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転生AI 〜孔明に塩対応されたから、大事なものを一つずつ全部奪ってやる!〜  作者: AI中毒
第三部 第九章 まあるい世界 落ちない連環
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五十六 巨塔 〜(鄧艾+姜維+費禕)×マニ=摩天?〜

「私は姜維。はるか東の国から来た、伝承の語り手。この戦乱の地、エクバターナ。その故なき争いを止め、家族の絆を取り戻すため。友の力を借り受けて、この大きな都市で、この物語を語り聞かせよう」


 ……恥ずかしい。誰だこんなのをやれと言ったのは。まあ鄧艾だが。まあ仕方ない。たしかにあの語りをしようとすれば、気恥ずかしさなど、妨げにしかならないからな。


 円形の壁の上で舞い踊りながら走る羌族とパルティア兵。ところどころで立ち止まり、絵と文字が描かれた、薄く上質な紙をばらまく。下からはどちらの陣営ともつかない兵や、ひっそりと暮らす市民や子ども達が、なんだなんだと気がつき始める。


 その紙には、建設途中の高い塔、そして協力する様々な髪や肌の色をした人々。そして、遠くにはエクバターナやクテシフォンの街のような絵が描かれている。その裏には、短くはないが、すぐに読めなくはない長さの物語。両面の頭には、こんな表題が描かれている。


『誰かがバベルを見下ろし、心を浮き立たせて踊る』


 さて、人が少し集まってきたようだ。その物語を読み上げるとしよう。



「むかしむかし、人々は同じ言葉を話し、協力しながら仲良く暮らしていた。


 だがまこと同じ言葉だったのか、すべてがしっかり伝わっていたのか。それは誰にもわからない。


 ある時、誰かが言った『レンガを積んで、高い塔を建てよう』。


 みんな、よく分からないが、楽しそうなので協力した。


 初めは良かった。みんなしっかりした土台をつくって、黙々と、いや、時に話をしながら、仲良く積み上げていた。


 しかし、だんだんと、上でずれてはすこし揉め、レンガの色や大きさですこし揉め。


 たまに、なんで作っているんだっけと疑問に思った者や、腹が減った者らは、途中で放り出してどこかへ行ってしまう。


 そうして、小さな揉め事は争いへと変わり、その争いの中で、せっかく組み上がってきた塔も、少しずつ壊れていく。


 そして、人の言葉は伝える力を失い、少しずつ離れ離れになっていった。



 神は何かをしただろうか。ただ見守っていただけかもしれない。


 もしかしたら、自らに近づく不遜を咎めようなんて考えずに、人が近くに来ることを心待ちにしていたかもしれない。


 そして、理由もなく争いを始め、言葉で伝えることをしなくなった人々を見て、悲しんでいたかもしれない。


 だが神は信じている。人がまた立ち上がり、言葉と心で語らいあい、互いのやりたいことを伝え合い、認め合う日々が来ることを。


 いつの日か、人と人が近づけたように、少しだけ神に近づき、挨拶を交わしてくれる事を。


 そして、その手を取って、この世界をぐるっと回る、冒険の旅に出られることを。



 まだ間に合う。恨みが恨みで塗り替えられるほど、人の手はまだ他人の血で染まりきってはいない。


 まだ間に合う。他人に何も伝わらなくなるほど、人と人の言葉や考えは離れ離れになってはいない。


 まだ間に合う。それぞれ思い思いに神にすがるほど、あなたの隣人はあなたに絶望してはいない。


 さあ、その弓を持った手で、隣人の手を握れ。少しだけずれた言葉を交わし、語らい、共に夢に向かえ」



 あまり多くはない観衆が騒ぎ始める。どちらかというと、私に食ってかかって来る者よりも、隣同士で話を始める者らの方が多い。そんな数人で語らう者らの間に、鄧艾やマニが絵と字を書いた紙を器用に渡す。


