12、決着
「げほっ!げはっ!」
風魔術で体外に水を吐き出す。
口の端から顎にかけて水が流れる。
魔術による窒息は、魔術においての外道だ。
まぁ、こいつら魔族に人間のプライドが通用するとは思えないが。
「窒息死は無理かぁ」
ヴァーテがニヤリと笑う。いつの間にか、腕も完治していた。
まるで悪役令嬢の顔。
リーラはヴァーテを睨みながら、ゆっくりと立ち上がる。
その間にヴァーテは四つの氷柱を生み出していた。
リーラは考えていた。
どうする?
残りの魔力だってそんなに多くもない。
あの反射しない光線って意外と魔力使うからなぁ。
何かが欲しい、この前とは違う何か、新しい何か、
新しい、
…これだ。
「氷柱」
氷柱が飛んでくる。
「防護!」
リーラは走る。
防護魔術を展開し、四つの氷柱を受け止める。
いや、一つだけ逃した。
「い゛っ!」
この氷柱は追跡型のようでリーラの後ろを付いて回る。
速い。追いつかれる。
「ベル!」
ヴァーテの方向に顔を向けながら、叫ぶ。
「了解!」
ベルが近づく足音が聞こえる。
高い金属音。
ベルの剣が氷柱を一刀両断する。
魔力を無くした氷柱は蒸発するように消え失せた。
それを見届け、リーラは立ち止まり、杖を掲げる。
「飛行」
足元の草がなびく。
結界の中の魔族は、笑う。
「へぇ、飛べるんだ」
「風の渦」
杖をさらに大きく掲げる。小さい竜巻がだんだん大きくなっていく。
結界を巻き込んでいく。
大きい。ヴァーテの結界を丸々覆えるほどには。
いやそれ以上だ。
「…なんのつもり?」
ヴァーテが不敵な笑みを少し緩める。
「さ、なんでございましょ」
飛行で、さらに上へと浮かぶ。
竜巻の頂点に達した時、竜巻の内部へ杖を向ける。
「光線」
反射する光線だ。しかもこれは、風魔術にだけ反射する魔術だ。
魔力がみるみる減っているのがわかる。
早めに終わらせなければ。
最大速度で放つ。
竜巻に、光線が反射する。
「…あっ」
ヴァーテが呟く。
あまりの速さに屈折させるのが遅れた。
光線が水の結界を通過し、ヴァーテの体を貫く。
魔族の口から声が出る前に奥の竜巻へ反射する。
それが、またヴァーテの体を貫く。
その繰り返しだ。
3秒もすれば、ヴァーテの上半身はほとんど消えていた。
「あぐっ…」
飛ぶ気力を無くしたヴァーテは結界を失い、真下へ落下していった。
それを見逃すベルではない。
神速の速さで落下地点の真下に向かう。
「てりぁっ!」
掛け声と共にヴァーテの首に一閃が走る。
草の音と共に、ヴァーテは落下した。
ヴァーテの両目は真っ黒から白に染まっていった。
魔族は死亡のさいに目が黒から白になる。
「ふぅー…」
リーラは一息ついて、すぐさま火の渦で焼き尽くす。
完全に死んだことを確認したリーラは、魔力切れで地面に突っ伏した。
ベルもリーラの近くで座り込む。
最後の一撃が決められて、ベルはご満悦だ。
「勝ったなぁ…」
「勝ったねぇ…」
英雄暦713年。六月二日。
リエルネール初の魔族討伐である。
〈裏話〉
•英雄暦の話
もうちょいマシな名前つけようと思ってたけど、思いつかなかった
•ヴァーテの話
炎はオランダ語でヴューユみたいな感じだったので日本語っぽく改変した。
あと、ヴァーテを含む魔族は全員魔力切れという概念がない。Bランク以上の魔獣も同じ。
•魔力の原理
魔力は魔術を使用していくうちにどんどん、大きくなっていく。
現にリーラは、この二ヶ月で今までの4分の1の魔力量が増えた。あと、成長期に魔力は伸びやすい。
柔道が苦手。
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