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転生AI 〜孔明に塩対応されたから、大事なものを一つずつ全部奪ってやる!〜  作者: AI中毒
第五部 第十六章 大きな世界 大きな帝国
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百四十一 活気 〜陸遜+曹植+天地=器?〜

 曹植です。昨日、匈奴の地に蜀の方々が作った仮砦での話し合い。互いに持つ情報の多寡にかなりの差がある上、それらの情報が書物に書き起こされていました。それゆえ、一度それぞれが書物に目を通してから再度、ということにいたしました。


 それにしても、仮の軍事拠点らしらかぬ活気と申しましょうか。将官や文官の方々、はては一般兵に至るまで、とにかく何事かを論じている姿が目につきます。


将の方々や、匈奴から来た方々は、強さの突き詰め方や、諜報のやり方、北の「司馬仲達」への対応。


「あいつらが北から情報を持ち出されるのを嫌がっているのは間違いない。だが、敦煌や楼蘭あたりにふらっと現れる西匈奴の連中は、だいぶ気さくだと聞く」


「西域の、絹の道あたりは、彼らにとっても本拠ではないのだろうな。だからあのあたりはむしろ『情報を取りにいく側』の位置なのかもしれん」


「確かに、絹の道の商人の往来は妨げている様子はないな。実際我らも、西に行った姜維らの活躍は、最新ではなくとも断片的には聞けている」


「ペルシャの内乱を終結させただとか、その先のアレクサンドリア図書館なる大遺産を再建しただとか。にわかには信じがたいが、脈絡なしに世界が丸いだの大きいだの言い出したあいつらならやりかねん」



 文官の方は、砦の改良や、新たな兵站物流の仕組み、通信や暗号の改良。


「この砦も、建物ではなく幕舎のままでよかろう。中の効率が良くなるよう、配置を変えたくなることが多い」


「途中の駅舎もそうだな。遠くから見えるような塔などは建てておきたいが。匈奴にも聞いてみよう」


「塔と塔の間の通信は、やはり日の光をうまく使いたいな。法正号の並びを光で表現する形で、それなりには伝わるが」


「そういえば、東の大陸では、紐の色も情報として使っているんだったな。色、光の色……なあ、そういえば虹ってなんであんな色なんだ?」


「わからん。でも意図的に光の色を変えられるんなら、陽の光を使った情報を増やせそうだぞ。月英殿たちにお伝えしよう」



 兵達もまた、匈奴の兵と、強さについてや、この土地についてなど。


「速くても強え。頑丈で落ちなくても強え。目が良かったり、勘がいいのはもっと強え」


「勘っていうのは、やはりそのおおもとには鍛錬があるのだろうな」


「実戦に近いほど、その鍛錬は身になる。だけどそればかりじゃ疲れるし、疲れて戦えば死ぬ。だから、終わったら話をするんだ」


「話をするんだな。そこに、書いて共有するのも増えたら、もっといろんな経験が得られそうだぞ」


「そうだな。読んで書いて、話して聞くんだ。それと訓練も合わせたい」


「なあ、実戦ほどではなくても、役に立つ訓練ってあるはずだよな?」


「一対一より三対三、五対五、十対十。その方がいろんなことが起こるから頭も使う。百対百は、将が頭を使う」


「なら五対五や十対十で、できるだけ頭を使うような、そんな鍛錬を考えるか」


「ほう、より頭を使う鍛錬を考えるのか、なんか面白そうだぞ。死ななきゃいいぞ」


 なにやら、それぞれの層の話の中で、いろいろなものが生み出されそうな予感がします。それに、話をしながら、気になるところがあれば何かを書き留めている者も多く、そこからも、話が続いていくことなのでしょう。



