領主様夫妻~(ドミニクの視点01)
ドミニクはいつも通り書斎で仕事を行っていた。
戦争や紛争が無ければ基本的には自分の荘園の運営に専念していた。
それは、租税徴収権の行使であったり、領地を通り過ぎる者たちへの通行税や、領主裁判権の判定などを行っており気は抜けなかった。
勿論、気を抜くことも可能だが、その結果は当然自分の領地に返ってくる。だからこそ極力目を光らせねばと思っていた。
「あなた~」
「こら、何時も入室するときにはノックをせよと言っているではないか」
ノックもせず入ってくる我が妻のベルティーユ。子爵の家より政略結婚で嫁いできた。お互い一度も顔を見ず、結婚式当日になって初めて顔を見た訳だ。
男爵となったからには妻を娶らなければならないという、相手よりもまずそういうルールなのだと割り切っていたから、彼女に対して何かを期待することは無かった。
しかし、夫婦となってからは、彼女のその遠慮のない奔放な性格に日を追うごとに惹かれていった。
残念なことではあるが、この年になってもいまだに子宝には恵まれず、若干諦めかけている。
周りからは側室を娶れと言われたり、なんならベルティーユ本人からも勧められたことさえある。
しかしながら、私は彼女と二人のこの生活を思いのほか気にっているらしい。
側室の話が出たときは思わず激高してしまったのはやはりそういうことなのだろう。
そんな自由人が今日も今日とて我が業務を邪魔してくれる。
「あら、良いじゃない」
そういって彼女は意味もなく私の机の周りを一周する。
しかし、そうするとふんわりと爽やかな匂いが鼻腔をくすぐった。
「ああ、ミントの石鹸か」
「そうなのよ~分かっちゃった?」
「そりゃ、そこまでこれ見よがしに周りを回られたらわかる」
「前の石鹸でも十分嬉しかったんだけどね、このミントの石鹸はもっと凄いのよ~頭を洗う時にも頭もすっきりするし、とってもリラックスしながら湯浴みができるのよ!」
「まあ確かにミントには鎮静作用があると言われているからな」
「ええ、あのエロワって子?凄いわね」
「ああ、最初はガキが何の用かと思ったものだが、まさかこんな物を作り出すとはな」
「今度の社交界ではこの石鹸は良い話題になるわ、きっと」
「そうか、広がれば売れるかも知れないな」
そう思いながら、先日あったエロワのことを考えた。とても農民から生まれた子供だとは信じられない。
最初に館を訪れた後、部下に奴の事を調べさせたが、農民であるマルクとコリンヌと申したか?両方とも農民の子供であるからあのような所作を教えられるはずもなかろう。
とにかく不思議であるし、子供ながら商売を知っているような素振りであった。
「まあ、我が領地の役に立つのならば好きにするが良い」
「あら、いままで子供なんかに興味もなかったのにどうしたの急に?」
「まああんなものを作ったガキが、気にならない方がおかしいだろ?」
「そうよね~、なんか色々引き出しを持ってそうだし、私も今度お茶会に誘いたいわ~
「ふん、お前の好きにしたらいい」
「まあ、あなたのそういうところ大好きよ!」
「なっ、なんだ急に! 仕事があるんだ早く出ていき給え!」
「はいはい、じゃあまたね~ダーリン!」
ふん、まあまた新しい何かを持ってくるのであればその時には便宜を図ってやるとするか。
そうつぶやいた後、再び業務を再開するのであった。




