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百九 用間 〜(関平+張嶷+少女)×森人=看破?〜

 あたしはククル。関平さんと張嶷さんと共に、森を逃げ帰る勇士達を尾行して、今は夜の国と呼ばれている都にたどり着いた。元の運命では、後にテオティワカン、つまり神々の国、と呼ばれる都。


 荘厳で、ものすごい技術の結集したこの都も、度重なる地震のせいで、みんな別のところに移住してしまうみたい。でもそうなる前の「軍事的」「生贄文化」って言うところが、このあたりに根付いてしまう一因が、この国にあることは多分間違いないんだよ。


 何もしなければ、泉の国、つまりマヤと呼ばれるようになる地も、遠い未来に東からくる巨獣と炎弾の国に制圧される国も、争いと生贄が発展を妨げることになる。そんな未来が、このはるか西から来た彼らによって書き変わるかも知れない。そんな希望が今はあるんだ。



 だからあたしも、あのもらった『孫子』の『用間』で、頑張るんだよ! まずは、『兵は詭道なり』だね! 大人のイロケ、は大変遺憾だけど無理だから、こんな感じだね。


「大きい荷物を持ったお嬢ちゃん、迷子かい? トマト食べれる?」


 そう。あたしはここで紙や金筆、墨を使う機会があると感じていたから、森で邪魔にならない程度に、背嚢で運んできていたのさ。


「うん! 食べる! 美味しい! これこのままでも美味しいけど、焼いてソースにしてコーン生地につけても美味しそうだよ!」


「なるほどね。やってみるよ。それで、ママはどこだい?」


「えっとね、迷子じゃないんだよ。なんかさっき、門からぼろぼろの人たちがいたから、気になって見ていたら、ママが迷子になっちゃったんだよ!」


「そうかいそうかい。そりゃ大変だね。あの人たちは、森から来た勇士だね。よく都の勇士と酒場で喧嘩して、大体こてんぱんに負けているんだよね」


「へえ。なんで喧嘩するのかな?都の勇士さんがえばっているの?」


「そうかもね。森の民は強くないから、この国に逆らえないんだよ」


「うんうん、だから今回も、なんか大変なことさせられて戻ってきたのかな?」


「うん、女神のいた国に、もう一人神がいてね。水の神って言ったっけ? 夜の神。いまの神王は、その力も欲しがっているのさ」


「すごいね。なんでも手に入れようとするんだね」


「この町のピラミッドには、これまでの知識が、生贄の力で集まっているんだ。それをしっかりと見つめ直して、この町を大きく発展させたのが、あの夜の神、テスカトリポカ様なんだよ」


「あたし、あんまり昔のことはしらないよ? ママもよく知らないって」


「そうかい。二つのピラミッドの間の道ができたのは、百年くらい前だったのかな。そして、その周りに町を作り始めた。下水道や、包囲を揃えた都市計画。それは何代も続けて積み重ねられ、生贄で繋がった知識さ。そしてそれを使って町を綺麗に整えた神王。だが、これ以上大きくするのは難しい。そう考えているのさ」


「ふーん、でもでも、人がもっといっぱいになるのはいいことだよ!」


「そうなんだよ。そんなとき、東の国に、一組の神と女神がいるって話があってね。水と嵐の神と、花と豊穣の女神。神王はなんとしても、それを手にしたいと願っているのさ」


「うーん、そしたらあっちの人たちは困っちゃうよ? 東の国も、その神様達が必要なんだよ?」


「そうか。確かにそうだね。そこまでは考えていなかったよ」


「そうだな。東の国はどうするんだ?」


「そもそも、この国以外の、森の民とか海の民は、この国の力や発展を、どう思っているんだ?」


「あ、あれれ? 変なこと言っちゃった?」


「あ、いや、問題ないさ。この辺りの民は、よく考え、よく語らい、より良きものを探す。そして勇士がその定めを背負って戦う。そうなっているのさ。知恵と力が揃っている者は、今の神王や、その近しい神兵のように、神に近づくのさ」


