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転生AI 〜孔明に塩対応されたから、大事なものを一つずつ全部奪ってやる!〜  作者: AI中毒
第十七章 世界への招待状 時代への挑戦状
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百四十六 冥土 〜水神×(姜維+聖女+……)=??〜

 我が名はトラロック。新しい世界にたどり着いた感慨などどこへやら。やたらと話好きなオリゲネスという、アレクサンドリアの知識人は、そこからアンティオキアという街に向かうことを我らに求め、そのまま同乗するや、延々と我を質問攻めにするという挙に出た。


 そして、数日で到着したアンティオキア。巨大な町。あの夜明けの都とは全く違う、やや雑然とした街並み。明らかに複数の文化が入り混じったような、白や明るい土色の、石やレンガの家屋。


「どれくらい人がいるのだ?」


「二十万ほどじゃな」


「なるほど。我らの国は、大きい都市で十万くらいだ。ローマやアレクサンドリアがもっと多いのなら、やはり人は広い世界ならもっと多くなれるのだな」


「じゃな。じゃが、それはそれで争いを生むのじゃろう。この街は何度となく戦火にさらされた結果、とんでもなく強固な町になっているのだ」


「そうか。そうするとなかなかこれ以上にはなれん、か」


「かもしれんな。ゼノビアはもう少し違うことを考えていそうじゃが」


「ゼノビア……この周りを治める一家の、主といってもいい少女だったな」


「さて、話は後でゆっくりじゃ。もう直ぐ着くぞい」



 珍しく話を切り上げたオリゲネスに促され、政庁なのだろう建物に入る。すると、明らかに強者と見られる、陸遜らと同じ種族であろう若者と、その横に控える美しい女性。少女と言ってもよいもう一人の女性と、その後ろでなんとも言えない表情をしている、おそらく父親。そして、少年と青年の間くらいの年頃の、こちらもまた強さと知性を感じる二人。一人は王の風格で、もう一人は深淵を宿すような眼差し。


「あなたが、はるばる西の海を渡ってここまでたどり着いた、もう一つの世界の王の一人?」


「王かどうかはわからんが、その通りだ。我が名はトラロック。地中海の端までおよそ一ヶ月の順風の旅。一度知ってしまえば往来もそれほど難しくはないと思えた。あなたがゼノビアだな?」


「うん、オリゲネスから大体聞いたんだね。今の状況説明の十倍くらい、神学、哲学の議論に付き合わされていそうだけどね」


「まさにその通りだ。そなたら、この地の周辺を治めるもの達のこと。それぞれの国で少し前までに起こった出来事。そして、今直面している問題。一応一通り聞いてはいる。なにぶん知らんことが多いゆえ、また繰り返し聞くかも知れんが」


「トラロックよ。そなたがオリゲネスから話を聞けたのに対して、我らはそなたのことを、推測でしか情報が得られていない。ある程度かいつまんで、ということになるが聞かせてもらえるだろうか? 陸遜達には出会ったのだろう?」


「ああ、そなたが姜維か。トトなんとか、費禕と三人で、はるか東から陸路でここまできた。陸遜達からも、断片的ではあるが話は聞いている」


「陸遜。やはり彼はたどり着いたのだな」


「ああ。辿り着き、そして我らの窮地を救い、我らの世界に夜明けをもたらした。我らは紙と大きな視野を手にし、彼らは航海術や星読み、建築術といった我らの力を手にした。すでに海の道は整いつつある」


「海の道。それは、漢からここまではつながらないか?」


 そう聞かれたので、ククルらと作った、あまり正確とは言えない海図を見せる。ちなみに似たようなやり取りは全てあのおっさんとは済んでいる。


「我らのいた大陸は、北と南に分かれている。どちらも大きく、北と南の果ては知られていない。北は広大な草原が広がり、南の陸は、西の海岸から直ぐに山の壁、その先は密林。だから大きさを調べるなんてことはまだできていない」


