石鹸生産事業化の為の初の打ち合わせ
「お前は初めてだったな、彼は執事をやってくれているウスターシュ・ラフォンだ」
「初めまして、エロワです。これから宜しくお願い致します」
「お初目に掛かります、領主様よりご紹介に与りましたウスターシュ・ラフォです」
今日の領主様の部屋には、領主様と執事と俺以外にも、奥様とリディさんがいた。
「さて話を始める前にだが、契約の内容に問題は無かったか?」
「はい、この内容で問題ございません」
以前、石鹸事業を推進するにあたって取り決めた利益分配や条項についてその後数回やり取りした後、ファイナライズしたのが今手元にある契約書だ。
「では、お互いの血液をこの契約書に垂らそう」
ま、まさかこれが魔法の契約書って奴なのか?そうなのか!?
ゴクリ
手先をプスッつ針で指して、出てきた血を一滴契約書の上に垂らしてみた。
そうすると、契約書は光を放ったと思ったら、二枚の同じ内容の契約書に分かれた。
「さて、これで契約書は完了だ。これは一式二部、お互いが一部ずつ持っておく。因みに、契約辞退は魔法で固定化されているので、仮に契約書が無くなっても契約は有効だ」
「しかし、契約書が無くなってしまえば、契約があったかどうか分からなくなるのでは?」
「その場合、教会にいる司祭に依頼すれば、過去に契約した内容を紙に焼き写すことが可能だ。」
「司祭が?」
「厳密には教会で司祭のみが行える魔法という訳ではない、ただ司祭は基本この魔法が使えるからそうなっている。契約魔法が使える者なら同じことが行える」
「なるほど、ありがとうございます」
「さて、契約が完了した事でいよいろ本題に移る。今日は石鹸生産の事業化の話についてだ。してどうやって進めるのだエロワ?」
「はい、まず石鹸の材料についてですが。これは前回お話した通り、主な材料は1)油脂、2)灰汁、3)水です。」
「ふむ」
「1)油脂の原料は主に豚や牛などの油です。2)灰汁は、名前の通り灰から作った液体です。3)水については言う必要はありませんね。石鹸を大量に生産する為にはこれらの材料を必要量確保する必要がございます。」
「1)の油脂はこれまではどのように取っていたのだ?」
「油脂についてはこれまでは友人の家が精肉業をやっている為、不要な内蔵などを譲り受けて、只管煮崩れするまで煮込んで冷やしてからその上澄みを取る事で確保していました」
「それでは確かに子供だけやるには量は取れないだろうな」
「はい、余り物の内蔵だけでは今後の大量生産には当然間に合わなくなります」
「ふむ、して灰汁の方は?」
「こちらはひたすら水に灰を入れて掻き混ぜて、濾過しながら濃縮させました」
「なるほどな、わかった。して今後はどう確保するつもりだ?」
「まず油脂についてですが、これは領内から買い取りを行います。油も一緒に食べる人もいますが、基本的に皮付近の皮下脂肪はそこまで需要が高くないと思います。こちらを適正価格で購入すればよろしいかと。因みに、脂付き肉として精肉屋が客に販売した方が儲かるのであれば、当然、領主様に脂肪を売るよりも客に直接売ってしまえという可能性もあるのでは?と思うかもしれませんが、私の調べた限りでは、高くない値段でも我々に卸した方が良いという計算結果になっております」
「ウスターシュはどう考える?」
「そうですね、悪くはないと考えますが、それであれば徴収という形で御触書を出すのもありと思いますがねエロワ殿」
「勿論、その方法を行使する事は可能ですね。しかし、それは言ってしまえば増税ですよね?しかも特定業種のみを狙い撃ちするという。脂肪自体の価格はそこまで高くはならないはずです。低価格品の確保の為に、わざわざ反乱の種を育てるような方法はお勧めしかねます」
「、、、、失礼しましたエロワ殿、少し試させて頂きました。お館様、エロワ殿の考えに異論はございません」
「ふむ、そうだな。脂肪に関してはそれで良い」
「はい、次に灰汁についてですが、例えば定期的に馬車か手押し車で村を一巡して、各家庭の庵に待たっている灰を回収するというのは如何でしょうか?まあ指定した場所に皆で持ってきてもらうというのもありですが」
「それは、一箇所に集めてもらうとしよう。馬車は貴重だし、手押し車で集めるという案も、人を確保する必要がある。罪人達だけに回収させる訳にもいかんしそうなれば結局関しの為の人を割かねばならぬからな、今の状況で言うと村の者たちに持ち寄ってもらいたい」
「承知しました。私奴に特に異論はございません」
「まあ水に関しては、井戸から組み上げれば良いか」
「はい、それと場所をどこにするか考える必要がございます」
「ふむ、してお前の考えは?」
「最終的には若干屋敷からは離れた場所に作ることになるかと思いますが、まずはご領主様の屋敷の横に場所を確保して工房を作るのがよろしいかと」
「その目的は?」
「一つは罪人は現在屋敷の牢にいる訳ですが、労働として駆り出す場合の防衛と監視を考えますと、そうした方が都合が良いかと」
「なるほど一理ある。具体的な内容はウスターシュに任せるので、エロワはウスターシュとしっかり打ち合わせをするように」
「「はっ、畏まりました」」
「して領主様」
「なんだ」
「量産化に当たっては、流石にこのメンバーだけでは不可能です。実務が行える人員の確保が重要です。」
「そうだな、そうだなと言ってもできそうなやつがぱっと直ぐには思いつかない」
「それでしたら、自身の親を推薦致したく」
「何?」
若干、ドミニケは気を害した。何故なら彼は癒着、汚職の類が一番嫌いだからである。
「はい、自分の親を推すのは気が引けるのですが、逆に親であれば裏切る可能性が比較的低い為です。親だから裏切らないというのは絶対ではないと思いますが、少なくとも今名前を上げるとすればでございます。」
「、、、、確かに機密を考えるのであればだな、、、分かったあまり良い気はしないが致し方ない」
「はい、まあ能力に問題がある場合には、お暇を下しても問題ございません。能力が無いのにコネのみで入れさせるのは毒と同じですので」
「わかっているのならば何も言わない。しかし、そんな素振りを見せたときは遠慮なくクビにしてくれようぞ」
「承知しました」
「では、大方そんなところか。今日はこれくらいにしよう」
「はっ、ありがとうございました」
パタン
「おほほほ、エロワちゃんは凄いわね~」
それまで端っこで黙ってみていた婦人は扇子を閉じてそう呟いた。
「はい、奥様。私などは話している内容の半分も理解できませんでした」
「リディさんは、エロワちゃんが好きなの?」
「え!?そっ、そんなことは、、、感謝はしてもしきれません」
「そうなのね。ただ、そうねもし、エロワちゃんと将来を伴にしたいなんて少しでも考えているなら。これから沢山頑張らないと、どんどん遠くいっちゃうかもしれないわね。あのこはこんな辺境に収まる子供じゃないでしょうね」
「そうなんですか、、、、わかりました」
そう奥様に言われたリディは、帰宅するエロワの後ろ姿を静かに眺めるのであった。




