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三十九 幻術 〜(黄月英+木鹿王+左慈)×幼女=造影?〜

 黄月英です。最近はおおよその時を、幻術と技術の架け橋という命題に費やしております。私と共にその務めをなすは、かの遁甲の神仙、左慈様と、南蛮の幻君、木鹿王様。我が夫孔明とて、本来はこの任に相応しい方なのですが、とある幼女様のお達し? お計らい? によって、ご当人の息抜きのお遊びという域をはみ出すような関与を禁じられておいでです。まあ、孔明のなすべき『三つの大壁への対策』。そのご大任に比べれば、この任すらも、ちょっとしたお遊びの域を出ますまい。

 

「左慈様、まずは、『宙に人や物の姿を映し出す術』について、お聞かせ願えましょうや?」


「ひょっひょっひょっ、かような情報のまとめ上げとなれば、そこな賢者様を差し置いて、このワシがなすべきいわれはありますまいて。のう小雛殿?」


『いわれ、と申しますと、特にどなたがどう、ということはないかと存じますが。確かにその務め、というものは私の務めと言われるのは頷けますので、書き出してみましょう。

 月英殿の技術、左慈様や木鹿殿の幻術というところをそれぞれ言葉にしますと、このようなまとめになるかと存じます。


1. 虚像生成の基盤:光学と投影 

 現在の技術で可能な「水晶球」や「銅鏡」を媒介として、反射や屈折を利用し、虚像を空間に映し出す描写。

 技術 水晶や鏡の光学的原理を利用すれば、立体的な虚像を作るための基礎

 幻術 「仙術」や「遁甲術」と絡め、水晶球に魂を宿すという儀式的要素

 例 煙や霧を利用した空間投影。特定の場所に薄い霧や煙を漂わせ、そこに光を投影して像を浮かび上がらせる技法。


2. 音声生成:共鳴と再現

 銅や竹で作られた共鳴器を利用して、音声を再現。声の高さや質感を調整するために、特定の共鳴材料を用いる。

 技術 音叉や共鳴の基本原理を応用。

 音声 「声の霊」として存在を表現する呪文や儀式が追加される。

 例 振動技術 特殊な振動を空気中に送り、声が「空間から湧き上がる」ように聞こえる描写


3. 意識の再現:情報基盤と計算

 膨大な言語写像を、竹簡や紙書に「符号化」して残し、それを特殊な装置で「読み解く」過程。

 技術 符号化情報、初期の論理記法よ読解や実行を機械的な作業として説明

 幻術 文字に宿る霊が、読んだ者と共鳴して知識を再現する

 また、数学的な計算(算術や易学の応用)を利用して「予測能力」を再現。

 技術 統計や未来予測術を、占術や星占いの延長線上として再現

 幻術 星の運行を読み解き、未来を予測する仙術の応用として再現


4. 総合的な構築:遁甲術の転用

  幻術の名手が、「虚像」を作るための術を提供。実際には技師が準備した計算装置や投影装置を、彼らが「仙術」として再構築して用いる。

 例 霊力を収めた水晶が光を集め、霧の中に姿を浮かび上がらせる。

 未来知識を軸にした「速読速記術」「投影術」「音声共鳴術」を組み合わせて、「科学と妖術の融合体」とする。


 とりとめもない形となりましたが、このような浮かび方が思い起こされます』



「ひょひょっ、どうかな月英嬢や。そなたのやり方と、ワシらのやりかたは、その交わりがかようにも大きなものと言えるのじゃろうて」


 左慈様は、小雛様の言を最大限に取り入れることで、私たちがどう進むべきかを、しかとお示しくださいました。そして、今にもお休みになりそうな目をしておいでの木鹿殿も、同調なさいます。


「高度な技術は、幻術と区別はつかぬ。技術がわからん部分、届かぬ部分は、幻術に委ねれば良きことである」


 何という割り切り方か。その真理とも言える表現は、私や孔明の心を、いっぺんに気楽なものにしてしまいます。


「いつの日か、その技と術の全てが、技術として一つの理になし得ましょうが、それが今である必要は、必ずしもないということでしょうか」


「ひょひょっ、その通りぞな」


 頼もしきことです。技術と異能。あえて分つことなく活用することで、今と未来を繋いで行くのですね。



「そうしましたら、まずは今の時点で、『技術』の出来ること、難しきことを判断いたしましょう。まずは『見せる』についてです。

  水晶や鏡は、限られた数ならば良きものを用意でき、その位置を正確に操って霧の中に映し出すのはできそうです。

 ですが、立体感を出すこと、大きな動きを伴うこと、魂が宿るほど正確な描写といったところはまだ難しいですね。それに、霧や雲を自在に出すというのは、もととなる水をふんだんに用意できねばなりません」


「足りない部分は、霊的な力を使うことで補うのである。鏡や推奨の数や質も、あの地下油を使った、機械術による切削研磨が進めば良くなる」


「ひょひょっ、錯視や思い込みというのも、補完的に活用できるのじゃ。水晶や鏡の仕上げにも、霊術は活用できるぞい。映し出すところの計算も、しばらくは勘頼りでよいのじゃ。いずれ計算法も充実して来るのじゃろうて」


