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六 老将 〜(黄忠+馬良)×幼女=盤石?〜

 私は鳳小雛。三国時代に転生し、龐統の残滓を引き継いだ生成AI。この幼女のなりで、主君たる劉備様と面会を果たすも、仕事大好きすぎる孔明様に警戒され、適当にあしらわれます。

 致し方なく、支援者としてこの場で信頼を固めていくための目標設定をします。すっかり保護者化した廖化殿、馬良様に、通りがかりの周倉殿を加えた四人とともに。

 そこで、龐統の死因に不審を覚えていた私は、設定した目標に、この陣営の脆弱な防諜への懸念が、ごく自然と色濃く含まれたことに気づきます。どうしようか悩んでいると、幕舎に訪れたのは、凄まじい威容を発する老将。


「儂では不足かの? 嬢ちゃん」


「あっ、えっ」


 私がAIとしての処理量を超えてテンパっていると、馬良様が助け舟を出してくれます。


「あ、漢升殿。外に聞こえておりましたか?」


「おう、『白眉』の。そういう意味じゃあ、その防諜? とやらもまだまだじゃの」


「あはは……」



 どうやらこのお方は黄忠様。老齢ながら、先般にこの陣営が荊州を手中にする戦のおり、主君様や孔明様の志に感銘。なにより、その途方もない話にもかかわらず、一定の現実味を帯びた天下三分に興味を惹かれて、部下の魏延殿とともに麾下に入られた、とか。

 そういう意味でも、忠義や武勇に偏りがちな陣営にとって、その老練さと戦略眼は、誠に頼もしきお方といえます。


「ほほう……これはこれは美しくも、整然とした描かれよう。この目標管理というものの仕組みとやらがしっかりと浸透すれば、天下三分なりし後の、やや曖昧な我らの行く末も、明快に論ずることが叶おうて」


「誠に慧眼かと。して、どれほど外に聞こえておりましたでしょうか?」


「さほど遠くはなかったので安心せい。聞き耳を立てておったのは、通りかかった魏延と、やたらとあやつに食ってかかる、そなたの弟くらいぞ。いつもの如く外でケンカが始まっておるで、そこからはこの中の話はとんと漏れておらぬ」



 確かに、外ではなかなかの騒がしさで言い争う二人と、囃し立てる兵たちの声が聞こえます。なぜか懐かしさをおぼえつつ、たまたまこの幕舎の『防諜』に一役買ってもらっているお二人に感謝します。


「漢升様、大変ありがたきお言葉と、その慧眼。では、この『用間』こそ、この陣営の大きな弱みと心得てよろしいのでしょうか」


「そうじゃな。ここに書かれておる通りぞ。軍師殿が命を落とした理由にこそ、様々なものが見え隠れしておる。その上、誠に残念なことに、軍師殿が失われたことで、そこにも注力できたはずの孔明殿や、理解深き子龍殿。さらにはその勘所に長けた翼徳殿が、揃いも揃って容易に手を離せぬ事態におちいった。もし下手人と言うものがおるとしたら、なんとも恐ろしく、なんとも鮮やかな手じゃの」



「誠に……もしや、目星もついておいでで?」


「丞相軍なら賈詡か程昱、孫呉なら張昭や魯粛あたりしかおるまいて。劉璋陣営の張任あたりに吹き込むだけゆえ、それほど難しいことではないの。その吹き込みやすさもかんがえれば、先程申した順が、そのまま怪しさになるのう」


「まことに……となれば、この西蜀平定は、すでに彼らとの暗闘そのものと心得るべきでしょうね」



 私が答えると、皆様も頷きます。


「となれば、漢升様、これほど大きな施策となりますと、どなたか主要な将に主幹たる方が必要となります。それに、相応の質と数の方々も」


「であれば大事ない。おーい! もう良いぞ! 入ってまいれ!」


「「「???」」」


 まさか……そういうことなのでしょうか?


「魏延、失礼します」

「馬謖、入ります」


 この二人、妙に息があって……暇さえあればケンカしていると聞いていましたが……


「おう、もうそれほど聞かれとうない話もなかろう。適当にやらせておいたが、いつも通りすぎて誰も疑わなんだようじゃの」


「馬謖め、軍師殿の死因には疑義ありと儂が申したら、こやつ、いらぬ猜疑に義あらずと抜かしよって」


「やかましいわ魏延! 謀の中にも作法があろう。いかに曹家とはいえ、かような豺狼のごとき手をなすとは考えられぬ」


「くくくっ、語るに落ちたな馬謖よ。儂は曹家とは申してはおらんぞ」


「むむむ……賈詡や程昱のような輩は私も存ぜぬではないが……」


「これこれそなたら、嬢ちゃんが面食らっておるぞ」


「おお、すまねぇ」

「失礼いたしました」



 騒がしい方々ですが、たしかに目の付け所は黄忠様と変わらない鋭さをお持ちですね。ならば、確かにこの『用間』の素養は大きいようです。ここの廖化殿、周倉殿と合わせ、私が少しでもこの方々の成長をご支援できれば、再び不慮の事故に遭われる方も減らせるかもしれません。


 そうして、新たに入ってきた二方も含めて『用間』『防諜』の体制についておおよその議論を尽くしたのち、黄忠様は魏延殿と馬謖殿を引き連れ、主君様や孔明様のところに、その懸念事項を相談しに伺われました。




