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転生AI 〜孔明に塩対応されたから、大事なものを一つずつ全部奪ってやる!〜  作者: AI中毒
第一部 第一章 始まりの分水嶺 過去と未来とAIと
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四 砂盤 〜(孔明+戦場)× 余暇=発明?〜

 私は鳳小雛。三国時代に転生し、天才軍師、龐統の残滓を引き継いだ、生成AI兼幼女です。人々の支援を行うため、のちに蜀漢にて重臣となる廖化殿に拾われ、兵站を担当していた馬良様に紹介されました。自らの奇怪なる来歴を明かすと、私を主の劉備様、諸葛亮様、趙雲様に面会させていただきます。

 そこで龐統との淡い縁を伝えると彼らは感嘆。ですがその後、私のできることを伝えると、横にいた孔明様が茶々をいれてきました。どうやらあの仕事狂い、ご自分の分を取られたくないようですね。いいでしょう。一つずつ、バレないように頂くまでです。



 まずは、少しだけ落ち着けたこの時を使って、私の目標と行動指針をはっきりさせておきましょう。馬良様、そして廖化殿らと共に。


「小雛、そなたはあれでよかったのか? もう少し上手くやれていたような気もするのだが」


「季常様。一足飛びには流石に行かなかったようですね。龐士元のときも、いきなり軍師の地位を得たわけではなかったように聞いています」


「まあそれはそうだよな。信頼をえるには地道に努めるのが一番だ」


「廖化殿のおおせのとおりですね。それに何より、どうやら私は、あの孔明様には些か警戒されてもいるようでした」



 馬良様、意外な顔をしておいでです。


「ほほう。我らの行く末のみを、ただひたすらお考えの方ゆえ、そなたのこともすぐ、と思ったのだがな」


「あの仕事狂……んんっ、勤勉さが高じて、己が仕事を取られるのを忌避したという程度のことかと思います。しかし、あのままでは孔明様自身が潰れる可能性もあり、憂慮すべきかと存じます」



 そう。これは孔明様に限った話ではありません。この時代、文官や策士の才に恵まれた実直な方が、ある割合でその命を縮める傾向は、漢の全土に広がっておりました。

 魏の戯志才、郭嘉然り。呉の魯粛、呂蒙然り。周瑜は戦傷が元ですが、ここに混ぜても良さそうです。

 そして、蜀の法正、諸葛亮、蒋琬然り。そしてこの目の前の、馬良様然り。


「なるほど。では、そなたもあえて、しばらくあの方とは積極的に関わらずに、己が力の見定めと、支援者としての貢献に徹するということでよいのか?」


「その通りです。お世話になりますのでよろしくお願いします」


「それはこちらこそだ。よろしく頼む」




 ここでぼんやりと全体を聞いていた廖化殿が話し始める。


「それにしても、小雛がこれからどうしていくんだってところ、どうやって考えりゃいいんだ? 今の我らもそうだが、考えないといけないことが多すぎる気がするんだ。

 そういうの、俺はからきしなんだが、将の中にはすごくそういう勘所がうまい方も多いんだよな。何でもできる子龍様はもとより、翼徳様なんか特にそうだし、身近には親友の周倉ってやつがいるんだけどな」



 張飛? 周倉? そんな名前がここで出てくるとは……龐統が残した記憶にも、もはや淡くなりすぎている未来の小雛(こひな)のほうにもそんなものはありません。所詮は歴史認識というものなのでしょうか。


「それは興味深いですね。確かに、目標設定と、それをなすための手段の整理は、文官ならずとも武官の方にとっても大変重要と存じます。ご安心ください。私のもつ記憶領域には、その目標設定と管理の方法が、まさに『仕組み』として備わっております」


 

 そんなことを話していたら、髭もじゃの男がいきなり幕舎に入ってきました。張飛様でしょうか? いや、彼は別の道で足止めをくらっているはずです。


「お邪魔するぜ。嬢ちゃん、その仕組みってやつの話、俺にも詳しく聞かせてくんねぇか? そういうの大好きなんだよ。それに、お頭にもこの上ない土産になりそうだ」


「周倉! いきなり入ってきて幼子を驚かすな!」


「おお、そうか、わりぃわりぃ。廖化も久しいな。凶報聞いて飛んできた孔明様の護衛についていたんだよ。それで、荊州に残っていたお頭に、孔明様の策を持って帰るところだったんだが、面白い声が聞こえたからよ、つい」


