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転生AI 〜孔明に塩対応されたから、大事なものを一つずつ全部奪ってやる!〜  作者: AI中毒
第五部 第十六章 大きな世界 大きな帝国
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百四十 海戦 〜聖女+少女+姜維=逆風?〜

 地中海に浮かぶ大船団。伝統的な手漕ぎの白兵船。目的はこの地アレクサンドリア、あるいはこの私バルバラ、もしくは私の奇跡、旦那たる姜維様。


 周りの方々からお聞きしました。この規模はおおよそ、あのアクティウムの海戦にてアントニウス・クレオパトラ連合軍と対峙した、オクタウィアヌス派の船団と比べても遜色はないとのこと。つまり、大国ローマを手玉に取っていたクレオパトラ様が、瞬時に戦意を失うに足る、そんな四百隻近い船団。



挿絵(By みてみん)



 風は北東から南西へ。つまり南を向いた船団から見て左後方から右前方に吹いています。おかげで遠くの高台からでも、様々な紋章を持つ地方の軍閥や、中央の貴族が多く集まっていることが見て取れます。


 ですがなぜでしょう。そこには、あのクレオパトラ様を混乱と恐怖に陥れたような、そんな圧力を感じることがありません。


 私が首を傾げていると、横から話しかけてきたのは、トトだのトトガイウスだの、いろんなお名前で呼ばれておいでのお方。姜維様にお聞きしたら、本当は鄧艾という名ですが、滑舌に問題を抱えておいでで、なかなか正しい名前が伝わらないのだとか。ご本人も気に留めておられず、そのままになっておいでです。


「バルバラ、こ、怖くないのが不思議か? それは、お前の目がいいからだぞ。あいつらが、お前を見ていないからだぞ」


 この人、どもること以上に、話が何段階か飛ぶのが難しさのもとなのではないでしょうか。まあそれでも、ギリギリで私が話のつながりを理解できる範囲でお話ししてくることが多いですね。意図的なのかは存じ上げません。


「私を見ていない……形の上では、彼らの目的は『聖女』の確保とはっきりしています。ですが、聖女がどのようななりなのか。誰がどう確保したら誰のものになるのか。実際には何一つ決まっていない。そういう意味でしょうか」


「ああ。ざ、ざっと見ても、八つくらいのかたまりが、牽制しあっているぞ。だから、まともに戦えそうな敵の船は、だいたい五十だ」


「四百が五十、ですか? それは流石に大袈裟なような」


「見ていればわかるぞ。た、戦いで難しい相手で、大変なのは二通りだ。一つは、上から下まで目的がはっきりしている奴ら。一人で全部わかっていなくていい。上官と部下で意識が連続していればいい」


「上官と部下が、それぞれ個別の目標を決められていて、その目標同士が、もう一つ上でしっかり繋がっている。それを皆が信頼できていれば、強い集団ですね。あなた方がお持ちになった『孫子』にあった通りです。ですがもう一つは?」


「それはあとだな。まず一つ目から答え合わせだぞ」


 珍しくもったいぶった言い方で鄧艾様は、私が再び船団に目を向けるのを促します。



 そこに現れたのは、可憐な白装束の少女が舳先に立った船。そして滞在する十隻ほどの船。その船団は、西から西東へ、彼らの前を横切るように、半帆でゆっくりと進んでいます。


「絵になるのうゼノビアは」


「オリゲネス様、そんな悠長な。今にも矢が届きそうな距離ですよ」


「問題ないのじゃろう? まあこやつがそういうなら、見ていれば良さそうじゃ」


 そして、彼らの目的が目的なので、ある意味当然と申しましょうか。その聖女然とした振る舞いの少女の船を、船団の先頭から追いかけ始めます。無論、あの遠目で、まことの『聖女』かどうかなど、確かめる術はないと存じますが。


 ですが、これまで順風に近かった彼らの船団。ゼノビア様の船を追いかけるために舵を切るのも、そこから漕ぎ手に指示を出して追いつこうとするのも、やや苦労をしているように見えます。


「あれっ? ゼノビア様達の船、逆風で、漕ぎ手もそこそこの数しかおいでではないのに、なぜあの速さで航行できるのでしょう?」


「ああ、ばバルバラは知らなかったか。最近できるようになってきたらしいんだけどな。縦帆という使い方で、く、詳しくは省くが、帆を風に対して縦に当てることで、逆風で風を得る航法だそうだ」