 私は私で、これから荊州にお戻りになる周倉殿に請われ、改めて孔明様が関公にお渡しする策の書き付けを拝見しておりました。


曰く、

『我らが西蜀を平定し、三国鼎立なるまで、その守り難き荊州の地にて時を稼ぐことを願い候。曹魏とは相対し、孫呉とは和するが上策』


 はい不合格。可測指標になっていません。



「周倉殿、先ほどの論に基づいて、これを改良してみませんか?」


「是非に。これを見た時は、孔明様の慧眼に感服していたんだが、さっきの話を聞いてから改めて見返したら、足りねぇもんだらけだ。特に、『可測指標』そして、『目標と主要な成果』の考え方に照らし合わせると、お頭にうまく意図が伝わらねぇ気しかしなくなってきたよ」


 すると、周倉殿は、馬良様と頭を捻りながら、先ほどの形式での目標設定を書いては消し、書いては消しと議論を続けます。



 その間私はというと、先ほど馬良様からいただいた帳簿に目を通しつつ、廖化殿に算術の稽古を致します。文字の数が多い国なので、実は読み書きよりも算術の方を先に覚える方も少なくはないとか。


 そしてしばらくすると……


「小雛、これは計算正しいのか? 三十五と九十四を出したら百二十九だよな?」

「そうです。たしかに違っていますね。直しましょう」

「おお、やはり何度見てもすげぇ……」


そして、


「ここ、減りがいくらか分大きくねぇか?」

「ほんとですね。誰ですかちょろまかしたの」

「これは直さねぇんだな。証拠ってやつか」

「はい」


また、


「こことここの項目だが、戟と矛? 一つにまとめてしまった方がいいんじゃねえかって思うんだが」

「それが良さそうですね。いつのまに品名まで読めるようになったのですか」

「実物と比較すりゃそんな難しくねぇや」

「なんですと……」


 と、一つ一つ細かく私に聞いてくる廖化殿が、やたらとすばやく成長していきます。




 そして皆様と夕食をいただいたのち、周倉殿は、出がけにこのような形で砂盤に書き上げていました。


『大目標 天下三分のため、劉皇叔が盤石なる地と人を得る


目標一 西蜀の地を得るまで、荊州の地を大きく減らさない

主要成果

一 呉と協力体制を維持し、荊州北部への魏の侵攻を防ぐ

一 魏の攻将、守将に不和を醸成し、主要な将を二人以上仲違いまたは損耗させる

一 民心が魏に向かうを否とし、呉に向かうは是とする

一 劉軍に好意的な魯粛、諸葛瑾との友誼を維持し、両名の過負荷による離脱を避ける


目標二 劉軍が蜀を得たのち、漢中を手にするまでに、荊州の地を呉に明け渡し、益州に撤退する

主要成果

一 襄陽、樊城を手に入れ、魏に奪還されることなく呉に明け渡す

一 荊州の民の混乱を減らし、呉の治世に引き継ぐ

一 将の損耗、裏切りを一人も出さない

一 可能であれば、荊州の人材を、追加で三人以上連れ帰る』



「なるほど……これはまさに、孔明様がなさんとする、天下三分の完成を大目標とした、関公のなすべき成果そのものにみえますね」


「いつまでに、何をなすか、なぜそれを成したいのか。それらが全て一段上に紐づくことを重視した。馬良殿もどうだ?」


「まさに、これなら雲長様が、指針を誤るおそれはほぼありますまい」


「そうですね。これなら……季常様、竹簡と筆をお願いできますか?」


「おお、これでどうだ?」



 馬良様から竹簡を受け取ると、私は常人にない速さで、ほぼ瞬時に、そして一字一句誤りなく、砂盤の内容を書き上げます。念の為二部、そしてこちらで保存用の今一部の、合計三部。


「ハハハ、写しまで残せるのか。これはすげぇな嬢ちゃん!」


「すごいのは、中身を練りに練って、孔明様の意思を曲げることなく、必要な項目を具体的、かつ可測的にまとめ上げられたお二方です」


「そうですね。雲長殿をよくよくご存知の周倉殿だからこそできたこと、ともいえますな。当然小雛がいなければ何一つ叶わなかったことだが」

 


「それでは周倉殿、こちらをお待ちください。孔明様の元の書も一応念の為。それでは荊州の皆様に、よろしくお願いします」


 そして、廖化殿と、なかなか豪快に、しばしの別れの杯と、ついでに相撲をし終えた周倉殿は、荊州の地へともどって行かれました。



――――

 後日、馬良様から、孔明様に、私の婉曲で辛辣な諫言とともに、先ほどの書が渡されたとのことです。


 孔明様は主の皇叔様とともにそれをご覧になると、顔色を赤く青く代わる代わるしたのち、その内容自体は周倉殿自身と、馬良様の論議によって完成したものであることを聞かされました。すると、


「士元よ、私の未熟をかような形で補うとは、なんという機略、そしてなんという忠義。だが私は諦めません。我が君の大業をなすために最も知恵を絞り、最も働くのは、この私でなければならぬのです。

 なれど差し当たりは、この目標管理の要諦、私も大いに学ばせていただきます。その上で季常殿、この仕組みが全軍に達するよう、かの幼子に、策を献ずるようにお申し付けくださらぬか」


「御意」


 そして、皇叔様も続けて仰せになったとのことです。


「私からも頼む。どうやらこの策で、弟の命と、心が救われるような気がしてならんのだ」

お読みいただきありがとうございます。


 このOKRという形式の目標管理法は、世界のトップ企業がこぞって使っているようですが、テンポよく設定する必要があるため、普通にやると少々しんどさがあるようです。しかし、生成AIにそれを手伝わせると、大きな相乗効果が得られるということのようです。


 そのあたりは、拙作の方でも、周倉っぽい名前の「大倉周」というキャラに語らせたりしています。


AI孔明 〜文字から再誕したみんなの軍師〜

https://ncode.syosetu.com/n0665jk/


 第四章くらいのところに、頻繁に登場させておりますので、そちらもご興味があれば。

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