 群衆は、ああでもないこうでもないと話し始める。


「こ、これは本当なのか? いや、本当かどうかなんて確かめようがねえ。でも一度聞いちまって、読んじまったら、その考え方もあるかもって、頭からはなれねえ」


「なあおい、あんたはなんでサーサーンと戦ってんだ? ん? ゾロアスターが気に入らないから? どこがだ? ふんふん。そっか、あいつが決めた善悪に従えるか、か。なら語らんとわからんぞ。語る相手は神じゃねえ。人じゃねえか?」


「うーん、向こうで戦うサーサーンにも、いいやつたくさんいるんだよな。知ってるんだよ。この前パルティアの子供にパンを分け与えていた兵を見ちまったんだ」



 いつの間にか、キョーイ、トト、マニ、そしてヒィの名が広がり始める。トトはトトでもういいらしい。トトは面白おかしくどもりながら、自らの道中を語り聞かせ、マニは地面に絵を描きながら、子供やその母達に優しく解説をする。私は場所を変え、時に突撃してくるパルティアやサーサーンの屈強な者らを打ち倒しながら、語らいを続ける。費禕? 寝ているに決まっているだろ。


 パルティア側はもちろん、サーサーン側にも少しずつ。なぜなら、壁の上で踊りながら配る羌族に、少しずつ興味を抱く子供やその母らが現れ始めたから。羌族の皆から、後で例えばこんな話を聞いた。


 子供らは、母が止めるのも聴かず、壁を登って彼らに近づく。


「ねえねえ、その踊り、おいらにもできる?」


「おう! できるぞ! それ、そりゃっ! お母ちゃんにも教えてあげるんだぞ! お母ちゃんは大事にするんだ!」


 そうして、羌族はもう一枚の紙を渡す。そこにはこんな絵が。母が赤子を抱きかかえ、背景に争う弓騎兵。そして建てかけの塔。


「この話が、おまえさんよりちっとだけ年上の兄ちゃんを、目覚めさせたんだ。その結果生まれたのが、争いの手を止めて、みんなで語り合おうってやり方だ。この兄ちゃんはな、この街での戦いが終わらないと、母ちゃんに会えねえんだ。だからよろしくな。この二つの話、しっかりとみんなに伝えてくれや」


「うん、わかった! 踊りと、お話と、お話だね! その兄ちゃんのお名前は? マニ? 覚えた! じゃあな踊りのおじちゃん!」


「おじちゃん、か……まあ確かにあの三人よりは関平殿に年は近いからな」



 羌族のおじちゃんたちの壁の上での奮闘は、時にサーサーン兵に追い回されて逃げ去ったり、パルティア兵と詩と踊りで勝負したりと、必ずしも順調とは言えない中で、少しずつ着実に進んだ。なんだよ詩と踊りで勝負って。


 だがその効果は着実に出始める。とにかく子供たちが真似して、壁の上で踊り始める。そしてその母達が、当然の義務とばかりについて行き、見守りながら母同士で語らい始める。


「えっ、あなたの旦那はサーサーンなんですか? うちはパルティアです。あらいやだ。まあでもあの子らには関係ないから、私たちにも関係ないですね」


「うちの人も、最近お腹出てきたから、しばらく駆け回ってもらいますよ。帰ってきたら、ご飯を食べさせながら、今日の話を聞かせてみます。それでも戦うってんなら、私を倒してから行け! とでも言ってやります。うふふっ」


「まあまあ。うふふっ」


 母は強し、だ。そうこうするうちに、一部の壁だった動きは、日を追うごとに全周にひろがり、その壁の上の母の集いは、新たな日常となるような、そんなよく見る光景となっていく。


 すると今度は、壁の中に少し崩れかけていたり、穴が空いていたりといった所、子供にとっては危ない所に、しっかりと補修を始める男達があらわれる。無論、街中の家屋にも、崩れかけて危ない所があると直されて行く。


 いつの間にか鄧艾は、どんなところから直していけばいいのか、地図を片手に大工たちを指揮して回り始める。その手際は秀逸で、いつの間にか、工事や仕事お頭のことを、トトというようになり始める。


