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十 建康 〜(魯粛+呂蒙)×(馬良+法正)=健全?〜

 私は三国の時に転生した、幼女系生成AIです。何者かって言いたくなるお気持ちはご容赦願いたいところです。軍中で書類仕事のかさむ文官や策士の皆様には、生成AI本来の機能を活かしてその負荷を軽減できていると見られます。白眉こと馬良様や、劉璋軍に見切りをつけて鞍替えして来られた法正殿あたりは、随分と顔色もよくなられました。


 そして、この西蜀を治めんとする我らが陣営に訪れたのが、何か悪いものでも召し上がったかとばかりの、やたら顔色の悪いお二方。私は表立って会いに行く利もなかろうと、離れたところで様子を伺います。



「魯子敬殿、そして呂子明殿であったかな。ご機嫌うるわ……しくはなさそうなお顔色ですが」


 魯粛殿と、呂蒙殿ですね。周瑜殿が、どこぞの鬼畜の煽り手紙によって命を縮めたのち、都督として呉の軍をまとめる役に加え、その才を買われて我らの陣営との外交交渉まで丸な……まかされておいでです。お顔からわかるように、激務です。黒部署です。


「皇叔殿、あなた様はずいぶんと晴れやかなご様子。なかなか順調のようですな」


「おかげさまで、もう少しですね」


「おや? 孔明殿はいずこに?」


「ああ、あなた方がそろそろおいでになる頃と見越して、物書きをしております。書き上がっていたはずなのですが、なにやら直しに直しが入っている由。なかなか合格がでぬようですな」


「直し? 合格? あの方の書に?」


「まあゆっくりしていかれよ。お二人とも、いつお迎えが来てもおかしくないお顔をしておいでです。孔明が自ら薬酒と精のつく料理を用意しましたので、こちらへ」


「「孔明殿、暇ですか!?」」


 連れられた先には、馬良様と法正様がおいでです。馬良様と魯粛殿は旧知のようですね。


「おお、白眉殿! 久しいな」


「富豪都督殿ですか! ご機嫌……よくなさそうですね」


「まあ、あなた方のご対応が、この胃痛の四分ほどを占めているのですが……」


「まあまあ、とりあえず残り六分のうち、三分だけでも先に癒しましょうや。こういうのをご覧ください」


 そう。馬良様や法正様は、私がお教えした帳簿の付け方や、計算の確認法、わかりやすい報告文の書き方など、事務仕事の効率を大きく引き上げる手法の数々を、惜しげもなく彼らにお渡しします。