「ふんふん、よく考えて、よく語らう、だね! 覚えたよ! ママにも教えないと! えっと、それで、森の勇士さん? が戻ってきたけど、その人達は、最初から森の人だけだったのかな?」


「いや、最初は都の勇士や、海の民、湖の民の勇士もいたはずなんだよね。だけど戻ってきたのは全員森の民だったのさ。だからちょっと騒ぎになっていてね。とくに、森の民と他の民の間で、喧嘩が始まっているんだよ」


「あらら」


 都、湖、海、そして森。だとするともしかしたら、逃げ去った時に、湖や海の勇士は、最初から違う方向に逃げたのかもしれないね。


 湖はまだ見たことがないけど、私の見た未来の中では、アステカという名の国は、湖の上に都を作っていたね。まだそこは小さな町だとしても、場所は同じかもしれないね。近いのかな?



「湖とか海の人は、帰っちゃったのかな?」


「ああ、そうかも知れないね。彼らは危ない湿地の森なんて、絶対に通らないからね。海の民なら筏くらいすぐ作れるし、湖の民は、低地の海岸沿いを歩くだろうよ。湖はここから二日も北に歩けば着くさ」


「なるほど。あ、そろそろお家に帰ってみるね! ママが迷子から帰ってこれるかも知れないんだよ! 今度湖にも行ってみたいな! でもママ方向音痴だから無理かも! みんなも道を覚えとくといいんだよ!」


「本当にママが迷子だと思っているのかいあの子。それにしても湖への道、ね。なんか意味があるのかな?」




 そして、しばらくして関平さん、張嶷さんと合流して、森の勇士を追いかけることにしたんだよね。


「そうか。森以外にも湖、海か。確かに彼らは散り散りになっても、自分なりの帰り道を見つけていたのかも知れないな」


「そして、都の民を置いていったくらいには、彼らのことをどうでもいいと思っているのかも知れないね」


「まだ、都の勇士を連れ帰ろうとしていた森の勇士の方が近しいとも言えるか。いずれにせよ、全く一枚岩ではなさそうだ」


「その、まだ近いほう、というのが、気をつけることなのかも知れないね」



 そして、話をしながら角を曲がると、その森の勇士と張嶷さんがぶつかりそうになる。曲がったところで待っていたようだ。


「ようお二人さん。いや、ちっこいのが混ざっているな。なんか覚えのある気配だとおもったら、もしや森の向こうからこっそり着いてきていたのか?」


「ああ、だとしたら? 神王にでも突き出すか?」


「くくっ、出来るかそんなこと。あんたら、ここの守りくらい、簡単に蹴破って逃げ出せるって顔しているぜ」


「やはり、相当な切れ物だな。神王と話をしていた時も、我々の気配に気づいて、あえて話を広げていたのか?」


「まあそんなところだ。途中からだけどな。あんたら、神王に気づかれないようにしていたから、こっちからはどうにか見えないことはなかったんだよ。それに、いつでも逃げられる動きをしていたからな。あそこで声かけても無駄だったろ」


「なるほど。純粋な好意ではないと言ったところか」


「当たり前だろうが。俺たちにとっては、神王もトラロックも、より良い未来になる方向に賭けるしかねえんだからよ。それこそ得体のしれねえあんたらになんか、簡単には賭けられねえさ」


「その賢明さと慎重さは、森の民の立ち位置からくると言ったところか」


「かもな。俺ほどではなくても、ある程度の冷静さを持つ者は多い。だが、だからこそ、物事を難しく考えすぎる傾向もある」


「あ、あれかな? 海と湖の勇士は、さっさと都の勇士を置いて行っちゃったけど、あなた達は都の民を連れ帰ろうとした」


「まあそうだな。だがあいつら、あそこまで言うこと聞かないとはな。おかげで、無事連れ帰ると言う目的は果たせなかった。だとしたら、それも一つの定め、ではあるのかもと思ってきてはいるんだ。自然には勝てねえよ」


