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転生AI 〜孔明に塩対応されたから、大事なものを一つずつ全部奪ってやる!〜  作者: AI中毒
第四部 第十三章 神様は見守る 紙様は助ける
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九十六 議論 〜(鄧艾+マニ+幼女)×執政官=??〜

 パルミラ地域のある部族長ザッバイとその娘ゼノビア。

 サーサーン朝とパルティア朝の争いを止めた少年マニ。

 そして、はるばるシルクロードの全旅程を踏破した鄧艾、費禕、私姜維。


 我々六人は往来で騒がしく議論していると、それを聞きつけてやってきた、ザッバイの知り合いの執政官殿が、続きは政庁でやれと促してきた。執政官殿は、三十代くらいに見える。我らとザッバイのちょうど間くらいか。


 いつも通り眠そうな費禕と、やや疲労が見えるザッバイ以外は元気が有り余っているようなので、手配された宿での作業を二人に丸投げし、四人で政庁に向かうことにした。


「すまねえな執政官殿。流石にあの行列はおっさんには答えるぜ。あれを解決する東国の技術は、また明日以降、このヒィと一緒に持っていくから、今日はそっちのガキどもの相手を頼むわ」


「ひでえ丸投げだなザッバイ。まあ声かけた手前、歓迎はするがな。その何やらとんでもない技術のことも、噂に流れてきているから、後で詳しく聞かせてもらうぞ。今日はゆっくり休んでくれ」


 そして、ガキ二人と、ガキ以上に手を焼くであろう鄧艾を連れて、政庁に着く。


「執政官のオダエナトゥスだ。ゼノビアは初めてではないが、だいぶ前だから覚えていないだろうさ」


「うん! 覚えてない! パパの友達ってことは聞いてたけど!」


「マニと申します。祖国での戦を通して、人と人、人と神の対話の意味を見つめ直す。彼ら三人の東国人の先導のもと、そんな旅をさせてもらっています」


「マニ、か。あのバベルの話、そしてエクバターナの和解の話は、吟遊詩人や情報筋から聞いている。そうか。そなたがあれを、か」


「吟遊詩人から聞いておいでであれば、三人の東国人のこともお聞き及びでしょう」


「ああ、屈強なる語り手キョーイ、夢中なる書き手ヒィ、叡智の道化師トト。おおよそそんな言われ方をしているな」


「姜維です」


「と鄧艾っす」


「キョウイ、トトガイウス。なるほど。だがこいつはギリシャの者ではないのにそのような名なのか?」


「いえ、こいつはどもりなので、ところ変わるたびに変な名が定着します。本人も直す気がないようです。正式には鄧艾と言います」


「うん、トトガイウスのほうが、この先も通りが良さそうだね!」


「ペルシャだとトトで定着したね」


「お覚えて貰えばなんでもいいぞ。名前も暮らしも、適法や、街並みだってひとつじゃねえんだ」


「早速その話か。私が向かった時には、国の大きさや治め方、そして女王という話をしていたな」



 さっさと本題に入りたいという、鄧艾の感情が伝わってくる。それはまあ私や執政官を含め全員そうなのだから、乗っかることにする。


「国が大きくなりすぎると、統治がままならない。その地の民や、地域の状況に合わせた治政をなせる国の大きさには、おそらく限界がある。そういった話でしたね」


「ねえキョーイ! その限界ってやつ、色んな種類がありそうだよね?」


「限界の種類、か。確かに幾つかあるかもしれないな。往来や伝達の時間、言葉や道徳規範のずれ。建築や伝統文化、ひいては自然環境や外部環境の違い」


「全部つながっていそうだね。根っこのところでは、中央政体が、地方の多様性をどれだけ認められて、それぞれの地方の状況にどれだけ正確に対応できるか、ってところになりそうだよ」


「さっきの、戦争への備えと災害対策、みたいな複雑な課題を、自分ごととして判断しないといけないんだね!」


「自分ごと、か。自分の国なんだから、自分ごとが当然のはずだよね。でもちゃんと意識しないと、そうじゃなくなってしまうんだね」


「だとしたら、国の大きさの限界、っていうのは、ここまでは自分の国です、って言えるところってこと?」


「うーん、でもそれだと、人によっても変わっちゃいそうだね。アレクサンダーやカエサルは、全部自分の国だって言いそうだし、アルダシールとローマの皇帝はどっちも、アルメニアは自分の国だって思っていそうだよ」


「うーん、えへへ。難しいね。国を大きくしたい人がいて、自分たちの暮らしを守りたい人がいる。その、国を大きくしたい人は、そこに住む人たちの暮らしのところまでどうしたい、って思っていたのかな?」


