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転生AI 〜孔明に塩対応されたから、大事なものを一つずつ全部奪ってやる!〜  作者: AI中毒
第二部 第六章 進化する三国 逆襲の曹魏
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二十六 謀攻 〜賈詡×(馬良+馬謖)=落穴?〜

 三国は、より平らかなる天秤にて成立となった。しかし、本来は漢土の大半を手にしていたはずの魏国としては、この状況はたまったものではない。だからこそ、状況を打破せんと、己が才を尽くして秤を我が方に動かさんとする動きは、当然有って然るべきだろう。

 つまり、「あの蜀漢と名乗る国が躍進を果たしたのは何故か」と探りを入れるのは、策士として当然の責務。中でも「策に善悪なし、悪は我にあり」という、とんでもなく開き直った信条を公言して憚らない者は、策士の当然の義務とばかりに謀略を駆使する。

 個人の情緒を極力消し、客観的にその推移を記すべき、時代の傍観者たるこの陳寿も、その鉄面皮には呆れを覚えざるを得ない。



「黄忠を首魁として、魏延、馬謖あたりまでの組織体制は、容易に探ることができます。そこまでは問題ありません」


「そこまで容易にたどり着けるのは、貴方の諜報手腕と称賛してよいのでしょうか? それとも、かの陣営が有する、昔ながらの『緩すぎる防諜体制』の名残りと申し上げてよいのでしょうか?」


「司空殿、解を知りて問うのは、いかがなものかと存じますが、此度に限っては貴方様のご質問を『論点をまとめるための文章表現』と見なすことといたします」


「恐縮に存じます。なればその、そこまでは、のその先は、いかがあい成りましょう?」



 鉄面皮に対して論を交わすことの出来る相手は、ある程度限られている。それはすなわち、論の勝敗などに興味を持たない武官か、勝敗を超えてもなお弁論を好む文官かのいずれかである。前者は大半が匈奴や呉との小競り合いに出払っているため、彼との話し相手に応ずるのは後者、そのうちの一人を司空、王朗と言う。


「司空殿、通常の組織において、例えば文武の将官が百ほどいると仮定すると、先ほどの三名に加えて幾人ほどがが防諜に携わっていると思し召されますか?」


「先ほどの三名がやや武に寄っておりますので、文官が多くて二名ほどでしょうか」


「でしょうね。その捉え方で、まず蒋琬、費禕という無名な者が浮かび上がって参りました。そうして、かの国の警戒網の中心がそのあたりにあると見定め、次の段階に進もうと致しました」


 どうやらこの者、蜀漢の防諜力が飛躍的に向上した、その源泉を探り当てんとしている。手順として、攻撃対象を定め、その対象の警戒網の脆弱性を探り、侵入調査などを行う算段とみられる。


「ですが、進もうとするたびに、また別の者の警戒網に引っかかるのです。武官で言うと廖化、呉懿、呉蘭、雷銅、張嶷、趙翼、馬忠、霍峻。文官は李恢、楊儀、王甫、趙累、鄧芝、呂凱。どちらともつかぬ黄権、李厳、孟達、劉封、劉璋」



「つまり、組織の規模に対して、防諜という特定業務に携わる将官があまりに多すぎる。そう仰せになりたいのでしょうか」


「然り。謀に対する守り、となりますと、読み書き算術はもとより、私のような悪辣な手練手管に対する専門知識を多く学ぶ必要があります。それゆえ、組織の中でもそこに携わる者の割合は、相当に限られるはずなのですが……」


「考えられる理由は如何?」


「一つ。蜀漢の防諜組織がまだまだ緩く、組織の長どころか末端までもが、私の諜報網の下に詳らかにされた。これはもはや候補というより願望に近い、僅かなる可能性です。

 一つ。戦時の軍制を平時に移し替える際に、防諜警備の役割として体制を保たんとしている。すなわち今が暫定体制であり、かような厳戒態勢はひと時の物である。この数を防諜に当てるなど、平時の治世では考えにくいですからな。

