らせてもらい、反対側にいる依頼主が話を切り出した。
「氷を五つぐらい、出してくれませんか?報酬は2,000ヘルトです」
「わかりました!任せてください!」
暑さのせいか、テンションが高いリーラはその場で魔術を繰り出す。
「氷の塊」
立方体の形をした、リーラの顔ぐらいあるサイズだった。
ゴトンと音を立てて、木のテーブルに落下する。
「おぉ、これは凄い!」
「でしょう?」
魔術を初めて見て興奮している依頼主にリーラが自慢げに胸を張る。
立て続けに残りの四つの氷を作り出し、お礼の報酬と冷やした果物をいただいた。
果物は、スイカみたいな見た目で味もスイカだった。
銀貨二十枚を荷物のポッケに入れて、2人は外に出る。
「うっわ…」
再び、クソ暑い熱波が2人を襲う。
パタパタ手で仰いでいるベルを見て、リーラが思いついた。
「あ、そうだ」
「え?」
リーラは軽く人差し指をくるくる回して、氷を作り出す。
「はいこれ」
「え、やったぁ!」
ベルがニマニマしながら、新たに生み出した氷を抱きしめているところを見ながらリーラが鼻で笑う。
「…なんだよ」
「いや、最初からこうすればよかったなと思ってね」
「今更今更」
こうして、再び1週間が経つ。
村の近くにある、アレアの国境を抜けて数百キロ。
ようやく大きめの街にたどり着いた。
街の名前はエナフ。
1ヶ月と1週間ちょっとの旅が終わった。
〈裏話〉
・事件
作者は、今まで使った魔術の詠唱を記入したデータをこの前誤って消してしまいましてね。氷の塊の詠唱を忘れました。はい
・リエルネールの残金
ギルドに残してるの含めないで言うと、銀貨30枚。3000ヘルトである。
雪の道をスニーカーで歩いて、靴下びしゃびしゃになった。
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