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転生AI 〜孔明に塩対応されたから、大事なものを一つずつ全部奪ってやる!〜  作者: AI中毒
第三部 第九章 まあるい世界 落ちない連環
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五十八 誓約 〜六人×母=連環?〜

 高原の大都市にして、混乱の戦地エクバターナ。旧王朝パルティアと、新王朝サーサーン。後世においてはゲリラと呼ばれる、消えゆく王朝の戦術は、その統一指針なき戦闘を長引かせていた。そんな中、マニという、英雄の気を持つ少年の手引きで、姜維、鄧艾、費禕、そして単福殿と共に、私関平はその市街戦の地に侵入する。


 その仮宿でマニが語ったのは、行方知らずの母を諦めようとしていたこと。単福殿は、痛みに満ちたその母との過去を、徐庶という自らの本名と共に語って聞かせ、その少年の迷いを払い、その覇気を取り戻させる。そして、一月かけて、この理由少なき戦の地を少しずつ沈め、断たれた隣人の絆を少しずつ紡ぎ直す。


 そしてついに、戦を続けんとする両陣営の将兵が一堂に介したその時。マニは姜維と鄧艾を連れて両軍の間に入り、二人がいにしえの呂布の伝説に則った余興でその戦意を削ぐ。そうして始まったマニの訴え。家族と隣人、そして互いの祈る相手への理解と慈愛が説かれたその一言一句に、武者達の心は鎮まる。


 そこでマニに駆け寄ったのは、生き別れた母。息子を讃え、そして戦に凝り固まる将兵の意を、かの長坂における叔父上の伝説のごとき、仁王立ちとご口上で一挙に打ち砕く。


 そうして戦は終わり、夜通し続いた祭り。子供達は羌族やパルティア市民と踊りを競い、サーサーン兵も照れくさそうにそこに加わる。姜維や、トトこと鄧艾が、異国の話をそれぞれの視点、それぞれの語り口で現地人に語り聞かせては、費禕と徐庶殿がそれを書き留めて皆に配る。私はマニの様子を見ていると、その少年は、母の膝枕の上で安らかに眠っている。




 おそらく末代までも伝説として残るであろう、その長い夜が明けた。一行は、マニの母を、その家に送り届けることとし、街の中央付近の、やや立派な家に到着した。のだが……


「あうあう! きゃっきゃっ!」


「お兄ちゃん、だあれ?」


「……この子達は一体?」


「ああ、あんたの妹だよ。あんな捨てられ方をして、愛する息子とも引き離されて、そんな旦那に尽くす義理なんざ、砂漠の砂つぶほども残ってないよ。まあ、新しい旦那も、クテシフォンの戦で下手を打ってもういないから、まああれだ。女で一つで二人育てにゃなんないんだよ。この辺りはそんな女が集まって暮らしているから、しっかり協力できて、以外と楽ではあるんだけどね」


「なんと……お母さんもそんな苦労を。まああの父のことは忘れていいからね。 そのうちあの人が傾倒している宗派も、時の流れの中で消えゆくんじゃないかな?」


「アハハ! そりゃ大変だよ! 確かに昨日のお前や、この方達の話を聞いていると、小さいところで固まった排他的な集まりなんていうのは、どんどんその凝り固まりをほぐされていってくれるといいね」


「うん、そうなっていく気もするよ。それに、この皆さんならまだまだいろんな所で新しいことをしてしまいそうな、そんな気がするんだ」


「ああ、そうもね。それで、そんな皆さん方なんだがね。どうもお祭りの後にしちゃあ、ちょいと浮かない顔なんだが、どうしたんだい? 今更になって酒や食いもんが足りなかったとか、なんか盗まれたとか、そんな話じゃなさそうだけどね」


 やはりというかなんと言うか。この子にしてこの母あり、と言った所だろうか。お互いにも、そしてマニにも、


「そうだね。お兄さん達、一応心配かけまいとしているようだけど、どうしたんだい? 街の人や、兵達には気づかれてはいなかったと思うけどね」


 ……この母にして、この子ありだったか。どうやら、ここは鄧艾や費禕が説明しても、話がややこしくなるだけなので、姜維が話すことにしたようだ。



「ああ、少し気掛かりな奴らがいてな。私たちにも似た風貌だが少し色黒。毛皮の装束で、皆やや鋭い眼光をしている。そんな人たちがそれなりにいるみたいだが、それは最近のことか?」


「ああ、あの人たちだね。多分、かなり最近だね。クテシフォンが落とされる少し前ぐらいからだから、本当に一年もたっていない気がするよ。フンとかフンヌって言っていたよ。時たま訪れては、何かを探すようなそぶりを見せて、そして何をするでもなく帰っていくみたいだね。たまに強そうな人が喧嘩を売られて、軽く打ちのめされては、何事もなかったかのように去っていく、とか言う噂も聞いたことがあるよ」


「ああ、若い子にとってはそうなんだね。まあこの母ちゃんもよくは知らないんだけど、だいぶ昔には、カシュガルあたりが彼らの支配下にあったこともあるんだよ。言い伝えでは、悪魔の種族とも言われているんだ」


