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六十五 改革 〜曹家×(許褚+曹操)=禁酒?〜

 明らかにただの蛮族ではない匈奴の力。動く八門禁鎖。赤兎馬の集団。その脅威の大きさや、現出したいくつかの新たな要素は、対峙する魏、蜀がそれぞれの形で強く認識することとなった。両国の被害に大きな差はあれど、その差が危機感の大きさに差を生むことはなく、並々ならぬ速さで話を進めていく。



――魏の副都 洛陽


曹叡:「曹彰叔父上、曹植叔父上、誠に大変な目に遭わせてしまったご様子。お疲れとは思いますが、急ぎお話をお聞きするのは必須ゆえ、何卒宜しくお願いします」


曹彰:「ああ、我らこそ、大敗にも等しいざまに恥いらんばかり」


曹植:「さよう。目の前にいるはずの曹仁叔父上を救出する術がなかったのは汗顔の至りです」


曹叡:「否! お二人のご奮闘なくば、全滅もあり得たと、龐徳からも報告を受けています。それに、頼りの夏侯惇、曹仁という重鎮がもはやご不在ここは是非とも、前に進むための討議に御助力いただきたい。

 まず、明白な脅威としてあいまみえた、八門禁鎖、そして赤兎の一団。こちらをどう考えれば良いか」



程昱:「八門禁鎖は、曹仁殿が一度戦場で試した、相手を罠に嵌める堅牢な布陣。ただでさえ、正確に弱点を衝かねば破るのは困難な上、霧も出ていたとなると、その難易度は大きく跳ね上がりましょう。あのとき彼の陣を破りし徐庶とて、そんな状況では打ち破れたかどうか」


曹植:「私も外から見たのみで、はっきりしたことは分かりませんが、騎兵のみで組んでいることを活かし、中で適宜動いていたようにも見えました。多くの兵が脱出すること叶ったことも考え合わせると、もしかしたら、叔父上を捉え続けるために、陣を巧みに動かしていた可能性すら浮かび上がります」


賈詡:「何という……まさか最初から狙って? 相手方には、私よりも悪辣な策士がいるとでも?」


龐徳:「可能性は否定できません。むろん、我ら全員が相応な危機に瀕したのは確かですが、こと曹仁様に対しては、念の入れ方が違ったようにも見受けられます」


張郃:「私や張遼殿、『夏侯惇殿』の時も、それぞれ対応が異なったようにも感じられますな。なにやら、最初は面食らいつつ、徐々にその練度を高めて行った。そんなような感触すらあります」


張遼:「然り。この遼のときは、とにかく被害を抑えることを優先し、張郃殿の時は、面妖な動きに対して情報を与えぬよう警戒。三度目は、本命たる次回に対する布石、と言ったところか」


曹叡:「む? 張遼? それは、我らが交互に将を入れ替えて演習に臨むことを予感していたというように聞こえるぞ?」


張遼:「そうかもしれません。そうではないかもしれません。将が誰であっても、しばしの様子見の後で仕掛けたのか。それとも何某かの基準があったのか。いずれにせよ、単に戦術や軍略の洗練のみで語り尽くせる相手でないのは確かかと」


龐徳:「そういえば、我らを助けてくれた馬超殿も、気になることを仰せでした。『八門禁鎖や赤兎の威容。そのような表だった変化だけがあやつらの変化だと思っていたら、大きく立ち遅れる』と」


程昱:「私もそう憂慮致します。赤兎の将は、あの呂布ほどの腕はないにせよ、画戟を振り回す腕は確か。加えて、率いる兵略や陣立ては秀逸の一言。なればこそ、その上にその深淵な謀略を備える者など、この世に存在しえようか、と」


