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転生AI 〜孔明に塩対応されたから、大事なものを一つずつ全部奪ってやる!〜  作者: AI中毒
第四部 第十三章 神様は見守る 紙様は助ける
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九十七 三倍 〜鄧艾×(マニ+幼女)=扉顔?〜

「馬の三倍のはやさで走れれば、ローマは大きな国を目指せる」


 鄧艾の、誰が聞いても意味が分からない論理。だこいつが意味わからないことを言った時に、意味がなかった事がない。それは私だけでなく、付き合いがそれほど長くはないマニにすら、その認識があった。


 だから、ゼノビアと執政官がぽかんとしている隙に、マニがその意味を問いただす。


「トト、どういうことかな? とりあえず二つの間を埋めてくれると助かるんだけど」


「馬の三倍早ければ、中央の考えも、地方の悩みも早く伝わる。戦いの時間も減るから、働く邪魔をすることも減る。戦いながら、民の暮らしを考えられる。何より、どっかでやってみた良かったこと、悪かったことを詳しく知って、それぞれの土地でどれが良いのか議論できる。そうしたら、国はある程度大きい方が良くなる」


「うん、つまり、馬の三倍早く動く。それは人の動き自体もそうだし、場合によっては情報の伝達だって構わない。どっちにしろその動きが今より早くなれば、とそういう話なんだね」


 マニはとりあえず一つ目の関門、とばかり、鄧艾の話の半分くらいを聞き出した。だが、それでは片手落ちどころか、論理が成立していない。


「鄧艾、お前はエウクレイデスの『原論』っていうやつをみたんだろ? AならばBという論理接合は、Aという事象が偽であるなら、常に成立するんだ、と。お前は今、それを言っていることになるぞ?」



「へへっ、きょ姜維はお見通しだな。だけど、その論理ってやつを使うことに、意味があるんだよ」


「ん? 論理を、使う? なかなか物騒な話になってきたが、大丈夫なのか? 話はうまくまとまるのか?」


「ああ、多分大丈夫だ。さっきの、『馬が三倍なら行ける』というのは、『馬が三倍じゃなければ無理』っていう説得が出来るって意味なんだよ」


「なるほどな。論理に抜けはあるが、そこに納得感はえられる訳か」


「そうだ。『そんなの無理に決まっている』という正論。その上で、ろローマにはもう一つ、す少し控えめの選択肢を与えるのさ。『それが本当にできるようになるまでの、次善の策』って奴をだ」


「お前、それは騙りの策ではないか! 声東撃西という三十六計の一つが、それに相当するかも知らんぞ?」



「ああ、それが一番近いぞ。『しばらくの間、目を逸らす』。そ、それでも切り抜けられるくらい、今のこの地は、盲目的にい戦しか選択肢がねえんだ」


「……だからこそ、次善、なんだね。トトの考えは、間違いなく有効だよ。執政官様、どうですか?」


「んっと、策として二段の構えをしている、ってことでいいか?」


「おそらくその御理解なら問題ないかと」


「つまり、『馬の三倍早く動いたり、伝わったりする』っていう無茶苦茶な社会が成り立つのを期待する、というのが一つの策。だがそれは、『到底無理な要求』と言っても過言じゃねえ。そこで、その策が成り立つかどうかってところに、もう一つの『大きくはない国として、一時的にしのぐ』ってのを提案する。そういうことか?」


「そういうことだな。二つ目の策が、いかにももっともらしく聞こえるための、一つ目の策、と言ったところだ」


「うーん、でもでも、一つ目も、もしかしたらどうにかなるかもしれない。そんな含みを残しているんだよね? トトガイウスがそんな顔をしているんだよ?」


「ああ、そうさ。う馬の三倍っていうのは、必ずしも馬が三倍早く、って言うだけじゃねえ。情報が伝わる速さを速くする仕組み。馬が速さを保てる道の整備や、船の速さや確実さを高くする技術」


「速さだけじゃなさそうだね。ちゃんと正確に物事が伝わる仕組みや、受け取る側の知識の深さ。そして、お互いに対しての、ある程度の理解。そんなものも含めて、『今の三倍』っていうことなんじゃないかな?」


「おおー! そういうことなんだね! 『馬の三倍』っていうと無理だってなるけど、『今の三倍』なら、いろいろと工夫をすればできなくはない気もしてくるね!」


 鄧艾め。やはりこいつの突破な言い方の裏に、しっかりとした論理の裏付けが存在するか。だがこれなら確かに、どうにかなるかもしれないな。



「その、『馬の三倍』もしくは『今の三倍』が成立する合間に限定した、かりそめのこう着状態。それを認めさせた上で、その間に各地の『まあまあ良い状態』を成立させる、ということで良いのか?」


「そうなんだね! その間だけ、っていう言い方をすれば『戦いが高くつく』から、今はやめておこうっていう言い方は、どうにかなるのかもしれないよね!」


「トト、それで行けそうかな?」


「行けるかどうかは分かんねえ。でも、か考え方の方向は合っているはずだ。『高いからやめろ』だけだと、納得しねえ奴はでてくる。だから少しでも、それを認めさせる考えを足すんだ」


