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転生AI 〜孔明に塩対応されたから、大事なものを一つずつ全部奪ってやる!〜  作者: AI中毒
第四部 第十三章 神様は見守る 紙様は助ける
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九十八 出航 〜(姜維+鄧艾)×幼女=新王?〜

 俺はパルミラのとある部族長ザッバイ。このアルメニア属州の執政官とはそれなりに懇意にしており、娘のゼノビアを、別のガキや若者と一緒にぶん投げても問題なかったようだ。


 娘達は随分と充実した議論をしたようで、未来の国の形? だの、馬の三倍? だのと、次の日も楽しそうに語り明かしていた。


 このアンティオキアは、三十万ほどの大都市にして、様々な文化と知識が融合した、素晴らしい街だ。だが、このローマという国が、どう見たっていろんなものが歪み始めたこの時代。この街自体も、かなり厄介な状況になっているんだ。


 隣のサーサーン朝や、遠くのゴート族、得体の知れないフン族の脅威。この街は長らく厳戒態勢だ。そのせいで、一度壊滅的な打撃を受けた地震への対策はおろそかになるわ。税を納めるたびに、数日単位の行列が門の前を固めるわ。


 中央のローマ政庁がそれを感知できるとは到底思えねえ。だからこそ、ガキどもの議論があまりに全うに見えちまっているのさ。


「パパ、焦らなくてもいいんだよ! 一つずつ出来ることからやって行けば、いつかこの街も、パルミラも、一歩ずつ良くなっていくんだよ!」


「ろ、ローマは一日にしてならず、だぞ」


「トトガイウス、それは言い得て妙ってやつだが、今聞くと、複雑な気持ちにしかなんねえぞ。どんだけしっかり積み上げても、崩れる時は早いのかもしれねえ」


「それでも、ひ、人はレンガを積み上げるのを止めるわけにはいかねえんだ」


 こいつの頭の中はどうなっているのか。そんなことが頭をよぎりつつ、少しずつ、皆の頭と、行動の指針は整理されていく。



 少しばかり時は流れ、それぞれが動き始める。俺とヒィは政庁と門を往復し、八行八列の「ヒィコード」をどうにかこの地に定着させる算段を整えるようになる。個人の紋様と、街の紋様をそれぞれ掘り込んだ革製の装丁に、出入りのたびにその日の印を押せる、数枚重ねの紙で出来た手帳。


 当面それを持っていれば、行列を飛ばして手続きができるように通達を出すと、半信半疑な商人達も、政庁で少しずつその取得手続きを始める。なにより、「自分だけのコード」の洒落さが話題を呼び始め、徐々に浸透を始める。


 そして、いち早く取得した東国人三人とマニは、二人ずつでサーサーン国境とアンティオキアを往復し、クテシフォンで作られた紙の調達路を整備し始める。地元の商人の協力を得始めてもいるから、遠からずあいつら自身が動く必要は無くなるだろう。


 

 そして、街に残る二人に対して、うちの娘は当然の如く、常に付きまとい始める。ある時は、この一団どころか、国中探してもこいつより強い者がいるか分からん姜維の手解きを、マニと二人で受けてみたり。


「お前の強さがこちらの切り札になる。そんな夢物語は考えるな。だが、お前の弱さがあちらの切り札になる。そんな事が無くなるくらいには、その力を磨き続けるんだ」


「はい師匠! 力や大きさでは敵わなくても、目配りや洞察では負ける理由はない。それが武器になるように、常に見て、常に考える。常在戦場、常在学舎、だね!」


「うーん。ボクはすでに全然ゼノビアに敵わなくなってるんだけどね! いつの間にか死角に回ってくるし、基本的に武器を届かせにくいところにいるし。姜維の動き方をどんどん吸収しちゃってるんだよね」


「それでも、戦場で本気になった男の人に通用するまでにはならないってことだよね! 特に、本当に強い人たちにはね。だから、腕だけじゃなくて、総合的な強さ、なんだよね」


「ああ。シャープールは必ず強くなる。腕も、それ以外の総合的なところもな。お前にとって高い壁になるだろう。だがその壁を避けて通るな。あいつとやり合うことは、必ずお前にもあいつにも糧になる」