「つまり、海でその大陸を越えられる場所が、少なくとも中緯度にはないということか」


「ああ。一つだけ、ちょうど真ん中あたりに、陸地が相当に狭く、やや広い河と湖がつながるところがある。そなたらは我らの民と共に、その辺りを港として開拓している。いつか、そこは運河として切り開かれ、船が通る道を作るかもしれんな」



「船が海を通したら、人は通れない?」


「その左右もあまり見通しのよくない山や森だからな。どちらにしても船の方が行き来はしやすかろう。それに、そこを通ると、我らの本国や、さらに北の、今開拓しているあたりにも、そなたらが直接辿り着ける」


「なるほど。そこを通れるようになるのは、みんなにとって良さそうなんだね。でも、さすがに遠いね。漢からだと、インドを回って、カイロからアレクサンドリアに来た方が近そうだよ」


「流石にそうだろうねゼノビア。だけど、道はいくつもあった方がいい。道の数だけ人は出会い、その出会いが人を豊かにするはずだよ」


「そなたがマニという青年か。なるほど、人の世の理を追い求め、翼をもつが如く国を渡り歩く、か」


「その翼を与えたのは、ここにいる姜維達だよ。その出会いがなかったら、世界の見え方はだいぶ変わっていたんだろうね。それはあなたと同じかもしれないよ」


「それは間違いなくその通りだ。我らの国々は、生きる地が狭かった。その限られた地が、人に与えられた世界の全てかも知れない。その考えが、人の数、その営みの成長を妨げていたのだ。こちらの世界ではだいぶ昔に廃れた、生贄という習慣も、理があるとされていたようにな」


「生贄、ですか。それは確かに、『古い習俗』と切って捨てる物言いを、私たちはできるかもしれません。ですが、こちらのような広い世界の中でも、人は戦いを止めることはない。そして苦しむ人は、死後に救いを求めます。その意味では、本質的な違いはどれほどあるのでしょうね」



 我らの生贄の習慣は、古き悪しきもの。世界が狭かった故のもの。その考えは間違いなく正しい。だが、それだけが理かという疑問を、姜維の後ろに控えていた女性が投げかけてきた。この者達は、全員が異なる視点を持っているのだな。


「バルバラ、だったか。その観点は、我らとそなたらを繋ぎ、また新たな未来の可能性を与えるものかも知れん。結局死後に何かを求めたくなるほどの苦しさがある限り、形を変えて人はそこに何かを求めるのか」


 マニ、オリゲネス、姜維、そしてペルシャの王子シャープール。誰もが違う観点を持っていそうな、そんな問いかけを、我は無意識のうちにしていた。


「すべての人が、最後はそこにたどり着く。それだけは確かだね。だとしたら、この生きている世界で何をすれば良いのか。死後に光を求めるのか、生きているうちに輝くことを目指すのか。その輝きが強ければ強いほど、この先に見えてくるものが増えてきそうだよ」


 マニは、光と闇という言い方で、おおよそこの世界を表現しようとしている。だがそれが無限の多様性を生むこともまた、分かり始めているようだ。


「救いを死後に求めるは、イエスの教えをはじめ、さまざまな地域でなされてきた。それは今後も変わらんだろう。だが、生前になすべきことがなんなのか。無闇にその救いに手を伸ばしてはならぬ。そして他者にそれを与えるのは大罪。それもまた神の教えであり、人の営みの規範でもあるのじゃ」


 オリゲネスもまた、数百年前の偉人、我らからしても神と表現するに値する者を起点とした教えに、また深い洞察を加えている。


「漢土では、死後の世界や、人ならざる存在に関する論は、敬いて遠ざけると言う習いがある。人の世や人の心すら分からぬことだらけなのに、そんなところまで考えられる訳がない、という理だな。だが人は必ずしも理のみで生きる者ではない。多くの民が、心の拠り所をどこに置けるか、それは上に立つ者の責務だろう」


