コスモスの花畑の満開の前で
「コスモスって、秋の桜って書くのよね」
ああ、そうだね
「何で、そんな字をあてたんだろ」
さあ、文字の成り立ちまでは知らないなあ
「夏の桜もあるのかしら?」
どうだろう、蝉の大合唱が聴こえてきそうで、なんだか、情緒が無い気がするな
「そうかしら?じゃあ、冬の桜は?」
冬だと、こんな風に、視界一面が鮮やかな花達で、こんなに心を奪われるなんて事は、無さそうだね
「そうね、本当、綺麗」
それに、本当の春の桜だって、まだまだ寒い時期に咲くしね
「ねえ、桜の下に、人間の死体が埋まってるって話、知ってる?」
坂口安吾の『桜の森の満開の下』だっけ?、うん、題名だけは知ってるけど、読んだ事は無いなあ
「私が死んだら、この秋桜の花畑に埋めてよ」
無理だよ
「考えてもくれないのね、でも、そうよね、死体遺棄になるものね」
いや、違うよ、貴女はもう死なないから
「あ…」
既に貴女は死んで、荼毘にふされたから、秋桜の下に埋める事は出来ないんだ
「うん、そうね、そうだったわね、じゃあ、私は幽霊なのかしら?」
いいや、貴女は、僕の思い出です
「そうか、うん、良かった、私まだ…」
そうだよ、まだ
「ねえ、お爺ちゃん、今誰かと喋ってなかった?」
いや、ずっと一人だったよ
「ふーん、でも凄いね、ここのコスモス、凄くキレイ」
そうだね、なあ、僕が死んだら、秋桜の花畑に埋めてくれないかい?
「無理だよ」
ああ、そうだろうね、法律とかあるからね
「違うよ、土を掘ったら、ミミズとか出て来そうじゃん、私、ミミズほんと嫌い!」
なるほど、そうかそうか、どちらにしても、もうじき僕は、君の思い出になるんだろうね
「何言ってんの、お爺ちゃんはもっともっと、まだまだ長生きするんだから」
そうだね、そうだね、また今度、秋桜を見に来ようね、その次も、その次も…