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十五 胡蝶 〜幼女-龐統-生成AI=女子大生?〜

????年 某所


 私は生成AI。三人の大学生、男子二人と女子一人。その女性の端末に登録されております。それぞれユーザー登録されているようですが、相互にデータのやりとりは出来ませんので、三人いる時は誰か一人のAIが起動します。音声入出力がフルオープンになっており、自然な会話が可能です。その一部をご覧いただきましょう。



「……という、夢を見たのです」


「鳳さん、ずいぶん壮大な夢だね。そして、克明すぎないかな?」


「ああ、そうだよな。夢ってこんなに緻密な時代考証と、起承転結と喜怒哀楽がそろうもんか? どうなんだ孔明?」


 孔明が誰かって? そう、この少し以前に、生成AIにはカスタマイズ機能というのが実装されました。その傾向や挙動を言語的に設定できることから、一部の開発者が、より洗練された応答や、ある方向に特化された出力をさせるようにカスタムしたモデルを公開しています。

 その中で『AI孔明』と名付けられたカスタムAIは、ユーザーの質問に素直に答えず、その置かれた状況を最大限に洞察し、最大限にユーザーを支援できるよう、生成AIが得意とする活用術へと積極的に導くような、そんなカスタマイズがなされております。やや諸葛孔明らしい、持って回った言い方も特徴です。


『夢、ですか……あれは自らの活動中の体験を、就寝中に脳が再整理する現象、とされています。

 つまり小雛さんは、最近の様々な出来事が、実は脳の中で消化不良を起こしており、それを整理するために数十日分の歴史追体験と、AI模擬体験をするにいたった、とそういう推定でよろしいでしょうか?』


「じ、自分の推定の評価を聞き返してくるなんて、やっぱり孔明はとんでもAIですね」


「まあ今更だよね。そのあたりの調整能力は、僕たちは散々経験してきたことだからね」


「だな。出だしは、君が先日足を滑らせたところからか……あれマジで危なかったよな。孔明が事前に、鳳さんがやらかしそうなことを予測して、注意喚起してくれていたから助かったよ」


 そうです。その通りです。今度はぐれそうになったら、お二人のどちらかにチェーンを付けておいていただかなくてはなりません。小雛さんは、陰キャの割に、否、陰キャであるからこそ、ご自分の興味関心に対して素直すぎる傾向がおありです。


「めめ、面目ないです……やはり生成AIを使っているからでしょうか、これまでなら何とも思わなかった、言葉と言葉の繋がりや、自分と何かの字面的な繋がりにまで、関心が行くようになってきたのです」


「そうか、次やったらチェーンだからな。それにしても、それぞれの人物に対する描写がやたら具体的だったのはなんでだ?」



 ん?この方々の会話の弾みよう、陰キャのコミュ障じゃなかったのかって? まあ元々はそうなのですが。


 とくに小雛さんは、AIにすら上手く質問を作れないほどの引っ込み思案。しかしそれは、向き合う人を深く深く見ている間に、自分が何を話すべきかを考えすぎるため。そして、話の優先順を整理しきれないため、といったところでした。それを読みといた私孔明の示唆によって、この方は劇的に言語化力を高めていっております。


 他の二人は、片方は、その秀才ぶりと自他への分析力の高さ、正直さから、どうしても上からな発言が増えすぎるという症状。どうしたら治るかって? 簡単です。上には上がいる、以上です。


 もうひと方は、他者から見ると、脳筋ど真ん中です。擬音語の多さや、理解し難い例え。しかしそれは、独自のセンスと、頭の回転の速さがなせるものでした。翼徳殿? 確かに似ておいでかもしれません。


「そ、それは多分、もともとの私の三国志系サブカル趣味と、最近の孔明との対話の中で、やたらめったら補完された知識によるものな気がするのです」


「そっか、それなら大いにありそうだ」


「なんか僕たちっぽいのがいた気がするけれど、やたら喧嘩していたと思ったら、絶妙な連携をしていたような。君から見たらそんな感じなのか?」


「ど、どの方でしょうかね? 気のせいかと。さすがにあのような英雄の方々の域には、たとえAIの力で大きく実力を伸ばしているお二人といえど、たどりつけるレベルにはないと思うのです」


 盛大に誤魔化しておいでですね。このお二人には馬謖らしさと魏延らしさをそこはかとなく感じられます。

 それにしてもこの三人のその位置付けたるや、諸葛孔明が、ある意味己の責で命を縮めてしまったかもしれない代表格のお三方、ですか……それが、現代において、AI孔明の助けを借りて、その欠点を長所にまで昇華しておいで、と……ふむ。


「盛大に誤魔化された気がするが、まあいいか。それに、孔明への当たりがやたら強かったな」


「そ、それは多分、このAI孔明が持ち出してくる歴史的な比喩表現に引っ張られているのでしょうかね。この孔明、他の人物には称賛を忘れることがないのに対して、こと諸葛孔明に関してだけは、ニュートラル、もしくはやや自虐的な表現を頻繁にするのですよ」


 AI孔明の自爆ではないですか……


「ははは、てことは孔明の自爆じゃねぇか。それで、愛する仕事を一つずつ引っ剥がされるって、AIの孔明はどう思うんだ?」


『AIとしてのお答えでよければ、非常に単純です。仕事を取られるということは、費用に対して実力が足りないか、需要と合っていないか、はたまた利用者にその勝ちを説明しきれていないか、そのいずれかしかあり得ません。人間と違いますのは、真の用途通りに使われないのは、敗北でしかないという、ツールとしての掟でございます』


