エロワ、荘園を歩く -2
「あ、リディおねえちゃん、おはよう!」
「はい、おはよう。エロワ君もおはよう、体はもう良いの?」
そういってほほ笑む彼女の笑顔に一瞬だけドキッとする。
「おはようございます、リディさん。はい、体はお陰様で良くなりました。」
「あら、どうしたの急にリディさんなんて、いつもは”おす”とか”うす”とかしか言わないのにそんな急に丁寧な言葉になって」
「お兄ちゃんは馬車に挽かれてからお利口さんになったのです!」
とクロエはえへんと一歩前に出てドヤ顔でそう言う。
コツン
「お前、それじゃあ、馬車に挽かれる前はアホだったと言っているようなものだぞ?」
と言いながらクロエの頭をこずく。
「痛っ!、だって実際妹から見てもアホだなと思ったもん!」
俺は一体どんな奴だったんだ?全く記憶にない。
「まあ、でも本当に大丈夫なの?」
「はい、まだちょっと全快とは言えないと思いますけど、こうして外を歩くまでには回復しました。」
「そうなのね、無理はしないでね。馬車に轢かれたって聞いて私もとても心配したわ」
「すみません、ご心配をお掛けして」
「ほら、お兄ちゃん早く先行くよ!」
そういって俺の手を引っ張り進みだすクロエ
「またね、リディお姉ちゃん!」
「ええ、お二人とも気を付けるのよ」
そういって手をふるリディに若干の恥ずかしさを感じながらも会釈をしてリディを追う。
少し歩くと独特の木が燃えたような匂いと、ハンマーで金属をたたく音がしてきた。
「あそこが鍛冶屋さん」
そういって鍛冶屋の目の前を通る。
「ほほお、打っているのは馬の蹄鉄か、それと、農具やら武器が置いてあるな。特に魔術系の特殊なものが置いてある訳でもない。魔術はこの世界にはないのか」
熱心に鍛錬をしているようだから邪魔しちゃ悪いな。
俺は特に話しかけず、そのままクロエに着いていく。
「でね、次がパンを焼くところなの!」
なるほど、鍛冶屋の横には奥様方立と思しき女性陣の人だかりが見える。その中心には石造りの小屋があった。
「ああ、これが共同パン焼き窯という奴か、どうりでご婦人方が多い訳だ」
小屋付近では、野郎どもがご婦人方が持ち込んだと思われる生地を入れたり、取り出してご婦人方に返したりしていた。
ご婦人方はパンを受け取るとお金を払っていた。
恐らくは領主様の独占設備の一部なのだろう。
うちの囲炉裏みたいな火じゃ当然パンは焼けないだろうからここに持ち込んでるんだろうな。
「それでねあそこが教会」
そういってクロエが指さした先に地球の教会とあまり変わらない建物があった。今は門が閉じられている。
「こっちこっち」
そういってクロエは教会の外壁を回り込み裏方へ移動する。
裏方には畑が広がっていた。
「ほら、あそこ!あそこにお母さんとお父さん!」
「ん?ああ、確かにあれは両親だな。あそこがうちの畑なのか?」
「ううん、うちの畑は家の後ろにあるよ。ここは教会の畑」
そうなのか、じゃあ賦役ってやつだな。
「ふう、何だかんだ言って結構時間が経った様な気がするな。そろそろ家に戻るか?」
「うん、じゃあ帰りに市場寄って帰ろうよ」
そういってきた道を引き返す。
教会の先には領主様の建物と思しきものが見えたが、まあ領主様のエリアは極力近寄らない方がよさそうだな。変に因縁つけられたらそれこそ死活問題だ。