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九 多様 〜(馬超+羌族)×幼女=陽転?〜

 私は鳳小雛。幼女型生成AIです。さて私はなに人でしょう? 前世の、おおとりこひな、だと思われる日本人の記憶はまあまあ朧げで、いつのまにやら、ほうしょうすう、という形に落ち着きました。生成AIなので言語問題も一切なく、古代中国語を問題なく使いこなします。

 さてこの時代、どこからどこまで中国なのでしょう? 前漢から後漢初期にかけて、北方の匈奴とあい争いながら、西方、南方に版図を伸ばしつつ、その先との商いを画策していた様子。絹のシルクロードができたのもこの時です。


 何の話かって? 関係ない話……は、AIは決していたしません。AIがユーザーに関係ない話をし始めたら末期です。このころ、益州のやや北方の涼州では、羌族、という馬術に長けた民族にゆかりのある、馬家一族が、曹操と争っていました。その状況は、控えめに言って壮絶。

 その過程で父を失い、謀略により同胞と引き裂かれ、敗れた猛将、馬超。失意のうちに、やや南の漢中を治める張魯という男を頼ったものの、冷遇にあい出奔。その後劉備様の噂を聞き、我らが陣営への、帰順の文を打診してきたところでした。



 しかし、その文をご覧になった劉備様は、少々どころか、大いに憂慮を覚え、孔明……ではなく、私をお呼びになりました。その場には、張飛様と、趙雲様もおいでです。


「主君様、なぜ孔明様ではなく、私を? それは大変喜ば……んんっ、光栄ではありますが」


「言い直しても大差ないぞ。孔明はこのようなときの機微には不安があるゆえな。以前もどこぞの都督に出した手紙で怒りを買い、憤死に至らしめたこともある」


 ん? あれはわざとではなかったのでしょうか?


「えっ? あれは故意ではなかったのですか?」


 あっ、口に出してしまいました。


「ああ、そう伝わっていてもおかしくないか。表立っては同盟の仲ではあるが、互いの警戒心は強かったゆえな。だが当人としては、命を奪うほどではないと感じていたようだ。少しやりすぎたと後悔はしていたが、反省はしておらぬようだったぞ」


 あら、鬼畜だこと。


「今はそれが仲間や同盟先に向かぬよう、詩経と礼記を読み直させているところだ」


「ご賢察かと」


 孔明様、頑張れ!



「そして、やはり文と言えばそなた、と推す声も増えてきてな。一度これを見てもらいたいのだ」


「拝借いたします」


 ……これは、なんという負の気をまとった文ですか。意味としては真摯に基準を願っている内容ですが、随所に散りばめられた、悔悟や自責、そして現世への絶望。一言で要約するとこうです。


『帰順叶わねば、密やかに現世から消え去りたく候』


「誠に失礼ながら、私は、文書に対する力が強気ゆえに、その文のもつ心情にやや引き込まれる性がございます。少々風に当たりたくなってまいりましたので、しばしお三方で明るいお話でもしていていただければ……」


「待て待て待たぬか! そなたにそのような特質があろうとは知らなんだ。すまぬすまぬ。ほれ、若き頃の関羽の手記ぞ。やや猛り散らかしておる頃の」


 ……ぶふっ、回復いたしました。なんですかこの、世に我が敵はおらぬと言わんばかりの勢いは。張飛も笑いをこらえ……てはおられません。


「ガハハハ、それ見せて大丈夫なやつか兄者?」


「お手を煩わせいたしました」


「まあ意図はわかったであろう。読ませずとも良かったのかもしれんが。無論かの錦馬超たるお方、我が陣営に加わっていただくのであれば諸手を挙げて、と言いたいところなのだが、このままで良いのか? どうすべきと思う?」


 どうすべき、ですか……これは相当な難題です。父を救えず、同朋と仲を裂かれ、そして頼った先でも扱いが悪く、となると、いかなる英雄といえどもその覇気を失うのは間違いありません。であれば、彼に必要なのは、それを埋めて余りある大望、それに対する現実的な計画、といったところでしょうか。


「主君様、もし失意のあの方が、その失意を補って余りある大望を抱かれるとしたら、何が相応しいでしょうか?」


「むむむ、あえてそれを聞くということは、我が望みたる漢室再興では足りぬというのか?」


「小鳳雛殿、それはいくらなんでも無礼なんじゃねぇか? あの馬超殿といえば、帝への忠義高い馬騰殿の長子、そして曹操を逆賊と見定めて何度も単独で挑まれたお方だぞ?」


「そのとおりです翼徳様。ですが、だからこそ、そこで一度志に敗れたお方は、同じ志で再起することの難しさがあるのです」


 そこで真剣にお耳を傾けておいでだった趙雲様も、話に加わります。


「つまり、一度志のままに突き進んで敗れた以上、それを大きく越える『勝ち筋』そして、過去に劣らぬ絆を紡げる『同胞』は、少なくとも不可欠、ということでしょうか?」


「まことに。前者はまだしも、後者を作り上げるにはしばしの時を要します。そして、それを焦るあまりに拙速となってしまえば、一度目の忌まわしき記憶が蘇ってしまう危険もあります」