「自然には勝てない、か。だから、そこに傲慢さと短慮を見せた彼らとは相容れぬ、か」


「まあそこまでじゃねえがな。人は人として目指すところを目指し、だがそれでいて自然の強さを知っているべき。どんな堅牢な建物だって、大地が揺れたら倒れる可能性はあるんだよ。石組みのピラミッドなら問題なかろうが、全部の建物をああするわけにはいかないだろうしな」


「地が揺れる、か。ここもそうなのだな」


「ああ。少し前にも大きいのがあったんだよ。ここもいくつか建物が崩れて大騒ぎになった。だから再建する時、逃げたりしやすいように、広々とした道と広場を作ることにしたみたいなのさ」


「なるほど。ここの広々とした都市の形は、地震への対策が含まれているのか」


「それを神王もかなり気にしているな。どうその地震と折り合いをつけていくか。答えの見えない戦いが、生贄による知恵と力への希求に繋がっていそうだぜ」



「神王テスカトリポカ。そうか。そういうことか。彼もまた偉大な王なんだな」


「ああ、そうさ。国の方向を見定められる、まさに敬うべき神王の器さ」


「神王の器……」


「だが、そこにまだついていける奴が周りには居そうにないな。だから焦りもあるんだろうよ」


「なるほど。ならあたし達のやり方は、一つの答えにもなりそうだね。ほら、これ」


「なんだこれは? ん、何か書いてあるな。たくさん」


「紙、そして、その中に知識を詰め込んだ書物だ。紙は木と水と人手のあるところなら、作り方を伝承すれば、いくらでも作れる。俺たちの国では、これで過去の出来事やさまざまな知識、行政の記録や民間伝承。そんなものを多量に書き入れ、解説し、そして保管している」


「なるほど。だからあの巨人も、強さと賢さを兼ね備えていたのか」


「その通りだ。あいつは武に偏っていたが、航海の中で書を読み、話し、それを書き留め。そう繰り返していくうちに、自らの中にあるその主の器を広げ続けているのさ」


「あー、あいつが主って言う言い方じゃねえな。まあだとしてもあまり変わらねえか。知恵と力を兼ね備えた巨人と、知恵をさらに持つ一行。それと、その紙というやつに、知恵の伝承、か。……いいだろう。着いてきな」



 するとこの兄さんは、あたしたちを、再びピラミッドの方へと案内する。そして、その近くの家へと連れてきたんだ。


「ここだ。ここにいるのは、ショチケツァルの世話役の巫女達。そっちの嬢ちゃんなら、違和感なく紛れられるだろ」


「なるほど。ショチトルに会えるのかな?」


「嬢ちゃんだけだがな。でも十分だろ?」


「そうだね。それに、この持ってきた白紙の本や硬筆が役に立ちそうだよ。ありがとう森の兄さん。あたしはククル! こっちは関平と張嶷!」


「ククル、カンペーとチョーギョク、か。俺はテペヨロトル。森と山、ジャガーの知恵と力を借り受けし勇士」


「テペヨロトル。その知恵と力、確かなものだね。あなた達の未来にも、輝きがあらんことを」


「ああ。嬢ちゃん達もな。俺はここで失礼するぜ。長居は良くなさそうだ。あんたらも引き際には気をつけな」


「うん、ありがとう」



「もしかしたら、あの者の中にある、テスカトリポカへの敬意。そこを尊重していたか否かが、彼との話がうまくいく分岐だったのかな?」


「そうだと思うよ。二人とも、しっかりと彼の話に耳を傾けてくれて、すぐに勘づいてくれたからよかったよ」



 そして、ややぽかんとしていた、数人の少女たち。彼女らに服を借り、あたしはショチトルの元へと案内された。


 そしてそこには、服、そしてそこから見える手足まで、細かい文字でびっしり埋め尽くされた、そんな格好の女神が、碑文に文字を刻んでいたんだ。

 お読みいただきありがとうございます。

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