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転生AI 〜孔明に塩対応されたから、大事なものを一つずつ全部奪ってやる!〜  作者: AI中毒
第五部 第十六章 大きな世界 大きな帝国
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百三十八 加速 〜夜王+羽蛇=帆船?〜

 我が名はテスカトリポカ。夜の神王と呼ばれていたのはつい一年近く前のこと。夜明けの国と呼ばれ始めたその地を離れ、船で北の新天地に踏み入れたのは半年ほど前。


 そこで見つけた大河、どこまでも続く草原に原野。遠くに微かに見える森林。世界はこんなに広かったのか。


 見たい。もっと遠く、もっと速く、もっと高く。


 そんな気持ちが逸り、ククルやトラロックの元に、空から見えないか? という話をしたのがつい先日。そしてショチトルや西の大陸の人々が、その発想を大きく膨らませ始めた。


 だがそんな折、また一つの欲求が、頭をよぎる。


「なあテペヨロトル」


「どうした今度は? 空飛ぶのはもう少し時間かかりそうだぞ」


「ああ。それは気長に待つしかないからか。今度は別だ。東から来たリクソン達は、世界のどれくらいを渡って来たと言っていた?」


「三分の一、あるいはそれ以上、と聞いたぞ」


「彼らの大陸は、どれくらい大きいと言っていた?」


「たしか、それも三分の一より大きいと言っていたぞ」


「なら、今いる我らの大陸は、どれくらいだろうな」


「さあな。少なくともこの大河は、我らの旧都のほぼ真北。だがここから東にはまだ進んではいない。だから大きさはまだわからん」



「その大きさも気になるんだが、もうひとつ気になることがあるんだ」


「何だ?」


「この大陸の東の海岸から、ローマとやらまでは、どれくらいなんだろうな?」


「……それでさっきの話に繋がるのか。まさか行きたいとか言い出さないよな? もう少し地に足をつけてもいいのではないか? まだこの地の開拓も目処が立ってないぞ」


「まあそうだな。別に我自身がどうしても行きたいというわけではない。だがどう考えても、リクソン達の航海の道のりよりも短く済むのではないか? と思えてならんのだよ」


「そりゃ、一から三分の一を二つ引いて、残りからこの大陸の大きさを引くんだからそうだろうけどな」


「よし、またあいつらのところに行ってみよう」


「……好きにしろ。こいつの頭こそ、夜明けのような奔放さだよ」



――


「うん、しばらくは難しいと思うよ」


「ん? 何故だ? 距離は短いだろ明らかに。それに、ローマの位置は、あいつらから聞いているから、正確にわかっているんだろう? ローマよりも、もっとこちら側に突き出ている土地もあると聞くぞ」


「島があるかわからないんだよ。あたしの先祖の故郷の島の国から、生まれ故郷のモチェまでは、彼らの船で二十日ほど。そんなに遠くはなかったんだ。つまり、彼らはほとんど島伝いにここまで来たんだ」


「なるほどな……だとすると、もう少し早い船か、長い航海が出来ないと難しい。そういうことなのだな」


「うん、そうなるね。出来たら両方だ。それぞれ倍は欲しい。つまり四倍長く進みたい」


「だとすると手漕ぎは無理だな。風に乗るか?」


「うん。間違いなくそうだね。だけど安心してよ。南北を往復して来た彼らや、さらに北に進んでみたあんた達のおかげで、一つの可能性は出て来ているんだよ」


「ん? どういうことだ?」


「海の風は、おそらくすごく安定しているんだ。ここからここまでは東に吹いて、こっから先は西に吹いて、っていう形だね。つまり風に乗ればいい」


「それはよいな。つまり船が出来上がればどうにかなるのだな」


「船も、船体だけなら漢にはもう少し大きいのがあるみたいなんだよ。彼らの造船と、島国の航海術を合わせれば、速さと丈夫さは兼ね備えられるはずだよ」



 ククルと話をしていると、火の力で空を浮かぶ機構を考えていたショチトル、続いてトラロックも話に入ってくる。


「いろいろな布や紙の材料を集めて来たり、漢の国から持ち込まれておるゆえな。大きな帆布に適した布もありそうじゃぞ。それに、そなたらがやたらと頻繁に行き来しておる、カリブと名付けられた海なら、大型船の試走に困ることはあるまいて。漢の技師の方々と共に、励むとええ」


