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転生AI 〜孔明に塩対応されたから、大事なものを一つずつ全部奪ってやる!〜  作者: AI中毒
第十七章 世界への招待状 時代への挑戦状
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百四十八 電撃 〜姜維×仲達=??〜

 ベレア。アンティオキアから、馬を走らせれば一日もかからない街。そしてその北方はそれほど大きな街はあまりなく、攻め落とすことも、素通りすることもそれほど難しくない。


 つまり、もしシヴァ・チュータがアンティオキアまで一気に攻め入ろうとしたら、黒海とカスピ海の間に横たわる山脈のどちらか側を抜け、その先の高原地帯をばらばらに、秘密裏に抜けたり、間の集落から人を逃がさないようにしたりすれば、ほとんど気づかれることなく迫れるということ。


 あたしがそこに気づいたときには、もう遅いのかも知れなかった。


「ベレアはもう落ちているかもしれん。どちらにしろ、ひとまず兵を出して、ベレアに急行しよう。落ちていたら無理せず遠くから様子見、間に合うようならすぐに入って援軍だ」


「姜維、私はマニとともに、すぐにクテシフォンに戻る。こちらも攻められている可能性があるから援軍を出せるかはわからないけど、できるだけ連携をとっていこう」


「ありがとうございますシャープール殿下。マニも頼んだぞ。エクバターナから来るかもしれないし、メソポタミアをなんかしてくるかもしれない。軽騎兵を使って、偵察の手を緩めるなよ」



「あっ、お前達、もしかしてまだこれ知らないのか?」


 偵察に話題が移ったのを聞いていたトラロックが、なにか筒状のものを取り出した。


「ん? なんだこれ?」


「望遠鏡とか言ってたぞ。陸遜達が持って来たんだが、お前達が知らないとすると、これは航海の途中で作られ、受け取られたのかもしれないな。ここに入っている水晶細工が相当に精巧だし、漢で作られたのも相当最近だと聞いている」


「なるほど。まさか漢のものを、世界の反対周りから受け取ることになるとはな。この邂逅はやはり、とてつもなく大きいものになりそうだ」


「どうにかしてトト達にも届けたいけど、どうしようか?」


「ああ、それなら俺たちが一度、カイロ? の方に出向いて、そのトトなんとかと合流しに行ってもいいぜ。俺たちが戦さの役に立つとは思えんからな。そのままぐるっと世界を回って帰ってもいいし」


 まさか、世界を一回りしようとするやつがいるとは。トラロックや、この新世界の人達は、新たな世界を知ったことで、とんでもなく広い視野を手に入れたのかもしれないね。


「それはありがたい。南の海に、それなりの規模で船団を組んでいる奴なんてあいつらくらいしかいないから、間違えることはないだろう。アレキサンドリアと、漢の旗、それとトラロック自身の旗をつけておけば、問題なく話ができるだろうさ」


「わかった。そしたら羽の生えた蛇だな。やはり俺たちの世界が広がったのは、あの少女ククル、いや、太陽と星の神ククルカンの力が大きいからな」


「ほう、その話はちらっと聞いたが、確かにその娘がそなたらの世界を切り拓いたという表現は正しかろう。そなたらの基準ではまさに『神』なのじゃろうな」


 オリゲネスは、アレキサンドリアからアンティオキアに来るまでトラロックと延々話していたから、向こうの世界の人と神のあり方についても、かなり詳しくなったみたい。


 ……おっと、それどころじゃないよ。シヴァが来ちゃう。


「姜維、騎兵だけで行く? 重歩兵、散兵も後から向かう?」


「ああ、アンティオキア自体への奇襲に備えるだけの防衛は残して、兵それぞれの速さで順次向かっていこう。騎兵は先行して、状況を把握するところから始めるぞ」


「わかった! そしたら歩兵はあたしに任せて! パパ、守りはお願い!」


「娘が戦いに向かって、父が後ろを護るって、どんな家族だよ。まあ仕方ねえ。適材適所だ。任せな」



 そうして、その日のうちに、姜維の騎兵一万はベレアに到着した。そして、斥候がすぐに引き返して、歩兵二万で進軍中のあたしたちに情報を伝える。


「ゼノビア様。ベレアは陥落寸前で、姜維様の援兵が間に合いました。しかし守兵が足りず、撹乱して時間稼ぎせざるを得ないとの事」


「わかった。弩とかバリスタは足りてる?」


「はい。備え付けがあります。弓でもいいのでもう少し追加があるといいとは言っていました」


「うーん、野戦になることはなさそうだね。歩兵の重鎧はあんまり意味ないか。そしたら重歩兵は、荷運びができる人で、全員分の鎧を持ってアンティオキアに帰れる数だけ残して、あとは盾と籠手、武器だけで向かおう。散兵ほどじゃないけど速さは稼げるはずだからね」


