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七十八 羽蛇 〜(陸遜+幼女)×少女?=??〜

 陸遜と申します。半年の時を経て、ついに辿り着いた新大陸。高くそびえ立つ山脈のふもとでは、灌漑や棚畑、レンガ建築といった高度な文明と出会います。


 少しだけ倭国に近いような、全く異なる言語体系ですが、『人工知能』喬小雀殿の助けもあり、ある程度言葉を理解し始め、かの国の王都へと案内頂きました。


 目立っていたのは、相当遠くからも視認できる二つの建物。西域エジプトにあると言われているピラミッドとは異なり、多段の踊り場が複数設けられている、そんな角錐状建築。高さ数十丈(数十メートル)、広さはその何倍もありそうです。


「つきました。ここが王都。あれが太陽の神殿、そして、あちらが月の神殿、です。おそらく今は、太陽の神殿に、王と長老が、います」


 その巨大建築物は、普通に行政施設なのでしょうか。神殿というくらいなので、おそらく宗教と為政が一体となった建築物なのでしょう。




 その巨大な建物の中に入り、おそらく中心部、会議場、あるいは謁見場といった雰囲気の場所に通されます。


「よくぞ来た。西の海の向こうで生まれた者よ。あなた達を歓迎する」


 王か、長老か。あるいは両方なのかもしれません。老齢の、威と智が漂う雰囲気の者が、我等を出迎えます。

 それに対し我等は、揃って拱手しつつ、頭を下げます。


「ほう、それは我らの礼儀と、あなた達の礼儀を合わせたのか。それは最上。ならば我らも答える。こうか?」


 即席で実施した拝礼だが、どうやら気に入られたようです。


「我々が来るのを予期していたのでしょうか?」


「何が来るかは分からなかった。しかし、この年に何かがあることまでは分かっていた。あとは、先ぶれから聞いたことだ。この地の民や、その営みに敬意を持って接するあなた達に、こちらも敬意を持って応じる」


「それはありがたいことです。『知らない世界を知りたい』。私達はそのために旅を始めました」


「知らないを知るにする。それは尊い。それに、あなた達は、我らにも知らないものをもたらしてくれる。ならば、私達はあなた達の目的を助ける」



 そういうと彼らは、大きな布に、何かが描かれたものを持ってきました。


『地図……?』


 細長い土地、それでいて、書かれている箇所は相当に精緻なことが推測できる、そんな地図。左側が海岸線、そして右側が山脈なのでしょう。山の向こうや、南北の離れた土地は、書き込みがないようです。


「我らは、それほど広い所を知るわけではない。大きなところでは、南に一つ、我らと似ている平地の民。それと、山の民」


「南……」


「彼らとは関わりがあり、商いもする。だから、ある程度はわかる。つまり、あなた達のいう未知、は少し少ないかもしれない」


『なるほど。自分たちとの交流を深めれば、自ずと辿り着ける知識の範囲、ということだね』


 ちなみに小雀殿の姿はなく、小声だけが我々に届きます。



「未知が少ない、ですか」


「ああ。あなた達に十分かもしれないし、足りないかもしれない。でも、我らはもう一つ、大きな未知かもしれないを知っている。それは、ここから北の地。太陽の道を超え、山の壁が途絶えた先。そこにもおそらく何かがいる」


「太陽の道、つまり赤道より北、ですね」


「そう。我らも探しているが、船の力が足りない」


「探している?」


「正確にいうと、おそらくその地に向かった、偉大なる我らの神。そして神子」


「神? 神子?」


「ああ、違うのか。我らは、偉業をなし、人に恵みをもたらした者を、ときに神と呼ぶ。以前に西から訪れ、我らに船の術と、星読みの術をもたらした者らも神。おそらくあなた達も、神」