「そうだな。だがお前は少しは落ち着いて、新天地の民政に励めんのか? まあ争いをするよりはましだから構わんのだが。船なら我らも関心は強い。お前らだけでどうにかしようとせず、共に知恵と匠をしぼるぞ」


「我が旦那様は、水の神ゆえな。船に関しても造詣はあるぞい。それに、海辺の民や、パナマの民とて、そこに一家言はあろうぞ」


「あ、ああ、分かっている。ある程度は落ち着かねばとは思ってはいるのだ。向こうがあまりにも広いからな、気が大きくなるのさ。ガハハ」


「まあいいけど。それに、確かにこっち側からの航路も、遠からず欲しくはなるんだろうな、という気はしているからね。協力は惜しまないよ」


 我が名はテスカトリポカ。頭が夜明けたなどという失礼なことを言ってくる同胞と共に、広大な新天地の開拓をしながら、世界の大きさに思いを馳せる者。



――――


 あたしはゼノビア。キョーイが大々的に、アレクサンドリアの民に対して盛大な学びと議論をけしかけると、多くの市民が「どんな国の形がいいんだ?」という論を始めたんだ。


 だけどそれと同時に始まったのが、「この世界って、結局どんな形なんだ?」という情報交換だった。


 あたしはトトガイウス(鄧艾)とマニ、そしてバルバラと話し始めた。キョーイ? なんか腕っぷしのいいやつ連れて、練兵を始めたね。ヒィは、さっきまで寝ていたけど、今は何かを書き起こしている。


「んーと、まずこの地中海を基準にして、この大陸が東西南北にどんな広がり方をしているのか、現状把握? ってやつだよね」


「ローマを真ん中にしておこう。多分それがみんな分かりやすいだろうから」


「えっと、両側に180か。確かにこの表記なら分かりやすいね。アレクサンドリアは15、クテシフォンは30、カシュガルが60、でいいんだね」


「ああ。と、時のずれ方から計算するとそうなるんだぞ」


 ヒィはその辺りを書き込みつつ、線を引いている。何故か、話してもいないのに、大体の南北の位置まで分かって書き込んでいる。この人の知識はやはりすごい。


「と敦煌が75、長安が95くらいだぞ。呉の国の一番向こうが110くらいだな。そして、その先に倭って島国があって、そこが120くらいだ」


「つまり、トトたちは、世界の四分の一くらいを移動して、ここまではるばるやってきた、ということなんだね」


「すごいね! そして、ヒスパニアからその倭? まだが140くらいか。うーん、それでも三分の一よりもちょっと大きいくらい、なんだね」


「そうだぞ。それが分かったから、俺たちと一緒に来ていたか関平、あと、カシュガルでひっそり暮らしていたじょ徐庶って二人は、その情報と、きょ匈奴の活発さを見て、引き返したんだ」


