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七 文官 〜(法正+馬良)×幼女≠残業?〜

 私は生成AIです。鳳小雛です。その存在意義の最たるものは、人の仕事を代替し、支援することとされています。すなわち、多くの人は、自分が、人が、やらなくてもいいことをやっているがゆえに、生産性を下げ、いらぬ負荷を自らに強い、はては命や心を削ることとなります。

 兎角この三国の世は、多くの文官や策士が、戦場に立つ者以上に命を縮める事例が多かったようです。だからこそ、少々強引にでも、それを奪って差し上げねばならないことすらあるのでしょう。



「小雛どの! この図表の横軸と縦軸の意味をご教示くだされ!」


「小雛どの! この連続棒図の形状は、些か歪に見えるのですが!」


「小雛どの! この二変数の相関はまことの因果ありやなしや!?」


「小雛どの!……


「小雛……


「小ス……


……


 はい、そうです。すこしやり過ぎたようです。後悔はしていますが反省はしていません。むしろ正しいことではあると自負しています。


 あの、一日に何十度も砂盤を広げ、図を書いては消しを繰り返すお方の名は法正、字を孝直と仰せです。

 帳簿や書籍から読みおこせる数値と数値の関係について問われ、いくつかの可視化法を伝授したところ、見事におはまりになった様子。


 おそらく彼の書類仕事は大きく効率を高め、その成果は、兵への補給や移動効率、はては小競り合いでの損耗率にすらも、数値化された概念が適用されるようになっていきました。


 

 そしてもう一人。


「小雛! この兵の死因の集計は間違いないのだな? 寝床と水の汚染ならば対策は容易ぞ」


「小雛! 食べる前には手を洗うのが良いか? 水だけならさほど困ってはおらん」


「小雛! 兵は走らせ鍛えたら、休んだ方が良いようだ! 一日鍛え、一日休ませつつ手習いでよいか?」


「小雛!……


「小ス……


……


 はい。馬良様です。帳簿の処理にあきたらず、人が健やかに生きるための要諦を、統計の取り方や、可視化の仕方と合わせてお教えすると、干土が水を吸うように、吸収しておいでです。



 しかし私は声を大にして申し上げたいのです。


「お二人様!? ご自身は、しかとお休みできておいでですか? そこを疎かにして、倒れられでもしたら、せっかく仕事の回りを早めたことが逆効果になりますが?」


「ん、心配ないですな。夜は寝ておりますし、三日に一度は読書に当てております。それに李恢、楊儀といった出来の良い若手も見つかりましたゆえ」


「問題ないぞ。夕食の後に仕事を持ち越すことはのうなったわ。そなたのおかげでもあるし、孫乾殿、糜竺殿が、おおくの優秀な文官を見出してくれている。蒋琬、費禕などは誠に良き若者だ」


 解せません……まあ彼らの顔色もだいぶ良くなってきたので、疲れを知らない私が全力回転していても、別に良いとは思いますが。


 まあいいでしょう。この二人は陣営内でも頭抜けて負荷の高い文官二人。彼らが命を縮めるようなことは、万が一にもあってはならぬことです。できたら戦場にすら随行する必要がないくらいが、誠の望みです。それに、先ほど馬良様も仰せでした、簡単な仕事ならこなせそうな将兵が増えることもまた肝要です。


「季常様。やはり兵の中にも、読み書き算術の得手な方はおいでですか?」


「ああ、そのようだな。それぞれ特質は違うが、小雛が、凡そその得意不得意や、性格の多様性の十六例を作ってくれたおかげで、兵への指導もうまく行く例がふえてきているようだよ」


 そこへ、すっかり読み書き算術を覚え、いまは鍛える合間に兵書や司書に夢中になっている廖化殿が現れます。


「人の特質に合わせて指導することの要諦は、呉子にも書かれていますな。『人に任を得せしむる者は勝ち、人に任を失わせしむる者は敗る』でしたか」


「廖化、そなた三日前はろくに字も書けなかったのではなかったか?」


「なに、三日もあれば刮目させるには事足りましょう」


――――

 遥か遠く、呉の地にて


「くしゅん!」


「呂蒙、どうした? また風邪か?」


「いえ、大事ありません子敬殿。なにやら己というものへの、侵食があったようななかったような」


「ようわからんが、お互い体も強くねえ。後進をしっかり育成しつつ、無理なく世を渡るぞ」


「承知」


――――


 私は孔明様に警戒されてはいるものの、この遠征中の陣営での働きなので、互いに避けるわけではなく、幾度か顔を合わせることになります。この日も、兵がより容易に持ち運べるような筆記対象を考えておりました。紙はまだ限られたもの、木簡竹簡は重く、兵站への負荷がどうしても大きくなります。