「悪魔、か……その表現は置いておいて、まあ間違いないな。匈奴だよ。ちょっと厄介だな」


 姜維の言う通りだ。彼らがこのあたりに出没するとしたら、厄介ごとの匂いしかしない。


「あたしの聞いた話だが、とにかくもう強いのなんのって言う話だね。話半分ではあるんだがね、逃げながら矢を放っても、軽々掴み取っては打ち返される。そして重騎兵が向かっていけば、ゲハゲハ笑いながら、馬ごとぶっ倒されるか、何合も打たないうちに馬から突き落とされるんだとさ。そして落ちた奴には目もくれずに次の奴に向かってくる。万が一踏んづけちまって大怪我だったり死んじまったりでも、気にも留めないんだとか。敵だけならわかるんだけど、味方すらもそうらしい」


「そんな……死者、と言うか、馬から落ちた時点でいないと同然、ってことなのかな?」


「さあね。とにかく死者や敗者に対しては無頓着だとさ。それに、今はわからんが、昔はとにかく残忍でね。カシュガルのような大きい所はともかく、小さい町や村は、瞬く間に落とされて、戦えそうな者からやられ、戦える中で戦場に残っているのは片っ端から殺され、家や建物も更地にさせられる、とか」


「い、今はわからねえな。とにかくあいつらは戦いにしか興味がねえ。く食い物があったら奪っていくけど、金目のものとか、き綺麗な家具や食器なんてのも全部無視とか言っていた気がするぞ」


「そうなんだよトトさん。感覚が違いすぎて、この子が言っていたような、『しっかり話せば分かり合える』ってのが、通用する相手かどうかもわからないんだよ」


「そんな……」



 そんなことを話していると、近くの井戸の周りから、こんな話が聞こえてきた。


「えっ? カシュガルが落ちた? 誰に? サーサーンはまだそこまで行ってないのよね?」


「ええ、そうみたい。まさかあいつらなのかな。ほら、あの悪魔の種族」


「うーん、あの人たち、別に悪くは見えないんだけどね。この前も、うちの店で酔っ払って騒いでいた奴らをぶちのめしてくれて、お礼にって渡したお肉を、ペロリと平らげて去っていったよ?」


「そういえば、迷子を連れて、懸命に親を探していたのをみたって言う人もいたね」


「うーん、でもカシュガルじゃあ、屈強な男どもがことごとくぶちのめされては、殺された人の家ごと焼かれたって聞いたけどね」


「家の中を全部ひっくり返されて、金目のものは全部無視。食べ物だけ持っていったってね」


「そうそう、なぜか借金の証文とか、帳簿なんかもいくつか持っていかれたとも言っている人がいたね。なんか得したって言ってたよ」



 やはりただの残忍な者たちでもなく、こちらとは価値観がまるで違うように感じられる。そして、女達のなかに、パルティア兵が話に加わったようだ。


「ただいま」


「あ、おかえり。そういえばあんた、昔外であいつらに絡まれたんだっけ?」


「ああ。小隊で移動していたら、どこからともなく現れて、勝負だ! みたいなことを言ってきたんだよな。軽く当たった後で、敵わないとわかったから、いつも通り逃げながら矢をいていたら、なんかやたらと喜び始めてな。しつこく追いかけ回してきては、矢を取られたり避けられたり。たまに当たったやつは、笑われていたっけな」


「うーん、結局何者なんだよあいつら」


「さあな。俺たちとも、サーサーンの奴らとも、それにローマや東国の奴らとも全然違うんじゃねえか? こんなに意味がわからない奴らは他にいねえよ」



 実際、聞けば聞くほど不可解。だがここで、じっと外の話を聞いていたマニが、もしかしたら、彼らの本質を突いているかもしれない、そんなことを言い始める。


「なんか、ちょっとわかった気がするよ。彼ら、強くなること。それが最大の価値なんじゃないかな? 人の命や、それこそ下手すると仲間や友の命よりも、強さを一番に求める。そんなことを考えたら、だいたい辻褄が合う気がするんだ」


「んっ? マニ、どどどう言うことだ?」


「えっとね。とにかく強い人に喧嘩を売る。落ちた人に興味がない。戦いの中で、興味深いことをしてくる人がいたら嬉々としてそれを誘い出す。どうだいトト?」


「んん、それは、そう考えると、大体あってそうだな。し死んだやつは弱いから興味がねえ。こ子供はいつか強くなるかもしれないから大事にする。よ弱い町や村はいらねえ。つ強い町は戦ってみる。まさか、そんな単純な……」


「ああ、確かに大半はそうかもしれないな。だがあと残るのは、やたらと何かを探す。証文や帳簿なんかを盗み出す。そして、死者を家ごと焼き払う。その辺りはまだわからないな」