「その先に軸として加えるのが、ただの腕っぷしだけの戦いから、国の仕組みの整備や、技術の革新と言った部分の、新しい競争軸になるわけか」


「そうだ。だ誰が一番早く『馬の三倍』を達成させられるのか。それをどうやって成立させるか。そんな勝負になるんだぞ」


「そんな戦いだったら、わくわくするかもしれないね! 馬が速く動けるための方法。ものが動くよりも速く正確に物事が伝わるやり方。そして、もしかしたら馬よりも速く人を運べる何か。そんなのをみんなが目指した先には、みんなの暮らしがもっと良くなる事が見つかるかもしれないんだよ!」


 ゼノビアが発したその言葉が、全てを物語っていた。今よりも高度な技術が当たり前になっている時代。そんな時にも人はまだ、「自分の国が大きいこと」を望むのだろうか。



 そんなことを考えたら、「人と人、人と神の対話がどう突き詰められるか」を考えているマニが、こんなことを考えるのは当然といえるだろう。


「そんなふうに考え始めたら、人と人との理解がもっと深まるかもしれないね。そうしたら、隣の国の人たちが怖いなんて、思わなくなるかもしれないよ。もしかしたら、『あなた達が隣人なら、ボク達は大丈夫だ』と思える日々が、くるのかもしれないね」



 そのマニの言葉、どこかで聞いたことがある気がする。そんなことを思いつつ、鄧艾と顔を見合わせていると、ゼノビアと執政官が同時に、どこかで聞いたのだろう言葉を発する。


「「汝の隣人を愛せよ」」


「ん? なんだそれ? どっかで聞いた気がするんだけど……」


「ああ、トトはまだ知らなかったか。二百年くらい前にいた、一人の聖人の話を」


「聖人? なんかすげえのがいたのか?」


「ああ、そうだよ。戦乱や貧困にあえぐ人々に対して、どう言った心持ちなら、その人たちが救われるか。どんな言葉をかければ、その人たちの苦しみを少しでも和らげられるか。そんなことを考え続け、ただその人たちのために祈り続けた。そんな聖者がいたんだ」


「イエス=キリスト。一部の人から、神の子とも表現される、聖なる人だ」


「貧しきものは幸せ。必ず神が救うから。嘆き悲しむものは幸せ。必ず神がそれを解決に導くから」


「そして、『汝の隣人を愛せよ。さすれば皆が幸せになる』だね」


「だが、その高潔すぎる考えは、人々の共感を呼び覚ましすぎたんだ。そしてその波の大きさは、時の権力者たちに疎ましさや、恐ろしさを感じさせてしまったんだよ。その結果彼は磔の刑に処せられた」


「だけど、その志は、多くの弟子たちによって広められつつあるんだよ! 今はまだ、このローマの地でもそんなに広がってはいないんだけどね。この世の中の混乱が続いたら、かえって人々の心を掴むかもしれないんだよ!」


 イエス=キリスト。その名はペルシャの中でもわずかに伝わっていた。その高潔さは、東の何人かにも通ずるものがある。


「こ孔子様、あるいはインドのぶブッダみてえだな。その時代には、大した影響を与えられなかったり、虐げられたりしていたんだ。だけど、そのこ高潔な考え方は、人々の心にしっかりと根付く。そしていつかどこかで、時の権力者と結びつくのかもしれねえ」


「そうなのか。漢の儒の考えや、仏の教えってやつだね」


「そうさ。だけど、そのお教えってやつが、必ずしももともとのこ高潔なものであり続けられるのかは、別問題なんだぞ。確かに人が信じる拠り所としては、強い力がある。でもそれは時々、すこし怖い方向に人を動かしちまうんだぞ」


 鄧艾は、儒教をあまり好んではいないんだよな。襄陽が陥落した時に、魏からあっさりと鞍替えして、より未来を見据えられる選択をしたという経緯もあるんだ。


「きょ姜維。別に俺は儒教自体が嫌いなわけじゃねえんだ。こ孔子様の考えはちゃんとわかっているつもりだ。でも、それが漢の腐敗を招いたってことを、ちゃんと見直さねえと、この先良い方向にいかねえ気がしているんだぞ」


「鄧艾よ、俺が何かいう前に、視線だけに応えやがったな。まあその通りだが。たしかにそうさ。マニやゼノビアも、よく覚えておくんだな。元々の考えがどれだけ高潔であろうとも、それが権力や利益に結びついた途端、人はどう動くか分からない。特に、違う考えの物がぶつかる時には、その二つが決定的な破綻を招く可能性は、常に意識しておかないといけないんだよ」


「うん、しっかりと頭に入れておくよ。だからこその『人と人の対話』なはずなんだよね」


「わかった! って簡単に返事しちゃいけないのかもしれないね。でも絶対に忘れないよ!」



 そんなことを話しているうちに、夜が更けていった。子供達を送り届けるべき時となったので、一時解散となり、彼らの背を見守る執政官が、こんなことを呟いたように聞こえた。


「あのガキどもが大人になる時に、どんな状況になっているのかはわからねえ。多分今よりいいってことはねえんだろう。でも、少しでもマシな世の中になっているように、俺たちおっさんが手を尽くす必要があるんだろうぜ」

 お読みいただきありがとうございます。

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