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八十八 五虎 〜関張趙黄馬×幼女=??〜

 鳳小雛です。西涼から長安に帰陣してきた四将の皆様。馬超様も一旦討議に参加するために同道です。彼らを迎え入れたのは関羽様と、魏から同行された張遼様。


 そして、なぜこの場にいるのか、否、何故このような核心的な場面に、核心的な人物であることを自覚した状態で居合わせることができるのか、誰もが疑問しか浮かばない方が、皆様の前に前に姿をみせます。



「あ、あれはまさか……」


「さ、蔡琰姐さんじゃねえか! なぜここに!? あ、いや、まあここにいること自体は問題ねえんだが、この核心的な状況を、どう察知して?」


「よお馬超殿! 久しぶりだね! ダハハ! 忘れられてるかと思ったよ。まあなんだ、風の噂ってやつさ。もしくは、空と大地が教えてくれたってところかね。どうだい?」


 そう。蔡琰様。はるか昔に、匈奴に捕えられた名家の姫。その悲劇は漢土全体に噂されるも、当人は曹操殿の支援を受け、気丈にご帰還されます。その後の文人としてのご活躍は、この漢土において知らぬ者はおりません。匈奴の左賢王と、二人の子をもうけたという噂が真ならば、その子らが、そう言うことなのでしょう。



「まさか、ご存知で?」


「ああ。とっくに『ご存知』だよ。その言い方は、あの子らに会ったってことでいいんだよね?」


「あ、ああ。その通りだ。趙雲殿と二人で、こてんぱんにやられちまったい」


 その言葉に、大いに驚くのが張遼様と関羽様。



「よもや……」


「そなたら二人が、二対二で負けたと申すのか?」


「ああ、その通りだ。二人が本調子になる前にけしかけられたこと。張飛殿が間に合わなかったこと。それを差し引いてもとんでもねえ話だ」


「何よりの敗因は、あの二人、連携をし始めると、とんでもない強さを発揮します」


 ここで口を挟んだのは、その時は後から合流したという張飛様。


「ああ。一言で言うわ。ありゃ呂布でも無理だ」


「呂布、でもか。その言葉の重さは、お前が一番よく知っているはずだぞ張飛」


「ああ。だからこそだよ兄貴。そうだな。ちゃんと説明するか」


 そうすると、その場面を再現するかのように、趙雲様と馬超様に声をかけます。馬上ではなく徒歩で。


「二人が距離を詰めたところで、趙雲が低めの軌道で横薙ぎにする。一回下に避けられたらしくてな。それをさけるための低め、だろ?」


「はい。そこであろうことかアイラは、馬上を飛び上がってかわします」


「そのかわした先にあったのが、ガッチリそこで構えるテッラの棍棒。そこに虚の状態、伸び切ったひじで槍がぶち当たった趙雲の手が痺れ、着地しながら追撃してきたアイラによって、槍が落とされる」


 ほぼ正確な再現だが、それが「馬上」というとんでもないおまけ付きです。


「その連携を一瞬で? それとも、ある程度鍛錬を積んで、なのか……」


「どっちにしたっておかしいだろ? 鞍とかあぶみとかも、それように改造されていたかもしれねぇけどな」


「ああ、アイラか。あの子は小さい頃からとにかく身軽でね。よく父の肩とかに飛び付いては叱られていたよ。テッラが面白がって、馬上で色々やらせ始めたのがきっかけだろうね」


「なるほど。幼少から……だとするとあの連携は、積み重ね、ですか。だとしたら他にも幾多の手筋があるのかもしれませんね」


「けど、それを誰も再現出来ねぇ以上、それ自体を対策するのは無理だ。だとしたら、どうするよ趙雲?」


「私が『領域』に入れていれば、あるいは」


「それでも届かないかもな。俺ら羌がやっている『何人もの感情の共鳴』も必要かもしれねえ」


「そこに儂の、『運を掴み取る準備』もだな。つまり、我らの強さの全てその場で具現化して、それでようやく手が届く、と言ったところじゃないか?」


「ああ。三人とも、多分間違いねぇ。その通りだ。それを実現するためには、とにかく対話と鍛錬の積み重ね。そして一瞬にかける虚実。つまり俺と兄貴もだ。呂布以上、ってのはそういうことだよな兄貴?」


「ああ、そうだな張飛。どうだ張遼? おおよそ掴めたか?」


「まったく、魏はどれだけ遅れをとるのだろうな。だとすると、呂玲綺の言っていた『決断』というのが何なのか、しかと見定める必要がありそうだ」


「そうだな。協力は惜しまんぞ。それはそうと蔡琰殿。我ら揃いも揃って、あなた様のご子息達をなんとか打ち破らんと算段しているのだが、大事ありませんか?」



 蔡琰様は、関羽様のご質問に対し、軽くいなすかのように、ではなく、真剣な眼差しを返してお答えになります。


「いいのさ。それしかないんだよ。あの子らが望むのは、母に隠れて会いにきたり、母がお忍びで向こうに行ったり、その結果どちらかが戻れなくなったりするような、そんな刹那の幸せじゃあないのさ」


