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転生AI 〜孔明に塩対応されたから、大事なものを一つずつ全部奪ってやる!〜  作者: AI中毒
第十七章 世界への招待状 時代への挑戦状
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百四十七 予測 〜姜維×孔明=??〜

 私は馬謖。数月前に、匈奴の地に築いた仮拠点に、魏延と呂玲綺が駐屯している。だが、魏の治める河北と、西方拠点の楼蘭に同時に敵襲の報が入ると、孔明様はすぐさまその魏延への指示を届けさせた。なぜなら、魏や楼蘭への攻撃は明らかに陽動と判断し、本命はその間の空白地帯にして、アイラとテッラのいる東匈奴と考えたため。


 私は関興、張苞らと共に全速力で砦に向かった。趙雲殿や孔明様も、本隊を率いて向かうとのこと。すると、


「魏延様、呂玲綺様は、すでに騎兵を率いて北に向かいました」


「なるほど。彼らも自ら読んだか。なら安心できそうだが」


「匈奴の民、特に子供や女性の非戦闘員の地が、ここからさらに北にあるとのことです」


「分かった。我らはこの地の守りを固めよう」



 そして三日後、後続の孔明様達が到着したところで、事態は大きく動く。


「あれは……戦闘員ではないな」


 趙雲殿が望遠鏡を手にすると、相当な数の人がこちらに向かって来ていることが視認される。


「長坂を思い出すな。……我らも向かうぞ。少しでも戦力が必要に見える」



 というと趙雲殿は、往年のあの戦いの再現とばかり、全速力で馬を走らせる。


 だがその伝説が再現されることはない。駆け出した趙雲殿に、一歩も遅れず追随する将兵達。三万ほどの騎兵が、逃げる民の間を抜け、追いかける敵兵に突撃する。


 手応えは少ない。ここまで追撃して来た軍なので、陣形も整ってはいない。だが、すぐに彼らは陣を整え、こちらと距離を取る。



「魏延! 無事か? どうしたらいい?」


「匈奴軍が、いくつかに分かれて足止めをしている! できたらこいつらを突破するか迂回して駆け抜けたい!」


「承知! ここは任せた!」


「応!」


 民の後方で敵兵を捌いていた魏延。最低限の情報交換をし、趙雲殿と私は敵陣を見ながら走る。


「かわそうとすると捕まりそうだな。私が陽動でぶち当てる。そなたは関興、張苞らと共に右から迂回できるか?」


「承知!」


 趙雲殿自ら陽動を買って出て、我らは三万の兵で、敵軍の外側を迂回する。


 追ってくる部隊がいるが、すでにペルシャ仕込みの後方騎射は、誰もが使いこなせるようになっている。矢を打ちながらあしらい、迅速に進む。



「呂玲綺殿! ここの足止めはもう不要! 後方で趙雲殿が受け切れる!」


「分かった! 逆周りに抜けて引っ張る!」


 呂玲綺の五千だけで、三万以上を足止めしていたようだ。流石の陣さばき。しかも対して疲労の色は見えない。


 さらに進む。遠目でわかった。あの二人は問題ない。剛の班虎と柔の李運。最初に彼らと対峙した時は、全く別々の特徴ゆえか、親和性など感じなかったが。不利な戦いでこそ輝くというのも、班超、李広、李陵と言った偉人の血なのかもしれない。


 彼らはこちらに気づいたかもしれない。だが我らに先を急ぐのを促すかのように、こちらに向かってこようとする敵軍を牽制してくる。つまり、この先こそ、まことの試練が待っているのだろう。



 やや馬の疲労が気になるが、そうも言っていられない。彼らが「あえて誰を残したのか」を考えると、感情ではなく合理的な判断をして、順々に離脱していったとしか考えられない。


 つまり、民を生かすために、全ての軍で敵を押し留める最善手。なんとも戦闘民族らしい、というべきか。



 そして見えて来たものは、おそらく十万はいるだろう、包囲しようとしている敵軍。そしてそこから巧みにかわそうとする、千に満たない軍。もともと少なかった、ということではないのだろう。


 包囲しようと回りこむ軍に対し、我らは突撃を仕掛ける。馬の勢いが足りないが、片翼の動きを止めるくらいなら造作ない。


 匈奴最強の兄弟。その影を視野にとらえる。二人の曲芸ともいえる連携をなぞるように、数人ずつで巧みに連携しながら、大軍の圧力をかわしている。


 さらに近づいていくと、なにやら妹の方が、だいぶ口汚く罵倒している声が聞こえる。


「あはは! クソ親父め! 百倍の兵でもあたし達を捕らえられないか? だからって、同胞の民に手を出すとは、あんたはとっくに牙を抜かれちまったんだね! 豹じゃなくて、猫にでもなったのかい?」


 確かアイラ、テッラは、蔡琰殿が匈奴に捕えられたときにできた子と聞いた。それにあの二人はまだ大人になりきれないくらいの少年少女。ならば確かに、父という人間はいるだろう。


「アイラ、あまり父を煽るものではないよ。まあおおよその意見は同意だけどな。まあ牙を抜かれた獣の生存本能としては、この強力な戦略に従うことに理はあるさ。僕たちが散々聞かされていた、誇りってやつはどこに行ったかわからないけどね」


 おい、兄よ。お前の方が何倍もきつい煽りだ。流石に我らの援軍が来たことが分かっていているからこその、余裕を持った煽りなのだと思うが……だよな?


