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転生AI 〜孔明に塩対応されたから、大事なものを一つずつ全部奪ってやる!〜  作者: AI中毒
第十七章 世界への招待状 時代への挑戦状
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百四十五 間話 神学者×来訪者=??

 私はオリゲネス先生のもと、アレクサンドリアで神学を学んでいる書生。先生はもともと、「哲学者などから教わることなどない」などと言っていました。ですが最近では「過去や現在、あらゆる学問が人を育てる。どの言説が良い悪いは置いておくとしても、一度も聞くに値しない言説などそう多くはない」といって、我らに様々な学びを促します。


 数日前、なぞの征服者、シヴァ・チューターとやらの宣告を受けて、キョーイ、バルバラ、ゼノビアといった、東ローマを守護する若者らがアンティオキアへと集結。


 ですがそんな折、謎の船団が、アレクサンドリアの洋上に現れます。ローマのガレー船とは全く異なる、やや大ぶりな風帆船がおおよそ三十隻。彼らは敵意を隠すように、港からかなり距離をとったところで帆をたたみ、速度を落とします。


「ん、あの態度、そしてあの船の形状。どこからかは分からんが、相当に開明的な地からやってきたのではないか? それこそ、キョーイ達のように」


「まさか彼らの国から、アフリカを回ってこんなところまで?」


「じゃったら、普通に考えて南のカイロから陸路を取るじゃろう」


「そ、それでは、そのシヴァなんたらが、北の海から?」


「それも考えられなくはないが、草原と馬の国と申していたからな。それに、あの船団の数では征服も何もなかろうて」


「では、いったい……」


「ようオリゲネス。あんたの見込みは?」


「プロティノスか。そうじゃな。こんな考えが『まとも』じゃとは思わんのじゃが、考えられるのは二つ。一つは、キョーイらの同胞が、遠い海をぐるりと回って、何も見つからずか、一度見た方がその先を通り過ぎて、世界を一周してきた」


「もう一つは、彼らが新天地を『発見』し、交流を深めたのち、その新天地の者らが独自に渡航を図り、そして成し遂げてきた」


「どちらにしても、前代未聞に変わりはありませんね。どちらが厄介かと言われても分かりませんが」


「前者の場合、そのような航海術と冒険心を、漢という国のみが持ち合わせているということになる。それは明らかに、このローマが彼らに遅れをとっている、ということになる」


「後者の場合、そこに追随できる存在が、もう一つ別に存在する、ということじゃ。どちらにしたって、ローマが至高の存在。神が作りたもうた唯一無二の文明の原点、ということは否定されるの」


「つまり、神は少なくとも一点に存在するのではない、と」


「言い方が慎重だなこいつ。だがその態度は間違っちゃいねえぞ。神が唯一であるかないかの議論はここでは結論は出ねえ。だが、ある一点に存在するのではなく、この世界をあまねく見守る唯一存在である可能性、もしくは過去の神話のように、多数存在する可能性。そのいずれである可能性も、矛盾はなかろうな」



「なんにせよ、我らの出番じゃろうな。港へ行くぞい。人手がいるやも知れん。漕ぎ手になってくれそうな者を、そうじゃな……二百ほど用意しておくのじゃ」


「漕ぎ手、ですか?」


「あの船、あれだけ大きな帆に高いマスト。おおかた、長い航海のためには人手をかけたくはなかったのだろう。漕ぎ手などは最小限か、下手するとおらん可能性がある。じゃが、ここからアンティオキアはやや逆風に近いからの。漕ぎ手を手配しておけば、向こうへの合流も最速で叶うじゃろ」


「アンティオキアまで行くのですか?」


「先ほどの候補のどちらにしても、キョーイに合わせるのが一番じゃろ。ここにトトガイウスやヒィがいれば別なのじゃが、奴らは今インドじゃ。とりあえずあやつが、時の神クロノスとはあまり相性が良くないことだけは確かじゃの」