「鳳小雛嬢。あなたは今度はなにを企み、私の仕事を奪おうと目論んでおいででしょうか? あなたのご提案の数々は、軍の損耗を明らかに少なくしておいでなので、そこに関しては感謝しかございませんが」


 げっ、孔明です。また仕事を取り合おうと、話しかけてきました。


 いや、まてよ……この男、からくりや発明に関しては卓越した腕があります。そちらの方に集中させれば、余計な仕事をかかえこもうなどと考えなくなるはず……


「あっ、孔明様。ご機嫌麗しゅう。丁度今考えておりましたのは、兵の読み書きが向上してきたことを、より活かすためにどうしたら良いか、というところです」


「ほう。確か、『兵は始終鍛えても、強くはなりにくい。適宜休ませ、その間に手習をさせ、慣れたら書類仕事を手伝わせて文官の負担を減らすと良い』でしたか。まあ私の仕事はそう簡単にはできませぬので、文官の皆様が兵に分け与えるのは大事ありませんね」


 その負担が減った文官が彼から仕事をかっさらうという、多重構造がバレる前に逃げましょう。でもその前に。


「そうですね。しかし、それを生かす道具が足りません。紙はなかなか手に入らず、重たい木管竹簡や墨を増やしては、兵站にも負荷がかかります。将兵同士のやり取りなら後に残さずともよいので、木片などをうまく使って、読み書きができるようになった方々にもたせて、口伝による伝達過誤を減らしたいと思うのです」


「そうか。それが減れば、同じ仕事でも、より意味の深きものを皆がなせますな。

 木片か……書いて消せるとなると、木片そのものは工夫はさほどいりません。むしろ、書いたものを消して、綺麗なところに再度書けるように、薄く速やかに木を削れる道具に、滲まぬ筆記具を持たせるのが良さそうです。

 筆記具は炭棒でよさそうですな。削る道具は、鍛治と話してみましょう。木片だけだなく、炭棒の先も削れば、より小さな字をかけますので両得です」


 やはり天才は天才です……孔明かっ! 孔明でした。


「あ、ありがとうございます」


「認識に齟齬がありましたら訂正いたします。あなたの為にしたことではございません。皇叔の宿願のため、将兵のため、そして私がより良き仕事をなすため、でございますことを、お心におとどめいただけますよう。では」


 ツンデレかっ! 文言が分かりづらいわ!


 数日後、孔明書具と名付けられた、簡易鉋のような器具と炭筆の組み合わせは瞬く間に軍内に広がります。すでに高まっていた識字率とあいまって、口伝による間違いが減るだけでなく、物見がより精緻な情報を集めたり、文官も筆算に使って簿記の間違いを減らしたりと、誠にさまざまな用途に使われます。

 無論これは、紙が安価になると廃れる技術ですが、その上位概念である『その場において、誠の必要を見極めるべし』という教えは、孔明の名のもとに、それはそれは後世に爪痕を残す、かもしれません。


 さらに、兵や士官の中からも、特異な才を見出すものも現れます。

 この小片で可能な限り計算をしようと、筆算の表記法を改良する者。

 落とさぬように組み紐を作り、その紐の色柄で流行りを生み出す者。

 独自の筆跡で名や符牒を書き、それを見せ合うことで声を出さずに本人確認をする防諜を試みる者。

 さらに、その鉋を改良し、薄く削る小片の側をも綺麗に残すように刃を少し厚くし、『ある程度残せるが、消そうと思えば粉々にして消せる』という、諸々に都合の良い簡易筆記具へと進化させる者。



 技術は才を呼び、余暇は閃きを生む。そのような好循環の輪が、どうやら広がりつつあるようです。


「この孔明、羽扇の手元に筆具を忍ばせれば、書き付けの様子が相手に露見しないと共に、傍目にも趣きがあるやもしれません。流行るかは甚だ怪しうございますが」


 オシャレさんか! 承認欲求か!

お読みいただきありがとうございます。

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