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転生AI 〜孔明に塩対応されたから、大事なものを一つずつ全部奪ってやる!〜  作者: AI中毒
第五部 第十六章 大きな世界 大きな帝国
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百三十七 一日 〜姜維+鄧艾+費禕=??〜

――ローマは一日にしてならず。だが一日にして壊れる。そんな言葉を後世に残したい者は、話を聞かずに立ち去ると良い――


 そんな言葉から始まった、姜維の演説。どうやらこの一言は、人々の心を捉えたらしい。先ほどまでの聖女との話を、からかいつつはやしたてる者も、みな徐々に静まり返り、姜維の言葉に耳を傾けることにしたようだ。僕はマニ。ゼノビアやオリゲネス、プロティノスと共に、比較的近い距離で、その言葉に聞きいる。


「アレクサンドリア、アンティオキア、ニコメディア。ローマにはまだ行っていないが、こんな立派な都市が出来上がり、人々の暮らしはこの五百年ほどで劇的に改善したはずだ。もう、ローマという国がなかった頃に戻りたい者などいないだろう。


 東にはペルシャ、北からはゴート族やフン族。彼らは大いにローマの領分を侵食し、各地の安寧を大いに脅かしている。そんな中で、ローマという強力な体制が不要と考える者も、そう多くはいないだろう。


 今の形と大きさになってから三百年。英明なる皇帝の下で安寧と拡張を実現していた時期が半分、失政や事故で混乱を招しつつも勢力を保っていた時期が半分といったところと聞いている。


 不満だろうか? それはいささか贅沢というものだ。過去の大国で、英雄、あるいは神格化された元首が何人も連続して排出されたことなどそうはない。この図書館にも、そんな記録は見つからん。


 ペルシャもそうだろう? 漢もそうだ。漢は、というよりも中華の国は、原則的に世襲をとっている。なぜか? 毎回王位、帝位を選出するための『判断基準』が、まだ成熟していないからだ。


 帝や元老院が次の帝を選ぶ。それがうまくいく時は、連続して英雄や賢帝が生まれる。だがそれができなかったとき。帝に事故があったり、帝や元老院の私欲が正確な判断を歪めたり。そんな時には大きく破綻してしまうのだ。


 だから、漢は『人々が、英明な元首を選ぶ知恵がつくまで』、世襲を選ぶことにした。世襲なら、生まれた時から帝たるべくして育ててられるゆえ、少なくとも『そこそこ』には育つ。無論そこには腐敗も生まれる。だが腐るまでの十世代ほどは安寧と繁栄を続けられる。



 少し話が逸れた。話を戻そう。ローマの話だ。この大きな国は、今大いに乱れている。先帝が遠征の地で没し、次の帝が決まっているのかもよくわからん。ペルシャは英主のもとで繁栄を取り戻し、北のゴートはフンに押されてガリアへの圧力を高めている。


 本当ならば、今こそ『英明なる帝』が必要。そう思うだろうか? その気持ちはわからなくはない。いつだってそうだ。英主、明君、賢帝。そんな方がいれば、多くのことが解決する。


 だが、英主に頼り、英主ならばどうにか保てる、という国の大きさまで膨れ上がったこの国。今後もその大きさを保つために、ただひたすら『英主』を求め続けることが、果たして現実的なのだろうか?


 そして皆もう知っているはずだ。その英主が見つからなかった時、ローマの中心はともかく、外側のこの地やパルミラ、アナトリア、アフリカがどうなるか。どれほど乱れ、どれほど賦役や外敵に苦しむか。

 

 そして皆は今、何を手に入れた? 紙を手に入れ、多くの知恵が生み出される学び舎を手に入れ、それがすべからく蓄えられる図書館を再び手に入れた。


 ならば今一度聞こう。今この時、英主は必要か?」



 ここで一度、姜維が黙った。すると、人々がガヤガヤし始める。


――カエサルやアウグストゥス、五賢帝みたいな時代は、確かにうらやましいぜ


――だけど、先帝のアレクサンデル・セウェルス、その前のカラカラも、暗愚というわけではなかったんだよな?


――あのくらいのが出てこないと国が保てない。それは逆にいうと、あやういってことなのか?


――国がデカくて強いことは、安心でもあるけど、それを保つために大変な労力を使っているんだよな


――不安定な国が、派手なぶっ壊れ方をする前に、できることがあるのか?