 一つ。これが最も厄介にして、私が危惧しているものです。蜀漢の教養水準が、この『用間』『防諜』の心得すら、誰もがなし得るところまで高まっているという物。それゆえ専従でなくとも、誰もが日常の中で十分な警戒をなす、という物です」


「確かに厄介ですな。しかし、あちらから野放図に流れ込んでくる、おそらくかの者らの最新の技法の要諦などを考えれば、未だかの国の防諜体制は行き届いてはおらぬのではないでしょうか?」


「だと良いのですが……いずれにせよ、防諜を専従する者を標的とした攻め手は、労多く功少なしと見定めました。それが出来たら最善だったのですが、致し方ありません」



――――


「うーん、またか」


「どした?」


「また分かりやすい偽の書状だな。まあ俺の名や仕事の一部が相手方に知られたところで、何も悪いことはないからな。いつも通り普通に返書しちまうよ」


「いつも通り、だぞ。警戒していないと思われた方が良いというのが、黒眉殿からのお達しだからな。まあそれすらも別にどちらでも良い、との言い方だったけどな」


「ああ、そうだったな。まあいずれにせよ、せいぜい我が名を知らしめてもらおうかな。姓は傅士、名は仁、字は君義。糜子方のもとで、上庸にて防諜の務めに従事、と」


「俺の名までつけるとはご丁寧だな。まあいいけれど」


「あ、一文字目の傅がにじんじまった。まあいいやこのままで。用があるわけじゃないし」



――――


「失礼致します。書簡をお届けにあがりました」


「……名がぼやけてでいるではありませんか。なにがし士仁? 分かりませんな」


「上司の糜芳はそれなりの地位ですが、いずれにせよ小者ですな」


 なかなか酷い言い草だが、魏の政務において最上位に近い二人と、地方の武官の一人とでは、確かにそう評されても不思議ではない。どちらかと言うと、防諜網の要を探り当てようとして、組織の末端で引っかかってしまうと言うところが、この策略攻勢の行き詰まりを暗示しているともいえよう。

 また、当時は人名や役職といった情報は、基本的には秘匿すべきものとは考えられてはいない。何故なら、その名を知られたところで、それだけで当人に害が及ぶような、個人の情報に紐づいた無形の資産など存在しないためである。よって、むしろ名を知られることを忌避する者こそ少数といえる。



「やはり警戒網から攻めるのは不毛なようですね。先ほどの『技術の漏洩』について考えて見ましょうか」


「そちらはどう考えるのがよいのでしょうか?」


「一つ。蜀漢の内部に漏洩者がいる。これは私ではないので、あるとしたら呉か、はたまた魏国内で私以外に動いているものがいるか。いずれにせよ希望的観測の域を出ません。

 一つ。蜀の側が、意図的に無害な情報を流している。ただこれは、流れ着いた技術の有用さを考えると、そう捉えるのはおかしい印象です。

 一つ。防諜の緩さを見せかけるため、意図的に網の穴をみせている。この場合、それの利をとって、技術の漏れの損を払っていることとなりますが……」


「どれもぴんと来ませんな。まだ候補がおありで?」


「然り。これらを矛盾なく説明出来てしまうのが、最後の一つ。そしてその厄介さが跳ね上がる一つ。今こちらに流れ着いている価値ある技術が、かの国にとって最新でもなんでもない可能性、です」


「それは誠でしたら、まさに脅威ですな。確かにそうであれば、彼らにとって損切りにもなりますまい。

 その線を探るのであれば一度、程仲徳殿らと協議を設けるのがよきかと存じます」


「でしょうな」


 彼らは正解の一部に辿り着いてはいる。しかし、一部である。



――――


「兄貴、今度はどの技法を向こうに流すんだ?」


「おお、黒眉か」


「黒眉言うな! と言いたいところだが、もうすっかりその渾名が広まってしまっているな。王平も魏延も面白がってやがる。兄貴の白眉との対応がわかりやすいからな」


「かもな。……技術だったな。割符の次は、やはり水の手の標識と、お前の飴でよいのではないか? あれは旅人や商人にとって恩恵が大きいから、三国全体に広まるのがよかろう」


