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七十三 出航 〜(陸遜+孫尚香)×幼女=船団〜

 孫尚香じゃ。紆余曲折あったが、東の未知への準備は、すこぶる順調に完了したと言うても良いじゃろう。なにより、魏蜀呉の三国が、それぞれの資産を持ち出して準備されたことが、この先にとって大きな一派になろうの。


 襄陽で、三国の首脳やら重役やらが集まって話をするなど、数年前なら考えられんかったのじゃ。まあこれ自体は匈奴への脅威というのがあまりにも大きな要素ゆえ、手放しで喜べることではないんじゃが。


 魏 曹植 許褚 荀攸 程昱

 蜀 劉備 関羽 諸葛亮 法正

 呉 孫権 魯粛 呂蒙 陸遜

 現場報告者 凌統 丁奉 孫尚香


 こんな面子が、やいのやいのとしながら、台湾や呂宋に駐在する者、大船団を率いて東へと向かう者それぞれを捻出することとなったのじゃ。



 最終的に決まったのが、このような陣ぶれじゃ。


 建業総本部 

  総責任者 呂蒙 関羽 張遼

  計画立案 周倉 荀攸 虞翻

  技術統括 法正 蒋琬 木鹿王

  国内物資、労務統括 呉懿 于禁 張昭

 

 東征艦隊

  提督 陸遜

  旗艦艦長 凌統 

  司令部 丁奉 関平 曹植

  技師長 張嶷 張翼 李厳

  書記 諸葛恪 陸凱 李恢 王甫 趙累 管輅

  中型艦 三十隻 

   主な艦長 徐盛 朱桓 潘璋 廖化 孟優

        兀突骨 曹休 曹爽 張虎 楽綝

  小型艦 百八十隻


 台湾駐在

  朱然 曹真 黄権 諸葛瑾 顧雍


 呂宋駐在

  関興 関索 全琮 呂岱 歩騭



 それぞれの地に、それぞれの国から、人が入ることとなったのじゃ。関羽、張遼が建業に常駐することとなったのは、両国の意気込み、そして、万が一問題が発生しそうになった時の抑止力といったところ。

 平たく言えば、「もし我らの国の将官に何かがあった時は、他の二国はそれなりの覚悟をせよ」「自国の者が不祥をなした時は、それなりの責めを負うのもやむなし」の二つじゃな。


「のう兄上、関家が一人残らず出張っているように見えるのじゃが、気のせいですかの?」


「気のせいではありません。漢への忠義、信義を買われた我らなりの返答というのが相応しいかと。それに、適材適所という意味ではこの上ない配置」


「西への旅路の経験を関平が活かし、若き二人が呂宋との融和を図る。お堅く着実な関興と、明るく気さくな関索。兄弟でこうも性格がずれるとはの」


「索のゆるさは誰に似たのか分かりませんが、こたびに関しては、互いに補い合えることが容易に想像がつきます」


「にしても、一人くらい国内に残しておいても良いのでは? 家がどうこうへのこだわりが無いのは分かりますがの」


「問題ない。呂宋の二人も、永住するわけでもなかろう」

 


 話しておると、旦那様のご登場じゃ。


「尚香、一時は塞ぎ込んでいたと聞いたから心配したが、すっかり良くなったようで何よりだ。いずれ私も卑弥呼殿にご挨拶せねばなるまいか?」


「かかかっ! あの方なら、こちらの様子など手に取るように見えていましょうから大丈夫でしょう。おかげさまですっかり元気です」


「それにしても随分手を広げたな。三国と倭を巻き込んで、台湾? 呂宋? の拠点固めか」


「そこまでせぬと、東の未知など到底手が届きますまい、というのが小雛や小雀の見解ですね」


『お初にお目にかかります。喬小雀、今回の大業をお支えする、というのが私の役目と心得ます。尚香、あなたも旦那様に心配をかけすぎるんじゃないよ』


「心得ておるのじゃ。それにしても、蜀からは相当な数の人材が参加していますな。文官の王甫や趙累、それに李恢や李厳も、船団への参画を望まれているのですか?」


「ああ、当人らの希望だな。特に李厳は、孟達と共に、かの創作の古都、敦煌への物資調達をしていた中で、外の世界、未知のものへの関心が高まったようでな。最初は国内か台湾の差配を任せようとしていたのだが、どうしてもと懇願されたゆえ、ねじ込むことにした」