 そして翌日、陸遜殿、私、関平殿が再び幕舎を訪れると、すでに孔明殿、鳳小雛殿、徐庶殿がおいでです。そして我らに続いて、アイラ殿、テッラ殿も入ってきました。


「ふふっ、やっぱり一日おいて正解だったね。あんだけいろんなことを経験した人の話が共有されていれば、互いの考えがもっとわかってくるよ」


「へへっ、ボク達は彼らの三冊を集中して読んでみたんだ。その間に三人は、呂布の話を読みつつ、今の外の様子も見てきたのだろうね」


「はい。新しい知識、新しい情報、新しい価値観。それが互いに刺激になって、様々なものが生まれかけているようです」


「うん。そんな感じだよね。だからこそ、あなたはあたしたちに、『あれを読んでみた方がいい』って思ったんだよね?」


「そうだよね。その意図は、はっきり伝わったよ。『世界の大きさ』が、あんなにも根本的に価値観を変えてしまうのだからね」


 匈奴の将。趙雲と馬超を一度は退け、張遼殿、于禁殿らを一蹴した強さ。それは単なる戦闘力としての強さだけでなく、世界に対する、人に対する見方の違いが一つの元になっているのかもしれません。


「その通りです。あの国々は、それぞれ異なる環境、異なる制約のもとで、独自の文化文明を築き上げました。ですが共通のことが、『外との移動や交流が限られる』『土地や食料の生産力を伸ばし難い』こと。そして、『生贄習俗が強く残っている』ことでした」


「その二つをあなた達は、『たまたま』ではなく、『因果関係がある』と判断したんだよね」


「世界が狭いから、人を増やして国力を伸ばせない。だから、国を維持するためには犠牲が必要になる。だから生贄が、なんらかの論理で正当化される」


「はい。神への献上、知識の受け継ぎ、勝者の権限。理由は様々ですが、いずれも『停滞』と、『閉ざされた優劣』を是としたものです」


 ここまで穏やかに進めていたところで、一瞬アイラの雰囲気が変わります。ですが、テッラがちらっと見ると、その鋭さが抑え込まれたような。


「うふふっ、失礼。まあ匈奴が似たようなもんだ、という言われ方をするのは少し引っかかるからね。だけど、昔の匈奴は本当にそうだったから、強く否定はできないよね」


「えへへっ、そうだよ。それに、ボク達の土地が、『制限が大きい』ことに変わりはないんだ。まあそれは、漢のような肥沃なところでも、変わらないんだよ。ねえ陸遜? あなたならわかるはずだ」


「私ですか。私ということは、あのことですね。魏の凶作。そして私共が指導した、河北の農業改革。確かに漢土であっても、人が無尽蔵に増えていいわけではない。結局、器の大きさが違うだけで、器がないわけではない。そういうことでしょうね」


「そうだよね。だから陸遜、あなたのやっていることがどれくらいすごいのか、って話だよ。二つ、いや、三つともね」


「農業改革、新世界への到達と、彼らの世界を広げたこと。それは全部、『限られた器の中でどうするか』じゃなくて、『器を広げるにはどうするか』なんだからね」


「曹植殿。やはりそういう意味では、その『ピラミッド』『星読み』は、この地に半農半牧を広げることに繋げていくのが最良に思えますね」


「でしょうね。おそらく毎年麦を育てるのは難しい。それには陸遜殿が南でやっていた『品種改良』や、トラロックらがやっていたような大規模な灌漑が必要でしょう。ですが、遊牧と合わせて、何年かに一回始められるかもしれません」


「そのやり方が、星読みと繋がるんだね。もしかしたら、うまくできるための日取りが、本当に限られているのかもしれないからね」


「そして、記録しないといけないことは、すごく多くなるよ。多分持ち歩きたくなくなるくらいにね。なら資料室は必要だよ」


「はい。当面は、これまで通りの遊牧にも、その記録を使うことも考えるのが良いかと」


「うん、やっぱりあなた達はすごいね」


「私達だけでたどり着いたこと、それはやはり限られるのでしょう。『器を広げる』。そう一言で表現してくれたあなた方。そして、その起点となったのはやはり、『世界の外を見る』ことをご教示いただいた孔明殿、そして鳳雛殿なのでしょう」



