その日の晩餐
「エロワは最近、領主様の館に出入りしているみたいだが大丈夫なのかい?」
晩餐の時、食事をしながらそんなことを父マルクは聞いてくる。
「特に心配するようなことも何も無いよ。良くしてもらっているよ」
「そうなの?未だに私は信じられないけれどね。私達の子供が領主様の館に出入りしているなんて」
相槌を打つように母コリンヌも心配していたようだ。
「確かに普通だと考えられないよね。でも領主様も奥様にも執事の方にも良くして貰っているよ」
「そうなのね、最初は出入りすると聞いて心配で堪らなかったわ」
「まあ、一か八か的なところはあったけど今のところ上手くやっているよ。まあそれは僕に価値があるからだけどね」
「石鹸か? 良く思いついたよな」
「まあ、石鹸は上手くいくだろうね必需品だし。あ、そういえばその内、お父さんも領主様のところに呼ばれる事になるから」
「ん?んんん?何か今よくわからないことをエロワが言ったぞ?もう一回言ってくれ」
「近々、お父さんも領主様のところに行く必要がある」
「聞き間違いじゃなかった!」
「何でお父さんが領主様のところにいかないといけなくなる理由?ちょっと、エロワ、ちゃんと説明して?」
とたんに両親二人はものすごい心配そうな顔をしだした。まあ当たり前か、よっぽどの事がなければ領主様とその荘園の農民が関わり合う事は無い。あるとすれば、ロクでもないことの確率の方が多い。税金だったり、妻を差し出せだの、娘を差し出せ、夫を徴兵するだのだ。
「別に悪いことじゃないよ、今話題に上がった、石鹸に関係することだよ。石鹸をお館様のところ作ることになるんだけどその監督者としてお父さんを推薦したんだよ」
「監督者? なんだそれは?」
「お館様のところで石鹸を作る際は分業制を導入するんだ。まあ見たことあるかもしれないけど、僕たちが作っていたときは石鹸を作るのに、原材料から乾燥まで全部自分たちで作ってたんだ。でも、お館様のところではもっと大量にものを作る必要があるからね。石鹸の工程毎に分割して、それぞれが持ち場を持って働くことになるんだ。監督者は、それぞれの労働者が自分の持ち場でしっかり与えられた仕事を作業者が適切に動いているかを見る人を言うんだ。」
「ぶ、分業制???」
「難しくいうと分業制っていうけど、実はお父さんたちは既に日頃から実践していることだよ。ライ麦を刈る人、脱穀機を使う人、臼を回す人、パンを捏ねる人、パンを焼く人といった感じで」
「なるほど、まあ何となく想像はついてきた」
「まあ、やったことが無いことを言っても想像できないだろうから。まあそのうち慣れると思うよ」
「しかし、なんで俺なんだ?」
「石鹸事業はまだ始まったばかりだし、あまり知っている人を増やしたくないんだよ。だから身内から出した方がやりやすいって事ですね。」
「なるほど、そういうことか。しかし、俺に務まるのかな~」
「大丈夫でしょ、いずれ規模が多くなれば荘園の皆が無関係でいられなくなるし」
「それはどういうことなの?」
「さあ、その時が来てからのお楽しみ。あっ、そういえば、クロエ」
「ほえ?」
クロエには今までの話がちょっとむずかしすぎたのか、ご飯を食べるのに集中していたクロエに急に話しを振ると、呆けた顔でそう反応した。
「奥様がお前の顔を見たいから、近い内顔を出せとのことだ」
「ええ? そうなの?」
「おいおい、なんで奥様がそんなことを言うんだ?」
「まあ、これは家の中だけの話にして欲しいんだけど。領主様のところは子宝に恵まれなくってね。別に望んでいなかった訳じゃないんだけど、、、だから子供が好きみたいなんだ。かといって知り合いもいないし、変に領民と仲良くなってもね、、、だから俺の妹なら、、、っていうことの様なんだ」
「クロエもお兄ちゃんと一緒に行っても良いの?」
「ああ、だが行く前に最低限のマナーは覚えてもらうぞ?」
「マナー?」
「マナーっていうのは人がそれぞれ気持ちよく過ごせるようになる為の技術だ」
「それができれば一緒に行っても良いの?」
「ああ」
「やったあ!クロエ一生懸命覚える!」
「そうか、じゃあ明日から少し教えるか」
「うん、お願い!」
そんなことを話しながら夜は更けていった。




