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転生AI 〜孔明に塩対応されたから、大事なものを一つずつ全部奪ってやる!〜  作者: AI中毒
第五部 第十六章 大きな世界 大きな帝国
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百三十三 軌跡 〜マニ×少女=奇跡?〜

 私はゼノビア。パルミラ、つまりペルシャとギリシャの間の地で生まれ育ち、いろんなものを見て来た。今はいろいろあって、二年ほど前から復活が始まったアレクサンドリア図書館の近くに滞在している。いろいろありすぎて、手記を書く手が追いつかない。紙とインクは足りているけれどね。


 いろんな文化が交差する、地中海の底、アンティオキアの繁栄。だけどその裏で、ずっと続くローマとペルシャの戦い。さらに、防衛への地震への対策が後回しにされてしまう不安。


 学問と貿易の都、アレクサンドリア。だけどその裏で、昔の学問が廃れ、常に新しい知識のみがもてはやされ、学派同士の争いも絶えない様子。知識の象徴であるアレクサンドリア図書館は廃れ始め、パピルスや羊皮紙に頼る蔵書は、新しい知識の記録が優先されていた。


 ローマにも訪れた。ローマはとにかく繁栄していたけど、みんなが将来への不安を隠せない。なぜなら、新しいペルシャの王朝サーサーンは強く、そしてローマの皇帝が次々に敗れ、討死する者も現れ始めたから。この国は大きすぎるのだろうか。このまま秩序が保たれる未来を思い描ける人は、かなり少なくなっていたんだ。



 そんな中、私の、いえ、私たちの見えている世界全ての運命を大きく変える出会いがあったのが、ちょうど二年前。はるか東の国から、新しい知を探しに来たと言う、キョーイ師匠、トトガイウス、ヒイ。そして、彼らと同行するのは、人の世、人の心の安寧と真理を探求する、私より少しだけ年上のペルシャ人、マニ。


 彼らがもたらしたもの、それは、新しい「紙」。分厚いパピルスより丈夫で、羊皮紙よりも薄くて描きやすい。何よりも、安く、いくらでも手に入るんだ。これまでの一枚分の銀貨で、五枚は買えるからね。


 東から来た三人は、ペルシャの王都クテシフォンについた時点で、この紙を西側世界に普及、定着させることを目指し始めたっていうんだよ。マニが言っていたよ。


「クテシフォンではもう、欲しいだけの紙が手に入る。水と木と、ある程度の人手。それだけあれば作れてしまうからね。メソポタミアにはそれが全部揃っているんだよ」


「あたしがたまげてんのは、そんな体制を、半年そこらで完成させちゃったこの三人のことだよ。だって、街そのもの、国そのものを動かしちゃったってことなんだよね?」


「そうだよね。そんなこと、普通は十年とかかけてするものだよ。だけどそれを彼らはやってのける。もちろん先にあったのは、東の都、エクバターナでの奇跡だけどね」


「その奇跡は、あんたが最大の立役者でしょうが」


「そんなことないんだけどね。誰一人欠けてもあれは無理だったかな」


 エクバターナの奇跡。それは旧王朝パルティアの残党と、新王朝サーサーンの制圧軍が、激しい市街戦を繰り広げていた中のこと。マニと出会った三人と、もう二人ほど居たらしいけど、その六人と、随行する人達で成し遂げた奇跡。


 彼らは、このあたりで有名なバベルの逸話を引き合いに出し、大量に書き連ねたその絵物語を、兵や家族、子供らに配って回る。そして少しずつ、今の戦いの意味を問いかけ、「まだ間に合う、まだ断絶は始まったばかり」と説いて回る。


 そしてマニと、そのマニを遠くで見ていた母の、とどめのひと押しの説得により、パルティアとサーサーンという、同郷の者達の不毛な争いは解消された。そう伝わっている。やっぱりこいつら、聞けば聞くほどとんでもない奴らなんだよ。



「まあでも、奇跡といえば、このアレクサンドリア図書館の復活というのも、いろんな人が奇跡って言い始めているからね」


「まあそうだよね。書くものが限られているから、残すべき知識を選ばないといけないって状況。それが、いくらでも書き残して良いから、とりあえず困ったら書いてしまうのがいいってことに変わった。それはもう、学問、知識の形が変わっちゃったと言っても言い過ぎじゃないんだよね」


「人ごとみたいに言ってるけど、君はもう、その奇跡の側に立ってしまっているからね。この再建によって、人と人の争い、神の教えや考え方の違いによる争いが、どれだけ減ることになるのか。君がいったことが、もう大きく広まっているんだよ。『知ることを恐れるな。知る術を失うことを恐れよ』とか、ちょっとかっこよくなって広がっているんだ」


 ……そうだった。あの神学者のオリゲネスってじいさんと、哲学者のプロティノスってうおっさん。彼らの議論にちょっと加わっていたら、いつのまにかそんなことになっていたんだよね。



挿絵(By みてみん)



「うーん、まあなるようになる、よね?」


「どうだろうね。あの人達、思ったよりも話が上手いし、文章なんてもっと上手いから、紙を使って次々にいろんなことを伝承し始めているんだよ。ボクやゼノビアが、いつのまにか吟遊詩人によって英雄化し始めるのは、もう避けられないかもしれないよ」


「うへぇ、あんまり大変なのは勘弁だよ。それはそうと、あの三人の、『本当の英雄さん達』はどうしているのかな? アレクサンドリアがひと段落ついた去年あたりから、ローマに向かったとこまでは知っているけど」