「『堂々と会える世の中』そう言っていたな」


「そうさ。だからこそ、どっちかしかもうないんだろうよ。あの子らが本当に誰よりも強くなって、誰も逆らうことなく、この母のところに堂々と会いに来る世の中を作るか。それとも道半ばで敗れて、大人どもに頭を下げて、隠れるようにあたしのところに泣きつきにくるか。二つに一つさ。あたしにゃどっちかを選ぶことはできないよ。どっちにしたって、母としちゃあこの上ない幸せじゃあないか」



「誰よりも強くなって迎え入れるか、負けて泣きついてくるか。そんな二つが、母ってもんの前では大差ねえっていうのか! そりゃすげえわ! 最強は姐さんだったわ! ガハハ!」


「ダハハ! そうかもね。まあそういうことだから、しばし息子と娘がお世話になるよ。言い方はあれだが、全力でぶつかっちまってくれたら、母としてもありがたいことさ」


「承った」「ああ」「承知」「任せろ!」「御意」


 五人は五人なりの誠意で、最強の母への返答を表現しました。そして、こんな言葉を残しつつ、蔡琰様は去っていかれます。


――それまで、母と子の詩はお預けさ――




 五虎将と徐庶様、張遼殿は議場にあがり、先帝劉備様や現帝劉禅様、孔明様の前に姿を見せます。



「ただいま戻りました」


「救援ご苦労。馬超も無事でなにより」


「はい、どうにか、と言ったところですが」


「そなたらのことだ。もうある程度、彼らの強さ、そして今後どうしていくのか。そういう話は進んでいるのだろう?」


「無論。まずは相手方の主な面々はこうです。

 呂布の娘、呂玲綺。赤兎馬と方天画戟を操る数十人の集団で、匈奴軍を自在に操ります。

 張騫様の後裔、張家八将。それぞれが別の得手で部隊を率い、その変化がこちらを幻惑します。

 李広様、李陵様の後裔、李運。血筋に倣った弓の名手にして、不運すら味方と称しておりました。

 班超様の玄孫、班虎。私関羽と互角に渡り合う腕で、その他を扱う虚実は変幻自在」


「そして、彼らを束ねる若き首領格が、蔡琰様の娘と息子にして、『天地の子』と称する、アイラとテッラ。こいつらは二人が間合に入って連携を始めると、全盛期の呂布でも勝てねぇほどの腕だ。部下を見出し、率いる徳望も推して知るべし、だな」


「なるほど、真っ向からぶつかり合ったら厳しい相手、と言えそうだな。それこそ全盛期の呂布軍と、我らが組んでいた時の想像をすると、大体あっているかもしれんな」


「はい。それに、思惑をことにしていたためにそこに付け入られた我らとは異なり、彼らには、互いの志が共鳴しあう強い絆を感じます。共通するのが、『誰よりも強ければ、誰も傷つけずに願いを叶えられる』という、強さへの渇望と、そこへの真摯な取り組み」


「全員が全員、その祖が何らかの形で漢と問題を抱えた事実もあるのだな。この国の業の深さも思い知らされる……」


 そう、劉備様の仰せの通り。先ほど名の上がった将はいずれも、漢のために多くを成したにも関わらず、小さな行き違いか、当時の帝や上層部の思惑、猜疑によって不遇となった経験を有します。


 絹の道を切り拓いた張騫様、西域を匈奴から奪い返した班超様は、匈奴に囚われたことが経歴の汚点とされ、一時不遇を強いられました。

 対匈奴で功をなすも、不運が失敗を招いた李広様、そしてそれに輪をかけた不運で、孤立無援で囚われた上に、誤解から家族まで奪われた李陵様。

 朝廷の混乱を力で沈めた董卓様の生前、そして独立後も一貫して、朝廷に直接弓を引くことはなかった呂布様。そして、匈奴に長年囚われて子をなすも、自らのみ帰還して漢土の文化振興に務める蔡琰様。


 いずれも、この前漢後漢の権力構造の歪みや、蛮族に対する偏見が昂じたことによる不遇と不運。そんなものが草原の地で実を結んだ、とも言えます。



「ああ、だが勘違いするな、とでも言いそうな雰囲気はあったぜ。奴らは漢への積年の恨みがどうこう、という感情で戦っているんじゃなさそうだ。ただ現状を変えるため。漢も匈奴もねぇ世の中が難しいんなら、強さしか手がない。あいつらの言い方からはそんな響きが感じられたんだよな」