――英主の誕生と、国の破綻。どっちが先に起こるかを、何もしないで眺めているのが今の私たちなの?


――ここで何もしないんなら、何で俺たちはこんな立派な図書館で学んでいるんだ?


――英雄に頼るのか? 何もしないで待つのか? それを対岸で眺めて、空論を続けるのか?


――こんな時にこそ、使える知識もあるんじゃないか? みんなで探して、論じ合えば、いい答えを自分たちで見つけられるんじゃないか?



 人々のガヤガヤの方向が、受け身の悩みや戸惑いから、主体的な意思や希望に変わっていく。うつむいていた、痩せた男女が顔をあげ、論者風の男は手元の本を見直しだす。キョロキョロしながら、人々の話す様子を興味深く見守る子供もいる。


 そんな様子を見て、姜維や、その背中に控えるバルバラは笑みを浮かべ始める。トト? 最初からにやついているよ。ゼノビアは目を輝かせ、オリゲネスは必死に何かを読み漁り、プロティノスはうんうん唸っている。あ、費禕が起きている。ひたすら姜維の言や周囲の人々の言葉を書き留めている。


 

「皆、少しずつ見えてきているようだな。そう、時はある。大いに人の声に耳を傾けて、大いに読み書き、大いに論じるのだ。どんな答えを皆が作り出すのか。そこで出た答えこそ、英主のひらめきにも勝ると確信している。


 このアレクサンドリアから、新たな国の形が始まる。一人一人が英主、一人一人が明君、一人一人が賢帝となるのだ!」



「「「おおお!」」」



「この方は自らが英主たる力があります。ですが、それを強く推し進めることはなさいませんでした。ならば皆様で作っていきましょう。新たな時代の賢帝を! 人々が皆笑顔で暮らせる、そんな奇跡を!」



「姜維! 姜維!」


「バルバラ! バルバラ!」


「賢帝の父、英主の母!」


 広場は大いに湧き立ち、そしてさまざまな呼びかけがされていく。そして、みんな連れ立って、図書館に向かって列をなす。結論はすぐには出ないだろう。でも何か新しいことが始まる、それだけはみんな確信している。みんな、そんな光を目に宿している。



――――

 私は曹植。陸遜殿の率いる艦隊はその目的を達成し、最後にククルの案内で、さらに南の国を訪れました。そこで巨大な地上絵の儀式を見たのちに、一度我らの主艦隊は漢土へと報告に引き返すことにしました。


 要所要所に交流要員を残しているので、帰り道はすこぶる順調です。大陸東岸の、山麓の国モチェ。島の勇国サモア。そしてグアムを経由。


 サモアでは再びシヴァタウの歓迎を受け、私の歌を覚えていた族長の手厚い歓迎を受ける。そしてなんと、白馬篇の振り付けまで作っていた。


「ガハハ、この勇ましい歌は、あんた達の国の魂なんだろう? なら、俺たちの魂ものせて、持って帰ってくれや!」


 グアムの港湾整備は大きく進んでおり、すでに呉との往復を繰り返している様子。呉の海洋技術に、蜀の土木術。魏の労働管理術。さまざまな匠が合わさって、地元の民にも喜ばれるような港湾街区が出来上がりつつあった。


「この世界は広いんだろう? このグアムの民も、どちらの大陸にも行けるようになるんだよね? そうしたらいろんなものを見にいきたいな!」


 そして台湾から呉の港へ。匈奴は魏、蜀と激戦を繰り広げ、それぞれ大きな被害を出しながら、一歩一歩前進していることを耳にします。そして建業に着くと、そのまま襄陽へと向かうように促されます。呉帝孫権陛下も、そちらに滞在しているそうな。


 襄陽。魏の洛陽、蜀の長安と近接した大都市。三国がそれぞれを分け合うことで、おいそれと戦うことが難しくなり、膠着、和平の状態がすでに固まりつつあります。個人認証を容易にする「法正号」なる方形の暗号、それを持ち歩きやすくした印章札。それらによってこの都市間の行き来が容易になり、民はすでに一つの国の中を移動するかのように三都市間を往来しています。


 宮殿に着くと、我らを待ち受けていたのは、予定通りの孫権陛下。そして左右に並ぶ二人は、我らの想定を超えていました。魏の曹叡陛下と、蜀の劉禅陛下。そして、その義母にして孫権陛下の妹君、孫尚香殿。