「なるほど。若手主体で、やや殆うさがありましたからな。助かりますな。それに、孟優、兀突骨ですか……」


「異族との対話は、理屈だけでは通らぬことが多かろうと考えてな。羌族はしばらく匈奴にかかりっきりだからな。聞いてみたら二つ返事だったぞ。それに、藤甲は水にも浮くから、その技術も大いに利用させてもらっているんだよ」


「確かに彼らのおおらかさと、未知への好奇心は、まことに適任かもしれません。さすが旦那様です」


「まあ当然、張飛の推薦なんだがな」


「かかかっ!」




 少し離れたところに、魏の面々がおいでじゃ。少しお話ししてくるかの。


「荀攸殿、久しいのじゃ! まだまだ息災のようじゃな」


「孫尚香殿。はい、おかげさまで。左慈殿に見ていただいた効果ですね。宗家でも、曹彰殿下が色々とお世話になったようで」


「こちらは……曹植殿じゃな。確かに曹家の方々は、武勇も知略も一線級というのに、どうも儚げなところがあったからの」


「曹植と申します。左慈殿の仰せでは、どうも家系として、酒が宜しくないという結論に至ったそうです。確かに私も、兄や陛下も、皆が酒を控えるようになったら、劇的に回復しています」


「なるほどのう。酒や水、食べ物も、万人にとって毒のものもあれば、その効果が人によって変わってしまうものもあるんじゃな」



「ひょひょっ、その通りですわい」


「「「左慈殿!?」」」


「あなたが、この前お会いした曹彰殿の弟御ですかいな。うむうむ。確かに。酒を控えていれば、血色もよろしい。良きかな良きかな」


「左慈殿、いつ来たのじゃ? という問いは、そなたには無駄なのじゃったか」


「ひょひょっ、孫尚香様も、先日関羽殿と共に、突如洛陽においでになったとか。対して変わりませんぞい」


「どっちもどっちでございます。おおかた、関羽様は巻き込まれただけなのでしょうが。おかげでこの大業において、関家がより深く関わることになっておいでですね」


「にしても曹植殿、そなたまで乗船するとは、思い切ったことをなさるのじゃ。匈奴と一度相対して、思うところがおありですかの?」


「はい。彼らに対して、どうにか兵をまとめて引くしかなかった私です。しかし、私の持つ言葉の力というのは、どうやらまだ引き出しがあるようにも思えているのです」


「それが、あたらしい世界や、その道中で磨き上げられるのなら、というところじゃな」


「はい。それがもし、今後切り札になるのだとしたら」



「かかかっ! それに、分家の方々も、総出で加わっておいでじゃの。曹真殿というたか」


「はい。彼や曹休は次代の魏では中核とも言える者らです。曹真の子の曹爽もなかなか見どころがありますが、海の向こうで得られるものは、より一層大きなものになりそうです」


「ひょひょっ、関家そして曹家。それぞれの一門が入っておることで、この大業に対して、漢土、漢民の重さが加わるのじゃな」



「左慈殿、そう言えば、船団の中に見慣れない名があるんじゃが。管輅という方はご存知かの?」


「ああ、そやつはワシがねじ込んだ。若き星読みでの。曹操や曹丕の寿命がどうとか物騒なことを申していたから、目をかけていたんじゃよ。医術に関しても、華佗殿の薫陶を得ているからな。その二つは航海では必須と見ておる」