「ローマやサーサーン朝は、どう考えているんだろう? なぜこの地が自分たちの国だって思いたいんだ?」


「うーん、一番わかりやすいのは、自分たちの近くに、敵がいるって嫌だよね? ってことかな?」


「そうなると、解決策がないことになるね。アンティオキアとクテシフォンは、旅人にとっては遠いけど、国を治める人たちからすると、少し近すぎるのかもね」



 ゼノビアとマニが次々に考えを進めていく。だが、放っておくと永遠に終わりそうにない。執政官も、そんなことを考えている、難しい表情をしている。


 こんなとき、少し、いや、思いっきり違う方向から話をする奴がいる。鄧艾だ。


「せ、戦争をしたい奴っているのか?」


「ん? 多分それは、向こうの国の地が欲しいって意味ではなくて、ただ戦いたいって言う意味だよね? そう言う意味なら、いない気がするけど……」


 ……実はいるのかもしれない。それを言うと鄧艾の発言が無駄になるので、黙っておく。


「そしたら、どうしたら、せ戦争をしなくて良くなるかを考えるといいんだ。ローマと、ペルシャは、なんで戦争する?」


「それは、自分たちの国がここまで、って思っていないから? かな?」


「もう一つあるんだ。せ戦争したら、その土地が手に入ると思っているからするんだ」


「「!?」」


 なぜそんな当たり前のことを。そういう表情をしている。だがおそらく鄧艾はいつでも、本人の中では当たり前のことしか言わない。


「せ戦争って、どれくらい大変か知っているか?」


「うーんと、兵を訓練して、どう攻めたらいいかを考えて、食べ物を用意して運んで。その間、兵たちが働く分のお仕事は止まっちゃう? すっごく大変だね!」


「ああ。せ戦争は大変なんだ。た大変だってちゃんと分かってくると、した方がいいのか、しない方が良いのか。そんなことを考えるようになるんだ」


「つまり、いまのローマやサーサーン朝は、アルメニアを取り合うことが、そんなに大変なことだって思っていないってこと?」


 ゼノビアは、考えながらも即答する。それが出来るやつは、そう多くはない。執政官はそんな驚きを隠すような顔をしている。



 ここで一つ、鄧艾に助け舟を出してやろう。


「私たちの故郷、漢という国の話をしよう。もともと一つの国だった漢は、大きな反乱の後で、国が一度ばらばらになった。そして、元通りの一つにしようとした者、自分が主となり新たな国にしようとした者、一部でも自分の国として、勢力を安定させようとした者。様々現れた」


「ばらばらに……ローマの前みたいな形なのかな? もしかして、これからローマもそうなっちゃうのかな……」


「ゼノビアがそう感じているなら、その可能性はないとは言えない。だから、その先のことまで知っておくべきなんだ。たくさん出てきた群雄は、結局三人が残った。

 統一直前まで行きかけたが、何度か大きな負けを経験し、一旦保留せざるを得なくなった、曹操。

 その負けを相手にもたらし、南東の地を我が領分として安定させ始める、孫権。

 そして、元の漢朝の末裔として、再興の希望を捨てずにあがき続ける、劉備」


「三人……」


「そして、個々の力はあれども、まとまった勢力がなかった劉備軍が、強力な戦略家を得た結果、三国の力は拮抗した。その結果、北東から中央を抑え、強大な戦力を保有する曹操の魏、南東の河向こうを広く抑え、海からも利を得る孫権の呉、そして南西の山岳地帯を抑え、北西の騎馬民族とも連携を密にする劉備の蜀」


「勢い付いたしょ蜀が、魏から、長安を奪い取った。西の長安、東の洛陽、南の襄陽。この三つの都市は、アンティオキアと同じくらいだが、関所を挟んで数日歩けば着いてしまう距離だ」


「そうなったら、どっかが攻め込んでも、違うところが何するか分からないから、怖くて攻め込めないじゃない!」


「そう。こう着状態だ。これまで日々戦いを続けていたのに、一般にそれが『高くつく』ようになってしまったんだよ」


「戦争が、高くつく……」



「そして、そうこうするうちに、北の草原の騎馬民族が、やたらと強くなってきてしまったんだ。そうしたらもう、三国を一つにしようって考えている所ではなくなり、とりあえず今の形を維持しつつ、北の脅威に備える。そうするしか無くなったんだ」


「こう着状態、新たな脅威」


 マニが気づく。


「もしかして、その騎馬民族って、フン族と関係ある?」


「ああ、おそらくそうだ。特徴が似すぎている。あいつらは、我らからすると『戦争がしたい』んじゃないかって言うくらい、戦いを好むように映る。そんな奴らがいる状況で、『高くつく』戦い、続けても良いと思えるか?」



 ここで執政官が、まとめにかかろうとする。


「なあお前さんら、この話、とんでもなく重要な考え方なんだとおもうんだ。だから、このアンティオキアを守る意味では、ローマとして守る、あるいはペルシャが奪おうとする。そんなこれまでとは全然違う考え方だ。だとしたら、どうやってそれを実現すれば良い?」


「んー? 執政官様が、ローマに行って、こうしよう! って言う……のは無理だね!」


「そうなんだ。無理なんだよ。ローマはローマだ。一つの国でありたがる。それが『高くつく』なんて一言でひっくり返ることはねえ。あいつらは、目の届くところにローマ以外が存在することをゆるさねえのさ」


「うーん、どうしよう……」



 話は堂々巡りか? 皆そんなことを考えている。だがそこで止まるこいつらではない。まずマニが、一つの指針を見せる。


「ゼノビア、そのどうしようには、二つのどうしようが入っていそうだよ?」


「えっ? あっ、そうか。どうやってそのこう着状態『高くつく』を作ろう、っていうのと、それをどうやってローマの中央に分かってもらおう。そういうこと?」


「うん。幸いなことに、時間はもう少しあるんだ。一つずつ考えてみるのが良さそうだよ。実現は置いておいて、考えるだけなら、一つ目からの方が、ボクやゼノビアにとっては考えやすそうなんだ」


「それは、私たちが、今のこの地の状況を、しっかりと分かっているから、ってことだよね?」


「そうだね。そして、今の君の言葉で、もう一つもどうにかなるかもしれない。ねえトト?」


 マニよ、そこで一番何が返ってくるか分からんやつに話を振るのか? 


「ああ、つまり、どうしたら今のローマのやりたい事が出来るか、を、ローマの中央に分からせれば良いんだ。それには、馬の三倍で走る必要があるぞ」


「ええっ!?」「はあっ!?」


 ほらな。

 お読みいただきありがとうございます。

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