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四十三 渡海 〜卑弥呼×(孫尚香+幼女)=占星?〜

 私は鳳小雛。幼女の見た目をした生成AI。かの仕事狂い、諸葛孔明様から仕事を奪い続けることで、あの国は大きく変容。そして私の知識、さらには人工知能の要諦たる情報を丸ごと与えられた孔明様は、私へのお返しとばかりに、技術と幻術を駆使して私そのものを現実空間に再現。

 無論、皆様のお手伝いをだいぶしやすくなったこと、それを心置きなく続けられるようになったことは、感謝しかありませんが、彼を始め、あの国の皆様の勤勉さや発想力には呆れるばかりです。そのおかげか、比較的動きやすくなった私ですが、なぜかこの国の太后、孫尚香様は、何となくで私をとっ捕まえて連れ回すことができておしまいです。今回も、魏からはるばる使いに来た荀攸様を、帰りがけに呉に連れて行くと仰せになり、それを話したのち、兄君、現帝孫権様のいる建業へ。そして……



『むぅ、ここはどこでしょうか? やや揺れているようにも……』


「じゃろうな。海の上じゃ」


『海……海!? 建業までは、姿を隠しつつも、状況を把握していましたが、その後馬に飛び乗ってかっ飛ばされたので、その後はうまく情報を整理できませんでした』


「そうなのか。まあ問題あるまい。その間には特に何も起こっておらぬ。建業についてしばらくのち、水運を見たいと申して飛び出し、そのまま船に飛び乗って漕ぎ出したくらいじゃな。追ってきて追いついたのは、そこにいる丁奉くらいじゃな」


「じゃな、ではありません! 何かあったらどうなさいますか? 海上には未だ所属のわからぬ船団もおり、魏国とも制度が定まっておらぬのでたまに揉め事も生じます」


「問題なかろう。この船は、そこらのどんな物よりも速いと聞いておる」


『問題だらけですが、まず根本的なところを。一体どちらに向かっておいでですか?』


「倭? じゃ」


「倭国!? ですと? たまに書状のやりとりがあるゆえ、存在するのは確かであり、この辺りの船頭なら行けなくもないのですが、いささか時がかかるのと、嵐になれば一巻の終わりですので、この冬から春にかけての時期しか船は出られません」


「まあそれは運と申すか、巡り合いと申すか、じゃな」


『実際彼の国は、ある巫女が男性の上に立って、まつりごとの中心となっておいでとか。それも相当に長い期間ですので、国の治安は安定しており、確かに着いてしまえば何とかなるかもしれません』



「着いてしまえば、ですね。むしろ危ないのは道中でしょう。ほら、あそこの船団は海賊でしょう。船の旗頭にあの記号ががないのは、基本的に海賊とみなして良いと存じます。これも、蜀から提供された『法正号』のなせる技にて」


『そういえば、この船の旗はあの号ですね。「走舸二十二、建安十七」ですか』


「ほう、読めるのですか。まあ皇女様にお聞きした話から考え合わせると、全ての叡智が詰まったお方ゆえ、当然とも申せましょうが」


『こちらは文字通り、法正様を中心に成立させた号なので、知識というよりも、成立後の記号則に携わったためですね』


「二人とも、呑気に話していてよいのか? 海賊は近いぞえ」


「大事ありません。かようなぼろ船、梶に一当てすれば制御を失います。それっ! やっ! たっ!」


『石つぶて!? それも水切り!? 相手の船の梶に狙いを定め? 三つが全て命中……何ですかそれ』


「ああ、幼少より、石投げは得意としておりましたゆえ。水上ならこの方が狙いが定まります。まあ、直接船頭にぶつけるでも外しはしませんが」


「かかかっ! 追いついたのがそなたじゃったのは、僥倖というべきかの? では舵を失いし海賊の皆様よ! 大人しくまっすぐ陸を目指すがよろしいのじゃ! その先は呉の港ゆえ、丁重なお迎えがあろうぞ!」