「承知しました」


 重歩兵の密集陣形は、野戦にならないと使わないからね。まだベレアが落ちないのなら、鎧はベレアにある分で良さそうだよ。


 そして、重歩兵なら四日かかった道中を一日以上縮め、トラロックからもらった望遠鏡で様子を見つつ進む。


「ベレアが見えて来たけど……姜維がよくわからない動き。敵の大群を切り裂いているのかな?」


 南門の側は、包囲されるのをどうにか防げているみたい。あたしたちが街に入るのもどうにかできそう。この軽装で向こうの弓騎兵に当たりたくはないからね。


「それにしても、なんて軍なんだよ。騎兵だけなのに十五万くらいいそうだ」


「姜維様でなければ、ベレアを見捨ててアンティオキアに籠城、というのが現実的だったでしょうね」


「バルバラ!? 何してんの? ついて来てたの?」


「籠城する兵の皆様に対してできることは多そうですので。ゼノビア様は、姜維様と連動して騎兵を率いてくださいませ」


「騎兵をアレクサンドリアから連れて来てなかったら、なんの抵抗もできずに終わっていたでしょうね」


「それでも、騎兵一万と歩兵二万五千で、騎兵十五万との籠城戦、ですか。守り切れるのでしょうか?」


「時間を稼ぐしかないよね。あいつら狩りとか掠奪、で食べ物をどうにかしちゃうから、補給を断つとかも難しいし」


「なるほど。それに、後方に羊を連れている部隊もいそうです」


「だとすると、補給源の考え方が違いそうだね。周りの町や村、周辺の森林あたりに対して、軍の一部をつかって『調達』するのかもしれないね」


「調達、ですか。つまり戦いながら、食糧を確保する活動が必要、と」


「ならやりようがあるよ。……バルバラ、一万をのこして、先に城に入ってて。あと、入っても危なくなるまでは、できるだけ向こうに悟られないように。あたしはちょっとやることが出来たよ」


「は、はい。わかりました。姜維様にはなにか?」


「無理せず時間稼ぎを続けて、とだけ」


「了解です。では、ご武運をお祈りします」


「ふふっ、聖女様のその言葉は心強いね」


「うふふっ」



――――


 我々騎馬民族に帝と言える者が現れてから、何年経っただろうか? 遊牧を続けつつ、より広い地や豊かな食料を求めるため、そしてより強大な東のフンから逃れるため、ただ南へ西へと掠奪を続けていた我らゴートの民。だが、東に現れた帝の言葉。


「我らと共にあれば、世界の覇者になれる」


 よくわからない言葉は信じるに足らず、そして、よくわからぬまま一度戦い、何も出来ずに敗れた。どうやら我らは、騎馬民族だが戦闘民族ではなかったらしい。


 そして、その帝から伝え聞く話に従うようになると、遊牧のやり方も、騎兵としての力の使い方も、そしてどんな時に戦うのか、も、全てがこれまでとまるで違い、そしてはるかに豊かになっていく。どうやら我らは、遊牧民族としても、いささかその力に欠けるところがあったようだ。


 そして、見た目もだいぶ違う、東の騎馬民族達と話をし、訓練もするようになり、そして諜報活動という、南の豊かな地からさまざま話や書き物を集めることもするようになった。


 我らは、徐々にこの世界のことがわかるようになり始めた。帝は我らから情報を受け取ると、知識や知恵の形でそれを返した。それは狩猟や遊牧、掠奪や取引。さまざまな形で目に見えた成果が生まれた。


 そして先日。


「時は満ちた。世界を手にする戦いの始まりだ」


 そう伝わると、とんでもなく細かい指示が与えられた。だが、我らの一部に、その細かすぎる指示に対して反発する動きが見られた。


「ならばこちらで良い。これまでの経験を活かし、やりたいように試してみよ。もしかしたらそれでもやれるかもしれん」


 と、今度はより簡潔な指示が飛んできた。いつまでにどこに合流し、そしてどこを攻め落とすのか。それだけが伝わると、我らはその期限の短さに少し焦りつつ、目標地点へと向かった。