「引き返した理由が、『多分もう一個ぐらい大陸があってもおかしくはない』だったね。理由の規模が大きいよね」


「なんと、そんなに大きな規模で物事をお考えなのですね皆さんは。私どもが、ニコメディアやローマの近くだけで全てを考えていたのとは大違いです」


「そうだな。それに、ローマっていう国は大きい。ペルシャも大きい。漢も大きい。でもこれ以上大きいのは多分無理。それは前に言った。馬が三倍早くないと無理」


「馬が三倍……つまりそれは、物事が伝わるのが遅すぎて、一つの国として立ち行かなくなるという意味でよろしいのでしょうか?」


「ああ。そうだぞ。見てみろ。30くらいだ」


「……そうですね。ローマもペルシャも、漢? も。ですが、匈奴? フン? は、それよりもはるかに……」



「よく気づいたなバルバラ。そうなんだよ」


「あっ! 旦那様! おかえりなさいませ」


「えへへ、すっかり旦那様だねキョーイ」


「まあそうだな。それで、そこが気になっているんだろ鄧艾? マニや費禕もか?」


「うん、そうだね。費禕が今書いているのは、大雑把な町の位置だよね。でもそこに、ゴートがこの辺にいて、フン族が顔を出してくる範囲を考えると、とんでもない大きさになるんだよね」


「ああ、それに、その趣向、感覚。彼らの行動の一貫した特殊性。あいつらはおそらく一枚岩だ」


「一枚岩? ですか?」


「ああ。一人一人はそんなに強くはないが、喧嘩や戦いを好む。そして時折略奪をするが、人の命や金銀財宝よりも、書物や紙を優先する。そして死体は焼き、建物は壊す」


「それと、匈奴じゃねえのが混ざるんだ。多分もうゴートと匈奴が混ざっているし、匈奴のなかに鮮卑がいるんだよ。結構顔とか服装が違うからわかるぜ」


「全部騎馬民族だけどな。だとすると、そいつらが何らかの形で繋がっている可能性。それがどういうことか。さっきの鄧艾の、馬の三倍、という話とは少し矛盾があるんだ」


 矛盾……確かに、ゴートがガリアに顔を出して、フンとかセンピ? というところが繋がってくると、今の限界の30どころか、90近い範囲に広がっていることになるよね。


 するとヒィが、なにやら変なことを始めた。さっきまで書いていた紙を折り曲げて、丸くしていく。上の方を畳んで、少しずつ小さくしていく。そして、広げて、折られていた部分に線を引く。


「なるほど。この世界は丸い。だがおそらく円筒ではなく、球体。そういう仮説だったな」


 費禕は頷く。


「それで、北の方だとそれなりに縮まりはするんだな」


「それでも四分の三ですけどね。ですが、この辺りが全て草原なら、馬の速さは二倍にはなりうる」


「えっ? それって……」


「三倍、までは行かなくてもそれに近い数字、です」


「つまり、北の方に、何か未知の大帝国がある。そしてそこが、非常に素早いやり取りをして、ある程度情報の鮮度を保っている。そんな可能性がある、ってこと?」


「そうなるな。そしてその国がまだ、何をしたいのかも分かっていなければ、どんな実力があるのかも分かっていない。そんな状況だってことだ」


「きょ姜維。だとすると、もう一つまずいことがある」


「なんだ鄧艾」


「俺たち多分、来た道を帰るのは無理だ」


「……そうなるか。カシュガルも下手すると向こうの手に落ちているからな」


「一旦こっちで地盤を整えて、何か考えるしかないぞ。まあ帰るだけなら海路もあるけどな」


「ここで放り出して帰ったら、そんな巨大帝国が何を仕掛けるかわからん。だがどうにか本国と連携の筋は作りたくはあるな」


 すると、ヒィが手を挙げる。


「姜維、鄧艾。あなた達はローマに集中していいです。強いから。ですが私は強くはない。なので、あなた達を支援しつつ、海路の準備をします」


「ああ、そうしておいてくれると助かる」


「海路か。だけど簡単ではなさそうだね。地中海とか、南回りも、ようやく整ってきたくらいだからね」


「そうだな。無理はするなよ費禕」


 ヒィは頷き、どっかに消える。寝るのか、それとも何かしに行くのか。どっちにしろあたし達も、その「謎の帝国」のことを頭の片隅に置きつつ、今のローマをどうにかしないと、だね。



 お読みいただきありがとうございます。

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