遂に石鹸を作るときがやってきた
ドン、ドン
「ん?」
ドン、ドン、ドン!
「んだよ朝から」
ドン、ドン、ドン!
「誰~!」
「俺だよ、アルバンだよ!」
「アルバン?」
俺はまだ完全に開かない瞼を擦りながらベッドから起き、靴を履き扉を開く。
「ったくお前は何時まで寝てるんだよ?」
「ええ、まだ早くない?」
「いや、もうお昼前だぞ、、、幸せだなお前」
「いや、それほどでも」
「いやいや、褒めてねえし」
「もしかして内臓か?」
「ああ、母ちゃんが手押し車を貸してくれたからホラ」
そういって門の近くの手押し車を指さす。
「おお~、ありがとうな。ゆってくれたら市場まで取りに行ったのに」
「いや、お前呼びに行ってまた市場まで戻ってまたお前の家に来たら二度手間だろ」
「そうか、すまんな。しかし、早速蠅がたかってるな」
「ああ、奴らはどうにもできんな」
近くによるとものすごく蠅がたかっており、耳元で凶暴な風切り音が聞こえる。
「とりあえず取り払えるだけ取っ払って、家の中に運び入れよう」
「おう」
そういって二人で叩きながら手押し車を家に入れる。
そしてバタンと扉を閉める。
「とりあえず鍋の中の昨日の残り物を器に移して、それから鍋に水を入れよう。そしたら鍋の中に内臓を入れてくれ」
「ああ、分かった」
とりあえず、匂いも臭いからお互い無言になりながら作業を進める。
臭いので、扉も空けて窓も開ける。
「ふう~ひとまず鍋に全部入れたな」
「ああ、ありがとう」
「ああ、で何するか教えてくれるんだよな」
「ちゃんと教えるさ、というかアルバンと俺は同じ船に既に乗っている。途中で降りる事はできないが良いか?」
「な、なんだそんな急に? 怖い事なのか?」
「いや、怖くは無い。ただこれから商売をしようと思ってる」
「何を売るつもりだ?」
「ああ、もちろんこれを考えている。」
そう言って鍋の中身を指す。
「これか」
「そうだ、 これ自体は怖いものじゃないが、これを販売して実際に売れたときにな」
「ああ~俺たちがまだガキだからか?」
「そうだ、最悪折角自分たちで作ったものが作り方含めて全部奪われる。更に運が悪ければ、口封じに殺されるかも」
「おいおい、大丈夫なのか?」
「まあ、危険はある。だが、アルバンは一生農民をやっていくつもりか?というよりは領主の下で強化にただ働きしたり、税金払ったりして一生を終えたいのか?」
「ほかにどんな選択肢があるんだよ」
「それはわからん。ただ、金はあった方が良いに決まっている」
「それは違いないな」
「で、どうする? 乗船するか?」
「う~、分かったよ!乗った!」
「そうか、じゃあ、説明する。これから作ろうとしているのは石鹸だ」
「石鹸? なんだそれは?」
「アルバンは体をどうやって洗うんだ?」
「洗う?いや普通に水浴びと布切れで擦るだけだ」
「まあ、それだけだと本当はきれいに体は洗えない。これを使うと体をきれいに洗える。そして衣服も洗える。より綺麗に」
「マジか、しかしそんなもの売れるのか?」
「ああ、まだ使った事無いから何も感じないと思うだろうが、一度使えば手放せなくなる」
「何故だ?」
「それは使ってからのお楽しみだ。じゃあ作っていこうか」
「ああ」
「先ず、鍋で内臓を煮る。欲しいのは、実は内臓じゃない。油脂、油の方だ。だから煮込み切ったら、鍋を冷やす」
暫く煮込んで、形が崩れるくらいまで煮込む。そして、鍋を囲炉裏から外して、冷やす。
「ほら、冷やした後に鍋の上に白く見えるだろ?」
「ああ、これが油か?」
「ああ、この白いのが油だ。完全に冷めたら上の白い油だけ掬う」
「それから、事前に作ったこれを使う」
「これはなんだ?灰汁?」
「そうだ、灰汁だ。まあ更にできるだけ水分を飛ばした状態のものだ。さて、先ほど作った油脂、更にこの灰汁、更に水を混ぜる。これらを人肌程度の温さでかき混ぜる、まあ囲炉裏の近くの予熱を利用してひたすらかき混ぜる。そして、最後に、事前に作ったこのブロックに流し込む。」
「これでできるのか?」
「いや、まだ時間がかかる。だいたい明日の今くらいの時間に取りだし、そこから2~4週間ほど放置して反応を進める。」
「おお」
「今後、アルバンに生産を任せる時もあるだろう。ここで注意が必要だが、ブロックに流し込む、また完全に固まらない内は素手でなるべく触るな。触ったらすぐ水で洗え。そうしなければ痛くなる」
「そ、そうなのか? なんで痛くなるんだ?」
「まあ、とにかく痛くなる」
※強いアルカリ性の為
「そうなのか、しかし何でエロワはこんな事を知っているんだ?」
「馬車に轢かれてから閃いた」
「そ、そうなのか?そんなことが起こりえるのか、、、、まあ実際に起こってるからそうなんだろうな」
アルバンは一人勝手に納得してくれた。まあ単純な奴で助かった。
「でだ、この石鹸なるものだが。ここから約2週間は風通しのところに置いておく必要がある。
「ええ? すぐには使えないのか?」
「ああ、こいつらは成長するんだ。今の状態のままでは使えない。成長して初めて効果が表れる。」
「そうか~それは残念だが。仕方が無いな。で、来週も作るのか?」
「ああ、見て貰ったと思うが、一回でとれる油脂の量はそこまで多くない。来週も引き続き油脂を作る必要がある」
「分かった」
「そうだ、事前に販売した時の代金について教えておく。仮にこの石鹸が銅貨10枚だとした場合、市場使用料で4枚、俺4枚、アルバン2枚で良いか?俺は4枚だが、その内2枚は次の商売の為の貯金を含んでいる。」
「え?俺も貰っていいのか?」
「当たり前だ、内臓はお前が提供してくれたのだ。タダではない。またこれから一緒に商売をするパートナーでもある」
「へへ、そうかよ。じゃあその配分で俺は文句ねえぜ」
「ああ、ありがとう。じゃあ、来週も引き続き頼む。」
「おう、任しておけ。さて結構な時間が経っちまったな。そろそろ家に帰らないと母ちゃんの殺される!それじゃあな」
「おう、気を付けて帰れ」
そういってアルバンは家に帰っていく。
さて、明日には固まっているだろうから、販売用のサイズまでカットしてそれから風通しの良いところに放置しておく必要があるな。
そういいながら明日触れる事を楽しみにする。