表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/49

第3話「胸に抱く夢への決意」(その2)

ラグビーの柿岡と野球の宮島、学生時代どちらも名を馳せた。

2人は同期入社で同じ海外調達課、竜攘虎搏の闘いが始まる!

 同期の彼は、同じ移動で東京勤務となった。大学野球で名を馳せた宮島は、入社後は長崎の野球部で活躍したものの、転勤と共に引退。肩を壊したとも聞くが、柿岡は詳しいことを知らない。


 ただ彼とは何かと意見がぶつかり、同じ海外調達課で張り合っていた。

「国内船主ならまだしも、欧米の客船を日本で造れる訳がない……」


「そんなもん……、やってみんと分からんケン」と、柿岡は声を荒げる。

「そうやって突っ走って、駄目な時に誰が責任を取る」

 と、相変わらずの宮島。


「客船建造を百年の計として、必ず長崎造船所を復活させんばね――」

 この話になると、柿岡の声は自ずと大きくなる。


 だが宮島は斜に構えたまま、

「儲かりもしない船を造って、極東に未来がある訳がない」

 と、嘯くように呟くばかり。


 柿岡は同じ課で宮島と絡む度に、もう何度言い合ったかことか。その度に彼は、客船建造に否定的なことばかり言う。彼の父親が極東銀行本店へ栄転したと、柿岡は東京へ来てから知った。


 彼が何を知っているのか分からないが、銀行筋が客船派でないことは確かだった。


 急激な円高に揺れる日本経済は、プラザ合意とルーブル合意を経て、更なる荒波にさらされていた。この間、極東重工業の経営陣も様変わりしていた。いまだ極東銀行系は役員会で幅を利かせているものの、あとのメンバーは造船とアンチ造船派が拮抗していた。


 だが時ならず、極東重工業㈱神戸造船所で、国内船主向けの大型客船の建造が決まった。この船の成功如何によっては、極東重工業の既定路線変更も現実味を帯びてく。


 戦前多くの客船を建造した長崎造船所で、再び世界を巡る大型客船を造るという夢。それがかつて極東の主流であった造船派の悲願であり、渡部はその主要メンバーであった。


 あの5年前の豪雨は柿岡の人生観を変えた。


 あれほど綺麗な長崎の街が、2日余りの豪雨で完膚なきまでに破壊された。原爆を知らぬ柿岡は、平和な長崎の街でどんな人生を送るのか、それなりに夢を持っていた。だが豪雨は人の人生を根本から壊す力を持っていた。


 それは例え近代的な街であろうと、頑丈な造船所の設備であろうと、赤子ほどにも抗えるものではなかった。その現実を否が応でも知らされた。


 だが柿岡は長崎の街への思いは変わらない。それは極東重工業が栄え続けることで、街は発展し続けると信じていた。


 それに翔子との過ごした夜のことは、今でも深く柿岡の胸に巣くっていた。


(つづく)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