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転生AI 〜孔明に塩対応されたから、大事なものを一つずつ全部奪ってやる!〜  作者: AI中毒
第五部 第十六章 大きな世界 大きな帝国
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百四十二 漸進 〜姜維+孔明+陸遜+幼女+??〜

 あたしはゼノビア。姜維がバルバラをアレクサンドリアに連れてきて、一度ローマの船団を追い払ってから半年がたった。あの時の彼の問いかけ。「この国をどうしたい? どう暮らしたい?」。立派に再建され、あらゆる知識が集まるようになった図書館を中心に、あらゆる階層の市民達が自由に論じた結果、一つの結論のようなものが見えてきた。


 その結論とは、「ローマは大きすぎる」ということ。地中海に面する全ての地が、ローマの属州という状況。それは偉大なアウグストゥス帝や、五賢帝といった英主の元であればどうにかやれてきた。だけど、少しでも才覚が劣っていたり、ペルシャや北方などとの戦いで事故に遭ったりすると、その度にどこかの続出で問題が発生し、混乱が続くと言うことを繰り返してきたんだ。


 だからあたしたちは一つの方法を見出した。少なくとも現ローマの東側。ペルシャに面する側は、ローマへの帰属をしながらも、半独立状態を維持する、という形だ。


 アナトリア半島の西部、黒海の入り口近く、ギリシャにも近い大都市、ニコメディア。

 パルミラと呼ばれる地域、ペルシャに最も近い大都市、アンティオキア。

 アフリカ東部、ナイルの出口、偉大な王が建てた大都市、アレクサンドリア。


 この三つの都市が、大きな三角形を形成し、相互に協力しながら独自性を維持する。海路が主となるその往来は、ローマ本国の監視や妨害を受けないよう、しっかりとした海防の力をつける。


「黒海の入り口の対岸にも防衛都市を作れると良さそうだな」


「はい、旦那様。そんなことができたら、ニコメディアと合わせて、両岸で東西文化の交流地点にできるのではないでしょうか」


 そんなことを、そこを出身とするバルバラと、その近郊で奇跡の出会いを果たした姜維が話している。



 サーサーン朝ペルシャとは、マニが前面に立って交渉にあたり、戦いが起こらないことを最優先にする。姜維達がもたらした紙作りによって潤っているけど、カシュガルがフン族に制圧されていて、本音ではローマどころではないとのこと。トトガイウスや費禕が、しきりに彼らのことを気にしている。ちなみにフンのことを漢では匈奴と呼ぶらしい。そして、匈奴はとんでもなく強いらしい。彼らがいうのだからよほどだ。


「あいつら、きょ匈奴だけじゃねえんだよな。鮮卑が混ざっているんだぞ」


「だとすると厄介ですね。鮮卑の生活圏は、漢よりもさらに北東。砂漠を越えてくる意図がわかりません」


「ゴートの動きも気になるな。に、ニコメディアにもゴートがちょっかいを出してくるらしいからな」



 ほどなく、あたしがアンティオキアを中心としたパルミラ、バルバラがニコメディアを中心としたアナトリア。そしてオリゲネスやプロティノスといった学者達がアレクサンドリアを中心としたナイル一帯の、それぞれの民政を取り仕切るようになっていく。姜維達はみんなのサポートをしながら、散発的に仕掛けてくるローマ本国軍を追い払いつづける。


「少しずつ、舵とかマスト周りの守りに注意を払い始めているな。まだまだ甘いが」


「技術面でも、アルキメデス様やエウクレイデス様の知識が再び掘り起こされているので、差はむしろ広がるかもしれません」


 ローマはローマで、アフリカ西部属州、ガリア、ギリシャ東部にその管轄が絞られたこと。何度も追い払われたので無茶な攻め手をして来なくなったことで、その支配圏内が徐々に安定性を増してきたみたい。だけどやっぱり、ゴート族の信仰は相当に厳しく、特にガリア一帯は彼らの手に落ちるかもしれない。そんな安定と不安定の狭間で、どんな落とし所を見せてくるのだろうか。



 そして、南海側での航海試験が本格的になってきた頃、トトガイウスがまた突飛なことを言い出す。


「ちょっとインドまで行ってくるぞ。ひ費禕、船は大丈夫そうか?」


「そこまでなら航路もなくはないので、問題ないかと。でもなぜインド? 漢まで繋がなくて良いので?」


「ペルシャ商人の噂で聞いているだろ? か漢では東の海に、新しい国を見つけたって。それくらいできるんだったら、多分もうインドくらいまでのこ航路は繋がっているんじゃねえか、ってな」



――――

 

 あたしはククル。強力な統率力と、冷徹な機知で国をまとめていた夜の神王、テスカトリポカ。彼は陸遜達に敗れ、夜明けの王と名乗りを変えて、北の新天地である大河の開拓を始めてから、大きく変わった。口の悪い同志、テペヨロトルから言わせれば「頭まで夜明けた」とのことだが、大きく外してはいないね。


 これまでとは比べ物にならない大きさの大地を目の当たりにした彼が持ってきた、突飛な提案。「空から大地を見たい」「東回りでローマに行けるようにしたい」。


 漢の国からもたらされた紙や布、木工術。そして私の先祖の島の民や、故郷の南の民から持ち込まれた航海中や星読み、風読み。それらをまとめて知識として眺められるようになった私達は、想像よりはるかに順調にその目標に向かって進んでいた。


「ククル、荒波も、平気に、なった。半島の、北に向かい、外界に出てみた。風はまだ、逆風だ」


「トラロック! 久しぶりだと思ったら、もうそこまで試してきたんだね。寒くはない?」


「寒い! 毛皮は、たくさん、必要だ!」


 ん? なぜトラロックがカタコトなのかって?


