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第8話(その4)

「取引先に、神戸の新日本貿易という会社があってな……」

 柿岡の言葉に、室員たちは一瞬戸惑いながら、耳を傾けた。柿岡は、コンテナ金物の選定で丁々発止をやって以来、何かと新日本の山岡課長と懇意にしていた。


『アメリカ政府でも、幾らかは役人が業者の接待を受けるとことを認めています』

 そう言って山岡は、長崎への出張がある度に柿岡を食事に誘った。

 それをのべつ幕無し受ける程、柿岡も暇ではない。

 だが三度に一度は、付き合うようにしていた。


『別に酒を飲まして、注文を欲しいとは言いません。でも商社には情報が必要不可欠です』

 それが山岡の口癖だった。

 確かに彼と酒を飲む度、柿岡も何かと新しい情報を得ていた。


「新日本では、毎朝着信する注文FAXを、十数人のパートさんが捌いている。彼女らに仕分けソフトの話をしたら総スカンでね。つまり、自分らが首になるのかって、ね」


 柿岡の話を聞きながら、伊藤はともかく岡本らは、まだ要領を得ていない。

「私が言いたいのは、業務改革には痛みを伴う。それでも未来のためには必要だ」

 柿岡の言葉に室員たちは、静かに頷いた。


「だが現場は違う。そうだな、岡本!」

 そう言うと岡本は、鳩が豆鉄砲を受けたように驚きながら、それでも「はい」と答えた。


「だが重工長崎も、絶対に潰れないと言う保証はない。戦後勢いのあった糸偏企業も、時代の流れに淘汰された。その点、早晩造船業も荒波を受けて遭難することも有り得る」


 別に柿岡は、わざと深刻な話をするつもりはない。だがこのまま何もせずに、目の前の若者を引っ張っていく訳にはいかない。同じ釜の飯ではないが、一蓮托生に違いはない。


「これから、現場の調査に行く際は、必ず最初に私も同行する。それに岡本、一度倉庫の主席に『一杯付き合って下さい』と言ってみろ。駄目なら、俺から言うよ」


 そう言うと、岡本の顔がぱっと明るくなって、即座に口を開いた。

「良いんですか?でも、接待費は出るんですか?」

「ああ、駅前の居酒屋で飲むぐらい、いつでも払ってやる」

 そう言うと、現金にも岡本は、「はい」と元気に返事を返してきた。


「伊藤さんの報告にもあったが、うちの注文書、5枚綴りのカーボン用紙だが、あれ1枚発行するのに八千円も掛るらしい。一事が万事、とにかく問題点を洗い出して欲しい」


 そこまで話して、ようやく皆が要領を得たような表情になった。ただ設計の担当に限っては、まだ闇が深そうだった。会議を終えた柿岡は窓の外を眺めながら深呼吸した。


(まだ始まったばかり、本当の改革はここからだ……)

 と、そう自分に言い聞かせた。


(第9話につづく)


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