「切磋琢磨、だね!」


「そして、その対峙が、決定的な決裂になる前にどうにかするのは、マニ、主にお前の仕事になるんだろう」


「戦いが、切磋琢磨の域を超える前に、『互いの違いを尊重した、それぞれの小さな国』っていう考えを浸透させるんだね。その間のやり合いは、いざローマ中央と相対する時に、必ず必要になってくる。そう言うことなんだよね」


「そう言うことだ。マニ、ゼノビア、シャープール。三人はおそらく、相当に長い時を、共に過ごすことになるだろう。今すぐに、どんな形になるのかを見定めろとは言わない。だがいずれ、三人それぞれが大きなものを背負って、向き合う時が必ず来る。そんな時までに、己を見つけ、対話の力と場を整えておくんだ」


「「はい!」」


 こいつはこいつで、どんな未来を見据えているのか。だが一言で言えばこうなのだろう。「英雄は英雄を知る」。



 そしてまたある時は、トトガイウスとヒィが、周辺の状況を調査しながら議論を進める。


「あアルダシールはなかなかの野心だぞ。メソポタミア全域も、このアンティオキアも手に入れたがっているんだ」


「先日の、皇帝の親征が失敗に終わったのが大きいですね。アンティオキアに帰ってきましたが、明らかに凱旋という形は取れなかったようです」


「戦争は勝っても損することもある。ま、ましてや負けたらその損は大きい。そこのせ責任や、印象ってやつは、簡単には払拭できないんだよな」


「ガリアにはゴートが侵食してきていて、アフリカもかなり不穏な情勢。今私たちがいるあたりはサーサーン朝と、いつ何が起こるか分からない状況。はたして治世の能臣っていう現帝が、いつまで持つのか」


「ざザッバイ、あの執政官は結構頼りになるぞ。だが国や地域全体をまとめられるだけの器とは言えねえ。色々見たり聞いたりしてきたんだけど、それが出来るやつは、この辺りには結局一人しかいなかったぞ」


 妙な事を言うもんだ。国をまとめる? 一人?


「国をっていうのは、この前お前達が言っていた、『そこまで大きくなりすぎない範囲』とか言うやつだよな。それでも出来るか出来ないかでいうと、出来ないやつばかりだって言うのか」


「そうだな。パルミラ、それとエジプトくらいか。アナトリアまで広げると少し大きすぎるかもしれねえし、ローマとも近すぎるかもしれねえ」


「つまり、ローマから独り立ちするような方向性を持っている、っていう事なんだな」


「そうなっちまう可能性が、い今はものすごく高いと思っておいて損はねえ。アンティオキアどころか、ローマの側にも、どんなすげえやつがいる、という話が聞こえてこねえんだよ」



「……今の帝以上の存在が、果たして今のローマにいるのかどうか、って事だな。それで、さっき言っていた一人って誰のことだ? 執政官以上の存在は、ちょっと見当たらねえぞ」


「ゼノビア」


「はあっ!?」「ええっ!?」


「ゼノビア」


「い、いや、聞こえなくて聞き返したわけじゃねえ! なんて事を言い出すんだよ!」


「ザッバイ、お前、自分の娘が結構できるやつだっていう感覚が、自分の身びいきだ、とか思ったりするか?」


「あ、まあ、そんなもんなんじゃねえか? 確かにこいつはそこらの子供に比べても利発だし、大人と会話させても何ら遜色はねえ。だがそれが、ガキならではの才気なのか、本当に優れているのかってことかは分かったもんじゃねえぞ」


「ど、どこの国に、その執政官や、と東国から来た経験豊富な旅人、こ故郷の戦を止めた奴が混じる議論に、堂々と存在感を出せる小娘がいるんだよ?」


「言われてみればその通りだな。でも、だとするとこいつが王や帝になるって話になるぞ?」


「そうかもしれねえし、そうじゃないかもしれねえ。でも、この娘っ子に、ぱパルミラという地域の未来、中央任せではないローマの新しい形を占わせることはできるかもしれねえ。そして、ローマとペルシャの終わりない戦いに、一つの安息をもたらすことだって、こいつになら出来るのかもしれねえ」


「ローマとペルシャに、安息を……それは、今の今まで、誰一人成し遂げていないことだぜ。それこそ、ゴルディオンの複雑すぎた結び目を、ぶった斬ることで解決したアレクサンドロスすら、その統一は一時的なものでしかなかったんだからな」