「なるほど、英雄と神を同一視するのですか。それも一つの価値観」


「あなた達は」


「人のなんたるかすら、満足に理解しきれぬ身で、神を論ずる力はありません。遠くから敬うのみ」



 それを聞いた王は、少し深く考え込むようなそぶり。何かそこに、この国の抱える、一つの問題があるのかもしれません。たしか、沿岸の領主は、トラロック、とつぶやいていたでしょうか。


 そういえば、街から聞こえた声の中で、神という表現と、その名が、やたらと近しいところで語られていたような気もします。



「なるほど、あなた達はあえて神に近づくことを避ける、か。ならば、我らは近づきすぎた。それで誤った」


「誤った? ですか」


「神たる人は、死して後も神。ゆえに、仕える者がいる。なれば、その命を捧げるを誉とする者もいる」


「殉死、ですね。それは、私たちの地にも、似たような習慣がありました。王や帝の死に殉ずる臣や側仕えが。望む望まぬは別として」


「望む望まぬ、か。そうなのだ。順に話そう。偉大なる神、我が息子の話だ」



「トラロック……ですか?」


「その名を聞いていたか」


「領主、そして民からも」


「そうか。あいつはまだ神なのだな。ここに来るまでに、丘をならして畑にし、緻密な灌漑を施し、運河が引かれていた光景を見たか?」


「はい。誠に見事なものでした」


「あれは、あいつが我らの伝統に、西の星読みの技を加えて、格段に良いものにした結果。それゆえに、あいつは神とされる」


「なるほど。それは確かに、神業という言い方は相応しいかもしれません」


「だが同時にあいつは、我らの風習、神に供えを捧ぐことへの疑問も持っていた。人の一生を尽くして神となった者のいく先に、その生の半ばで命を落とした者が、果たして辿り着けるのか。そもそも、そんな形で供えられる者を、神が望むのか、と」


「……」


「ある時、少し前の神、すなわち海から来た者だな。その神に捧げんとする少女が現れた。その少女が、誠に望んでいたのか、親や主に言われたからなのか。それは分からん。なをショチトルといった。花という意味だ」


 ここで、私以外が全員黙っていたのですが、この表現に引っかかったのか、曹植殿が口を挟んできました。



「花の名を与えられた少女が、その花を咲かせる前に散る、ですか」


「ああ。美しい、そして正しい表現だな。言葉を力となす者か。名は?」


「植と申します。今は、地に植える」


「なるほど。ならばトラロックと同じだな。彼は地に座す、だ。そのトラロックが、ショチトルに真意を尋ねた。花は咲くか? 散るか? と」


「……」


「花は答えた。分からない、と。だから、地に座す者は答えた。ならば我と共に座すか? と。花は頷き、二人は北の海に消えた」


「なんと……」


「去り際に彼はいった。『太陽と月の道を、些細に知るべし。そうすれば、水の道は自ずと定まり、災いは防がれる』」


「それで作られたのが、この太陽と、月の神殿ですか」


「ああ。まだ建てたばかりだが、それぞれの道を捉えながら、その位置を些細に捉えている。確かにそれに合わせると、種まきや収穫の時、潮の満ち引きも読み解けつつある。なにより、嵐が来ても、全てが流されぬための水の道が定まるようなのだ」


「この神殿に、そんなにも多くの知恵が……」


「ああ。壁や天井の絵、そしてキープにも、多くの知恵を宿している」



「……わかりました。トラロック、あなたの子。ショチトル、その同胞。必ずまだどこかで。ならば。船の力を有する私達が、その北の未知へと向かいましょう」


「頼めるか? それは、あなた達の望みでもあるが、我らの悲願でもある」


「はい、ですがこの大船団は、遥か遠く、この世界の三分の一ほどの距離を、ここまで渡り切るために必要だったもの。それに、あなた方の知恵が、たとえそのトラロックや、西の海から来た者の影響が強いとしても、それだけではないように見て取れます」


