第1話「長崎湾に浮かぶ白い夢」(その4)
役員の方へ向かう宮島を、仕方なく見送った柿岡は、集う人の群れの背後に立った。
やがて壇上へ上がる極東の役員たち。その中から小太りの男が中央に歩みだす。新しい長崎造船所所長の鮫島である。柿岡は面識を得ないが、その人となりについては何かと耳にしていた。
5年前、ダイヤモンドシッピングが客船建造を発表した時、極東重工業は長崎造船所主導でプロジェクトチームを発足した。当時の資材部長であり、柿岡の長崎中央高校出身の先輩でもある渡部が初代PJリーダーに選ばれた。
ひとまわり年上の渡部は九大の造船科を卒業し、極東重工業に入社。遅れて入社した柿岡をかわいがり、彼もPJに参画することになった。客船の建造を決めた渡部は、極東重工業の歴史上で初めて、生え抜きの長崎造船所所長となった。
そして、この9月に1番船の進水を終え、本社役員として任命されたのである。
その後任として本社から赴任した鮫島が、壇上で挨拶を始めた。
「この度、歴史ある極東重工業・長崎造船所所長を拝命いたしました……」
栓の抜けたような甲高い声が、大きな宴会場に妙な響きを伴って広がった。
(こんな重役の血縁というだけで登用された男に、この長崎を総べることなど…)
柿岡は拳を握りしめた。
胸に迫る滾る思いが、顔を火照らせるほど強まっていく。
(つづく)
つづきは明日!?乞うご期待。
船木千滉