「ぺペルシャには、アルダシールとシャープールがいる。間を渡り歩いて対話を進め、人々の心を安ずるマニがいる。キリストの意志を継ぐやつらも加わるだろう。そんな中で、しっかりとした意思をもって、この一帯を安定させる道を見つけられるのは、こいつぐらいしかいねぇように感じられるんだ」



 ゼノビアを見る。この目はもう、やるからやないか、ではなくて、どうやるのか、って考え始めている目のように、この父の目には映る。


「私が、パルミラを。そして、ペルシャとローマの終わりない戦いを止める?」


「どうやってそれを成し遂げるかは、それこそ一日にしてならず、だぞ。今ちょっとずつ進めている、アンティオキアの改革もその一つだ。そして、そろそろ俺たちは、アレクサンドリアに行く。何をしに行くかは教えたな?」


「アレクサンドリア図書館の再建、だね! 温故知新、覚えてる!」


「ああ。お温故知新。それを本当の形にするんだ。しばらくはくクテシフォンから紙を調達して、バラバラになりそうな書物を集め直して写しとるっていう地道な作業になる。そしてその中で、アンティオキアにも、クテシフォンにも、ローマにだって、同じような知識が集まる図書館は作れるんだ」


「アレクサンドリア図書館を、各地に。それが出来たら、みんなが、昔の知識と今の知識に触れられる。みんなが、対話する時にその前提の知識を同じくらいのところから始められる。そうしたら、相手のことが、少しずつ怖くなくなるかもしれない」


「ああ。それはもう、馬の三倍に手をかけ始めていることなんじゃねえか?」


「あっ! そうなんだね! みんなが伝えたいことが、正確に伝わるようになる。それに、古い知識から新しい技術が生まれたら、もっと速い輸送や、速い伝達の方法だって、誰かが考えつくかもしれないね!」


「どうだザッバイ。こんなところまで、この娘はすぐにたどり着くんだよ。あとはどうやって、こいつ自身がやりたい事をしっかりと見定めて、みんなを巻き込むかってところになってくるんじゃねえか?」



 間違いねえな。この気持ちは親バカではないんだろう。こいつは英雄の器がある。ならば、同じくその器を持つこいつらに、一度預けるべきなんだろうよ。


「トトガイウス、ヒィ。こいつもアレクサンドリアに連れていっちゃくれないか? 俺はここで、ヒィコードの普及や、戦争と災害対策の話を執政官と議論し続けて、少しずつここを変えていくことにする。いやなに。アレクサンドリアとアンティオキアは、船なら目と鼻の先だ。何度でも行き来できるさ」


「ああ。分かった。ゼノビア、どうだ?」


「うん! 行きたい! 連れてって! 手伝わせて!」



「よし、わかった。姜維やトトガイウスがいれば、安全の問題はなさそうだ。そうとなれば、船を見繕うぞ。執政官に言えば、行き来する便を見つけるのはすぐだ」


「春になるのを待ったほうがいいのかな?あと三月くらい?」


「ひ費禕、紙どれくらいいけるんだ?」


「ある程度印象づけられる量となると、最低十万、出来たら二十万ほしいですね。私たちが出発する前に、ローマにいくらでも需要があると言い含めているので、物は足りるでしょう」


「そしたら運ぶとこだな。ざザッバイ、陸路増やせるか?」


「ああ。嵩張るが軽いから、問題ねえ。だがずっと陸路は効率が悪そうだな」


「将来は、海路も視野に入れられたら良いでしょう。まずは、紙というものが、いずれ無尽蔵に手に入るものだという印象を与えることが肝要です」


「しばらくは、陸路の隊商主流か。そしたら、その物流を確保するために、ある程度の独立戦力は許されるだろうな。執政官と連携して動いてみるぜ」



 三ヶ月後、二十万枚の紙を積んだ船が、出航の途につく。マニ、姜維、トトガイウス(鄧艾)、費禕、ゼノビア、そして俺は船に乗り込み、乗組員に出航の合図を出す。


 ん? なんでお前もいるのかって? 当たり前だろ。どんな最強のやつとて、初めて訪れる地に、一人娘を預けて放り出せる訳がねえ。


 まあどうせこの娘はそのうち「地中海は庭みたいなもんだよ!」とか言い出して、俺もどうでも良くなる気がするんだけどな。それまでしばらく同行させてもらうことにする。

 お読みいただきありがとうございます。

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