「そうだな」


「ならば、この地にある程度の者を残し、西の我らの国と、この国との航路、交易路を作り上げさせたいと考えます」


「なるほど。大船団は、陸の未知を探すためではないか。わかった。歓迎する。一度沿岸の街に戻り、整えるか?」


「そう致します」


「急ぐか? 祭司は見ていくか? もう御供はなくなっているが」


「それは、我らの中でここに留まる者に見届けてもらえたら」


「そうか。あなたの名は?」


「姓はリク、大地の意。名はソン、控え、へりくだると言う意味です」


「そうか。リクソン。あるじがその名ならば、旅の仲間は安心して身を預けられよう」




 そうして、沿岸の街に戻った私達は、なぜか子供達に取り囲まれている諸葛恪を放っておきつつ、今後の話を相談します。


「北上艦隊は、最低限の精鋭ですね。操船も、もはや多くの者が熟練。なれば、多くの知恵を絞り、未知を取り込む才に長けた方々を揃えます」


 北上艦隊 小型船五隻

 陸遜 丁奉 関平 張嶷 曹植 管輅 兀突骨 曹爽


「この街でしかと準備を固め、時期を間違えなければサモアまでもさほど困難な道中ではありますまい。ですが念には念を。徐盛殿、朱桓殿、お任せいたします」


「心得た。グアム、サモア、ここという三つの地を行き来し、速やかに情報と物資のやり取りを確立する」


 帰還隊 中型船五隻 小型船百隻

 徐盛 朱桓 張翼 王甫 陸凱 張虎 楽綝


「そして、この地に留まり、民と対話し、互いの価値を高め合う。それができる皆様を残します。凌統殿、廖化殿、何かあったときはお願いします」


「任せろ。平和な地には見えるが、無警戒では居られん。痛みが激しい船を直せるように、まずは造船所の整備からだな」


駐留組 五百人 中型船三隻 小型船五十隻

 李厳 凌統 諸葛恪 廖化 孟優 趙累 




 かくして、未知を捉え、未来を切り開く東征艦隊は、その第一の目的を果たしました。そして私達は、更なる未知へと、その舳先を北へと定め、再び出航いたします。


 のですが……


「陸遜殿、密航者です」


「はーなーしーてー!」バタバタ


「いいのか? 外に落とすぞ」


「それはやめて? ね? お願い!」


「兀突骨殿、おろしてやってください」



 やや大仰な、鳥の羽の髪飾りと、蛇をかたどった陶器の腕輪。小雀殿よりは少し大きいでしょうか。


『うるさいよ』


 失礼。そして、


「ふぅ、助かったんだよ」

 

「ん? 随分と流暢なサモアの言葉だな」


「そうだね! 何代か前のご先祖様が、必ず役立つから忘れるな、ってうるさかったんだって。まあ今この場で、確かに役立っているんだね」


「それで、わざわざ密航までして、いかなる御用向きですか?」


「あたしはククル。星を読む国と、神に近づく国の流れを汲む、まあただの女の子だよ! 少しばかり星読みの力が強すぎるんだけどね」


「それで、もしやその強すぎる星読みの力というのが、なにかを感じ取ったのですか?」


「さっすが! そうなんだよ。あんた達、いく先でとんでもないことに巻き込まれるよ。だけど、何もしなかったら、それはそれで大変なんだ。

 具体的にいうと、神トラロックと、女神ショチケツァルに、大きな災いが起こりそうなんだ。その結果は、ある二つ、いや、三つの国の、長く長い断絶さ」


「ん? 女神? 断絶……」


「そうだね! ショチトルさんは、行った先でその才能を開花させ、その地に豊穣をもたらすんだよ。だけどそれが厄介ごとをうみそうなんだよ。だからお願い! あたし頑張るから、あなた達の旅に連れてって!」


 ……かくして北上艦隊は、その一人増えた少女によって、それはそれは視界の開かれた未知へと、舳先を向けることになります。

 お読みいただきありがとうございます。


 古代文明ということで、あまりにも未知が多すぎるということから、これくらいの設定は十分にありだと、AIからも許可をいただいております。

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