 姜維。漢という国の理を熟知しながら、それだけに止まらない考えをもつ。こいつの強さ、そしてこいつをここまで連れてきた力。それはこの世界そのものに影響を与えているのかも知れない。


「死後に救いを求めている時点で、国の元首としては失格なんじゃないかな? 父も神官として、その教えの力を原動力にしてきたけど、それがこの先もずっと正解だとは考えてはいなさそうなんだよ。豊かになった先に、まだ人は救いを求めるのか。そんな論をできる国を、私たちは求めるべきなのだろうね」


 シャープール。まだ少年といってもいい年。だがもっと幼い頃から、新たな国を作った父と共にあり、王と教祖、その両面を、純粋な目で見てきたのだろう。



「皆が別々の方向を向いているようだが、当面目指す先は共にある、か。人が死に救いを求める必要のない世界、それを求め、その先にまた理を論じるを目指す、か」


「そうだな。そして、戦いそのものを人の生と重ね合わせる匈奴という民族。その一部をとりこみ、さらに自身の理念の糧としている司馬仲達。奴の考えが、その行き着く先からさほど遠くはないからこそ、この敵は相当に厄介なのだ」


「キョーイ、やっぱりそうなのかな? シヴァが、単なる征服者、暴君という考えが、わりと直ぐに否定されちゃったけど」


「あやつは、我が師の一人、諸葛孔明と並び立つほどの知識人にして、類い稀なる為政の才をもつ。奴の出自から考えても、相当に高度な道徳感を、少なくとも知識として持っているんだよ」


「それを持っているにもかかわらず、こんな大それたことをするということ。それがどう言うことかをちゃんと考えとかないと、対応を間違える、ってことだよね?」


「ああ。まだ仮定ではあるが、奴は例えば、『己が世の全てを平らかにすれば、人が争うことはなくなる』などと言ったことを考えてもおかしくはない。つまり、奴は奴のその知恵のもとで、それを成し遂げられるだけの現実的な正解を、すでに導き出している可能性が高いんだ」


「それができるだけの天才、ってことなんだね。あなたがコーメイという名を出すってことは、そう言うことなんだね」


 姜維が黙って頷く。そのコーメイ? と言うのがどんな者なのかはわからんが、間違いなく「主神」と称してもおかしくはない者なのだろう。ここにいる全員が、我らの世界では神と称される格を持つことが確かなのだから。


 夜の神王、テスカトリポカ。彼もまた、自らの治める地が広がることが、民にとっての幸せと思い定めていた。すでに治めていた自国の民と、周辺の小国の民との生活水準の違いが、その答えを裏付けていたから尚更だ。


 そのシバ? が、彼以上か以下か。少なくともその才知は彼を上回るのだろうが。


「そのシバ? は、すでに広大な地を我が物にしているのだよな? だがその地は農作に適しておらず、遊牧が主になる、とか。だとすると、その民らは、楽な生活をしているとは思えんな」


「だろうな。だがその分、騎馬や弓の扱いや、情報のやり取りに長けている。なにより、この大陸全体を俯瞰的に見て、戦略的に動けると言う強みは、計り知れんのだ」


「つまり、情報の速さと、移動の速さを強みとしているのだな。そして、遊牧民族達が、より豊かな生活を求める意欲を、その強さの源泉としている、か」


「ああ。おそらくその進軍の速さは、聞いたから動いたのでは間に合わないくらいだ。そして、人や物の動きが滞り、孤立すると、そこから奪われると思って良い」



 どうやら、戦いという意味においては、こちらの世界の方がはるかに進んでいると言えるようだ。そしてその事実は、やや我を置いてきぼりにして論が進み始めることで、改めて感じられることとなる。


「ねえ、もしかしてキョーイは、シヴァの最初の狙いがこの辺りだったことを、予想しているってことなの? だからみんなをここに呼んだ?」


「よくわかったなゼノビア。そろそろだ。この戦いは、これまでとは違うぞ」

 お読みいただきありがとうございます。

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