 それというのは、彼らがくる前少し前のことです。


――

 私と馬良様、法正様は、二人について軽く相談します。


「なるほど。魯粛殿が命を縮めてしまうのは、我らにとって益なく害ありということだな小雛」


「はい季常様。魯粛殿だけでなく、おそらく跡を継ぐ呂蒙殿もですね。あの二人は、呉の中でも我らへの融和を是とする方。さらに短慮に走ることが少ない方々です」


「二人が相次いで離脱となりますと、あとの方が、少々苛烈になる恐れがある、ということですね」


「はい法正様。なので、彼らの心労を取り除くことは、大きな益となる可能性が高いです」


「心労は、三つだな。一つは我らと荊州。今一つは合肥や荊北での曹軍との争い。最後は書類仕事」


「そうです。なので、これらを一つずつ解消してしまうのが良いかと思います。例えばこちらの技法は、お渡ししても不利益はありません」


「なるほど」


――


 というわけで、お二人に対して、我らの仕事効率化の技法を次々に披露し、その要諦をまとめた書簡をお土産にお渡しします。


「なるほど……このように罫線を用意しておけば、ぶれも過誤も減りますな」


「桁区切り? 確かに見やすい」


「可測指標、とな? ほほう」


……


 そうこうするうちに、特に呂蒙殿の顔色はみるみる好転します。


「たすかります。この腹黒師匠が、教育にかこつけて渡してくる書類や帳簿の数が、年々増えていくので」


「やかましいわ。教育の側面もあるが、年々その総数が増えていっているのだ」


「増えて欲しくなくば、荊州はご不要でしょうかな?」


「それとこれとは別だわ馬良! 内務のみならこなせる者は江東に十分おるわ!」


「左様ですか。ではこちらは不要ですかな?」


「子敬殿……」


 からかう馬良様と、下がるような目の呂蒙殿。魯粛殿も内心は同じであるため折れます。


「ああすまぬの。怒鳴るほどのことではなかったわ。それはぜひいただきたい」


「冗談ですよ。元々これは、荊州の賃料としては十分ではないかと、我が君のおおせです」


「なるほど……」


 ここで、彼らに声がかかります。


「ご使者殿、主がお呼びです」


「わかり申した」




 ふたたび劉備様のところへ。今度は孔明様もおいでです。やや頭巾がずれていますが。


「再びお呼びとは、もう準備ができたのですかな?」


「はい。孔明、頭巾がずれているぞ」


「あっ! これでいかがでしょう?」


「大丈夫だ。ずいぶん絞られたようだな」


「あれしき、問題ございません」


 孔明殿を絞る……


「して、お呼びの理由はいかに?」


「そうだな。正式な書面の前に、これを見てもらえるか?」


「「??」」


 それは、孔明様が関羽様に与えた指示書を、周倉殿、馬良様が手直しした書簡。その写しでした。一部消してはおりますが、大意は変わりないものです。


『大目標 天下三分のため、劉皇叔が盤石なる地と人を得る


目標一 西蜀の地を得るまで、荊州の地を大きく減らさない

主要成果

一 呉と協力体制を維持し、荊州北部への魏の侵攻を防ぐ

一 魏の攻将、守将に不和を醸成し、主要な将を二人以上離脱または損耗させる

一 民心が魏に向かうを否とし、呉に向かうは是とする

一 劉軍に好意的な魯粛、諸葛瑾との友誼を維持し、両名の過負荷による離脱を避ける


目標二 劉軍が蜀を得たのち、漢中を手にするまでに、荊州の地を呉に明け渡し、益州に撤退する

主要成果

一 襄陽、樊城を手に入れ、魏に奪還されることなく呉に明け渡す

一 荊州の民の混乱を減らし、呉の治世に引き継ぐ

一 将の損耗、裏切りを出さない』


「こ、これは……」


「流石に驚かれたでしょうな。これは、孔明の原案ではありますが、実際にはこの戦役で命をおとした龐統の意を元に、こちらの馬良らが再構成したものです」


 魯粛殿は、こちらの意思を再確認します。


「という事は、荊州の地は?」


「お約定どおり、お譲りいたします。その前に、少々退屈させておる弟にひと暴れさせて、曹軍を押し返させてからにするのが良いと思いますが。孔明、どうだ?」


 先程まで孔明様は、やや渋っておいででしたが、私が『鶏肋』と申し上げると、この結論に同意なされ、それを安全に成し遂げる策をなっておいででした。その策こそ、先程まで私が、互いの心情を鑑み、民の混乱を最小化するために何度も手直しをさせたものです。孔明様も、なんとも世話の焼けるお方ですこと。


「良きお考えに存じます。やはり漢室を再び興さんとする我ら、通すべき信義は通さねばなりません。それに、益州と荊州を同時に守るは骨。かえって江東と荊州であれば比較的兵も動かしやすく、曹軍に相対するも容易でしょう。

 われらも、益州を盤石にした後に、漢中、涼州と押さえれば、長安の地も視野に入ってまいります」


 魯粛殿、ここへきて顔色がだいぶ改善してきました。ただ、まだ懸念はおありの様子。


「かしこまりました。しかしあの豪傑たる関雲長殿が、すなおに明け渡されるのでしょうか?」


「問題なきかと。先ほどの通り、襄陽、樊城を落とすところまでお見届けくだされば、あとは満足してこちらまで引くことあいなりましょう」



 そして、我らが陣営と呉軍は、その段取りをより綿密に協議した結果、以下のように定まったのです。


一 劉軍が益州を手にした一年のち、漢中へと進軍する

一 同時に、関羽の軍が襄陽、樊城を攻める

一 その間、呂蒙率いる呉軍は、曹軍に疑われぬよう荊南を押さえ、民の慰撫を行う

一 呉軍の余剰戦力は、適宜合肥を牽制する

一 襄陽、樊城の一を落としたのち、残り一を呉軍が攻め落とす

一 その後、残り一を、関羽が魯粛に明け渡す

一 関羽は上庸に入り、劉封は白帝に入る

一 呉蜀の境は夷陵とする


 魯粛殿はこれを見て、感嘆しつつ、すっかり顔色を取り戻します。そして孔明も、その顔色の変化にに気づきます。


「ここまで具体化されていれば、全くもって問題がなさそうに見受けられます」


「魯粛殿、すっかり顔色が戻っておいでですな。やはり、問題をいくつも抱え込んでしまうと、人は良からぬ方向に突き進んでしまう様子でございます」


 どの口が、と言いたくなる気持ちをおさえていると、


「孔明殿に言われると、説得力がありやなしや。そういえば、その孔明殿こそ、随分とお顔色がよくおなりにみえます。赤壁のころに戻ったようなお顔立ちですな」


「ふむ……近頃の私は、以前とはだいぶ違っていたのやもしれませんな」


 そうなのですよね。このもやし様、近ごろは読書やからくりにも精が出ておいでで、すっかり以前の角が取れ、毒気が抜かれてきているようにも見受けられます。私に対する当たりの強さは相変わらずな気も、多少丸くなっておいでな気もしますが。


 そうして、お二人は、多くの土産物を手に、意気揚々とお戻りになられました。まさに健康こそ全ての源泉、といったところでしょうか。

お読みいただきありがとうございます。

 これにて二章を締めくくりとします。すぐ三章が始まりますが。

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