「うん、何度か手紙も来ていたよね。ローマでいくつか問題を解決したとか、最近だと聖女って言われている人を救い出したとか」


「聖女。バルバラ様だっけ? キリスト様の教えをもとに、ギリシャの地を飢饉と疫病から救ったとか。でもその美しさと強い影響力から、皇帝や貴族たちからのアプローチが絶えず。結果的にその父さんが、巻き込まれるのをおそれて閉じ込めてしまっているのだとか」


「その辺りの詳しい話も、手紙だけだとわからないよね。……ん? なんか外が騒がしい」


「ほんとだ。……ん? あれは、ああ、そりゃ騒がしくもなるよ。『英雄達のご帰還』だよ」


「だね。あの三人、アレクサンドリアでもすっかり人気者になったからね。でもなんか様子がおかしいね。行ってみよう」



 外に出ると、一年ほどしか経っていないのに、なんとなく懐かしい顔ぶれ。だけど、なんか変。明らかにいつもと違う表情。


 憔悴するキョーイ、そして何故かニヤニヤしているトトガイウス。いつも通り眠そうなヒイ。キョーイのこんな姿は、あたしもそうだけど、マニも見たことがなさそうだ。


「た、助けてくれマニ、ゼノビア」


「どうしたんだ姜維? そんな状態になるの、初めて見たんだけど」


 初めて聞いた台詞。この最強超人のキョーイが、あたし達に何を助けて、と言うのだろうか。


 そしてその疑問が解けない、それどころか何一つ理解できない返答が、そのキョーイから来る。


「このままでは、私は皇帝にさせられる。とりあえず一緒にローマに来てもらっていいか?」



――――

 あたしはククル。はるか未来にはマヤと呼ばれるこの地で、水の神トラロック、花の神ショチトルらと共に、「広くなった世界」をどうしていくかを話し合う。彼らの娘、マヤウェルは、なぜかあたしの膝の上でおねむだ。


 私たちの世界を広げた人達。陸遜や曹植、兀突骨達は一度彼らの国に帰った。もちろんあたし達との交流を続けるために、のこった凌統、丁奉、管輅達は、主にパナマの地で交易網の整備をしている。


 彼らは、のちにテオティワカンと呼ばれる、太陽と月のピラミッドが並ぶ、夜の神王の都での戦いからしばらくたつと、この大陸の様々な知識や時事を、本国に持ち帰って行った。


「それにしても、『世界が狭いから、生贄文化が無くならない』と言う結論に行き着くとは、ククル達も相当考えたのだな」


「そうじゃな。妾や主様が散々考えても、『どうすればこの因習を取り除けるか』の答えは出てこなかった。それがそなたや、『西の大きな世界』からきた彼らによって答えが導き出されたのじゃ」


「あなた達二人がそれを強く望まなければ、ここまでうまくはいかなかったんだよ。もしそれがなかったら、南の小さな国についた時点で、彼らは満足して帰ってしまっていたかもしれないんだ。だから、あなた達の辿った足跡も、彼らの力と同じくらい尊いものなんだよ」


 テオティワカンの『夜の神王』テスカトリポカ。その強大な力と、国を発展させる強い信念。そして、生贄の取り込みこそが知識を増やすという伝統。それらを打破したのは、間違いなく陸遜達の、大陸の知恵。とくに孫子ってやつはあまりに大きな力だった。


 そしてあたし達の世界でも、次々に紙を作る環境が整い始め、後にそれぞれテオティワカン、マヤ、パナマ、モチェ、ナスカと呼ばれる地の知識は、一つにつながりつつあるんだ。



「それにしても、島の民達の航海術、夜の民と泉の民の建築術と星読み。そして南の山岳の民のキープに、さらに南の高原の民の、地上絵の儀式。これだけ様々なものが、別々の地で発展してきた。それが一つになり、さらに西の大陸から様々なものがもたらされている。この世界は今後どうなっていくんだろうな」


「どうだろうね。だんだんあたしの星読みも、あんまり先のことは読めなくなって来ているんだよ。直近のところは変わらないんだけどね。そろそろテスカトリポカがまた帰って来そうなんだよ。少し困っていそうだ」


 テスカトリポカ。夜明けの都と変わったその地から、自らの意思で離れた彼は、海を辿って、北の地に新天地を探しに行った。とはいえ、腹心のテペヨロトルと共に、時々この地にも帰ってくる。特に、『馬』という大きな生き物が、西の地からもたらされると、そいつを育て、乗りこなすことにご執心だそうだ。


「あやつ、人が変わったように気さくになったのう。そして、幸いにもすぐに大河を見つけ出し、安住の地を作り出すことには成功してあるようじゃが」


「南の国にも、山壁の向こうには大河があると聞いているが、あちらは密林だから人がなかなか居着けないんだよな」


「北の地は、草原が多いようじゃな。川から離れると砂漠が多いとも聞いたが」


「困り事とはなんじゃろうな?」



 すると、大いに騒がしい二人が、ずかずかと入って来た。


「無理に決まってんだろ? 大人しく馬を育てて、着実に人と土地を増やしていけばいいんだよ」


「でもあんなにどこまで行っても終わらない大河だぜ。まずはその先を見ておきたいって思うじゃねえか」


「そなたら、挨拶もなしに入ってくるのかえ? まあククルのおかげで、来ることは分かっていたのじゃが」


「おお、すまねえショチトル。トラロックも久しいな」


「お前ら、我らとそこまで親しい間柄ではなかろうに」


「まあいいじゃねえか。狭い世界から解放されて、そんなのどうでも良くなっちまったんだよ」


「それで、二人とも、何を言い争っているのかな?」


「なあククル、アイツらの知識も上手く使って、空飛べねえか? 馬と繋がっていてもいいから、もっと広く見渡してえんだよ」


 こいつら、懲りてないんだね。

 お読みいただきありがとうございます。

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