2、剣と魔術とリエルネール
「パーティー名は、リエルネールでよろしいですかー?」
冒険者ギルド。受付嬢のカウンター前で剣士と魔術師は頷いた。
遡ること約10分前、
「パーティー、組もう」
リーラの一言の数瞬の後、ベルは口を開いた。
「…魔術師?」
こくり、とリーラが頷く。その顔には笑みが浮かんでいる。
魔術師なら話が早い、とベルが立ち上がる。
「わかった、組もう」
ベルはテーブルから身を乗り出した。木特有の軋む音がなる。
「ベル・オール。剣士だ」
「リーラ。魔術師」
今度はベルが頷き、尋ねた。
「パーティー名は?」
自慢げな顔をして、リーラが答える。
「リエルネール(勇気なるもの)」
この言葉は、ここレンテで有名なお伽話の最後の一節。
"迷えるもの、諦めるものに、我らがリエルネールを授けよう。それが、汝らの希望となろう"
リエルネールの由来はいまだにわかっていない。
ベルも満足げな顔をして再び頷く。
「じゃ、申請だ」
パーティー登録のことである。
そして今に至る。途中で、「え?二人だけですか?」と言われてしまった。
「最初はFランクになります。受けるクエストはどちらにいたしますか?」
受付嬢の問いにベルがクエストが並ぶ掲示板を眺め、指を刺した。
「…じゃあ、これで」
そこに書かれていたのは、
「ズワルト森林にてEランク魔獣、ウォルフ10匹の討伐」だった。
「ベルって、さ」
二人揃って外に出たのちリーラが尋ねた。
「貴族なの?」
自己紹介をしあったときに引っかかっていたことだった。
この世界では基本的に、自分の家名が名前についている人は貴族か騎士の家のものだけだ。
ベルは後者。
「んん、違う。俺の家は下級騎士の家だよ」
「ああなるほど」
リーラは魔法学校のこともあり、貴族に対して少し抵抗があった。
ベルの少し後ろをついて行ってたリーラは、トタトタとベルの隣に寄った。
「もしかして結構強い?」
もちろん剣士としてである。他に何があるかは知らないが。
ベルはここ数十分のうちにすでに見慣れた自慢げな顔を浮かべると、
「学年内で、4番目」
確か今年の騎士学校の卒業者は1300人はいたはずなので、かなり強いということになる。
ほんとかどうかはわからないが、Fランクになったばっかりのパーティーの状態でEランクの魔獣を選んだので、かなりの自信がありそうだった。
「ていうか、リーラって魔術師だよね?」
「うん?学年で5番目ね」
「そうじゃなくて」
ベルはじーっとリーラの風貌を見て、言い放った。
「杖は?」
「ないよ」リーラが答える。
「えなんでよ」
人差し指を天に突き立てて、魔術師はこういった。
「私ぐらいになるとね、杖がいらないんだよ」
言い訳である。
事実だが、明らかな言い訳である。
それを疑わしい顔で見つめるベル。
でも、確かに杖を持っていない魔術師を見たことはある。
「…でも杖があった方が使い勝手いいんでしょ?」
「そりゃ、まぁはい」
リーラの声がだんだん小さくなってなっていった。
その途端、ベルが大通りをUターンし出した。
一瞬、ベルのことを見失うリーラに、
「リーラ、早く。杖を買いにいくよ」
数十分後、
二人が杖屋から出てきた。買ったのは割と高級な杖だった。ついでに杖入れのベルトも。
もう一度言う、ベルは浪費家なのである。金を持っている浪費家ほど危ないものはないのである。
この杖は、魔石が二つついている。先端と、中心にだ。
中心の球体なのは特に大きい。
大きさは160センチ位のリーラより少し小さいが、それでも大きい、しかし軽い。
「本当にいいの?高いよ、これ」
リーラが杖を担ぎながらベルを追いかける。
ベルは軽く振り返って、いった。
「学年で5番目なんだろ」
「なんだろって…」
リーラはため息をつき、ベルトで杖を縛る。
「あんたいつか絶対悪い女に引っかかるよ」
「大丈夫だよ」
何が大丈夫なのだと聞こうとする前にベルが続けた。
「俺、彼女いるし」
「いるんだ」
そんなことを話している間に、街の城壁を抜けた。
ズワルト森林はもう目前である。そしてもう太陽は西へ向かい始めている。
〈裏話〉
•魔術の適性
魔術師には適性の属性というものが存在し、平均で一つか二つぐらいの属性を持っている。
適性ではない魔術も使うことはできるが、魔力操作が困難なのでたいていは使われない。
•ベルの彼女
ベルの彼女はアーリエといい、騎士学校の後輩である。リーラの予想に反して、めっちゃいいやつ。
彼女が欲しい!
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