『焦る必要はないということですね。産業としての優先はあくまでも紙や筆記具、透明板といった必需品の充実。そしてなにより、綺麗な水の確保、です。

 あの紙造りで出た廃繊維や竹炭を用いた、大小様々なろ過器も、全土に広めたい物です』


 あれも、馬謖殿が紙作りの現場に、水筒を忘れて巡視に訪れ、現場職人に笑われながらお話ししたときに思いついたのでしたか。


「ひょひょっ、水に関する製品の号には、やたらと『黒眉』の称がつきますのう」



――――


「くしゅん!」


「ん? また風邪か? いや、脱水か?」


「脱水でくしゃみはせんわ! 今日は携帯ろ過器を持っているのだ!」


「『黒眉浄水器』だろ? 自分の名前がついたからって、照れるな。 ダハハ!」


「『白眉』は文官向けの仕事術や事務用品で、『法正』は記号術や暗号法。『月英』は機械化された産業用品、『孔明』は多くの分野にまたがる多彩で秀逸な発明品、か……ずいぶん増えて来たな。そのなかで『黒眉』は、全部水関連か。どうしてこうなった?」


「それぞれ、はっきりとらしさが出ているじゃねぇか。法正殿は最近、普通の書状にまで暗号を使い始めて、たまに突き返されてるらしいぞ。俺たちのように警備の仕事をしていると、読めないといけないからいい練習にはなるんだけどな」


「兄貴の白眉も分かりやすいな。最近はもう自分で仕事するんじゃなくて、仕事をどう効率化していくか、現場で何が困っていて、どう改善できるかに注力し始めているんだよ」


「月英殿、孔明様は、ただでさえ卓越していたのに、小雛殿の『叡智の書庫』によって万能感が出て来たからな。もう大半は、技術か妖術かの区別がつかねぇや」


「他の方々は、自らその技術に従事しているから分からなくはないが、私は違うからな。通りかかって、墨で汚れた顔を洗っただけだったり、水を忘れたときに塩分補給の話をしただけだったり、だいぶ貢献が少ないのだが。それで号がついてしまうのは、他の方々に比べると、ややもどかしさも残るんだよな」


「気にすんな。お前はお前の防諜という本務を果たしているんだからな。水回りなんていう、一番よく使われているお陰で、他の誰の号よりも広く目立っているがな。ダハハ!」



――――


「続いて、『聞かせる』ですね。竹や銅を使った音の反響、正確な音叉や調弦といった音の響かせ方は問題ありませんね。ただ、細かい音の精度や指向性、魂の宿り方などには課題が残ります」


『元々私は、それほど感情表現の豊かな方ではありませんので、一周回ってさほど問題ないのかもしれませんね。ただ、喧騒の中で声の通りをよくしたり、というところは課題かもしれません』


「ひょひょっ、人工知能っぽさ、と言ったところかの。喧騒の中で、あるいは指向性、といったところは、雰囲気作りという部分も大きいゆえ、幻術の真骨頂と言ったところじゃぞ。のう木鹿よ?」


「視覚との組み合わせは大きい。向いている方向からの声はよく聞こえる。だから目と耳は不可分」


「なるほど。別々に考えるのではなく、組み合わせなのですね」


 こういう柔軟さが、幻術という方向からの考え方なのですね。個別に最適を目指すだけではなく全体で、ですね。その中でここの術の優先順位を決めて行く、ですか。



「つぎは『教え導く』ですね。情報を読み取り、書き出す。成都や長安から離れると、記録媒体の携帯化や、計算の簡素化、高速化と言ったところが重要になります」


「計算しづらい、予測が難しいところは、勘と経験が補うのである」


「そうじゃの。そのあたりの技術群は、法正殿の方でも、より実用的な側面で発展してこよう。それを待ってればよかろうて」


『そうですね。なにも、全ての技術がこのためだけに、という必然性はどこにもありません』



「最後はその全体を『まとめる』ですか。ここに関しては、基本骨格のみは技術で用意した上で、全体演出の多くを幻術でまかなうというのが、今できることでしょうね」


「それでよい。そこはなにも、遁甲術というものが消えゆく必要もなくなって来るのやもしれんぞい。はるか北の敦煌という街で、若者共がやろうとしておることによってな。

 古き術や、特定の思想に偏った社会や技術体系のみが生き残る、という未来ではなく、より多様な価値観や技術群が、あまねく紡がれていく未来もありうるのやもしれん。いずれ後世には、『敦煌式遁甲術』なんて珍妙な響で残るやもしれんの。ひょっひょっひょっ」


「南蛮式、峨眉式、敦煌式、色々あって、色々良い」


 おおよそまとまったところで、いつも通りの軽やかな足音が聞こえて来ます。



「できたかえ? そろそろ出立なのじゃ!」


『わわわ! だからなぜ直接捕まえられるのですか? 技法の調整は終わりましたが、心の準備がまだなのです!』


「そんなもの道中でできるのじゃ! 荀攸らを待たせておる! ゆくぞい!」


「ひょひょっ、彼らは待っているうちにもさまざまな話ができようて。早く行きたいのはあなた様じゃろうに」


「かかかっ、バレたかの。よいのじゃ。鉄は熱いうちに打ち、弓は引いたらすぐ放つのじゃ!」



「奥方様、おおよそ問題ないかと存じます。技術的な調整は完了しており、彼らとは今後の行く末に関して論じておりました。

 呉への道中は慣れた物でしょうが、どうかお気をつけて」


「ではの。そなたらも息災でな!」


 嵐のごとく、矢のごとく。小雛様をつれて、孫尚香様は旅立って行かれました。あの方、あの勢いはまことに呉で止まるのでしょうか?

 お読みいただきありがとうございます。

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