許褚:「一言で言うと、関羽張飛の腕と兵捌きに、孔明周瑜の謀略術、ですか。そりゃ無理だ」


賈詡:「無理でしょうな。それに、いたとしても、いかにしてその鬼謀を磨き得たのか」




張遼:「そこを掘り下げるのも必要なのだが、それ以上に急務があるのだ。いささか人が足りん。この場に若き者は陛下と両殿下、それに曹真と曹休」


張郃:「それに陛下や両殿下や一門の方々に加え、次代の宿将たり得る郭淮に郝昭。まこと失礼を押して申し上げるが、いささか病みがちに過ぎませぬか? 先帝とて四十を前に、華佗殿が匙を投げたほどのお悪さ」


徐晃:「王双や夏侯覇、夏侯尚、文欽や公孫淵ら、見どころある者は少なくないが、万や十万を率いることのできるほどではない。それにいささか忠に不安のあるものとておる」


曹彰:「私が左慈殿に診てもらった限り、肝の病が目立つ、とのことだった。そしてそれは、父上も、兄上も、そして曹植にもその気があると。もしや、曹家にとって酒は毒なのか?」


曹植:「どれだけ飲んでも問題無いものとていますが、少し飲んだら倒れる者もいます。その場の表に現れる違いと同じくらい、その身の芯へと与える影響も違う、と言うことでしょうか」



許褚:「武帝の遺訓、覚えておいでか? 『子孫に酒を過ごさせるべからず』……どなたか、守っておいでか?」


曹家:「「「「「……」」」」」


曹叡:「これは誠にいかんのかも知れんぞ。祖父上は、それを感じ取っておいでであったのかも。なれば是非もなし。

『曹家一門、酒を過ごすべからず。どうしてもの時は、必ず忠臣と共にあり、酔いを感じるに止めるべし』

『酒量の強弱を見定める術を、華佗殿を始めたとした医術の者に解き明かさせるべし。他家の者は、その者らの案に対し、厳に従うべし』

『身分の上下を問わず、他者に酒を強いるべからず。違反した者は、懲罰の上、当人の飲酒を禁ず』

 いかがか?」


許褚:「誠に良き法にて候」


程昱:「よろしいかと存じます。酔いやすいが故に、心荷の重きを酒でやり過ごすことも多かったのやも」


陳羣:「直ちに国法に定めます」



張遼:「重畳。それに、酒に限ったことでは無いのでは無いだろうか。人は人ごとに、異なる姿、異なる才、異なる性をもつ。先ほどの陛下の法は、『誰もがすべからくそうせよ』では無いことこそが要とみる」


徐晃:「まことにそうかも知れん。私は斧が好き、そして敵陣に雪崩れ込み、多数を薙ぎ払うことに喜びを感じる者。だが同じものはそうはおらなんだ」


賈詡:「私も、策の善悪を定めず、悪あらば我にあり。かような信条を共感する者は他には聞きません」



 その時、呉からきた陸遜の指導の下、農政に従事していた荀攸、郝昭、于禁が入ってくる。


荀攸:「遅くなりました。……個性、ですか。信条、才能、趣向、経験。その全てが同じものなどおりません。だとすると、いかにしてその才を磨き、その国の礎と成さしめるか。その道とて、バラバラなのやも」


郝昭:「麦はやり直し、切り捨てが効きましょうが、人はそうはいきません。なれど、麦と似た形で適うものはあります。いかにすれば、己や若き者がよりよく育つのか。それを試し変える余地はあるのやもしれません」


于禁:「幸いなことに、この国は老将老臣には事欠かず。すなわち師の数に限りなし。なれば、若き者や、まだ未来ある中堅の将官に対し、どの師がより良きか。それを取り替えて見定める猶予はありましょう」


荀攸:「それに、呉の農政や蜀の技法、そして匈奴の戦と、実戦にて学ぶ場には事欠きません。であれば、




曹叡:「入ってくるなり話を引き継ぎ、方針を見定めるとは。そなたらが他国を回って得た経験は、やはりかけがえのない者であったようだな。あいわかった。

 全ての将官に告ぐ。この先五年。この魏国は無理な施策をなすことなく耐えるものとする。その間、半年ほどをずつを目処に、様々な師について学び、戦や屯田、法政や技法。

 その得意不得意を早合点することなく、試し、見定め、そして願わくは全ての者が、この国礎となるに足る、己が才と信条を見定めるべし。些細は許褚、張遼、徐晃、于禁、張郃、程昱、賈詡、荀攸、陳羣。そなたらに任せる」