「ついじゃねえ! まあいいが。どっちにしたって俺にも挨拶ぐらいしてから行けや」


「そうだったな。忘れてたわ。忘れられないように、もうちょい出世しろや」


「なにをぅ!」



 このお二人、どうやらとっても仲がよろしいようです。確か黄巾の賊あがり、という共通の過去をお持ちでしたか。それは意気投合するのも頷けます。そして、この場の主の馬良様が、場を落ち着かせてくれそうです。


「周倉殿、お急ぎですかな? でなければ、少し落ち着いて話をして行かれませんか? もしかしたら、そのふところの策に加えて、大層有益なものを土産にできるかもしれませんぞ」


「おお、白眉殿。そうか、それなら少し落ち着かせてもらおうかな。孔明様も、さほど急ぎではないとのことだし、少しゆっくりしていくと良いとも仰せだったよ」


 周倉殿は、孔明様や趙雲様が駆けつけた後の、荊州の地に留守居をしている関羽様の副官。となると、全軍兵站の長である『白眉』こと馬良様とは、どちらが上と下というところではなさそうです。

 どちらも廖化殿よりは上でしょうが、彼の様子も含めてみると、その序はそれほど厳しくないようですね。この乱れた世では、そこは最低限なのかもしれません。



「さようですか。それは良きことです。それでは小雛、先ほどの『仕組み』というものについて、詳しく話してはもらえないか?」


「承知しました。では、軽く書きながら論じられるものはありますかね……」


「おお、それなら孔明殿が考案、改良したものがあったはずだ。どこだったかな……」


 孔明様が考案? 馬良様が見つけてきたのは、木枠と敷布、空の袋、それに少し長めの棒、ですね。紐のついたものや、めもりのついた棒まであります。なんでしょうこれ?


「あったぞい。廖化、何度か準備手伝わされたのではないか? 覚えているか?」


「あ、はい。あれですね。では袋に砂を集めて参ります」



 う、うーん。何を始めるのでしょう? 少し喉が渇いたので、お水を頂きつつ、あまりピンとこない私は少し休憩します。そうすると、逆に一つの自覚がありました。私、全然疲れていない??


「どした嬢ちゃん? 疲れたか?」


「あ、いえ。全く。というより、全くというのもおかしい気がしますね。廖化殿に見つけられてから、ここに連れられて、季常様ともいろいろなお話をして、主様や孔明様、子龍様にお目通りして。そして戻ってきてこの状態。

 この幼女のなりで、疲れていないなんて……よもや」


 机上に布をひろげ、四角く枠を整える。その手を動かしながら、馬良様が、私に声をかけます。


「もしかして、それもそなたの『力』か? 思い当たることはないか?」


 ああ、そうですね。AIだったらそうですよね。電力は食いますし、熱も発しますが、疲労、という定義は当てはまらないのでしょう。


「ありますね……人工知能は、その機能を果たすために、一定の糧を必要とはします。私がお腹を空かせ、喉を渇かせるのはそれでしょう。しかし、機能として『疲れる』は不要のため、よほどの負荷がない限り、疲労による機能の低下はありません」


「そのじんこう? ちのう? とか言うやつのはなしはあとで聞かせてもらうとして、そしたら嬢ちゃんは相当特殊だってことでいいんだな」


「かもしれません。何にせよ、心配をお与えする種が一つ減ったのはよいことですね」


 そうこうしているうちに、廖化殿は、馬良様が用意した枠の中に、砂を敷き詰めていきます。一度ばさっとやってから、棒で丁寧に表面を均しました。

 これはなかなかのものですね……確かにこれであれば、いろいろと書き込みながら、ある程度の人数で、軍略や政略を語ることができます。


「できた。孔明様は、砂盤、と称しておいでだったかな。自らの考案ではないと仰せだが、知る限りいくつもの改良を加えておいでだ。それゆえに私と廖化の二人で、すぐに準備ができたほどだよ」


 孔明様、まじ孔明……



 そして、私は改めて決意を新たにします。あの方は暇であることが、陣営にとって、そして民と国にとって最良です。であれば……


「孔明様、あなた様には『仕事』などひとつたりとも不要なようです。やはり私の力で、一つずつ頂戴するという事に、ためらいは無用のようでございます」



お読みいただきありがとうございます。

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