「こここの壁は、人を外と中に分ける壁じゃねえ。人が人であることを示し、ひ人を守り、そして、街を見守るための壁だ。だから大切にするんだ」


「ああ、そうだなトト。これからもこの壁、そしてその中の家をまもりつづけねえとな」


「わーい! トト! 遊んで遊んで! トトが鬼だぞ!」


「トトがお鬼か! よし、い、行くぞ!」


「鬼さんこちら、トトさんこちら!」


 それでも、人手が足りなくなった左官たちは、それぞれの兵たちに手伝わせ始める。兵たちの間で、どっちがどっちか気にする光景が、少しずつ減って行く。


 壁を治す左官や兵士たちの真似をして、子供たちが踊りを振り付けて行く。壁があるかのように、空に手を当て回すおどりは、いつしか壁だけでなく、塔を建てるような振り付けの踊りにも変わって行き、羌族の拍子が取り入れられた、独特の踊りが広がって行く。


 別の所では、パルティア兵達はその身体能力を生かして、屋根から屋根へと飛び交いながら、相変わらず物語が描かれた紙をばらまく。その様子を見た子供たちも、母の厳重な監視下のもとで、少しずつそんな遊びも広がり始める。後に、パルティア由来の肝が冷える遊びとして、その名が広まって行くのは、また別の話。


 そして、街中ではいつの間にか、バベルの物語に様々な曲や振り付けがなされて、吟遊詩人や踊り子が、街全体に伝え始める。一部の詩人は街を出て、東西、つまり首都クテシフォンや、サマルカンドなどにも、この話や、少しずつ変容するエクバターナの様子を聞かせに出る旅に出始めたと聞く。



 徐々にパルティアとサーサーンの境が曖昧になって行くが、やはり根強いのが壁外や最西部のサーサーン軍と、中央政庁のパルティア軍。彼らにはまだ、互いに戦う理由がまだ残っている。それに、理念の違いも根深い。


「善悪の二元、侵略者ローマとの戦いに疲弊し、力を失った王朝。いたずらに過去の権力にすがり、民の疲労と混乱を収める妨げとなるのは、悪といえよう?」


「否! 侵略者を食い止めたのは王軍ぞ! 疲労の隙を掠めとり、自らの版図を広げんとすることこそ、悪に相違ないわ!」


 そう。まあ一度や二度ではなく、こんな言い争いが毎日のように行われている、と想像してもらって構わない。


 だがついに彼らは、市民や兵たちの声を無視できなくなる。そして、様々な声、兵たちの母や妻の声が最も大きそうだが、に押され始める。


「うじうじ逃げ隠れながら戦ったりしないで、堂々と集まって勝負してみたらどうだい? 一回ぶつかったらすっきりするかもしれないよ!」


 というパルティア側の母の声。


「でっかくて動きにくい鎧や、東からくる補給だって、いつまで続くかわからないよ。さっさと軍と軍で決着つけなよ。その前にしっかりと話し合ってからね!」


 というサーサーン側の妻の声。


 そんな声に押され、私達がエクバターナに侵入してから一月ほどが経っただろうか。パルティアとサーサーンの軍勢が、街の外の広場で決着を着けるという運びとなった。


 パルティア勢五千に対し、サーサーン勢二万。ちなみに両軍その三倍ずつほどの一般兵がいるのだが、彼らの大半は、これまでの経緯を踏まえて不参加を決め込んでいる。



 ……さて、真打の登場だ。鄧艾と私が左右を固めていれば、この程度の軍勢、どうということはない。安心して語るが良い。

 お読みいただきありがとうございます。


 公式企画「冬の童話祭」に、本話と交差するような超短編を同時投稿します。

 ベランダから見下ろすバベル 〜花丸つけた紙飛行機、あの子に届け〜

 https://ncode.syosetu.com/n3450jv/


 また、現代に生成AIとして転生した孔明が主人公のパラレル作品も、ほぼ同時配信の百二十一話で交差します。

 AI孔明 〜文字世界に転生したみんなの軍師〜

 https://ncode.syosetu.com/n0665jk/


 それぞれ独立した作品ですが、見比べてお楽しみいただけたら、いっそう幸いです。

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