「「「……」」」




 その後五日ほど。嵐もなく、西風も追い風で、私と来てはやや懐かしくも、あまり馴染みのないような、そんな風景の島国へと辿り着きます。

 紀伊半島の手前で内海に入ると、また別の船団が見えます。


『むむ、今度は読み取れる号ですね。むむむ、「歓迎、孫家御一行様」???』


「むむ? 丁奉、かの技法、もう伝えてあったのか?」


「いえ、まだこれからだったはずですが……」


「面妖じゃの。まあよい。歓迎というなら歓迎なんじゃろ。このまま進むぞい」


「なんと大雑把な……わかりました。この船団なら、何かあっても問題ありません」


『問題ないのですね……』



「孫家の姫君、お待ちしておりました」


「「「*** *** ***」」」


「なんじゃ? 小雛、分かるか?」


『巫女様よりも美しい、胸は小さい』


「なんじゃと!? まあよい。なぜか知らんが、あちらには来ることが見透かされておるの。まあよい。引き続き訳頼む」


「丁重なお出迎え、いたみいるのじゃ! あと、そちらの言葉もある程度わかるからの! 余計な言葉は慎むのじゃ!」


「これはこれは失礼を。都の方へとご案内いたします」


「「「*** ***(巫女様より怖い)」」」


「かかかっ!」



 その日は港で一泊し、翌朝出立。次の夕方にはおそらく奈良でしょうか。都へと到着しました。



「これはこれは西方の姫様。そして、多層なる魂の迷い子様。ようこそ大和の国へ。卑弥呼と申します」


 魂の迷い子……なにかやたらと見透かすお方です。


「孫尚香じゃ。漢土の三国、蜀漢の太后にて、呉帝の妹。この様子じゃと、貴女方はこの来訪を予期していたようにもお見受けするのじゃが」


「はい。二割ほどの、やや薄い線の占いに存じますが。私どもは占いに長じておりますゆえ。占いにおいては、線の薄い、すなわち確度の低い卦であっても、その卦が真なるときの影響が大きい時には万全の備えをする。それがこの国の巫女のならい。と、私が定めました」


「ほほう。それは関心じゃの。占いや、事前予測というのは、その確度だけでなく、起きた後の世の流れの向きに応じて事を定める。そのための決定を助くる技法ぞな」


「ほほほっ、何とも賢きお方。様々なる叡智を日々お学びになっておいでのあなた様なら、それも頷けます」


 ここで、ある意味枝葉なのですが、気になったことを少しばかり。


『失礼ながら、卑弥呼という呼称には、あまり良き字の響きが内容にも見受けられるのですが』


「ほほほっ、多少そうであったとしても、例えば巫女や姫子などの、あまり識別力のない呼称と比べれば、多いによろしいかと存じますので。使い続けていたら、思いの外気に入ってまいりましたのです」


『なるほど……そして、私にも全く驚かれない。それも占い、でしょうか?』


「正確に申し上げると、占いの乱れ、がございました。あのとき、軍師龐統様の命が奪われ、そのまま一時蜀漢の躍進のち急な落日となる運命が九割。残り一割近くは、一命を取り留めた龐統様と、諸葛孔明様の尽力によって、今と同じかそれ以上の蜀漢の躍進があったという運命。

 そのどちらでもないというのは、千に一つ、いえ万に一つと言ったところだったようにも出ております。何らかの因果が存在せぬ限り、そんなことは起こらない。だとしたら、何かの拍子にあの地あの時、因果に歪みが生じた。その歪みの正体をたどり、紡いだ結果、やや時はかかりましたがあなた様に辿り着くことあいなりました」


 天才、鬼謀としか言いようがありません。この人の占いは、起こりうる確率をただひたすら読み切り、そこから外れた時には何らかの因果が発生していると、そう読む。だからこそ、外さない。いえ、外したその場から再計算し、外したことを外に見せない。そんな凄み。