「うーん、それはたしかにそうだね。でも、別に矛盾はしていないから、何か別の理由が……」


 ここで、朝なはずなのに、まだ眠そうな顔をしていた費禕が、一言だけ発して、居眠りを始める。


「知識? 医術?」


「ん? 費禕!? だめだこいつ。寝そうだ。でも、知識、か。それも強くなるため、だとしたら説明はつくか。昔はそうではなかったかもしれないが。あの国は、全盛期より相当に衰えた。それは間違いなく漢の力だ。だとすると、そこから盛り返そうとするのに、漢や各国の持つ知識、つまり文字や算術なんかを貪欲に集める、と言う行為には矛盾がない」


「それと、医術、か。そういえばボク、まえにギリシャの本を読んだんだけど、そこには、死者は放っておくと疫病の原因になるから、必ず焼くか埋めるかしないといけない、と書いてあったね。それは紛れもない事実だよ。だとすると、それを伝統として取り入れたのなら、屋内とか、狭い所で死んだ人は、焼くか、家自体を壊すと言う選択をするのも合点がいくね」


「そそうだ。や焼いて死なせたんじゃねえ。死んだから焼いたのか。なら、それはあいつらにとっては残虐じゃねえのか。や病で死ぬのは強さと関係ねえからな。それは許せないのかもしれねえぞ」


「強さが善、弱さが悪、か……なんて価値観なんだよ。分かってしまえば全部説明ついてしまうけど、どうやったら彼らと対話できるんだよ」



 ここまで聞いていた私は、何か言いたそうな、いや、私に何かを言わせたそうな、そんな徐庶を見る。


「マニ、その答えは、まだ若いお前達が、時をかけて見つけてくれないか? 私たちおっさんは、まずは一度、放っておいたらどうなるかわからないあいつらを、全力で食い止めることにしたい。徐庶殿、そう仰せになりたいんだろうと思いましたが、合っていますか?」


「正解です関平。漢土の皆さんは、いまマニ達が至った結論に、辿り着いているかも知れないし、そうではないかも知れない。それに、この道中で、そしてこの地で彼らが残した物。そして、もう近くまで来ているその匈奴の気配。今の時点で、一度取りまとめて、急いで漢土に持ち帰る必要がある。そう言う判断にならざるを得ません」


「んん? じょ徐庶殿、この先は一緒にいけねえのか?」


「はい。本音を言えば、あなた方を心ゆくまで見届けて、友に漢土に帰る、と言う未来の方が、私の望みです。でも今の状況がそれを許さない。マニ、姜維、鄧艾、費禕。あなた達は、このまま西へ向かいなさい。そして、あらゆるものを見て、あらゆることを経験するのです。そうですね。十年もあれば十分でしょう。たっぷりそれくらいかけて、この大陸の国々を回って、帰ってくるのです」


「ま、まあるい世界のその先は、ご呉に任せる。よろしくしていいか?」


「ダハハ! ここでそれを頼むんですかあなたは。最後まで相変わらずですね」


「ああ、それでこそ鄧艾だ。姜維も費禕も、そしてマニも、一回りも二回りも大きくなって、この世界でなすべきことを見定めてきてくれ。私と徐庶は、今の我らに出来ることに力を尽くす」


「そうだね。我が息子よ。私のことは大丈夫さ。この街がもし危険になったとしても、南や西に逃げるなんてのは難しくはないさ。今のあんたに守れるのは、あんたの手の届くところと、あんたの話が通じるところまでさ。

 だからここに残るとか言うんじゃないよ。あんたに守って欲しいのは、そんなちっぽけなもんじゃないのさ。ぐるっと一周してきたあとで、でっかくなったあんたが守る物。その中に私がいりゃあ、それが一番なんだよ」


「か、母さん……ぐすっ」


「お兄ちゃん、がんばえ!」


「ばぶ!」


「ははは、この子達までそうだって言うのか。分かったよ母さん、みんな。そして、関平さん、徐庶さん。またいつか必ずお会いしましょう。その時には、もっとこの世界が良くなっている。そうできるために全力を尽くすことを、母と妹達と、この町と天に誓うよ」


「あ、ああ。俺も誓う。ぐるっと回って、まあるい世界が全部繋がるんだ」


「なんて誓いだよ。でもそれはいいな。まあるい世界に誓う。なかなかじゃないか? 桃園ほどではないかも知れないが」


「ふふふっ、地球の誓い。いいですね」


 いつのまにか、費禕が起きている。そして、何かを書き上げた。


『我ら徐庶、関平、姜維、鄧艾、費禕、マニの六名は、生まれし時もその地も大いに違えども、いかなる死が我らを分つその日まで、この世界がより良き姿になるために、力を尽くすことを。この地が丸く、どこをどう歩いてもいずれ元のこの地に辿り着けることを知り、この地球の大きさを知る我ら、この手を取り合い、大きな連環をなさんことを、母と娘と大地にかけて誓う』


 私たちは全員で唱和し、その言葉を書き記した紙が、この街で歌や踊りとなって響き渡り始めた頃、我ら二人と彼ら四人は、別々の方向に歩き始めた。まっすぐ歩けばいずれまた出会う、そんな世界のその上で。

 お読みいただきありがとうございます。


 第三部一つ目が完結です。

 第三部はこんな形で、章ずつ完結できる形にしていけたらと思います。今後ともよろしくお願いします。

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