 やや戸惑う我らに声をかけるのは孫権陛下。誰が話すかはすでに決めていたようです。


「皆、大役を果たし、よくぞ無事に帰ってきた。その労をねぎらい、そしてこの歴史に刻む大偉業の報告を受けるのは、朕一人では足りぬからな。戻ってきたところでお二方もお呼びしたのよ」


 陸遜殿は、普段の冷静な表情をやや崩され、感激を隠せない様子。無理もありません。


「陛下、過分なるお出迎え、誠に感謝いたします。この陸遜、曹植殿、関平殿以下、多くの皆々様の助けを受け、東の大陸への到達、幾つもの未知の文明との交誼、交流拠点の設立、そして未知の知との遭遇を果たして参りました」


「うむ。おおよそのことは聞いている。大陸に到達した時点で、何隻か引きかえさせてもいたからな。だが、そなたらの最後の旅路で何を成したのか。そこまでは聞いてはおらん。その辺りを聞かせてもらうとしようか」


 陸遜殿はまず、用意していた報告用の書物を、孫権陛下に差し出します。


「これは……ほう、『渡洋記』『黎明大陸記』『黎明大陸技編』か。流石に一編では収まらなんだか」


「はい。全ての者に、日誌をつけるように申しつけておりました。そしてそれらを帰途にて編纂し、私や曹植殿、関平殿が主導で、三編に分けてまとめております。主に大陸に到達するまでのことと、その道中の人々との交流、渡航術の進化を描いたのが渡洋記。大陸に到達してから、その地で我らがそこの民と共に成したこと、その顛末を記したのが大陸記。そして、その大陸の様々な国にあった、様々な技術や文化をまとめたのが、大陸技編となります」


「黎明大陸。その名を冠した理由も、その大陸記の中にあるのだろうな」


「まさに」


 そして、孫権陛下は一度それぞれにぱらぱらと目を通します。


「それぞれが、おおよその主担当を決めていたようだな。渡洋記は、事実を丁寧に書き連ねることを優先し、陸遜が。大陸記は、いくつもの国の中で繰り広げられる人間模様を躍動的に伝える叙事詩として、曹植殿が。大陸技編は、打って変わってそれぞれの技術を正確に記すため、関平殿が」


「ご明察です。その中でも、あまりそれぞれの趣向に偏りすぎないよう、全て互いに確認し合い、論じ合って編纂致しました」



 そしてふらりと歩み寄る孫尚香様。相変わらずの自由奔放。


「なるほどなるほど。これはまさに、史記や左伝、五経に次ぐような、後世に読み継がれる名著といえようぞ。すぐに飾り表紙をつけて、大々的に写本するのじゃ」


「まさにそうだな尚香。うむ、そうだな。もしよければ二人の帝も、しばし時間をとってもらっえるか? 数日ほどかけて、ゆっくりとその報告を聞かせてもらいたい。いかがかな?」


「こちらこそよろしくお願いします」


「承知」


「御意。では克明に報告を致しますので、皆々様ごゆるりと」



 そうして、報告という名の盛大な出迎えの式典は、七日ほど続きました。陸遜殿の克明な報告に始まり、私の叙事詩。そして関平殿らが主体となる技術談義。それぞれ、各国の方が入れ替わり立ち替わり、酒食を交えて聞きいります。


 

 そんな中、少しばかり気になることがありました。陸遜殿も同じようです。


「そういえば、孔明殿や先帝劉備陛下などは、お前にならないのですね」


「ああ、彼らはすでに匈奴の地にて、一つの拠点を作ったと聞いている。そして、彼らから依頼されていることがあるのだ」


「はい。なんなりと」


「『艦隊の皆様が戻り、ゆるりとお休みいただいた後で構わないので、拠点の方に足をお運びいただきたい。道中は、馬超殿の騎兵隊が同道する』との事だ」


「そうですか。わかりました。おそらく大陸で得てきたことを、早速役立てようというご判断なのでしょう」


 すると、我が主君、魏の曹叡陛下が、こんなことを仰せになる。


「だろうな。さすが孔明と言ったところだ。そしてもう一つ、気になることを聞いたのだ。『行方をくらましていた司馬仲達、おそらく謀叛』」

 お読みいただきありがとうございます。

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