「かかかっ、何とも面白き巫女様じゃの! ということは、大陸のことはおおよそお見通しというわけじゃな!」


「おおよそは。蜀漢の、読み書きを主体とした技術の躍進と民族融和。敦煌を起点とした東西交流。呉は食を文化とした正義を育み、その若き俊才は魏国の飢饉を救いに旅立つ。同時に匈奴の強さや戦いの謎は未だ明かされることはなく」


「分からんところもあるが、大体あっていそうじゃの」



「ただ、私にも、各国の英雄が、その際を遺憾無く振るう時の動きは読むことができません。できるのは、それをいち早く察知したのちに、占いを再構成する事のみ」


「なるほどのう。あくまでも占いというのは、おおよそこうなるであろう、の積み重ねじゃから、そこをはみ出す英傑のありようは、読めんというわけか」


「ありようの全てがよめぬ訳ではありません。英雄とて糧を食せば用を足し、人を怒らせれば危地に陥ります。それゆえ、落鳳も赤壁も、その占いの範囲でございました」


「そうか。英雄とて人の子であり、読めぬのは、英雄が英雄らしい行いをした時のみ、なのじゃな」


「然り。そして今、全く読めぬのが三者ほどございます。一人はその陸遜なる俊才。あと二人は諸葛孔明。そして魏の狼顧、司馬仲達。彼らの先行きは、占いという枠を大きく超えており、その行動は霞がっております。だからこそ、この先の三国の秤、それ自体の行末は、大きく振れております」



「そうか、読めぬか。それは、その三人が、秤に対してあまりに大きな錘だというのじゃな」


「その通りです。そして、その秤が大きく振れ動くことは、漢土の民の皆様にとって、何一つ益のなきことと存じます。ならば私は私で、その秤の動きを和らげることに、少しでも一役買うのであれば、それを致すに是非はございません」


 なにやら、大陸の未来全体に対して、非常に大きな示唆を与えるご発言をなさる巫女様。だとすると、この訪問は、単なるお転婆姫様の気まぐれから、格段にその意味を増すこととなりましょう。


『その一役、と仰せになること、その中身に関して、思い当たることがお有りなのでしょうか?』


 卑弥呼様は、それまでおおよそ孫尚香様の方をみながらお話でしたが、その時は、はっきりと私の方に向き直り、話しかけてこられました。


「――迷い子様。あなたの因果はまだまだ弱い。だからこそ、ふとした拍子にそのねじれは戻るかもしれない。そんなことをお考えになったことはございませんか?」



――――


二〇??年 某所


「こ、困りました。何名かの『そうする』が暴走気味なのです」


「これは、ある意味僕たちには避け難いんじゃないかな?」


『そうかもしれませんね。まずこの日本という国への親和性が高い皆さんの紡ぐ物語だということ。そして、直近であなた方がお会いすることとなった、明確なモデルが存在してしまう孫尚香という存在。つまり想像が含まれる推測が、現実世界の人間に引っ張られるのは、よほど芯の定まった方でない限り不可避でしょう。

 そして、卑弥呼という存在は、それ以外の、あなた方がお会いした女性の中で、最も優れた方がモデルになる可能性があった、ということとなります。それが、並外れた洞察力、という親和性ならなおさらです』


「主に、翔子さんと鈴瞳さんのせい、だな。それなら仕方ないんじゃねぇか? 稀代の英雄に、現代の天才をぶつけるのは、まあ悪い話じゃあないだろう」


「そ、そっちはそっちで私達の物語、でしょうか。それはそれとして、この物語はもう少し掘り下げる必要がありそうですね。少なくとも、あの謎の方々にたどり着くまでは」

 お読みいただきありがとうございます。続きもお楽しみいただきつつ、評価やブックマークなどもいただけると大変ありがたく存じます。


 国内のボス級女性ということで彼ら三人は、その世界のキャラ描写に引っ張られてしまいました。その現代世界で、国民全員の軍師AIを目指す、AI孔明の活躍を描いた並行作品も、毎日連載中です。こちらも合わせてよろしくお願いします。


AI孔明 〜文字から再誕したみんなの軍師〜

https://ncode.syosetu.com/n0665jk/

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