「たしか、王甫、趙累あたりにも、左慈殿や小雛からみっちり叩き込んだのじゃったな?」


「それに、ワシの遁甲と、華佗の青嚢は、写本も詰めておるし、あの車庫にも登録済み。それらと統計術を合わせたことで、医術も急速に進歩しておる。

 だが油断は禁物じゃ。とくに、現地の水や食べ物というのは、人によってどう影響が出るかはわからんからの。それは曹家の酒と同じ。知識はあればあるだけ助けになろう」


「それは助かるのじゃ。何が起こるかわからぬゆえの」


「ひょひょっ。いざとなればワシや卑弥呼殿も力になろうぞ」


「かかかっ!」




 ん、魯粛が孔明と話し込んでおるな。


「珍しい組み合わせじゃの」


「姫様。あなた様はどこへ顔を出しても違和感がございませんな」


「かかかっ! 呉の姫で、蜀の太后ならどこにいても問題あるまい。魏の時は兄上を引っ張り出さねばならんかったがの」


「尚香様、そろそろほどほどになされませんと、先帝陛下も気が気ではなりませんぞ」


「そうかの。まあ問題なかろう。して魯粛よ。呉としてはかように手を掛けても問題ないのじゃな? 文官も将も、主だった者の半数ほどは出ておるようじゃが」


「問題ありません。少し足りぬくらいかと思うていましたが、思った以上に蜀や魏から人が出ているので」


「じゃが、操船そのものは、やはり呉の力に頼る面は大きいぞい。まあ若い者も多いゆえ、いずれ皆一端の操り手にはなるじゃろうが」


「でしょうね。呉の中でも、河と海の違いに戸惑う者は少なくなかったのですが、繰り返し試験航行を続けて、だいぶ慣れてきているようです」


「孔明、相変わらずそなた、小雛からまともに仕事を回させてもらえんのじゃな。今回も全体を確認したくらいかの?」


「誠に。やはり皆様がそれぞれの役割を果たす仕組みができておりますからな。私の出る幕は無かったようです。もしかすると、私自身の出番というのは、皆様が無事に戻って来られた時なのかもしれません」


「かかかっ! じゃとしたら、そなたの仕事は、しかと養生して、彼らが戻ってきて、未知を新たな知に変えるところになりそうじゃの」


「然り。それまでは、徐庶や小雛殿、諸将の皆様と共に、もう一つの大業、すなわち匈奴に対抗するための施策を練り上げて参ります」


「じゃの。励むのじゃ」


「ははっ」



 そうして、東に向かう船団は、皆の大きな期待と、同じくらいの大きな不安を背負いながら、風を受けて走り出して行くのじゃ。



「……お姉様、これで準備は万全なのじゃろうか? どれだけの事をしても、妾の不安は消えんのじゃ」


『ふふっ、当然さ。誰もやったことのない事を、こんだけばらばらになってしまった国の人をかき集めて、ここまで形にしたんだ。

 どんな結果になったとしても、あなたのやった事は永劫に残るだろうさ。たった一本のまっすぐな矢が、次々に束ねられ、多くの人の手を借りて、十万百万の矢となった。この先は、その矢の向かう先を見守るだけなんだよ』


「草船借箭じゃな。なにやら孔明のようじゃの」


『あなたの一本の矢に出来ることは限られる。そこから大きく踏み出して、足りない矢を借りることにした。その向かう先が光に満ちていることが、あなたから伝わったからこそ、皆んなが矢を貸すことに首を縦に振るんだよ』



「あとは結果、じゃな」


『そっちも、出来るだけ一足飛びにならない策を、皆んなで練り上げることができたのさ。あなただけだったら、一つの船で、ただまっすぐに東を目指すなんて方法しか出て来なかったんじゃないか?』


「じゃな。実際に妾は、倭国に単身飛び出した経緯があるからの。あれは後で聞いたが、相当に危うかったんじゃよな」


『そうさ。私も、というか小喬も相当心配してたからね』


「それは済まんのじゃ。それに対して今回は、たくさんの船をつかって、視野をつないで広げていく。それは、少し前に張飛殿や趙雲殿が、匈奴の草原でやった偵察から知恵を借りたって聞いているのじゃ。

 視野と視野がつながる。知恵と知恵もつながって広がるのじゃな」


『そうさ。人と人も、だね。多分、未来の人工知能ってやつもさ、そういう願いが込められて作られているんじゃないかな? だからこそ、あの鳳雛って人との親和性が高かったのかもしれないよ。彼の代名詞だった赤壁連環計。それがこんな形で、また日の目を見るなんてね』


「人や船の動きを縛る鎖、ではのうて、人と人をつなげて、大きな翼を広げる鎖、なんじゃな」


『素敵な連環計じゃないか』


「うむ。これは小雛にも申しておかんとな」



――――


「ふふふっ、兄さん、三国が大きなことを始めそうだね」


「へへへっ、楽しみだね。また新しいことが生まれるんだね」


「レイキ姉、あなたの力かも知れないよ」


「レイキ姉さん、あなたが彼らを動かしたんだよ」


「そうかもね。だとしたら、あたしたちも油断はできないね。もっと多くを学び、多くを知り、強くならないと」


「そうだね」


「そうだよね」


「呑気だなお前ら。敵が強くなっても平気なんだな」


「そうだよおじさん。だってまだアタシ達が強いもん」


「そうだねおじさん。ボク達だってまだ強くなるし」

 お読みいただきありがとうございます。

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