 我らは十五万。これなら、我らの知る都市の中で、容易に落とせないところなど数えるほどしかないだろう。それは、ローマの国の中堅都市、ベレアであっても同じこと。数日で落とせる。そう思っていた。



「何? 援軍? 騎馬一万!?」


「ちっ、やたら強え。矢で押し切れ! 押しつぶせ!」


「だめだ、矢が弾かれる。重騎兵だ」


「なんで重騎兵があんなに速いんだよ!?」


 援軍。そもそもなぜ。おそらくアンティオキアから来たんだろうが、騎兵だけで一万というのは、大都市であっても常備はされていないはずだ。傭兵をかき集めたのか? でも間に合うはずがない。


「今日はここまでだ。あいつらも一度南門の前で固まって休む気でいそうだ」


「仕方ない、すぐ落とせなくなったが、城の硬さが変わったわけじゃねえ。あの軍をうまくかわしつつ、城攻めに集中するぞ」


「二万は四つに分かれて、食料調達に動こう。狩猟でもいいし、近隣の町や村から奪ってもいい」


 我々は、その調達に向かった。そして早速鹿や兎を見つけては狩り、本体へと運び込む。そして村を探す。


「村があったぞ! 五千なら簡単に落として奪える」


「……えっ? うわぁ! 投槍の反撃が来た!」


「ぐっ、落馬したら終わりだぞ! ぐふっ」


「矢ならかわしたり弾いたりできるが、槍はきついな」


「ちっ、抵抗が激しすぎる。なんだこの村は。執着しないで次行くぞ」


「落馬したやつの馬が取り残されているな。仕方ないか」


 そして、次の場所へ。やや大きめの街。高くはないが、一応壁がある。


「ん? 誰もいない? 門も空いている。逃げたか? 食料を探すぞ!」


「……食糧庫は……あれか。えっ!? 門が閉まる!?」


「げっ! 城壁の上に敵がいるぞ! それに食糧庫は藁しかない……ぎゃあ、火矢だ! 引火する!」


「門に迎え! 突破するだけなら問題ねえ!」



 そして再び数百ほどの兵を失い、逃げた馬を見失い、次はまた似たような街。


「む、また門が開いているな。それに、かがり火すらつけっぱなし……はは、同じ手は食わんぞ。ここは素通りだ」


「なぜここまで用意周到なんだ? まあいい。狩りや刈取をしつつ、いったん戻るぞ」


 そして帰り道。最初の村を過ぎ、手前にはやや見通しの悪い林。


「ぎゃあ! 木の上から網の罠!」


「ぬかるんで馬が止まっちまった! 降りるぞ」


「ぐっ、尖った枝がおちている……帰りにまで罠が」


 もともとの五千が、半分近く減らされてしまった。食料の収穫が全くないわけではないが、これでは足りないだろう。他の部隊の収穫を期待するしかないな。



「なんだと? どの部隊も妨害に遭って、狩りしか出来なかった? まずいな。これでは食糧が持たん」


「明日もだめだったら、一度引くしかないな」



 そして迎えた次の日。


「なにっ? 調達部隊が、同数の騎兵に追い散らされた?」


「騎兵なんて、そう簡単に集められるもんじゃないぞ?」


「だめだ。他の部隊も、昨日以上に村や町、林の中の罠にやられている。狩りの獲物も減ってきちまった」


「何が起こっているんだ? こんなこと初めてだぞ?」


「仕方ない。次は二万を二つに分けて、一万ずつで強襲するぞ」



 そして次の日、一万で郊外の街に向かうと、


「なんだあの一万の騎兵は?」


「ちっ、強さもこちらと変わらん、むしろ弓や馬の扱いも上手い。同数だと厳しい」


「あの馬、なんか見覚え……あいつら、俺たちの馬や弓を奪って集めたのか?」


「だとすると、連日の街や村の抵抗は、全部組織的にやっているってことか?」


「だめだ。一旦本体に合流しよう。城攻めに集中して、無理なら撤退だ」



 そして、ベレアの城市の前に戻ると、


「げっ、城壁の部隊が増えている」


「歩兵の援軍もまにあっちまったか」


「これは仕方ない。諦めて一度引くぞ」


 ……これは、あの帝の細かい指示通り動くしかなさそうだ。帝かこれを見越していたのだとすると、世界の知恵と知恵の戦いというのは、我らには未だ及びもつかないところにあるのかもしれない。

 お読みいただきありがとうございます。

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