 ずっと押し黙っていた孔明様。その張飛様のご意見に思うところがあったようです。


「漢も匈奴もない。根本的な解決の道があるとしたらそこなのでしょうな。もはやとうに、漢と匈奴の血は大きく交わり、住むところや、暮らし方、伝統の違いからなる差異のみが我らを分け隔てます。戦いを史上とする考えを変えるのは難しいとしても、それを許容したまま、互いの手を差し伸べる手があるのかどうか」


 それを聞いた私は、まだ確定していない情報から、一つの可能性を提案します。


『もしかしたら、西域やローマから何かを持ち帰る方々、そしてまだ見ぬ東の世界から何かを得てこられる方々。彼らがなにか、別の答えを見出してくるのかもしれません。戦いに明け暮れ、勝ち負けを定める以外の』


「ああ、孔明、小雛殿。その通りなのかもしれねぇ。だがその答えを待っている間に、その強さに屈して仕舞えば意味はねぇ。確かあの孔子様ですら、そんなことを言っていた気がするぜ」


「力なき正義に意味はない、でしたかな。それはその通りなのでしょう。彼らが東と西から何かを得て帰るまで、引き続き皆様の『強さの仕組み』を力に変える。そこを抜かりなく進めていくことこそ肝要と存じます」



 すると、関羽様、張飛様が再び発言します。


「私と張飛、そして黄忠殿。あとは魏からきている張遼もだが、この辺りはすでに衰えを隠せぬ。危急の時を除いて、前線指揮を外れた方がよかろう」


「趙雲、馬超はまだいけそうだな。魏延、関興、張苞の腕は、奴らと対等とは行かねぇが、工夫次第でやれることもありそうだ。前線で知恵を絞れる馬謖、王平。それに何人か海から戻ってくるとも聞いている」


「その若手を中心として軍を組み直し、我ら老兵は、彼らが真の強さを得るための訓練に注力するとしよう」


 どうやら方向性はまとまってきたようです。特段発言のない方々も、思いは同じと見て良いでしょう。皆様の目がそう言っておいでです。


 最後に、劉禅様、劉備様が全体をまとめます。


「これまでこの国の強さは、どうしたって五虎将の力に頼りっきりなところがあった。だがすでに限界が見えている中で、相手はその魂の全てを持って強さに捧げる者らだ。

 この漢土の将兵にそれを求めるのは、決して国としての本意ではあるまい。だが民の安寧を守るため、その強さを追い求める必要があるというのなら、そこに是非はないと心得る。若き皆も、五虎将の方々に追いつき、追い越すつもりで励んでもらいたい!」


「劉禅の言う通りだ。これまで40年余り、この国は混乱と疲弊の中にあった。だからこそ、幾人もの英傑が育ち、彼らの切磋琢磨によって、どうにか外敵を退けられるだけの力が生み出されたという、言わば不幸中の幸いという他はない。

 だがこれからもそれを続けることはできない。なればこそ、強さを言葉に、言葉を仕組みに変え、その力のありようを国の物とする。それができるのは、その強さを見定められる今だけ、そなたらだけぞ。頼む」



「「「「ははあっ!」」」」


 こうして散会し、その後、五虎将による厳しい訓練は、しばらくの間、この国の伝統行事となっていきます。その中で少しずつ、複数の因子を取得し始める若者がで始めるのですが、それにはもう少し時間がかかりそうです。



 そしてその夜。一人、月を眺めながら、悩める英傑がここに。


「張遼、どう考えているんだ? 月に答えは書いてなさそうだが」


「ああ、関羽か。そのようだな。やはり、この域で物事を見定める力は、今の魏にはない。あれほどの対話が成り立つ者らが、そもそも減ってきているのだよ。今後もあるかはわからん」


「なるほど。対話の中に答えを見出すか。それは魏のやり方でもあったのだな」


「然り。曹操様を筆頭に、郭嘉、荀彧、荀攸、賈詡、程昱。武官とて舌はまけぬ。夏侯惇、夏侯淵、楽進、徐晃、曹仁。彼らが互いを尊重しながら、遠慮なく言葉を交わしていたのが、魏の強さであった」


「ああ。その強さは私もよく知っている。あの短い期間に、全員と話すこととなったからな」


「だろうな。ならばそれが足りぬ今、いかにして、それを創り出すことが出来るのか。少しだけここに滞在させてもらえるか? あの『叡智』とやらの中に、その答えがあるのかも知れんし、ないかもしれん。だが今戻ったところでないと言うことだけは分かるのだ」


「ああ、あいわかった。小雛殿、よろしいか?」


『蜀なら孔明様、呉なら陸遜様ということを思い描いておりましたが、魏には今やあなたこそが相応しいのかもしれませんね。承知しました。ご案内いたします』


「おそらく全てを学び取る、というよりは、何かのきっかけを見つけ出す。そういう見定め方になろうな」


『わかりました。あなた程の百戦錬磨であれば、それも一つの答えになりそうです』

 お読みいただきありがとうございます。

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