「妙な言い方だな。つまり、間の悪さのことを言いてえんだろうけど、あんたの教義とはずれているだろ?」


「ああ。これくらい『ゆるく』しておかんと、これから聞く話、起こることに、柔軟に対応できそうにないからの」


「そういう考え方が、今後どんな風に世の中に影響していくんだろうな。あんたもその辺り、考えておいてもいいくらいの影響は、出てきそうな気がするぜ」


「かもしれんの。アレクサンドリア図書館の再建、そしてマニやシャープールと言ったペルシャの神童ら、そして漢という地の天才達との邂逅。神学、哲学という者が、これまでの積み重ねを含めて、どうなっていくのかは、まだ誰も分からん。それこそ『神』が教えてくれるかも定かではないのじゃ」


「ああ、そうだな。イデアの意味も、再度問う必要があるんだよ」



 そうしていつものように、やいのやいのとやりながら港へと向かうと、ちょうどこちらの巡視船の船長が、師達を呼んでいます。早速乗り込み、そして師は、彼らの船への乗り込みを希望します。そして船員の何人かに、アンティオキアへの漕ぎ手を募集させておきます。


「なんじゃと? ラテン語が話せるが、明らかにこの地の者ではない? それに、漢とも違う風貌? やや濃い色だが、アフリカの先住民ほどではない? つまりそれは……」


「新世界、って線が強そうだな」


「じゃな。なんにせよ、話を聞きながら、アンティオキアに向かわせてもらうぞい」



 そして乗り込むと、薄手の半袖に、羽根だの牙だのの装飾をつけた、やや赤みがかった褐色の人々。何人か、我らと同じ白人もいるが、長い知り合いではなさそうな態度をしている。


「俺がこの船、船団の主、トラロックだ。ラテン語? とやらは大丈夫そうかい? 航海中もできるだけその言葉で慣れるようにしていたんだが」


「あ、ああ、問題ない。西から来たという民よ。儂は、このアレクサンドリアのまつりごとの相談役にして、この地の神学を生業としている、オリゲネスと申す者」


「同じく、この国の成り立ちから、人のあるべき姿を問う学問をしている、プロティノスという」


「ほほう、学者が、人の生活を取り仕切るか。それは良いことだな。腕っぷしだけで国をまとめるのは難しい」


「なんと賢き者よ。このまま話をさせてもらいたくはあるが、今は少々状況がそれをさせてくれん。実はこの大陸では、ある征服者が行動を開始し、皆でその対策を練らねばならんのじゃ。ゆえに、悪いがこの船で、北東にもう数日走らせることはかないますかな?」


「まあ今さら数日も変わらねえし、カルタゴの物々しさをみていたら、たしかにゆっくり話をする時もなさそうだな。まあいい。数日洋上なら話もできるだろう。だが漕ぎ手がいねえと、北東は厳しいな」


「やはりそうじゃったか。漕ぎ手はあまりいないのか?」


「ああ。風に乗ってきたからな。この地中海? と違って、外の海は風が安定しているから、こんな大ぶりの船でも、小回りが効かなくても進んで来れたんだよ。だから、漕ぎ手の補充ができたら、その北東に向かえるぜ」


「ありがたい。アレクサンドリアの港で、漕ぎ手要員は確保しているのじゃ。それでは、一度港に案内しよう」


「わかった。よろしく頼む」



 こうして私たちは、船員を補充し、アンティオキアに向かいます。あまり遠くはないとは言え、数日の航海。それだけの時があれば、オリゲネス師の知的好奇心を暴走させ、それを満たすには十分な時間があったのです。


 アレクサンドリアにどちらか残らざるを得なかったプロティノス師ですが、どうやらなんらかのくじを引いて、大層悔しがる様子をお見せでした。


「そなたらの国は、どのようなところなのだ?」


「ここよりもかなり南、赤道に近いな。大きな川がなく、泉に頼っていたり、海のすぐ近くに高い山脈があったりと、大陸の広大さに対して、人が手に入れた地はまだほんのわずかなのだ」