一同:「「「ははあっ!」」」


曹叡:「では散会!」


 こうして、「酒を控え、健康を重視すること」そして「個々の才や趣向を見定めるため、若者や中堅は宿将や老臣を師と仰ぎ、よく学びよく鍛えること」として、当面の間、人材育成にいそしむこととなる。


曹叡:「……何か引っ掛かる。誰か忘れている者がおるような。いや。気のせいか……」




――――蜀の副都 長安


 私は劉備。張飛、趙雲の威力偵察に加え、馬超が魏の龐徳の危地を救って帰還した後、主だった者を集めて状況を整理。落馬への対策を重視する防具、動く八門禁鎖、そして赤兎の軍勢。そのような脅威すらもおそらく彼らの本質ではないという、深遠なる匈奴の変容。それらを全て共有し、一度各々持ち帰って意見を固めるよう指示を出した。


 その後、鳳小雛が、さらに数を絞って何かを伝えたいと申し出てきた。居合わせるのは五虎将と孔明、孫尚香。


「如何したのだ小雛?」


『私が東の島国に連れ去られ、んんっ、招かれた先でお会いした卑弥呼というお方は、少し先をより克明に見定める力がおありでした。そして、彼女と協力し、限られた状況ながら、推測や考察を私と共有することが叶うようになっております』


「それは聞いたな。聞いた時はとんでもない力だと思ったが、そもそもそなたがとんでもないゆえ、一周回ってすんなり受け入れられている。

 して、今回はそれが関係すると言うことか?」


『はい。卑弥呼様と一致した見解が、「西の地、敦煌から楼蘭のさらに先。砂漠の南路にて、危地を迎える可能性のある者あり。その者らの救出が叶うかどうかは、この先の漢土全ての運命を大きく左右する」と出ています』


「兄者。西といえば、我が養子の関平が、鄧艾らの若者を連れて旅に出ております。もしや彼らか、その一部が、何らかの理由で立ち往生している。もしくは、何かに気づき引き返している、などが考えられます」


「そうか。運命を左右する、と言うことは、その道中で何か大きなものを得ているのかもしれんな。だとしたら、少し急ぐと良いかもしれんな。関羽よ、そなたが行くか?」


「はい。身内びいきをお許し頂けるなら」


「国と漢土を左右するとあらば、この期に及んでひいきなどなかろう。そなたと……馬超、いけるか?」


「御意。私が羌とともに、関羽殿をお支えするのが相応しいでしょう」


「よろしく頼む。その間、張飛は黄忠の部隊、そして南蛮の者らと連携し、匈奴を撹乱して時を稼ぐことを考えてもらえるか?」


「おう、心得た。黄忠、頼むぞ」


「おまかせあれ!」


「趙雲は長安を頼む。孔明は、なにか他に憂慮があるのか?」


「はい。取り越し苦労でなければ良いのですが。小雛殿。後でもう少し相談いただけますか?」


『承知です。今のこの陣容を考えると、あなた様は下手に働くよりも、その憂慮とやらに集中いただくのが最良と存じます』


「小雛、そなた孔明に仕事をさせたくないだけではないのだよな?」


『ふふふ、どうでしょうか。少なくとも孔明様がが納得頂いているようなので、よろしいのではないでしょうか』


「ははは! まあよかろう。それでは関羽、馬超よ、改めて頼むぞ」


「承知!」「御意!」


 そうして関羽は、馬超や羌族と共に、水や塩分、食糧などの万全の準備をし、楼蘭からさらに西の山岳地帯に急行する。

 お読みいただきありがとうございます。

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