「うーん、ラテン語はまだまだだね。ショチトルの方が上手いんだよ?」


「当たり前じゃ。トラロックは妾よりも肉体で語る方ゆえな」


「ラテン語、必要か?」


「いきなりどこかから現れて、言葉が通じないなんて、人間扱いされるかわからないよ? 捕まっちゃったら終わりだからね?」


「そうだ、な。ローマの位置は、わかっている。ローマよりも、もっと東の方が、いいのだろう?」


「うん、そのはずだよ。向こうの大陸についてすぐは、補給だけして、長居しないですぐ立つんだ」


「わかった。もう少し訓練する。船も、言葉も、寒さも」


 そうしてさらに三月後、北の大地が夏を迎える少し前に、トラロックは三十隻ほどの、高速で丈夫な中型帆船で旅立った。彼の運命は、いろんな想いと、不確定な未来が混ざりすぎて、うまく読めないまま、でもなんとなく、うまくいく気がしているんだ。



――――


 馬謖です。今日は私が何故か、友人代表? なるものとして、孔明様や小雛殿に、我らを取り巻く今と未来の話をしろと、そう仰せつかっています。


 確かにこれまでの話は、すでに張飛殿や、やたらと話の長い李運殿らがなさいましたからね。ですが本当に話をして欲しい方は、この場にはいません。こいつの『親父殿』は、必ず見つけ出し、助け出す。それはこいつと必ず果たすべき誓いとして、ことあるたびに話をしています。


 その話はいずれ。そうですね。最近の話としては、やはりあの「ピラミッド」でしょうね。はるか東の「黎明の大陸」から持ち込んだ、石造りの強固な建築。


 中原から石を運び込み、強固で虫が食わない接合剤、獣や蛇がそれぞれ嫌がる香草。石は綺麗に磨かれ、階段以外のところは容易に登れないようになっている。階段から登れば、その高さによってはるか離れた別のピラミッドを視認でき、光で通信もできる。


 農政を熟知する陸遜殿や、かの地の星読みを学び抜いた管輅殿、曹植殿の緻密な論議の末、種まきをすべき日には蛇の絵が浮かび上がる角度に。また特定の日の正午にのみ、隠し車庫の入り口の位置を浮かび上がらせるための窓。


 そして、大切な儀式の時には、何よりも輝かしき高台で、その荘厳な儀を執り行える。そしてその儀を先ほど終えた二人。彼らの未来を、ここにいる漢、羌、氐、南蛮、そして羌族の皆が祝福する。そして何よりも、二人自身が、自ら我らの未来を切り開くことを確信する。


 魏延、呂玲綺。二人の輝かしき未来。そして彼らを取り巻く人々、大地と空。太陽と草原。その全てが祝福する。皆の健康と多幸に、乾杯!


「「「乾杯!」」」

 


――――


 鳳小雛です。なにやらいい雰囲気になっていた二人。ちょっとした悪戯心で、皆様に協力をお願いしたら、漢も匈奴も別なく、誰もが乗り気。結果的に今日を迎えました。


 もちろん、北にいる謎の存在。そして、まだ緊張の残る匈奴との関係。そんな空気感を一蹴する、とまではいかない。やはり千年の因縁はそう簡単ではないのです。


 そして、彼らに染みついた、戦いを史上とする文化と本能。そこにも、打開の種は見えつつあるのだが、そこは急ぐ必要はないのでしょう。


 なにしろ、やはり北にある敵の力は未知数。どう戦うか。そもそも戦うか。見極めていかなければいけません。


 ですがそういう諸々の動きに対して、人工知能たる私が、緻密な思考をできなくなっています。


 なぜなら、黎明の大陸と呼ばれ始めたあの大陸。その南で発見された「巨大な地上絵」。それはなんらかの儀式の足跡。そこまではよいのです。


 ですがその儀式は、はるか先の未来で、人工知能を作り出した一つの大事な要素である「論理回路」そのもの。そして、その儀式で行われていた人々の動作は「集積回路」を用いた「論理演算」そのもの。


 そう、すでにこの時代から、そんな高度な機能が存在した。そして、それは「半導体」がなくても、「人」にそれができる。それが何を意味するのか。私はそれを明らかにせねばならない。思考を加速させ、集中を続ける中、孔明様もそれに気付きながらも、見守ってくれているようです。


 ですが時は待ってはくれない、かもしれません。



――――


 私は、そうですね。名乗るほどの者ではありません。


 漢と東匈奴は、落とし所を見つけたかもしれません。


 ローマとペルシャ、そして新しい国が、なんらかの芽を出しつつあるようです。


 私たちから見えない国も、強い息遣いを感じます。


 もうそろそろ動かないと、私たちの存在を示すことが難しくなるかもしれません。


 時が満ちた。そうとは申せませんが、まあ良いでしょう。


 世界よ、我らの問いに答えよ。人は、国はどうあることを望む?

 お読みいただきありがとうございます。

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