「人の地が、限られているのか」


「それが、少し前に西から回って来た奴らに、この世界の大きさを思い知らされて、大きく変わることになったんだ。ある国の主は、もっと広い土地があるかどうかを探しに行き、とんでもなく広大な草原と大河を見つけた。ここから何が始まるかは分からん。それに、ある一つの習俗が、終わりを迎えようとしている」


「狭い土地、広大な土地、そして習俗?」


「生贄、だよ。大きくは四つほど、小さく限ればもっとたくさんの国があるんだが、どこも、神との交流、知恵の伝承、強さの証明など、さまざまな理由でその習俗が成立していたんだ。だがそれは、人に与えられた土地が足りなかったから、その意味への疑問を持たぬまま続けられていた。そういう結論になっているんだ」


「住む場所が足りないから生贄、か。確かに昔はこちらでもあったようじゃ。それに、生贄はないが、人の命を大きく減らし、何も得られない戦争というのは、昔以上に激しくなっているのじゃ」


「それが人の欲なのか、神というのが決めた人の業なのか。それはわからねえな」


「神はどうなのだ? そなたらの神はどう伝わっている?」


「多分これもあんたらとは違うんだろうな。俺たちにとっては、偉業を成した者はすべからく神だ。生前なら神王や神人として扱われ、死後はその偉業を讃えられつつ、関連した分野の見守りを祈られる。俺も治水に貢献することが多く、水と嵐の神と言われているし、妻は花と豊穣の神だな」


「なんと、太古の神話でもなければ、創造主でもなく、人が神か」


「昔の話はわからねえぞ。本当にいたのかいなかったのかは」


「そして死後も世話役が入り用という理由や、勝ち負けの結果。知恵の伝承や対話というさまざまな理由が、生贄の習俗につながった、と」


「そうだな。そこは西から来た者達と、ククルという星読みの少女らとともに、打破されたのではないかと思っている。我らの建築技術や暦法、航海術といった者には驚いていたから、どちらが進んでいるということではないようだ。だが、人を増やさず減らす施策、知識を伝承しない文化に未来はないと、これだけは明確に否定していたよ」


「なるほど。人は増えてこそ、か。だとすると、あの者らが戦を止めようとする動き、そして知識を次代に伝える動きへの熱量は、全く変わらぬというわけじゃな」



「ああ、あんたらのところは、その征服者? が来る前から、争いが絶えないのか?」


「そうじゃな。ローマと、この東にあるペルシャという国は何百年も争っておる。今はローマとして収まっている地も、長い征服の末に定まった者じゃ。内戦も絶えぬな」


「確か、漢も少し前まで激しい争いをしていたらしいな。それがある時からこう着状態になって、戦の意味を少しずつ考えるようになったらしいぞ」


「その結果が、若い者らの動きになるわけか。だとすると、今のこの状況にあっては、そなたが成したこと、見聞きしたこと、その全てが彼らにとって有意義なものとなるじゃろうな」


「かもな。あんたらにとってもそうであることを願うぜ」


「願う、か。人と神の境が曖昧なそなたらにとって、願いというのは、それほど軽くはないのだろうな。なぜなら、願いを叶えるために、そなたら時間が動くということなのじゃろう?」


「ああ、そういうことか。人と神が離れていたら、願うだけで何もしないってことがあるのか。そんなところから、色々違いがあるんだな」


「一つ一つの言葉、仕草。それはこれまでの積み重ねが作ったもの。ひいては、太古に想像されし時から、どのようにその道が分たれてきたか。それを紐解くことが、どこまでできようかの」


「まあ、今はそんなこと言ってられるか分からねえけどな」


「まあ焦りなさんな。アンティオキアまではあと三日ほどはかかりましょうて」


「……」


 こうして、三日三晩話し続けたオリゲネス師。この方を見てきた私にとっても、これまで見たことのない目の輝きでした。トラロック殿は、これまでの航海よりも疲れたと、後で仰せでしたが。


 さて、アンティオキアの灯台が見えて来ました。この先どんな未来が待ち受けているのでしょうか。

 お読みいただきありがとうございます。

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