くそ~まさかのハードモードだったか~!
馬車に挽かれてから目を覚まし、更に10日程が経過する。
やっとベッドから起き上がれるようになった。
改めて部屋をぐるりと見まわす。
まさかの寝室と居間合わせて30㎡程度の薄汚い空間がそこにはあった。
「あちちちち」
暫く動かしていなかった体の軋みを感じながら立ち上がり、改めて部屋を見渡す。
歩きながら部屋を見ていく。
「なるほど、家の中で直接薪をくべながら調理や暖を取っているのか。煙突は?」
と天井を見上げるが、煙突らしきものは見つからない。
「まあ、換気もせず密室で延々薪をくべれば、この煤だらけの環境には納得。というか、良く一酸化炭素中毒にならんものだな~」
と思ったのだが、この寒さはしっかり隙間風君がありがたい事に換気をしてくれているのだろう。
居住空間には俺以外の人物が見当たらない。表に出てみるか。
ギギギ
取っ手に手を取り、家の外へと一歩を踏み出す。
見事な快晴がそこにはあった!
、
、、
、、、
、、、、
、、、、、
いや、そんな事は無く、鉛色のどんよりとした空が広がっており、まさに世紀末、何かが出てきてもおかしくないような空模様が水平線の彼方まで広がっていた。
「あ、お兄ちゃんだ!」
塀の隅で土いじりをしていた薄汚い少女は俺を見かけるとそう言ってテクテクと近づいてきた。
「お兄ちゃん、もう動いても大丈夫なの?」
「まあ、なんとかな」
とりあえず、この世界での俺は今回の事故で目を覚ますまでの記憶が一切ない。先ずは情報を仕入れなければならない。
「おい」
「な、何?お兄ちゃん」
「お前の名前を教えてけれ」
「えええええ、どうしちゃったのお兄ちゃん!?」
「いや、実はどうやら事故って記憶が無くなってしまったようなんだよ。」
「ええええ、じゃあお母!」
俺は慌てて薄汚い少女の口を押える
「おま、ちょっ黙れ!」
ムガフフフフ
俺が手で口を押えているが必死に何かを言おうとしている。
「いや、俺が事故った上に記憶まで無くなったなんて知ったら両親が悲しむだろ!お前、悲しませたいのか!?」
うむむむ!
そういうと薄汚い少女は静かになった。
「手を放すから騒ぐなよ?」
ウン
と頷く。
「ウグッ、お兄ちゃん何も覚えてないの?」
涙目になりながらこちらを見てくる薄汚い少女。
「自我はある。まあ意識はあるが、誰がだれなのか分からん。まあその内、思い出すかもしれん。とりあえずお前の名前を教えてくれないか?」
「クロエはクロエだよ」
ん???何かそんな事をいうアニメがあったな。クソ、思い出せん。気になって仕方が無いじゃないか!
「おお、クロエだな。因みにうちに姓はあるのか?」
「ううん、姓を持っているのは領主様とかえらい人とか少ないよ」
「え、そうなのか?じゃあ同じ名前の人がいたらどうするんだ。クロエ1号とかクロエ2号とか?」
「号?良く分かんないけど、クロエって名前ならこの村に5人はいたと思う。例えば教会横のクロエちゃんとか、はす向かいのクロエちゃんとか」
なるほど、まるで田んぼの中だから田中みたいな発想と変わらんな。
「良し!お前は今、薄汚い少女からクロエにレベルアップしたぞ!」
「う、薄汚い少女って!?だからお兄ちゃん初めて目を覚ました時に、私たちのことゴミを見るような目で見てたの!?」
「ええ?!じや、それは、、、、断じて違うぞ!」
「酷いよ、、、すっごく心配してたのにグスン」
そういって目に涙を浮かべる薄汚い少女改めてクロエ。
「まあすまない、酷いこと言って。でも事実だ」
「薄汚いってところは取り消してくれないの!?」
「けちけちするなそんなところは、今度おもちゃ作ってやるから!」
「ほんと!? 絶対だよ!」
数秒前まで泣いていたのが嘘かと思うほど、今度は大はしゃぎをし出した。
「まあ、で、あれだ。両親の名前も教えてくれ」
「お母さんはコリンヌ、お父さんはマルク」
「そうか、でうちはやっぱりあれか?農家なのか?」
「うん!見たまんま!立派な農家だよ!」
「そっか~!」
くそ~!!!!!!
まさかの農家転生か!
ハードモードじゃねえか!
お貴族の8男じゃないのか!?
いや百歩譲っても王城城下の商人の息子くらいにしてよ!
まあ、エキスパートモードの奴隷からスタートよりはマシか?
いや、そう思わなきゃやってられんわ!
ちょっと農家をハードモードと書きましたが、
実際中世ヨーロッパにおいて農民はハードモードでした。
領主一つでいろんなものに税が発生したりなんだりと、とにかく毎日を生きるのに精いっぱいだったのが中世ヨーロッパの農民(農奴)だったようです。