13、再会と三男
「どうしたんだ、その破れた服」
「いや、ちょっと戦闘してね」
レンテへの関所の衛兵が、ベルに話しかける。ベルが破れているのは、脇腹を貫かれた時の傷跡である。
「…まぁ、いいとするか」
衛兵はぼやいてため息をつく。
リレーシャへの行きでも会ったこの人は特段、何か追求することもなく、通過させた。
その時間、わずか2分。
行きの時の30分とは比べ物にならないぐらい短い。
それから1日が経ち、午前9時ごろ。
「ついたぁ…」
「家だ…」
二人は歓喜のあまり、レンテの城門を前にして土下座した。
不審に思った衛兵がこちらを睨んできたので、そそくさと城門を冒険者カードを見せて通過する。
城門を抜けてすぐのところには、市場街が広がっていた。
「うわーなつかしー」
「うわこれ高っ」
リーラが市場に売られていた、服やの値札と睨めっこしている。
しばらくし、値下げ交渉を重ね、なんとか破れた服を再び買い終わった二人。
「とりあえず、俺は宿予約するから。リーラは冒険者ギルドでカード更新してきて」
この言葉が、ちょっと厄介ごとをうむことになるのだが、とりあえず今は飛ばそう。
「あら、久しぶりお兄さん」
「ちょっと旅してきてね、二部屋お願いしまーす」
顔見知りの受付のおばちゃんと軽く挨拶をして、700ヘルトを払う。
レンテを旅立つ前から泊まっていた宿を予約し、リーラを待つ間、少し部屋のベッドで寝転がっていると、
こんこん、と木製の扉の叩く音が響いた。
どうぞ、というと音をたて扉が開く。
「ベル…」
リーラだった。
「私たち、殺されるかも…」
「…急じゃない?」
一旦、リーラを部屋の中へ入れる。
誘拐でもされたかのような青白い顔をしているリーラに事情を聞いた。
まず、リーラは冒険者ギルドに行って、魔道具の記憶筆に魔力を込め、紙に書かせた。
討伐履歴の欄にはこう書かれていたそう。
Cランク魔獣、ブルーベル
Cランク魔獣、ハーディス
Cランク魔獣、ベリラント
水属性魔族、ヴァーテ
と。
ギルド内は混乱していた。
確かに、魔族を討伐したなんてあまり聞く話でもない。
そもそもここら辺では数が極端に少ないので、そりゃいない。
そんな騒ぎの中、奥の方から男が出てきたそう。
リーラが言うにギルドの代表と思われし大男に追い回され、この宿に逃げてきたそうだ。
「…大丈夫?この宿破壊されない?」
「そんなん知らん。私は、逃げるよ」
荷物を再度まとめて、宿の窓から飛び降りようとするリーラ。
ここ2階だぞ、と宥めて、結局リーラは今日はこの宿に籠ることにした。
それはそうと、アーリエに会いたいベルは、宿をこっそりと抜け出し、レンテ騎士学校へ向かった。
「翌る日の〜戦へ赴くため〜に〜我ら〜騎士学校〜」
騎士学校の校歌を口づさみながら、校門の前へたどり着いた。
さてここまできたのはいいものの、どうやって行こうか。
多分、授業が終わるには一時間以上はある。
会いたすぎて勝手に敷地内に入ったら、不法侵入で牢獄行きだ。
ふと、リーラの故郷の、アリラを思い出した。
実家に、久しぶりに行くのもいいかもしれない。
リーラも連れて行こうとしたが、なんだかめんどくさくなりそうなので、今回はやめておいた。
ベルの実家、オール家は意外と騎士学校から近い。徒歩10分弱である。
下級だが、由緒正しい騎士の家系なので、屋敷はしっかりしている。
懐かしい街並みを感じつつ、家の前にたどり着くと、
「ん、ベルか?久しぶりだなぁ!」
後ろから声をかけられた。
振り返ると、ベルと同じ、茶髪を掻き上げた眉毛がくっきりした男がいた。
「兄貴」
「卒業式の日は来いって、伝えといたはずだろ?」
「いや、伝わってないけど」
「えぇ?じゃあ、知らんよそれは」
なんとなく、ベルの喋りかたはこの男に影響されてそう。
この男はオール家が次男。レネル・オールである。
オール家の自宅警備員。またの名をニートと呼ぶ。
しかし、それなりの実力はあり、多分、ベル相手なら今でも片手で勝てる。
まぁ基本的にダメ人間。
「どうしたんだ今日、いきなりきて」
「いや、まぁ久しぶりにレンテにきたから」
「久しぶり?お前この二ヶ月間何してたんだ?」
「あぁ、そういや俺パーティー組んだんだよ」
「…急、だな、なんか。…アーリエちゃんも剣士だからパーティーは無理だろ?荷物持ちとかしてんのか?」
「いやいや、二人パーティーのリーダーだよ」
リーダーはリエルネールには存在しないが、ここはベルが自分の株を上げるための方便だ。
リーラは自分がリーダーとか言い出すタイプだが、この場にはいない。好都合。
「詰まるところ、魔術師だろ…女か?」
「うん」
「浮気はダメだぞ、浮気は」
オール家の中でベルが彼女持ちと言うのは共通認識である。
その中でもレネルはそれをいじってくるやつだった。
「そんなんじゃないって、あいつとは」
「…まぁ、彼女持ちに手を出す奴はいないか…」
「ところで、なんで兄貴はここにいんだ?」
と言いながら、ベルはレネルの身の回りを見渡す。
白い修道服で、修行をしていたようにも見えるし、手には紙袋がたくさんあるので、買い物をしていたようにも見える。
「そりゃ、修行の後に夕飯の買い物にだよ」
「そう」
全部合ってた。そのまんまだった。
「せっかくだからさ、うちで夕食食べにこいよ、一家団欒でさ」
「いや、俺はアーリエに、会いに、ちょ待って強い強い」
「そんなんいつでもできるできる」
レネルはベルの服の裾を掴んで宙ぶらりんにし、家に連れて帰った。
ドアの開く音。
「ただいまー」
「…ただいまー」
なぜかただいまに抵抗があるベル。
人間というのは、二ヶ月もいなかったら実家でさえ抵抗感が生まれるのだ。
玄関からちょうどまっすぐ行ったところ。
階段の、踊り場に人がいた。
「おう、兄貴。ベルを連れてきたぞ」
次男のレネルが兄貴というのはきっと…
「ベルです、ただいまー」
「…ベル、か。久しぶりじゃないか」
センター分けの男。オール家が長男。
「よし、稽古だ」
「えなんで」
アネル・オールだった。
〈裏話〉
•オール家の事情
オール家の屋敷には二世帯が住んでいる。
父と母。そして3人の兄弟。
文中でも紹介していたが、ベルとレネルとアネルだ。
なんとなく最後は「ル」にしたいというこだわりがあったので、全員似たような名前になってしまった。
•ベル・オールの語源
オランダ語で耳飾りが、オールベイルだったので、いい感じにいじった。ちなみにリーラは脳死で思いついた。
最近、ラグビーのルール覚えた。
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