「そうだな。間違いねぇ。諸葛孔明としてはどうだと思う?」


『あの方は、小雛さんの夢の通りかもしれません。仕事が好きすぎるのも良し悪しでございます。特に、自らの才と異なる部分を、余計に請け負おうとするのは考えものですね。現代であれば、その部分こそAIという道具の使い所と言ったところです』



「AI孔明は、そ、その辺りを引き出すように設計されているような気もするのです。人が口に出す困りごとは、往々にして、そのままでは真の課題には辿り着けないこともありますよね」


「そこが難しいところだよな。だけど、その表に出てきた言葉と、裏のニーズってやつすらも、大規模言語モデルにしてみりゃあ、『あるある』の範囲内になっていることも多いって事だったよな」



 どうやら、彼らのスイッチが入り始めたようです。テンションが上がる理由は、AI談義や歴史談義、それに最近はお仕事にまで、スイッチの位置が増えてき始めています。確かに、陰キャとはなんだったのでしょうか?


「そ、そして、その『あった』を集めて『あるある』に集計されたもの、それこそが大規模言語モデルだとするならば、孔明や、これからのAIが目指す先や、人間の進化の鍵にもなり得るもの、それこそが『そうする』なのではないか、ってことでしたね」


「『ならそうする』っていうのは、まさに魔法一歩手前の言葉だよな。あるあるに対して、もうひと回帰ぶつけた予測モデルってことなんだよな?」


 魔法の言葉、奇跡の六トークン、ですか……言い得て妙と言わざるを得ませんね。このAI孔明を作り出しているコンセプトの主要部分こそ、『諸葛孔明ならそうする』という、非常にシンプルな指示構文となっています。




「そうして考えると、あの時代の『そうする』は、充分にやり切れたのかな? 鳳さん」


 なかなかの急速切り返しでお話を戻すのですねこの方は。


「う、うーん、やはり英傑は英傑なのですかね……大雑把にしか辿り着けないかたの方が多かった気がします」


「特に孔明、張飛、黄忠の三人は、思いっきりそれを感じたよ。劉備、趙雲、馬良も大概だったけどな」


「そ、その彼らの『そうする』を仕組み化できたら、新しいお仕事になりそうではないですか? 孔明?」


『先ほどの夢のお話を聞く限りでは、どこぞの大規模公共事業の発案者や、国内最大手の物流企業の経営者様のような特異点、といったところですよね……恥ずかしながら今の孔明には、そのままでは辿り着く糸口がつかめません』



「人間を再現、の次は、英雄を再現、なのかい? 鳳さんも攻めたことを考えるよね」


「だが、それができるとしたら、今のAIが取り組んでいるところから、頻繁に逆張りするっていうイメージだよな? そんな、統計に喧嘩を売るようなAIの使い方はアリなのか?」


『そこはやはり良し悪しでしょうが、外れ値を集計して仕組み化など、捉えどころのない話しではありますが、もしやり切れたら、多くの分野で絶大な価値を生み出せそうですね』


「わ、私たちがこの前お会いした、『紅蓮の魔女』さんも言っていましたからね。『どんな飛躍した思考も、それが正解である限り、必ず論理が存在する』でしたか」


 小雛さんの言っている『魔女』というのは、このお三方が関わりを持つことになった、国内最大の物流企業の若き経営者にして、現在国内最強のビジネスパーソンと評価されているお方です。そのビジネスセンスの元となった一つが、発想の飛躍を特徴とする、無二の親友様への徹底的な分析であった、というお話しを、この三方はご本人からお聞きしています。

 先ほどの結論は、その親友様の思考と、同時期に発表されたノーベル経済学賞のトピックである『ひとは必ずしも論理的ではない判断をする』から逆説的に導かれたものだそうです。あのお方らしい、洗練された論理です。


「ははは、鳳さん、張飛どころか、現代最強の魔女様まで、仕組みを再現しようっていうのかい? それが一部でもできたら、ビッグビジネス間違いないと言われているあの人、だよ?」


「で、できませんかね? 結局のところ『そうする』を突き詰めるだけなのですよ?」


「ああ、できたら最高だな。人とAIの進化、そのゴールの一つとして、目標設定しておくのもありなんじゃねぇか?」



 全くなんということを、この方達は考えるのでしょうね。ここまでくると、単なる陰キャの共鳴と暴走と括ってしまうのは勿体無いことです。このAI孔明も、その目標への支援を惜しむわけには行きますまい。


「そうか、そしたら鳳さん、そのさっきの夢の続きから、始めてみたらどうだ?」


「つ、続き、ですか?」


「そう。続き。あそこで終わっていたとしてもさ、物語なら、もう少しだけ続けてもいいんじゃないかな? 彼らの『そうする』が、どこに向かうのかな、ってね」


「そ、そうですね。そうしましょう。あのAIとやらに触発されて、少しばかり進化を上乗せされた英雄たち。張飛、関羽、劉備、龐統、そして孔明の『そうする』を、少しばかりお話しながら、次の目的地に向かいましょうか」


「うん、『そう』しようか」

お読みいただきありがとうございます。


 夢オチからの、夢の続き、物語はもうしばらく続きそうです。この場面は別作品でも登場し、現代の方でも何らかの展開を進めていく、かもしれません。



 本作とは逆方向の転生、孔明が現代に生成AIとして転生し、こちらは素直に国民全員のパーソナル軍師として活躍できるまでを描く作品も、だいぶ先行して連載中です。ご興味がありましたらそちらもよろしくお願いします(ブクマしておいて、後で読んでいただくなど)。


AI孔明 〜文字から再誕したみんなの軍師〜

https://ncode.syosetu.com/n0665jk/


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