「縦帆、ですか。向こうの船は横帆、と言う言い方でしょうか? これだと逆風に近い横風では、帆を畳まないといけませんね」


「ああ。だから逆風では普通は漕ぎ手頼りだ。縦帆というやり方は、か漢の河船にも、ペルシャの南回り交易にも、少しずつ使われ始めているらしいんだぞ」


「……ようやく向こうの隊形が整ってきたようですね。でも、先ほどよりもかなり広く間隔が取られていますね」


「あの散開は、海戦としては意味がねえ隊形だが、事故になるよりはましだろうぜ」


「どうだろうな。だけど見てわかる通り、ゼノビア達の船は、全速じゃあねえ。ゼノビアが舳先に立てるくらいの速度だ。もう意味ないから中に戻ったみたいだけどな」


「そうですね。それほどの速さでは……えっ? あれは!?」


 互いの船団を眺めていると、ローマ側の艦隊の後方から、数十隻の、やや小ぶりの船が。その船団は快速をとばし、まさに逆風を「切り上げる」ように進んでいきます。そして、各船の左右には、なにやら複雑そうな機械。


「あれは……バリスタ、かの? 弩砲ともいうか」


「そうだな。それほど射程はなくて、連射もできねえが、威力は抜群だぞ」


「あっという間に追いつきそうですね。あっ! そのまま向こうの、やや広がってしまった隙間に入っていきます」


「向こうも気づいて、慌てて弓を用意しているかの。前列が幅を寄せられれば最善なのじゃろうが、そんな伝達が、後ろ側から出来るか否か」


「……先ほどのお話では、そんな統制の取れた船団ではないとのことでしたね」


 敵方はおおよそ、西から東に進むように漕ぎ進めています。風向きは北東から南西。ほぼ逆風の横風です。そして、こちらの船はそれぞれの列に入り込み、やや北寄りの敵船に近い側から入っていく様子が見えます。


「まだ撃ちませんね。列に入ってからでしょうか……あっ! 当たっています。最後尾より少し手前の、船の後方を狙って撃っているように見えますね」


「ね、狙いは、か舵だろうぜ。次点で漕ぎ手室。だがそっちは犠牲が多いから避けたそうだな。あのバリスタ、近寄れば相当正確だし、う、後からなら反撃も少ねえ」


「舵に直撃するとどうなりますか?」


「ま、まともな方向転換はできなくなるぞ。こ漕ぎ手の左右の動かし方で、一応反転はできるけどな。すごく手間だから、漕ぎ手もやりたがらねえ」


「なるほど……うーん、それぞれ各列の、後方の何隻分かと言ったところでしょうか」


「いひひっ、これだけで終わる感じはなさそうだぞ」



――


 僕はマニ。ゼノビアが先陣で囮になることになったので、僕の方でも出来ることはないかと姜維に聞いたら、こんな答えが返ってきたんだ。


「今回の作戦の指揮は、私や鄧艾ではなく、現地の皆が良いと思っているんだ。私も随行はするがな。マニ、作戦がものすごく複雑だから、皆の理解がずれていないか、操船や射撃の段取りは吸収できているか、念入りに確かめてくれ。費禕も手伝ってくれる」


 そういわれて、各船の船長や操舵手、射撃手らを読んで、絵や文字を交えて詳しく説明を入れたんだ。不測の事態があった時のことも含め、結構な分量の手引き書を、全ての船に渡すことになった。


 僕達後方から襲撃する船団は、バリスタ船が二十、突撃船が十、防御船が二十、という三つの役割をもつ五十の快速船。


 バリスタは、とにかく近づいて舵を狙う。何番目くらいを狙うかは、それぞれの列に応じてばらばらにしたんだ。その理由は、向こうに少しでも、考える要素を増やさせるため。


 そして、東西に数十の、かなり雑然と広がった列を作る敵軍。その各列の隙間の中で、かなり北側、つまり風上から進入し、最後尾だったり、何隻か前だったり、それぞれ別々に狙いを定めて、次々と命中させていった。向こうから慌てた声が聞こえる。