「ちっ、我が子とは思えぬ麒麟児二人。我が君の下ならより一層輝けると思うたが。もう少しだけ、世渡りの術でも教えておけばよかったか。まあいい。お前らの道がどこに辿り着くのか、どちらが正しいのか。それは父子の情などを超えた、より気高き想いの終着があるのだろう」


 匈奴の左賢王、劉豹。戦乱の漢土に相当な影響力を与えた存在だが、あの蔡琰殿を捕虜にしたこと、その子らが匈奴で類い稀なる才を発揮したこと、それ以上に名を残す歴史があるのかどうか。今はまだわからない。


 なぜなら、なんとかここまで辿り着いた我らの軍は、この十万を超える敵軍を、さほど労せずに蹴散らすことが出来そうだから。


 そして、九死に一生なのか、それとももう少し余裕があったのか、当世最強の兄妹は、まだその歴史になを刻むだけの機会を得たこととなる。


「あの二人も、空元気で煽っているが、流石に限界は近そうだ。速やかに回収して、砦まで退却するぞ」


「「「応!」」」



――――


 我が名はトラロック。じゃなくて、あたしはゼノビア。


 はるか西の海、これまで未知だったもう一つの大陸から、船団を率いてやって来たトラロック。この時点で、どれほどの大偉業なのか、ってことは、本当はちゃんと語るべきなんだろうね。


 だけど、ちょっと後回しにしないといけないのが、今のこのアンティオキアという街の状況なんだ。なぜなら、治政や技術以上に、戦いでその圧倒的な差を見せつける万能の天才、姜維が、こんな事を言い出したからだ。


「司馬仲達。あいつの戦略眼を考えると、まず本腰を入れて攻めてくるのはアンティオキアの可能性が高い。ペルシャ東部のエクバターナ、ローマの北部属州ガリアあたりに、軽い仕掛けはしてくるかもしれないが、それは陽動と言っていいだろう」


「んん? どういう事? エクバターナやガリア、それにこの東ローマで言ったらアナトリア西部のニコメディアの方が、攻めやすい場所な気がするんだけど」


「攻めやすさ、攻略のしやすさで言ったらその通りだ。だが、攻め落とした後に維持するにしても、破壊して再建を困難にするにしても、その辺りは彼らにとっての価値があまり高くないんだ」


「維持や破壊、か。戦いによる攻略はそのシヴァにとって、手段でしかないんだね」


「そうだな。それに、理由は他にもいくつかある」


 あたし達が、かなり詳細な地図を広げながら話をしているのを、たいそう興味深く眺めるトラロック。具体的な土地や民族に関する知識がなくても、類い稀なる知恵があれば、この話に入って来れるみたいだ。


「なあ、最初に候補に上がったところって、それなりに肥沃な攻め落とせたとしても、彼らの胃袋を支えるくらいの農産物が取れないんじゃねえか? ただ、だとしたらこのアンティオキア、というかパルミラ? 地域はもっと足らなさそうだが」


「トラロック、この地図だけからそんな想像力まで働くのか?」


「俺はもともと、治水や灌漑といったことを得意としているんだ。それに、地元に残る我が妻は、農作だな。だから、河の位置とか、標高とかで、なんとなくわからなくはないからな。もし敵味方、という力関係を無視して、奴らの食を満たすんなら、このメソポタミア? とか、ガリア全域? を制圧しないと厳しそうだぜ」


「そうなるんだね。いくらシヴァが率いる騎馬民族達が相当な力を持っていたとしても、そんなところまで制圧することを現実目標にしているかって言われると、確かにちょっと疑問だね」


「そんな大それた事をやろうとするかは別として、奴が考える初手は、少なくともそれではないのは確かだな。そして、司馬仲達。あいつはどちらかというと、何をしたいかよりも、こちらが何をされたら嫌か、も含めて戦略を立ててくるはずなんだ」


「されて嫌なこと……つまり、もともと混乱している西ローマだったり、逆に盤石な治世がなされているペルシャよりも、その間の状況、つまりようやく未来が見え始めて来ていて、しかもこの東西の大きなつながりの中心になっている地域に混乱を与えるのが効果的ってことか。嫌な奴だね」


「ああ。わかりやすくいうとそういうことだ。それに、西ローマは我々の味方ではない。だとするとニコメディアを攻めてしまうと、西ローマと東ローマの間に入ってしまうだろう? そうすると、西ローマが東ローマに対して大規模な軍事行動を起こす道が減ってしまうからな」


「つまり、西ローマと東ローマのゆるい対立すらも、利用価値として持っているわけか。たしかに嫌な奴だな」


 あたしやトラロックの中で、シヴァ・チュータが嫌な奴という、分かりやすい図式が出来上がりつつある。


「まあ、多少嫌なやつではないと、人が何をされれば喜ぶか、つまり人の心を掌握することも難しいからな。そこに長けているという言い方もできるんだよ」



 確かに、嫌なことが出来るからこそ、いいこともできる、か。じゃなかったら、ゴートとフン、そしてさらに西の騎馬民族を全部まとめて掌握するなんてとんでもないこと、できるわけがないもんね。


 そしてあたしは、その「嫌な奴」という視点で地図を目で追う。黒海とカスピ海の間に横たわる山脈からその先の高原、山間部。そこには防衛や索敵に適した大きな町はない。そしてさらに南。補給に適した街や村はなくはないけど、南ほど往来が多いわけじゃない。


 だとすると……シヴァがすでに、例えば軍という形をちゃんととらずに、集合地点かなんかを決めておいて、重い思いに行軍したりするとしたら。


 あたしはそれに気づくと、その想像だけで背筋が凍った。そして、声の震えをなんとか抑えながら、確認する。


「……ね、ねえ姜維、あいつらもう、相当近くまで来ているって事ない? 具体的にいうと、ここから北に馬で一日かかるかどうかの、ベレアあたりまで」

 お読みいただきありがとうございます。


 ベレア=現アレッポ(シリア北部)

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