「公益性ってやつだな。名は……もう知らんっ!」


「あとは帳簿や目標管理台帳の作法がよかろう」


「え? あれはこちらとしても大きな価値なんじゃないのか? 文官の方々の生産性が、飛躍的に伸びるものだよな?」


「ああ。だがな、あれが三国共通になっていると、相手国とのやり取りが円滑になるのよ。何より、その裏にある版木や製紙の技法はまだ出さないからな。そうすれば、我らの技術への他国の依存性を高く維持できるのよ」


「なるほどな。『技術規格の利権』ってやつか。そこまで進んでしまうんだな。それに、孔明様や兄貴がいつも言っているように、文官には敵も味方もない。文官の敵はただ一つ『くそ仕事』である。だったな」


「その通りだ。この世からそいつを無くすのが、孔明殿や、小雛の宿業なのではないか、と思うんだよ」




「失礼します。季常様。書状が届いております。百件ほど……」


「うーん、これは負荷攻撃のつもりなのだろうな。だがこれくらいなら、我らの速読速記なら大した手間にはならん。少し待っていてくれ。すぐに返書を出すゆえ、それらが来た経路通りにそれぞれ手配を頼む」


「かしこまりました。ちなみに法孝直様の元にも届いており、同じようなご対応でした。まあ全体を軽くパラっと眺めれば、白眉殿からの警告になるように遊んでおこう、などと仰せでした」


「あの野郎、そんな悪戯に、勝手に私を使うとは。仕方ないな、では私はここをこうして、と……」



――――


「くっ……法正や馬良への飽和攻撃を試みてみたのですが。あやつらやはり、処理する力が以前にもまして磨きがかかっております。これでは攻撃どころか、私への反撃負荷が」


「それはそれは……

 む、もうこんな時間ですか。仕事も溜まっておりますゆえ、失礼致します」


「あ、ああ、司空殿。こちらこそ引き止めてしまい。ではまたお付き合いいただけたらと思います」


「喜んで」


 そして一人取り残され、法正や馬良からの『反撃』という名の返書を同時にパラパラと眺めていると……


『賈詡殿』

『賈文和殿』


「???」


『失礼を。私は馬良。白眉とも呼ばれております』

『弟の馬謖。こ、黒眉……これ言わないと駄目か?』


「な、なぜ貴君らが……む? 触れられない!?」


『こちらは映像とやらです。まあ幻術の応用にて』

『便利だなこれ。伝えるだけなら問題ないようだ』


「むむむ……奇怪な」


『まあ見ての通りです。あなた方の想定以上に、この蜀漢の国の技術は進んでいます』

『一つずつ探りを入れたいのは理解できるが、少しばかり迂遠と言えなくもないな』


『我ら文官は、そちらの国の文官や民の仕事が改善され、手が空くのを厭いません』

『警備や技術なんかもそうだな。ある程度そちらに見せておいた方が、外交もやりやすく、長安も栄える』


「まさか、そこまで見越して技術を流しているというのか」


『しばらくすれば、いっそう多くの技術が魏にも流れます』

『それを使えば、あんたらの才だ。ほどなく一定の水準に達しよう』


『まあ話はその時に改めて』

『ではお体に気をつけて。水と塩、食と休みは特にご留意を』



「消えた……夢? 幻視? 詐術?? 

 いずれにせよ、こうしてはおれません。直ちに国内の皆々様と協議し、蜀漢の技法を取り入れられるだけ取り入れ、仕事の効率を高めねば。小手先の攻撃など意味をなさぬようです」



 その後、魏国は技術を『盗む』から、『学ぶ』に舵をきり、将官や民の生産性は大きく向上することとなる。その上で、魏の法制度や多量の蔵書、また曹操の残した様々な閃きなどを強みとして、大きくその力を回復させていく。

お読みいただきありがとうございます。


 ダブルパラパラ漫画による飽和攻撃返し、とあいなります。

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