「舵がやられた! とりあえず速度落とさず進め!」


「あいつらに近づいて、弓で応戦だ! できたら白兵戦に持ち込むか、ぶち当てるぞ!」


「白兵と突撃は無理だ! 追いつけねえ」


「弓は……なんだあいつら、やたら頑丈に盾を構えている船が、バリスタの船との間に入りやがる」


「それに、ワラかあれは? あそこに射掛けたら、こっちの矢が全部持っていかれるぞ?」


「くっ、弓が上手く使えん。こっちはバリスタとか持ってきてねえし」



「ちっ、前方の船が前もって幅を寄せてくれれば……どうにか伝えてみてくれ」


「了解! 前方、南側に進路を取るように求める!」


「前方、取り舵少し! あっ、ああっ!?」


 そう。僕たちの船は、バリスタで舵を狙う船。盾とワラで相手の矢を受け止める船。そしてもう一つ、突撃する船の三つ。


 彼らが、我々の動きを再現するため、やや幅寄せを前方に伝え始めたところで、突撃用、衝角と白兵戦力を持った船が前に出る。狙いはその、やや我らの針路を塞ごうとする動きをする、その敵船の横腹。


「まずい! 直撃する!」ドオン!


「ぐっ、他の列でも似たようなことになっているな」


「白兵戦は? どうなっている?」


「まずい。どの船も押し込まれている! あいつら強え!」



――――


「白兵戦、やはりそれはそれで実施するのですね」


「ああ。そ、そっちの力も見せるのさ。小賢しさだけで勝ったと思われるのは、あとあともあんまり良くねえ」


「なるほど。それで、白兵戦ということは……」


「ああ、そうだぞ。きょ姜維。そして、アナトリアやパルミラ、アフリカ東部から少しずつ集めた傭兵達。こいつらがさっき言っていた、もう一つの『戦いたくねえ相手』なんだよ。常在戦場。戦いが生活の一部になっちまっているやつらさ」



――――


「ぐうっ、こいつら強すぎる。そして、どこの出身だよこいつら? バラバラじゃねえか?」


「忠誠とか、帰属意識とかねえのか?」


「ふっ、悪いな。こちらは戦で飯を食っているんだ」


「くっ、所詮は金か。卑しいやつらめ」


「くくっ、我ら傭兵にとって、金払いが良いやつはまあまあ上客。戦いの大義を与えてくれる客がその上の客。だが最上の客はなんだか知っているか?」


「知るか!」


「新たな戦いの学びを与えてくれる奴らさ。これで俺らはまた強くなれる。じゃあな」ドサッ



――――


「マニ! 順調なようだな!」


「姜維! 前方の突撃部隊だったよね? どっからきたの!?」


「ああ、敵方の船の間が狭いところはたくさんあったからな。適当に飛び越えたり、マストに登って、向こうの帆とか飛びうつって、乗り継いできた。首領格もロクなのがいなかったな」


「それ、敵方から見たら化け物扱いだからね。何隻分も飛び移って、首領格を薙ぎ倒したってことでしょ? 目立たないんじゃなかったの!?」



 こんなこともありつつ、こちらも損傷があった突撃船は逆方向に引き返す。そして、残ったバリスタ船と防御船は、風を受けて南側に流されるついでに、左側に近接した、先頭近くの敵船にも打撃を与え、そのままゼノビア達と合流した。


「『聖女』様! 名演技お疲れさま!」


「聖女言うな! あたしはなにもしてないからね! あんた達こそ随分大暴れじゃない!」


「まあそうだね。多分向こうの船は一割ぐらいが、航行困難な打撃を受けているね」


「こうなるとおそらく、帰ろうとする者、強硬に仕掛けようとする者、立ち往生して降伏する者と、ばらばらになるだろう。もはや戦力として成立はし難いだろうな」


 果たしてその通りになった。動ける中で半数が帰り、半数が強硬に上陸を目指す。だが、統制の取れていない上陸軍などもはや敵ではなく、奴隷扱いに近い漕ぎ手達への融和もあいまって、すぐにこの戦いは終結した。


 アレクサンドリアの民は、お祭り騒ぎ、と思いきや、あまにりもあっけない集結に、やや呆気に取られているような様子。それでも、吟遊詩人達が語り始めれば、この話はローマ中に広がっていくのだろうね。


 これでローマ政庁は、アレクサンドリアにいる聖女とそのお抱え勢力に対し、本格的に討伐するか、融和を図るかの選択を迫られることになったんだ。

 お読みいただきありがとうございます。

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