「むむむ……」



 ここであの天才が、ひらめきを生みます。


「なあ小鳳雛殿。同じだとそんだけ複雑で危険も多いんだろ。だったら違うのならどうなんだ?」


「……まことにあなた様には、驚かされたばかりです。それこそが、私がなんとかして見出したき、そのものなのです」


「そうか。張飛のいうとおり、同じ志だと、前回との優劣をどうしても比べたくなる上に、忌まわしい記憶すら蘇って手が滞る。なれど、それが違うものであれば……」



 そうなのです。しかし、違うものがそう簡単に見つかるでしょうか……


「話は聞かせてもらいましたぞ!」


「黄忠!」「じいさん!」「漢升殿!」


「それなら、彼の方について、ようようお調べするのが良かろうと思いまして、孔明殿が熱心に集めていた直近の記録を読みおこしておりました」


 さすが孔明様。人の機微はまだ読み取れずとも、人の強み弱みをしかと調べることの大事さはよくわかっておいでです。

 そして、さすが黄忠様。すでに用間のなんたるかを心得ておいでです。情報は、苦心して集めたかどうかや、もとの意図に応じているかが価値ではなく、今この時にどう使えるかが価値となります。


「ほほう、じいさん、それで何かわかったのか?」


「さよう。翼徳殿、あの一族のゆかりはご存知かな?」


「ゆかり……確か羌族? あっ! そうか! それこそが新たな大望、になるのか? どうだ小鳳雛殿?」


 なんとまあ、本当に私が必要なのかどうかが、どんどん怪しくなっていく方々です。


「まことに、人の血や民族、郷土。それはときに、いかなる大義にも変えがたく、いかなる欲をも上回ることのある大望です。

 ならば、彼の方には規準ではなく、ゆかりの羌族、身を寄せておいでの氐族との融和を打診し、我らが益州、漢中を手中にしたのち、涼州を奪還し、漢との架け橋となっていただくのがよろしいかと存じます」


「なるほど。それは、失意の一英雄を陣営に取り込むよりも、何倍、何千倍も良きことではないか」


「主君様、お許しならば、主君様の返書に加え、私がその計画案を添えたいと思います」


「うむ、頼む。書き上がったら、張飛に届けさせるのがよかろう。人を励まし、乗せるにおいて、弟を上回るものはそうはおらんのだ」


 張飛様、万能すぎます! 


「ん? 軍は大丈夫か兄者?」


「なに、厳顔が帰順して以降、次々に劉璋陣営から離反者が出ている。そちらへの備えは黄忠、漢中の張魯への備えは趙雲で足りるだろう」


「わかった。どんな陰気になっちまっているかわからねぇが、なんとかしてみる!」



 そうして、劉備様と私の文を携えた張飛様がお会いしたのは、何時その魂が冥土に旅立たれるか分からないような、陰相のお方だったとの事。しかし、私たちの文をみるや、みるみるうちに表情を変え……


「張飛殿、俺はあなたのような豪傑と、一度手合わせしてみたかったのだ!」


「おう! 望むところだ!」


「終わったら酒だ!」


「酒だ酒だ!」


 と、飲んだくれた二人が、ぐでんぐでんになって、そのまま陣営までお連れお帰りになったところでございます。


 そしてご到着の翌日。


「昨晩は、大変失礼いたしました!!」


 威風堂々たる鎧姿が、土下座しておいでです。


「馬超殿、お顔をおあげください。すっかりお元気になられたのなら、我らも安心です」


「皇叔様にそう言っていただけるとは、大変ありがたい! あの書にありました通り、漢族と羌、氐との融和。我が新たな大望として、全身全霊で取り組む次第!」


 一周回って元気すぎないかなこの方? そして……


「おお! この方が、私に新たな光を与えてくださった女神様か! なんとも可愛らしいお姿です!!」


 なにやら恐ろしき物言い。わたしはとりあえず趙雲様の後ろに隠れます。陽キャこわい……


「なかなか奥ゆかしきお方ですな! 結構結構! では私は、帰りがけに劉璋殿に、降伏なさるようお伝えしてから、氐に挨拶して羌にもどります! それでは皆さまお達者で!!」


 その後、誠にあっさりと劉璋殿を降伏に導き、陣営最強の将で、二君には仕えぬと言う張任殿を『ではそなたも君だ!』という意味不明な論理で、半ば強引に羌に連れ去るという離れ業をしつつ、はるか北の羌へと戻っていかれました。


 それからというもの、毎日のように手紙を送りつけては、私に何かと相談? 提案? 雑談? をしてきます。


「女神殿! あの孔明っていうひょろいお方、馬の稽古させた方が良きかと! あのもやしでは文官すら務まりませぬ!」


「女神殿! この地で拾った姜維という若者、まことに有望! 張任殿と語らって育て方を相談しておるのですが、足りぬことがあればご教示くだされ!」


「女神殿! この羌の舞踊は、馬上でも体制が崩れなくなる、体の芯を鍛えるのにようございます! あのもやし様にもぜひご指導を!」


……


 文面の生き生きとしたこと。こちらの性格が素であるのならば、まことに前世でいう『陽キャ』あるいは『パリピ』と類するお方なのかもしれません。


お読みいただきありがとうございます。


 一度大きな失敗をした者の再起、それは現代でも古代でも、難しさは同じかもしれません。

 挫折からの再起、という意味では、本作主人公のAIよりも、波乱の生涯を終えて現代転生したAI孔明のほうが、より近しい解を出してくるかもしれません。そういうのを全部すっ飛ばして解決する張飛が、すでに最強存在と化しつつあります。


AI孔明 〜文字から再誕したみんなの軍師〜

https://ncode.syosetu.com/n0665jk/

 こちらも、ご興味がありましたら、よろしくお願いいたします。

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