 すると孔明殿は、やや恥いるような面持ちで、話を始める。


「自分たちの世界の外を見る。それを教えてくださったのは、やはり鳳小雛殿なのでしょう。それも、私にとってはなかなか手荒な方法で」


「うふふっ、何をしたのかな小雛ちゃん?」


『えっ、簡単なことです。類い稀なる才能の割に、目の前のお仕事で視野を狭めていた孔明様。そしてなぜだかその仕事に追われる状況に居心地の良さすら覚えてしまっていた孔明様。この方から、一つずつ、一つ残らず、仕事をいう仕事を奪い去って差し上げたのみです』


 それを聞いたアイラとテッラが、なぜかこれまでではなかったような、なにやらあたふたした様相を見せはじめます。


「ねえねえアイラ。これって、多分とっても恐ろしいことだよ? わかるかな?」


「う、うん。多分だけどわかるんだよ。孔明からお仕事を奪うってことはさ、あたし達から戦いを奪うのと一緒なんだよ?」


「「怖いよね」」


 そんなところを本気で怖がるというのは、彼らは根本的なところで『戦闘狂い』なことに変わりはないようです。



――――


 あたしはゼノビア。ローマの大船団をあっさり退けたあたし達。そして、あっさり過ぎて反応がやや鈍かったアレクサンドリアの市民の人たちも、振り返るほどに、その事実の大きさに気づき始める。


「クレオパトラ様が恐れてしまったのと同じ数の船団の目の前を悠然と横切って、自ら釣り餌となり、船団を壊滅させたゼノビア様。聖女……は他においでだから、女帝?」


「マニとヒイが、戦術を細かく説明したら、あとはその通りに動いただけで、船が帰っていったらしいぞ。違う意味で、預言者ってやつだな」


「キョーイと傭兵達は、向こうの指揮官や貴族達をぶちのめしながら、船を飛び移ってまわったそうだ。キョーイなんて八艘もとんだらしい」


 なんか、尾ひれだの称号だのがくっついているけど、これは仕方がないのだろうか。そして果たしてローマにはどう伝わるのだろうか。


「大丈夫だぞ。多分向こうには、せ、聖女として全部まとめて伝わるから、ゼノビアが変に目立つわけじゃねえぞ」


「それを大丈夫って言わないからね? どうせ記録がちゃんと残るのはこっちのアレクサンドリアなんだから!」


「うふふっ、私も陽の光と鏡で、旗を焼いたりした方が良かったでしょうか?」


「えっ? できるの?」


「うーん、少し遠かったでしょうか。もう少し大きくて丸い鏡があればもしかしたら」


「旗やマストだけにしておくんだぞ。ふ、船を沈めちまったら魔女扱いされるぞ」


「旗やマストの時点で大概だと思うがな。でもまあ使える時はあるかもしれないな」


「あっ! おかえりなさいませ旦那様」


「ああ、安心して見ていられたか?」


「はい。怖さはありませんでした」


「そうかもな。それにしても、傭兵も言っていたが、少し暴れ足りないな。海戦というのはこんなものなのか? それとも、今回の作戦がはまりすぎたのか?」


「本来は、か、海戦が得意ではなさそうだからな。でも、きょ姜維も、戦闘になると少し気が昂ってやりすぎるんだぞ」


「ねえバラバラ、キョーイはたまに暴れさせてあげないと、手がつけられなくなるかもよ?」


「うふふっ、それはそれで面白そうですね」


「勘弁してくれ。まあでも、その気質自体は、今の世ではそれほど悪くはないのだろうが、いつか問題になる時が来るかもな」


「そうだな。そんな話を、大陸の反対側ではもうはじめているかもな」

 お読みいただきありがとうございます。

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